夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

はじめに

ようこそ。此処は私、poru.が書いた物語集です!!通称『夢想の針鼠の夢跡』でし!!

此処では以下の通りの物語が置かれています。

・黒羽様の『永遠の月光花』の派生作品『幻想の赤月』

・オリソニの過去を書く紅月シリーズ関連の物語『夢想の闇夜』

・3つの物語に関与する『不明記録』集

・とある人物が書いた『日記』シリーズ

・その他番外編や関連無しの物語など

主に上の3つを出しています。尚、黒羽様には許可を頂いてます。

幻想の赤月に出てくる専用単語・キャラは此処からどうぞ。

http://suzu0123.hatenablog.com/entry/2012/10/15/164149

黒羽様の物語は此処からです。

http://eirou1424.hatenablog.com/#20121023141755

私のブログは此処から。

http://suzu0123.hateblo.jp/

 

悲しみ。その言葉は私の喉へ突っかかり、そして体中が痛くなる。私は分かる。それが大事な物だったかは失えば分かると・・・。

『誰ニモ渡シハシナイ』

悲しみに囚われた白いアネモネの花が、鮮やかに華を咲かした。

 

月1~5作品のペースです。

 

ーでは、行ってらっしゃいませ。Happy endかBad endかはそれぞれ解釈次第であるでしょう・・・。

幻想の赤月 2-09章 Tears shed somebody scream

The 6th day
???にて

「・・・っ」
目が覚めた時、見覚えのない天井が見えた。ふかふかのベッドの中に包まれて眠っていたらしいが、そもそもあの環境の中でこんな場所に行き着けるとは到底思えない。・・・もしかして、見る影も無くしてしまう程の様変わりをしてしまったのだろうか?
(さて、現時点の状況を確認しないとな)
きっとロクに風呂にすら入れなかったのだろう、体中が土臭く、この布団の中にまで匂いが移りそうだ。
俺は此処に来るまでの経緯を知らない。というのも、アイツが派手に暴れている間、俺は眠っていたからである。いや、仮に起きていたとしも俺は現状を知る事は出来ない。それがデメリットなのだ。
「ようやく起きましたか」
「・・・ガナール」
「そうですね、彼処で眠っていたら流石に困る故、此処まで運びました。此処はアポトス、ソニック達が今いる場所です。・・・安心してください、『彼』とは別の場所ですから」
アポトス?かなり遠くまで運んだものだ。きっと魔術を使ったのだろう。
「ガナール、彼は起きたかしら?」
「あ、シルフィさん。つい先程起きましたよ」
扉を開けた先にはシルフィがいた。朝食を用意していたらしく、スープの湯気からそれが出来立てである事が分かる。
「―教えて、彼処で何があったの?魔力のブレも相当、倒れていた場所には闇が切り裂かれた跡が幾つも見えたわ。・・・闇の住民と戦った、それは分かるわ。でもあれは幾ら何でも・・・」
「・・・覚えてないんだ」
「え・・・?」
「覚えてない。何があったかなんて俺は知らない。・・・何があったんだ?」
「・・・。」
俺の告白を彼らはどう思ったのだろうか。ガナールは目を細め、何かを思考しているかの様なポーズをしていて、何かを呟いている。シルフィは俺の発言に対して意味が分かっていないらしく、手を握り締めている。・・・怒っているのだろうか?
「―記憶が無い、と。・・・フフ、あの姿で開放をするならば確かに意識が吹き飛ぶかもしれないですね。ならばウォイス様らしくない戦術を使っても不思議ではないですね」
(うん?コイツ何か勘づいているぞ・・・?)
間違いなく奴は、俺が嘘をついている事に気付いている。何かを思考していたのは言葉の本筋を探っていたのだろうか。仮にそうだとしても、答え等出る訳が無い。
誰にも言えない秘密は誰もが一つか二つは持っているものであり、それを無理に探ろうとする人は基本的に成ってないと思っても不思議ではない。ならば、奴らに向けているその「視線」は不思議な事である事位は分かっても良いのに。・・・まぁ、無理もない。少し賢い人ならばちょっと考えれば「違和感」位は勘付く筈だ。依頼した本人が後ろめたい出来事を隠していた事位は。
本当の事を言ってしまえば、俺はアイツが憎い。今こうして仲間と手と手を取り合ってハッピーエンドを迎える様に努力しているだろうが、俺はそんな事を微塵も思わずにただアイツを○○してしまえば良いだけなのだ。後の事はもう知らない。その目的が果たせば、俺は此処にいる存在意義が無くなって流浪の旅に終止符を打てるのだから大仕事なのだ。
「まあ、無事なら良いんだけど。ところで、シェイド君の所を向かわなくて良いの?」
「シルフィさん、それが出来ないんです。・・・シェイドはまだ彼の秘密を知らないのですから」
「未だにあの姿の事について話してなかったの?」
「・・・そういう話をすると経緯を説明しないといけなくなるからな。それに、こんな場面で見せろと?」
「そういう場面『だからこそ』よ。違和感の塊の状態で挑もうとしても距離を取られるだけでしょうに」
シルフィは窓からこっそり下を見下ろす。
「・・・どうやらソニック達は下山するつもりらしいわね。無いと知ったから去ろうとしたのかしら」
「―!!しゃがめ!!」
ガナールが叫んだ瞬間、パリンと窓のガラスが割れた。シルフィはどうやら風を少し操ったらしく、窓の目の前にいたのにも関わらず彼女周辺にはガラスの破片は無かった。
「何事だ!?」
「・・・どうやら、私達を監視しているあの『連中』がいるらしい。―随分と入り組んだ所にいるみたいで。私の事を完璧に警戒されていますね。・・・おそらく私の攻撃範囲を超えている位置にいる筈」
となると、範囲は最低でも500m程度は離れている事になる。どんなに範囲が広い魔術だろうが、ガナールが使える術だとせいぜいその位が限度だろう。
「―判断力が鈍っているぞ、ガナール。その様子だとまともに睡眠が取れなかった様だな。・・・寝ていろ、寝床位は守ってやるから」
「し、しかし・・・その敵は私を狙っているのでは?」
「目的など知れる筈が無い。・・・シルフィ、先程行動を起こした奴を追えるか?」
「細かくは無理、でも相手凄い勢いで逃げているのは分かるわ。―違和感を感じる位には」
「相当速く走っているのか・・・行けそうか?」
「大丈夫よ、もう既に対策は打っといたわ。・・・ホラ」
シルフィが指差した方向には竜巻が発生している。風の精霊のイタズラにしては随分と荒く、周りが巻き込まれそうで心配である。まあ、そこいらも考えて遠い所で起こしたのだろうけど。
「風はデリケートだけど使い方によっては凄い力を生むんだから。・・・貴方は強い(こわい)人でしょうから荒そうですけど」
「・・・チッ、ああそうだな。さっさと見てこい」
「とことん煽りには弱いですね・・・じゃあ行ってくるわね」
ニコリと笑うと、シルフィは扉から部屋を出て行った。やっぱり女性はそういうのを避けようとするのだろうか。・・・あの竜巻は女性らしさの欠片もないが。
「私は眠ってますよ。・・・多分半日以上は眠っているでしょうからよろしくお願いしますね」
「・・・分かっている」
「―おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

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「もう此処に留まる理由は無いんだよな?」
一日お世話になった宿の部屋の中、少ない荷物をまとめながら、俺はそう言った。
「ああ、あの事件は僕達では解決出来そうにもないしな。・・・やれることと言えば、最小限に抑えられるように天地を揺るがす存在である紅月をやっつける位だ。その為にも早くカオスエメラルドを集めないとな」
「そうですね、被害を抑えるその為にも。・・・ウォイス大丈夫かな」
「大丈夫だって、アイツなら死にはしないだろ」
まあ死んでも生き返るのだから実質死が無いのだが、もしかしたらシェイドにはまだ話してないのかもしれない。あの告白から察するに、7年位のも間世間の目を通されないまま育ったのだと思うので、ウォイスは相当苦労しただろう。その内秘めた感情を抱いて、何かボロを出していたかもしれない。俺達には知りえない範囲だけども、きっと彼の心に変化を及ぼすには十分な時間だろう。
・・・今は胸に留めておく事にしよう。多分シャドウとシルバーはこの事に気付いていないだろうし、下手に探りを入れたら何かヒビを入れてしまいそうだ。
「シャドウ、お前なんか複雑そうな顔をしているが・・・大丈夫か?」
「?そう見えるのか?」
「なんだろう、こう・・・解決出来ない事を知っている様な顔をしてる」
シルバーはそう言って、シャドウの顔をじーと見つめる。シャドウは仏頂面を貫き通していて、動揺の素振りも見せない。ああそうだった、コイツ基本感情表に出ない奴だった。何かを感じ取っても基本顔はそのままだから分からない。ルージュだったら分かってくれるかもしれないが。
「まあまあ、シャドウはいつもそんな顔だからな。なぁ相棒?」
「・・・相棒呼ばわりするな。さっさと出発するぞ」
「酷いじゃないか、俺達を気遣う事位覚えようぜ?」
「気遣う理由も無い」
そう言ってシャドウは部屋を後にする。
「・・・シャドウさんっていつもこんな感じなんですか?」
「ああ、いつもあんな感じだ。―内なる感情は一切外に出ない様なタイプだけど、あれはあれで感情表現の一つなんだよ。・・・俺もよく分からないけど。ソニック、アイツ下手にプライドとか傷つけると単独行動取ろうとするかもしれないから煽るのも程々にしろよ?キレて俺が説得するのも面倒なんだからさ」
「Sorry,sorry!悪かったからさ~」
「・・・本当に反省しているんだよな?」
「Really!」
「まあまあ、二人共緊張しすぎなんですよ!ホラ、深呼吸しましょう?」
「「ちょっと口を挟まないでくれ!」」
「あ、ハイ・・・」
シェイドは小さくなってしょぼんとした顔で俯いてしまった。ちょっと申し訳ない事をしたかもしれない。
遠くで「こっちに来い」と言うシャドウの声が聞こえたが、俺はその声を無視してシルバーを直視していた。

===================

「フフン、まあ私にかかればこんなもんでしょ」
竜巻を作り出した所に行ってみると、其処には赤いハリモグラっぽい人物がいた。黒い服に身を纏っていてとても美人な女性だったけれども、その印象とは裏腹に狂気を感じさせるには十分過ぎる死体が多く見られた。魔力も相当だ。
「・・・貴方、紅月の賛同者でしょ?カオスエメラルドの気配もあるわ」
「・・・。」
「私はシルフィと言うの。裏世界・・・影の国出身だけど、貴方にもあの世界の香りがするわね?」
「―裏世界にいる筈のお前が何故此処にいる?シルフィとシャックはゆっくり過ごしていると紅月様が・・・」
「イレギュラーだったのね、私の存在。ご友人が「助けて」と言われたら助けない理由があるかな?つまりは、そういう事なの。で、カオスエメラルドをついでに持っているみたいだし・・・盗人にもなって奪っておきましょうか。貴方が持つ品物ではないわ」
「紅月様の物だ、貴様に渡す訳にはいかない。シルフィ・ヴィーナス、貴様を此処で殺してやろう。このディアが直々にな!」
そう彼女が言うと、いつの間にかナイフが握られていた。この人は相当腕が立ちそうだ。
そして何処か崇拝の域を超えた何かを感じた。もうこの人はきっと・・・。
「フハハハ!!」
―なんて考える余裕も無さそうだ。可哀想かと思うけれども、相手は大罪を背負った罪人を庇う狂人だ。所詮その程度の相手なのだ。
「風よ舞いなさい!!」
竜巻を起こせばきっと此処は崩れてしまう。だから、無理矢理にでも遠くへ押し返してやるのだ。ついでにカオスエメラルドも吹っ飛んでしまえたら最高である。手放してしまえばこっちのものだ。
「ファムブイズ!!」
彼女は幽霊の様なモノを呼び出して、私の元にやってくる。私はそれを平気で風を送るのだが・・・。
ブォッ!!
「えっ!?キャッ!!」
どうやらあの幽霊は火を纏っていたらしい。風を受けて更に燃え広がった火は私の左腕に当たった。其処から服に燃え移り、体中が炎に包まれる。
(熱い熱い熱い!!)
下手すれば私が焼け焦げて死んでしまう!!私はすぐに術を唱えて、自ら水を浴びて炎を消した。冷たいが、焼け死ぬよりはマシだ。
「―女性の命でもある美貌も軽く燃やしてしまうなんて。・・・流石に驚いたわ」
「貴様はそのまま焼け死ぬのだ!!」
「・・・油に変えようというのかしら?」
「―それも良いかもな」
口は災いの元。災いがこんな形で出てくる事は彼女も想定してなかった様だ。
―燃える。
恐い。
恐いに決まっているじゃないか。
その感情が揺らいだからか、彼女の頬が一瞬歪んだ様に見えた。そして、遥か彼方へ吹っ飛ぶのだ。・・・超能力だ。感情が昂りすぎたせいで勝手に発動しちゃったらしい。これで私はギリギリで命の危機を脱した訳だが、吹き飛ばした方向が何処かなんて知る由もないので、実は結構マズイ状況だったりするのだ。
「死ぬよりかはマシだったかもね・・・でもやれる事を逃したかもしれないわね」
何処に吹っ飛んだかなんて知らないんだから、特定だって無理に決まっているじゃない!!というよりも、よくもまあ水を浴びせるハメに遭ってしまったものだ。私としては非常に許せない事だ。
「・・・ハァ、お風呂借りようかしら」

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ガナールはスヤスヤと眠っている。俺は子守を任せろとは言ったが、奴が起きるまでには随分と時間が余っている。それに、今日の夜は満月―簡単に言ってしまえば、俺が一番猛威を振るっていられる時間でもある。今日・明日の夜が過ぎれば、多分紅月らの活動は活発化する事だろうし、この間は眠っておいた方が良いのだろう。夜中のあの姿はどうも眠気を吹き飛ばしてしまうので、この眠気が明日の朝に響いてくるかもしれない。
「その前に」
懐から手鏡を取り出す。顔全体が見える位には大きい手鏡。俺は鏡の前で深呼吸をし、術を唱えた。今現在、この術を知っているのは俺だけだ。下手に他人に見られると色々と不気味に思うので、一人の空間で使うのが望ましい。
何故なら―
「・・・リデァ、起きているか?」
俺は鏡の前でそう言う。これを他の人に見られたくないのはもう想像がつくだろう。しばらくすると、鏡の俺は俺の動きとは違う動きをしだした。そう、リデァだ。姿は俺そのものであるが、間違いなく彼なのだ。
リデァは俺のいる空間を見渡した後、小さい声で喋り始めた。
「人が眠っているな、アイツは確か・・・」
「ガナールだ、しばらくは眠っているだろうから子守をやっている。起きるのにしばらく時間が掛かるからな、寝ようと思ったんだが」
「その前にあの時の事を聞いておきたいと」
「ご名答。どうだったんだ?」
「・・・まず、此処いらの闇の住民は壊滅した。単身で突っ込んでいた事に関しては紅月もド肝を抜かれた様だ」
「という事は完璧には染まりきれてないのか・・・」
染まるか否かの判断は他の人でも大体は出来るのだが、正確に決められるには難しいだろう。紅月が使っているあの洗脳術はどの程度まで染まっているかによって、術者の及ぼせる範囲が決まってくる。勿論、これは許可を取っていなかった場合でのお話であり、ガナールみたいに許可を取って取り付いている場合は基本的に全力で挑める訳である。
その中で術者である紅月が及ぼせる範囲はそれなりに広まっている。5年以上は経っているので、取り憑かれた奴はもう殆ど眠っている状態だろう。しかし、脳内までは浸透しきっておらず、その結果取り憑かれた奴の知識・実力は完璧に扱えるものの、自身の知識・実力は扱えない様な形として君臨している。最終的には取り憑かれた奴の人格そのものがいなくなるので、マシと言えばマシだが、それでも酷い範囲だ。
「多分完璧に浸透するのが遅くてもあと1年か2年位だろう。これよりも酷くなると、取り憑かれた奴が死んでしまう」
「・・・分かっている。その前に殺しておかないといけないんだろう?紅月の威力は凄まじい、これ以上悪化したら俺でも抑えきれるかどうか分からなくなる」
「―お前、本気でその事を言っているのか?取り憑かれた奴は元々はお前の弟子だぞ?」
リデァは珍しく奴の心配をしている様だった。
「殺さなければその被害が拡大してしまうだろう、そっちの方が駄目だ」
「殺す事にしか目がいかないのか、お前は!」
「第一、お前があんな事をしなかったら良かった話なのだ!俺はその処理をしている、それだけの話なんだ。・・・分かったらこれ以上問い詰めるな」
「・・・。」
リデァは叫びを聞いた途端、黙り込んでしまった。そして、一方的にこの術を解いてしまい、鏡の中の俺は俺の苛立ちの顔に戻ったのだ。
―醜い顔だ。この顔で出歩けば不審に思ってしまう。無心でいるのだ。無心でいれば問題ない。紅月は殺すべき相手だ。それ以外の感情移入は許さない。
「えっと、ウォイス?何苛立っているの・・・?」
不意に聞こえた女性の声で俺は我に返った。振り返ると、びしょ濡れになっているシルフィがいた。地面には水滴が落ちたと思われる跡が見えている。
「何でもないから心配するな。それよりも、何故そんなに濡れているのだ・・・?」
「話は後で良いかしら?それよりも、お風呂に入りたいのよ。入らせて」
「べ、別に構わないが・・・」
妙に苛立っている様な気がするのは気のせいだろうか・・・?

====================

続く。

next 2-10章 Full Moon

更新遅れてごめんなさい!!

幻想の赤月 2-08章 Apollo

 

「大変です、紅月様!!ウォイスが、ウォイスが・・・ぐあぁぁ・・・」
通信機から下僕の悲鳴が聞こえる。外では剣と剣が交差するあの忌まわしい音が鳴り響く。
単身で奴は大群に突っ込んだ。普通ならば無茶すぎる行為であったし、我も「ついに狂ったか」と思ってたかをくくっていたが、その思いとは裏腹に奴は沢山の下僕、闇の住民を蹴散らしていた。
繰り返し言うが、奴はたった一人で襲いかかった。奴と比べれば比較的弱いとは言えど、5000体をも超える闇の住民やそれを率いる人々ならば幾ら奴でも弱る筈だった。それが、こっちが押されるという結果となっている。ありえない。
『所詮は、只の一つの式に縋った魔導師か。単調過ぎて笑わせる』
通信機から奴の声が聞こえる。笑い声の中には余裕すら感じられる様な狂気を感じられる。
『紅月、この声が聞こえるのだろう?宣言してやるよ、日付が変わらなぬ内に此処一帯は死骸で埋め尽くされる。俺によってな。来いよ、無慈悲に葬り去ってやる』
その声の背景がどんなモノなのかは分からない。ただ一つ分かるのは、人々の悲鳴が聞こえるだけ。その悲鳴の中に、化物らしき声が聞こえはしたが、この化物もおそらくは―。
「お断りだ。我の前から消え失せるのは貴様の方だ、ウォイス・アイラス」
『分かってくれないか。・・・残念だなラヌメット』
それっきり、通信機は役立たずになった。奴が思い切り壊したからだろう。奴はいつもそうだ。傲慢でいつも我はコキ扱いをして、人々を導く。
手柄はいつも奴に来る。我に求めるモノは大きくても見返りは小さい。
「分かってくれないのは、貴様の方じゃないかウォイス。・・・ちっ」
あれは虐殺だ。何故奴は罪にされなかったのに、我は罰を受けるのだ。
奴の方がよっぽどの数を殺めたというのに、何故・・・?
「途方に暮れている所悪いですけど~、紅月様~、奴らが壊滅されているぜ、単身で挑んだってのに、どうやったらあんな馬鹿力出すんだ本当。もう此奴只者じゃねーだろ」
「・・・マインドはどうした?」
「お休み中ー、奴の世話はあのロボット?アンドロイド?が何かやってくれているさ。こりゃ此処に攻め入られるのも時間の問題だな」
「・・・・・・あの勢力を保てるのも時間の問題か」
「?」

『・・・殺してやる』
満月の夜、かつての師匠と戦う直前に言った奴の台詞だ。その直前、我は確かに見ていた。毛が真っ白に染まり、瞳が燃える炎の様に深紅の色に変わるその瞬間を我は確かに見ていた。
ずっと彼が満月周辺に姿を消していた事に疑問を感じていたが、その問題はこれで解決された。
だが、威力が半端ない事になっていた。同一人物なのにも関わらず、全然違う。恐怖すら覚えられた。
あの時からもうすぐ8年が経とうとしている。我はあれ以来数々の呪文を覚え、そして無慈悲に葬った。
しかし、あの刃は絶対に届かない事を我はなんとなく悟ってしまった。
我の持つ力では、あのウォイスに勝てない。
一体どうすれば・・・。

====================

「zzz・・・」
早めに寝たシルバーはすっかりと寝息をたてて眠っている。と、そこへガラリと開けて出てきた。ガナールと・・・。
「シルフィ?何故此処に?」
「野暮用があってね、ちょっとだけ貴方達の手伝いをする事にしたの。大変なんでしょ、怪物退治」
「・・・ガナールか、話したのは」
ガナールは頷く。
「多分起きている二人は気づいているでしょうけど、根本的な解決になってない。・・・しかも、おそらくその事件は今の異変に関連するけど、異変を解決してもおそらく自然は治らない」
「ハ・・・?」
「要は、解決しても魔物はずっと湧き出るってコトよ。数は減るかもしれないけど、無理に近いわ。最近の地震で地形に変化が出てきて、その弾みで蓋が取れちゃったのよ。闇の住民は、その蓋の中にいたって訳。で、その蓋が溢れ出てくる鍋から離れちゃったから当分は湧いてくるでしょうね」
「シルフィの力じゃ出来ないのか?」
シルフィは元々精霊の力で風を作る力がある。
しかし、彼女は首を横に振った。
「無理よ、私が出来るのは風で削り取れる位。中をくり抜く感じで魔物が溢れ出る所を移動する事はできても、魔物の発生そのものを防ぐ事が出来ないわ。出来るのは神様か地の精霊であるノーム位でしょう。ああ、魔術は駄目よ、魔術は自然の劣化版だから一時しのぎにしかならない」
じゃあどうしろと、と言いたいが僕でも解決出来ない問題だ。水を操ったりするウォイスを利用、でも解決は出来ないだろうし、解決策が見当たらない。紅月はどう責任を取ってくれるのだろうか。
「まあこの件についてはアファレイド魔導王国の方へ報告しようかと思います。・・・それに例の件もあることだし」
「例の件?何だそれは」
「―あの姿になったウォイスが、単身で軍団に突っ込んだの。おかしいって思わない?満月ですらあの勢いは可笑しいわ」
単身で突っ込む時点で色々と尋ねてみたいが、どうやら二人の反応を見る限り嘘偽りは何一つ言っていない様だ。そうじゃなかったら二人共他人を寄せ付けない態度を見せる筈がない。
「助けに行けば良いだろう。送り届ける事位は可能だ。カオスコントロールを利用すれば一瞬だが?」
「・・・無理ですよ、あの乱れ様だと下手に近づくと巻沿いを喰らう勢いですもの。あと、おそらくウォイス様は全てを敵と認識して攻撃している」
「味方無しでやったらまあそうなるよね・・・。どうした事か」
「貴様ら実力あるのだからそのまま行けば良いだろうが」
「ウォイス様に殺されたくないです」「ウォイスに殺されろって言うの?」
二人は即座に拒否した。満月姿のウォイスに関して二人共抑えるつもりはないらしい。やっている事自体は敵をやっつけているだけだからだろう。
苦い経験でもあるのだろうか?
「仮に捕まっても大丈夫よ、だって明日満月でしょ?だったら一人で十分だわ」
「ですね、下手に助けに行ったら逆に追い込まれるかも」
「・・・。」
だったら話を持ち出すな、馬鹿。
勝手に話を持ち出して、勝手に話を解決して、終わらせる。
「滑稽だな」
まあ、情報は手に入れたので、危機が迫れば勝手に教えてくれるだろう。それが貴様らなのだから。
逆の意味で信用している訳だ。

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真夜中のアトポスはとても静かだ。
それもその筈、此処はいつもこんな日々なのだ。皆はもう夢の中。
その中に、眠れない赤いコウモリかネコかがいる。
元々夜行性なのだろうか、それとも眠れないのかはよく分からない。
ただただ、彼はある人を待っているのだ。帰ってくる事をずっと祈りながらこの景色を眺める。
―景色は光を見せる事はせず、彼を罵っていた。

~中間~

「アッシュ、もう大丈夫?」
温かいシチューを食べた後、僕とソニックはあの教会に来ていた。僕が空を飛んでソニックを頂上まで持ち上げると、其処にはアッシュがいた。僕の声がした途端、彼は後ろを振り返った。
「ラネリウス、・・・いや、間違えた。シェイドか」
「?ラネリウス?」
ソニックはラネリウスって言葉に反応した。まあ、本人は知っているだろうけれど、ラネリウスはアファレイドの王様だった人だ。紅月の最初の被害者とされていて、悲劇の王とも呼ばれている。まだ日が浅い為、歴史書や教科書にも鮮明に書かれている。結果、基本的に皆知っている筈である。当然、国内外両方共である。
「待て、ラネリウスはあの時の王様だぞ?そしたら何故・・・あっ」
ソニックはとある事に気付いた様だ。みるみる顔色が悪くなっていく。僕は何故そんなに青くなるのか分かっているが、アッシュは分かっていない様だった。教養を受けてない彼にとっては何故そんなに青くなるのか分からない様だった。
「シ、シェイド・・・お前まさかラネリウスの子ども・・・とかじゃないよな?年齢からして可能性があるんだが・・・」
「え、そうですけど」
反射的にラネリウスの息子である事を肯定してしまった。ウォイス様には『絶対に身分を明かすな』と念を押されたから決して言わなかったが、ついつい素が出てきてしまった。此処まで来たらもう押し切るしかないだろう。
「そっか、本当に・・・What!?Really?ジョークだろうな、それ?」
「いや、本当です。ラネリウスは僕の父上です」
「・・・悪い、話が突飛すぎて信じられねぇ。使っている素材が妙に豪華だったりしているのがそれだからとしても、偽名名乗っているからとしても、信じないぞ・・・?流石に国の紋章のモノを持ってたら信じるしかないが」
「ありますよ?ホラ」
懐から紋章たるものを見せる。ソニックは完全にド肝を抜かれた様で、手足がガクガク震えていた。
「あ、ああああ・・・ヤベエ、本物だ。行方不明になっていたのに何故此処にいるんだ?」
ソニックにしては随分珍しい態度だなーと感じていたが、一般人目線からすれば8年間行方不明になって亡くなってしまったと思っていたら、些細な事で生存していたと知った様なものなので、おそらく他の人も似た反応するのだろう。・・・僕はよく分からなかったけれど。
「それは・・・僕にも分かりません。だって、お城から抜け出したのってまだ子どもだった頃ですから・・・ウォイス様に聞いてください」
「アッシュ、お前この事知っていたのか!?」
その声で僕もアッシュに振り向くと「ああ」と言って首を頷いていた。勿論その直後にソニックが「ハァァァァァ!?」と叫んだのは言うまでもない。
「わ、悪い。一言言わせてくれ。・・・無礼な態度を取って申し訳ございませんでしたァ!!」
終いにはソニックはお辞儀をする。ウォイスの時も似た様な事をしたって言うが、デジャヴを感じてくる。
「あ、あの・・・この事は内緒にしててください。特にウォイス様に。あと態度はそのままでいいです。命令って言えば聞いてくれますか?」
「は、はい!!」
「・・・ダーメ、ソニックらしくないです」
「ああ、任せとけ?」
「それで良いです。その状態でお願いします」
「・・・お前ら何しに来たんだ」
「「はっ・・・」」
アッシュの言葉に僕とソニックは我に返った。一回深呼吸をしてから、僕達は本題に入った。
「お前も知っているかもしれないが、紅月ってヤツが無理矢理天地を作り替えて世の中を支配しようとしているんだ。俺達はそれを止める為にカオスエメラルドを探しているんだが、知らないか?」
「僕達が旅をしているのはそれが目当てなんだ。教えてくれると助かるな」
僕達がそう尋ねると、アッシュは睨みつけてきた。
「・・・念の為言っておくが、悪用するつもりはないな?」
「俺がカオスエメラルドを悪用した事があったか?」
「・・・ならいい。まず、此処にはカオスエメラルドに関連するモノは無い」
「ええ!?」
バッサリと切り捨てる辺、何処かシャドウに似ているなって思った。
「ただ、どこかの女性が似た様な質問された事があってな。目撃はしたが、よく知らん」
「アッシュは、その女性が持ち去った可能性があるっていうの?」
「俺はそう考えてる」
おそらくのその女性は紅月の従者だろう。となると、ちょっと遅かったという言いたい訳か。
「その女性は何処に行った?あと、特徴は・・・?」
「特徴・・・そうだ、全体的に黒色の服を着ていた。赤いハリモグラだ。場所は知らん」
アッシュはそう答えた。
もう既に夜中だ。下手に会話を見られてしまうと後先が大変なので、これ以上此処に留まっている訳にもいかない。その事を告げるとアッシュは「そうか」と言って、これ以上は語らなかった。
・・・が。僕達が降りようとした時に彼は何かを言っていた。それが何かを聞こうとしたが、残念ながらそれを聞く前に彼の姿は見えなくなった。ただ落ちていくばかりであった。

====================

悲鳴は夜遅くまで響いた。
聞こえなくなった時、その時にはもう既に糸は切れていた。
狼は夜明けと共に別の獲物を探しに姿を消した。しかしもう既に暴れまくったからか、すぐに倒れ寝息を立てた。
狩られた獲物達は夜明けと共に跡形も無く消えてしまった。
・・・そう、あの悲惨さを語る者は、もういない。

彼はいつか、眠ることを止めた。

 

『5日目~People who hunt their prey


大切な人を守る為に牙を剥く行為は生きる為には必要な行為だ。母親や父親が守らなければ種は保てない。昔の生物はそういう事への執着についてあまり気付いていなかったのかもしれない。それが所謂愛情というモノなのだろうか。或いは母性と呼ぶのか。
自分に大切な人はいない。いや、いるのかもしれないが、あれは使命なだけなのだ。所詮そんなモノなのだが、あの人はいつも自分を大切そうにしている。そして何処か避けている。自分には分かってしまうのだ。あの人は私に一体何を望んでいるのだろう。
牙を剥く行為自体に私はあまり違和感を覚えてなかった。しかし、愛情や母性はイマイチ分からなかった。仕方ない事ではあるのだが、やっぱりそれを知らねば、いつか心無い発言で信用を失いかねない。その学ぼうとする理由すら愛情等とはかけ離れているけれど、とりあえずは把握だけしておけば良いのだ。自身に感情等封じているのだから、情が移る事もあるまい。
ある人はずっと暴れていた。今も暴走している。多分気付いていないし、出来ないのだろう。もう他人の声等聞く余裕なんてないのだろう。だから自分の声も届く事なく地に還るだけである。改善の目処はいつになっても立たない。もう言葉だけで解決出来ないのだろうか・・・?
目処は立たない。むしろ目処なんて立つものの方が少ない。
イレギュラーが混じりさえすれば、それを嫌う。
平常を皆好み、いつまで経っても平行線のままが良い。
ずっとそれを望む人もいる。
・・・・・・。
そんな事した所で、単調過ぎてすぐに飽きちゃうよ。』

====================

続く。

next 2-09章 Tears shed somebody scream

あと何回で2章終わるか予想してみよう。何回だろう?

幻想の赤月 2-07章 moon


~??年後~

私はかつてこの光景を見た事があった。そう、あの時に私は確かに壊した筈だった。壊したら、とても気分が良くなった。一生辛い事は無いんだってその時は思っていた。本気だった。
でも、実際の所は只の空虚でしかなかった事を今ようやく知った。本来起きるべき事が欠けていたから私は空虚を幸せと捉えてしまっていたという訳である。いつしか誰かが「幸せだけの世界なんて、虚しくて皮肉以外の何物でもない。天国ですらない」と言っていたが、その通りだった。最も、当時の私がそれを知っている筈もない。何で皆が哀れな目で見ていたのか、私はこの時をもってようやく知る事になった。
「・・・これで、元通りだね」
そう言って私は微笑む。目の前には辛そうに見ている彼がいた。ずっと私の体を心配にしていて、囚われた身でありながらも私の事を第一に考えてくれた。多分、彼は心に深い傷を負っていたのだろう。読まなくともそれくらい分かる。10年間、それを悔やんできた事も。
「すまなかった」
謝った光景を見たのはもしかしたら初めてだったかもしれない。今の私はあの時の壊れた頃の私ではないし、それよりも前―あの頃の私でもない。私は一体何者なのだろう?その反応に私はどう反応すれば良いのか分からなかった。
戸惑いが隠せないのが分かったのだろう、彼は肩を掴んで真剣な眼差しで私を見つめてきた。
「良いか、元通りになった所で申し訳ないがお前には役目がある。僕達の力ではどうしようもなくお前にしか出来ない役目が」
「分かっている。長年やって来た事にケリを入れないと。・・・貴方はどうするの?今此処で私を殺しても別に構わないよ」
「お前は死んではいけない存在だ。お前の存在無しでは、これの根本を排除出来ないのは知っているだろう?」
「・・・よく分かったね。いつごろからそれについて察しがついてたの?ガナールに吹き込まれた?」
「・・・。」
目を閉じて彼の心の音を聞き取ってみる。様々な音が聞こえてきて、溢れ出てくる。解答を見つけるのはそう難しくない。質問すれば多分脳で処理される際に、考えが現れる。その現れた考えこそ解答なのだ。
『壊れていた時からずっと見ていたから分からない筈が無いだろう?』
説得と後悔が効いたのだろうか。でももう今となってはどうでもいい事である。目を瞑ってはいけないのは今の出来事だ。
月が欠ける事件。
あれは解決する事前提で起こした事件だ。永久にそんな状態が続く筈がない。
「成程、まあその話は放っておくか。―じゃあ、最後。私は何者だと思う?お前の口から言って欲しいんだ」
自分に指差して、その後空に絵を描いた。当然空には何もなく、別に特に何事もなく描いている訳だが、彼にはそれがどうやって見えたのだろうか。私はとても気になっていた。
彼は深呼吸をし、そしてハッキリとした口調で私の質問に答えた。
「―お前は」

====================

~夕方~

「なあシェイド、アッシュという奴は何処にいるんだ?」
小声で俺がそう尋ねると、小声で返答する。
「教会の上にいます。まだ、日が沈みきれてないので行けないですけど。・・・その、あんまり声を出さないでくださいね」
「おう、分かっているって。とりあえずシャドウとシルバーに何か食べ物与えとかないとなー」
「ああ、それならガナールさんが『作っておきますから』って言ってましたので大丈夫です。必要なのは僕達の分だけです」
「夜中は静かになるそうだしな、早めに食っといた方が良いな。おっ、彼処シチューを作っているみたいだぜ」
建物の看板はオレンジ色の光が淡く光っていて
「シチューですか、良いですね!!夜とか寒いでしょうし、温まっておきましょうか」

「おっ、いらっしゃい!!寒い中魔物退治に行ってくれてただってな。ありがとな」
お店に入った途端、随分と大柄な男性が笑って出迎えてくれた。もうすぐ夜中になるというのにとても元気そうだ。
「いえいえ、それほどでも・・・」
温度差からなのか、照れたからなのか、少しだけ頬が赤くなっていた。
「まあ、その辺にしろよ?ちょっと冷えてきてな。シチューが食べたい」
「あいよ、ちょいと待ってくれ。ああ、お代はいらねぇ。魔物退治しに来た人には無償であげているんだ」
「おっ、おっちゃん気が利くな!!」
「ソニックさん!!いえ、ちゃんとお金は払いますよ」
シェイドは真面目な性格らしい。こういった光景に慣れてないのかは微妙だが、俺達の会話が弾んでくれないのでちょっともどかしい。
「いやいや、お前さんが来てくれればこの店は繁盛するってワケだ。それだけで十分だ」
「・・・むう」
どうやら折れた様らしく、シェイドは溜息つき「じゃあそういう事にしてくださいね」と言っておいた。

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「ふんふん~♪」
器用に皮をナイフで剥いていると、突如冷たい風が吹いてきた。窓は閉めていたのに風がちょっと強くなったのだろうか。一瞬彼女の事を連想したが、多分違うだろう。
「違くないわよ。風のイタズラであるのだから」
「!!ビックリした・・・」
風のイタズラで窓が開いていたらしい。何故このタイミングで彼女が来るのだろう?
「貴方は気付いてないの?」
「何にです?」
そう言ったら、そのまま剥いていた皮がポトリと地に落ちた。まるで緊張の糸がピタリと張る様に。
彼女はその落ちた皮をひょいと宙と地の間に入る様に、掴んだ。そして自分に向かって笑う。
「貴方の主、何かに取り憑かれたみたいに暴れているわよ?」
・・・魔力のブレからしても、暴れているのは一目瞭然だ。何に対して暴れているのかはよく分からないのだが、遠くからでも気付くという事は相当なのだろう。彼女は続ける。
「彼、最近異常に苛立っている。固定概念に完全に囚われてしまっていて、私や貴方の声も届く素振りも見せない。あれじゃ多分精神的に人じゃなくなるのも時間の問題だわ。・・・どうするの?」
「―何もしなくていいよ」
「でも、彼は殺す事で終わる出来事だと思い込んでしまっている!!私やノームの力無しであの変化を0にするには危険すぎるでしょ!?」
「・・・変化を0にする事は貴方でも出来ないでしょう、シルフィ?大丈夫、あの子が勝手に動いてくれるよ。・・・まあ、もう少し刺激してみないと難しいけどね」
「あの子・・・貴方正体に気づいているの?」
「当然でしょう?あの独特なモノ、書物の文にあったモノと全く同じなのだもん。だから、彼についてはそのままにしてあげてね」
「・・・。」
何かを言ったが、先程の冷たい風のせいでその音はかき消された。何を言ったかをもう一回聞こうとするが、「なんのこと?」って言ってしらばくれてしまった。
「ああ、シルフィ。その彼は今何処にいるか分かる?」
「アファレイドにいるみたいよ」
「アファレイド・・・?」

====================

花を束ねて、目の前のお墓に花を添える。そして、お線香を炊いてその香りで俺は過去を夢見ている。花の香りは微かに俺の記憶を呼び起こしてくれる。
「・・・ラネリウス王、安心してください。この件はきちんと私が解決しますので」
王というのもあり、石碑の大きさは計り知れない。元々王がやってきた行為は人々が皆感謝していたのだから、それもあるのかもしれない。歴代の王の墓と比べまだ真新しい感じが残っていて、未だこの周辺の空気には馴染みきれてないみたいだ。
ふと、肌に冷たい雫が落ちてきた。空を見上げると、静かに雫がポタポタと流れ始めていた。浴びてくると心地よくなってくる。冬だったけれども、俺からすればまだまだだったからこうして浴びている訳だ。
「―いよいよか」
目に雫が降ってきて思わず目をつぶった。すぐに目を開けると、毛先から白く染まっていく事に気付いた。それと同時に、髪も少しずつ伸びてくる。鋭い尻尾は長くなっていき、やがては毛が生えて獣の尻尾となった。そして、瞳を開けてみると先程の姿とは真逆の真っ白の狼になっていた。
「・・・。」
俺はこの現象を『白狼化』と読んでいた。満月周辺の日は何をどうやってもこの姿になる。不老不死になった時に付いてきた呪い。これのせいで俺はアファイレドを去ろうとした事もあった。だが、今はもう気にする必要は無い。むしろ、これは俺にとっては有利になる現象だった。
白狼―いちいち白狼だと俺の元々の種族がそれになって面倒になるので以後『満月姿』と言っておくが、その姿は言ってみれば不老不死の効果がモロに出ている状態だ。この間なら猛毒ガスも苦しいとは思わないし、骨折位までならその日の内に治ってしまう。何もかもが限界を通り越している。威力も、治癒力も、何もかも。
「かかってくれば良いさ。皆まとめて叩き潰してやるよ!!」
俺は化物にそう言った。結局化物は誰なのだろうか。俺も随分と理性と知性のある化物だと思っているし、本当の所俺の実力よりも恐ろしい『アイツ』を未だに目覚めさせていない。目覚めさせて戦ってはいけないんだ。戦ったら―。その前に俺が戦うのだが。

皮肉にも、今回の事件は『アイツ』を上手に使わないといけない様だが。

 

~中間~

 

???

『―珍しいじゃないか、俺に助けを求めるだなんてさ。普段なら「表に出てくるな」って言って出そうとしないのに』
「異常事態だ。元々はお前が撒いた種だろうが。お前の力無しでは解決出来ないぞ」
『お前は俺を物として見ていないのか?元々俺はお前の感情の一部だぞ?』
「うるさい、黙れ。お前みたいな心を俺は持ってなかったさ」
『開放されたい、そう願ったのは誰だっけな。まあ、下手に喧嘩しても無意味だし、この話は止めにするか。で?お前は俺に何を求めているのさ?』
「闇の住民を蹴散らせ。それを率いる奴ら共々に。やり方は自由に、ただし俺の身分の事も考えろ。どうせ後始末は俺がやる事になるだろうしさ」
『・・・良いのか?お前今普段言っている事と真逆の事言ってるぞ』
「イレギュラーだよ。俺も好きでお前に頼っている訳ではない。ただ、確実に紅月を駆逐出来るのはお前だけだ」
『お前の従者とその中にいる誰かさんでは駄目なのか?』
「駄目ではない。だが、なるべく汚れて欲しくない。汚れるなら俺達で・・・意味は分かるな?」
『・・・良いじゃないか。お前に支障が出ない程度に暴れてやるよ。丁度雨もあるし・・・奴も呼べるか』
「・・・?奴とは?」
『お前には出来ない事さ。知られても大丈夫だ。この術はハイリスクハイリターン、唱えただけで死ぬ奴だっているし、現れたら食われて死ぬ奴だっている。歯向かうのも難しいだろうな』
「・・・・・・まあ良いさ。頼んだぞ。あと勘付かれるなよ、ガナールに」
『りょーかい』

====================

破滅の音がした。
俺が聞こえたその音はノイズを出しながらぐるぐるとかき乱していく。ぐるぐるり。何の音なのだろう?耳を澄ましてみても結局音は変わらない。何の音なのか、俺にはよく分からない。
聞こえたのはどうやら俺だけだった様だ。シャドウは不思議そうに俺を見ていたから、おそらくはそうなのだろう。音がした方向もある程度は分かるのだろうと思ったが、結局分からずじまいだった。
「どうしたのだ?」
「大丈夫、問題ない」
ノイズの音は更に大きくなっていく。耳鳴りがする。ギスギスと脳のどこかが軋む様な感覚がする。
『此処の所彼随分と苛立っている様な気がするな』
ノイズの中で突然その声が聞こえてきた。声の主はシャドウ、何故急にそんな事を言い出すのだろう?そう考えている間にそのノイズの音は徐々に小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。
「本当に大丈夫なのか?お前の言う大丈夫は大抵大丈夫じゃない」
「・・・なぁ、シャドウ?苛立っているって、どういう事だ?」
「!!」
突然苛立っているというワードを聞いて、動揺している様に見えた。何故声に出しているのに動揺なんてするのだろう?シャドウは若干声を震わせながらこう言う。
「・・・何故、分かった?」
「え?分かったって・・・アンタそんな事言っていただろ」
「言ってないぞ?何故、思っている事が分かった?どういう意味だ、説明しろ!」
「え、ええ!?お、俺にもよく分からない!」
じゃあ何だ、俺が心を読んだとでも言うのか?馬鹿げている、幾ら何でも心を読む力が超能力の内に入る筈がない。俺はあくまで物体浮遊が可能なだけで、他はカオスエメラルドを使える位しか―。
その時、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。俺とシャドウが一瞬の静寂の時を迎え、扉の先を見つめていると見覚えのある人が開けてきた。
「失礼します、シャドウとシルバー。夕食の準備が出来ましたよ」
「あ、ガナールか。聞いてくれ、シルバーが勝手に僕の考えている事を答えた、これはどういう事だ?」
「助けてくれ、何か俺が心を読む力が芽生えたのかとか言ってくるんだよ!」
「え、ええ・・・?と、とりあえず二人共落ち着いてください。急に振られても私は解答しかねる訳でして・・・。夕食用意したので、食べながらでも、いかがでしょうか?」
ガナールはそう言って、苦笑いを浮かべていた。

 

~中間~

 

「成程・・・それで心を読む力が急に開花したのでは?と推察された訳ですね」
ガナール自身が作った料理を彼は食べながらそう言った。
「俺にもサッパリなんだ。ノイズが酷いし、何か変な声聞こえるしで」
「今その症状は?」
「無いな」
「質問なのだが、心を読む魔術は存在するのか?」
シャドウがそう問うてみて、ガナールは悩ませて「うーん」と頭を捻らせた結果はこれである。
「少なくとも、アファレイドには無いです。・・・古い書物から出てくる可能性もありますがそもそも今回まだアファレイドに行ってないので可能性は0かと」
「つまり、覚えられるチャンスは無いと?」
「ええ、その通りです。秋にあったあの襲撃事件周辺で王宮にいる人達が使える魔術を見れた場合もあるかもしれないですが、そもそもアレって特別な術に阻まれて唱えても普通の人は無理ですし」
「裏ルートから覚えたっていう可能性は・・・無いな、シルバーがそんな事する筈もないし利点も無い」
二人が何やら難しい話をよそに、俺はこそこそと温かいスープを飲む。寒い冬にはこうした物が無いと辛いモノがある。暖房も効いているが、それとは違う温もりを俺はひしひしと手から伝わっていた。俺達の世界ではこんなモノなんて無かった。温かいなんて、もう懲り懲りだ―そう思ってしまえる位、俺達の世界は暖かくなりすぎていたんだ。暖かいじゃない。暑いでもない。熱いのだ。気温のそれなんて信用出来ない。何もかもイカれていた世界で、数値なんて機能してなかったのだから。そう考えると、俺は幸せだ。罪悪感すら感じてしまう位に。
皆はきっと理解されないだろう。俺は目を閉じた。
「・・・ごちそうさま。もう寝るよ」
「おや、早いですね。どうしたのですか?」
「・・・一人でいたいだけだよ。おやすみ」
胸騒ぎがしてきた。何か物騒な事が起こる、その様な気がして。俺がいない間に、何かが起きる様な気がして。
でも、後遺症が現れても困るから、俺はこの日はずっと眠っている事しか出来ないのだ。
弱い俺が若干憎たらしく感じられた。

====================

ある森の奥地には、化物が眠っているのだという。
永い永い夢を見て、過去を眺めているだけのケダモノ。あの化物は常に安らぎを求めている。
過去は心の安らぎ・揺らめきを与える。逆に言えば、それしか与える事しか出来ない。
動いた結果・動いている過程しか見れない。足元は只の無ばかりである。
それを平然と華を盛り付けて自身を英雄談として語る様な人々がいる。
化物は、それを語るのを嫌って、未来に寄りすがっていた。

化物は常に安らぎを求めている。
だから、その血を見るのも安らぎの一つだと言えるのだろう。
化物はその血に一種の温もりを覚えていた。過去を語るのは嫌いでも、過去と現在を重ねる事は頻繁に起こっていたという訳である。

化物は常に安らぎを求めている。
行き過ぎた代償の苦痛を忘れる為に・・・。

―化物はやがて、多数の闇を目撃した。

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続く。

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幻想の赤月 2-06章 a venom fang

 

今日は雨が降っていた。そんな中でも彼の呪いは溶ける事なく、強まっていくのだ。満月にならない時でも、この状況ならなりえる状況である。
しとしとと降る雨の中、彼らは不気味な空気と迫り来る恐怖を感じ取りながらも、この日はやってくる。

貴方が望んだ月、今日は一体何をもたらしてくれるのだろうか?

The 5th day

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宗教都市アポトスより

連続で動いていた時の疲れと高山病になったシルバーの為に、昨日の夜はすっかり皆ぐっすりと寝ていた。おかげで今ではすっかり元気になった。シルバーも空気の薄さに慣れたらしく、十分に動けそうだ。
「まあ、昨日はよく寝れたから満足かな。ん~さてと、教会に行ってみて情報収集するか」
「気分悪くなったらすぐに言えよ?」
「大丈夫だって。まあ、運動は控えるけどさ」
下手に走ったりすれば間違いなく息切れを起こすだろう。地形に慣れないのは仕方ない事だろうが。
そうこうしている内にシャドウは勝手に教会に向かおうとしていた。シェイドも一緒である。
「Hey、シャドウ!!俺達一緒に行くんだろ?」
「・・・いつになったら出てくるのだ?今すぐ出ろ」
「へいへい」
改めて見ると此処はとても神聖な場所の様に見える。それもその筈、此処アポトスは宗教都市で有名であり、今回の事件が起こる以前から高山の所にある為に、此処までの道は試練等と言われている。普通ならば3日程かけて行くものらしいが、今回は緊急なので皆の能力を応用して一気に行ったという訳である。・・・まあその結果が高山病というだったのだが。
宗教都市というのもあり、此処いらに住む人々の多くは宗教服を着ている。皆が信仰深いのだろうか、それがルールなのかはまだ分からないが、普通に歩く人々も悪魔対策をしているのが目に見えたので、外部の人以外は基本アクセサリーを付けているっぽかった。
俺達はしていないので悪魔とかについてるのかと不安に思ったが、どうやら心配は不要の様だった。此処でも俺達の存在は世界を救っているヒーローと認識しているらしく、俺達を見るなり握手を求めたり、サインを求めたりする。高山で外部の人が来づらい雰囲気があったからか、いつもよりもそういった出来事が多くあった様に思える。
「おいおい・・・後で応じるから今はとりあえず教会の方行かせてくれないか?」
俺がそう言うと皆は其処までの道を教えてくれた。おかげで早めに着く事が出来たのだが、後ろがあまりにも慌ただしかった為に教会の人々は唖然していた。俺達の急な訪問に驚いたのかもしれないだろうが、とりあえず後ろが酷い位に煩い訳だ。
「あー俺が彼奴らに説得してみるからさ、アンタらは話聞いといてくれ。後で教えろよ??」
流石にあの状態だと別の意味で事件が起こりかねないのを察したのか、シルバーはそう言ってきた。
「頼むぜ、あんな状態だと下手に動けないぜ全く・・・」
「ソニックさん、それ漏れたらマズイと思いますけど」
「大丈夫だ、まだ聞こえてない範囲だからな」
「いや、そういう意味じゃないですって・・・シャドウさん。シルバーさん、お願いします」
「ああ、任せてくれ。騒ぎ起きてくれなきゃ良いが・・・じゃ、ヨロシクな」
シルバーはお辞儀しているシェイドに向けてニッと笑うと、後ろの人々の元へ走って行った。一人で間に合えば良いのだが・・・まあ最悪サイコキネシスがあるから問題は無い・・・のだろうか?まあとりあえず上手くいくことを祈るしかないだろう。
シルバーが出てからしばらくすると、やがて一人の信者らしき人が出てきた。歳はそれなりに行っており、帽子を被っていていかにもという服装をしている。そして、何より驚いた事というと、牙が地味に鋭かった事だ。その人は丁寧にお辞儀をした後、挨拶をしてきた。
「初めまして、ソニック、シャドウ、シェイドさん。私の名前はフェルと申します。わざわざ此処にいらっしゃったという話は昨晩からお伺いしております」
「・・・結構話が早く届いてますね。何故僕の名前を知っているのですか?ソニックさんとシャドウさんは有名ですから分かりますが」
「貴方、ウォイスの弟子の名で此処ではそれなりに広まっているのですよ。まあ、ソニック達と比べたら穏やかなものですがね。・・・さて、此処で立ち話も疲れるでしょうし、ついてきてください」
「お、部屋まで用意してあるのか。サンキュ」
「いえいえ、ではご案内致します」
そう言うとフェルは俺達を背に向けて歩み始める。俺達も一緒に行こうとするが、シャドウに少し止められた。
「待て」
「うん?どうしたんだシャドウ?」
小声がシャドウが言う。
「昨晩会った蝙蝠については一言も言うな。それがお前の為だ」
「おいおい、どうしてそんなに敏感になっているんだ?」
「此処は宗教都市。宗教の教えが根強く残っている都市だ。僕達では分からない部分も此処では過剰に反応する様になる。・・・種族も一部の者は此処に住みにくいらしいしな。彼奴が隔離しているのは、その考えがあるからだ」
「・・・つまり、どういう事だ?」
「其奴の事を言ってみろ、そうすればお前も手下の様に見られるぞ」
「あ、ああ・・・」
道理で昨晩深く関わらない方が良いって言っていたのか。奴の事が嫌いだから突き放しているのかと思っていたのだが、そうではなかった様だ。別に俺は知らなくても良い事だが、何故シェイドには言わないのだろうか?それを尋ねるとシャドウは
「もう奴は悟っている」
と言って、そのまま後についていってしまった。多分これ以上説明すると疑わしく思えるからなのだろう。仕方ないので、俺もシャドウの後ろを追う事にしたのである。

~中間~

「まず、何故此処に来た理由をお聞かせしてもよろしいでしょうかね?」
「俺達が求めているカオスエメラルドの反応を探しに来たからだな。まあ、此処には偶然通りかかったという感じだが・・・駄目だったか?」
「いえ、我らのヒーローが此処に訪れた事は大いに人々を幸せにしていることでしょう。我らは貴方様達を歓迎致しますよ」
フェルはそう微笑んだ。幸せにしている事は先程の群れで直ぐに分かるが、あれはあれで危険の様な気もする・・・。
シェイドは真剣そうな顔でフェルに問い詰めてきた。
「単刀直入にお聞きします。今現在、起きている現象について調べているのです。情報を提供してはくれませんか?」
「ふうむ、今起きている現象というのですか・・・」
考え込んでいる様な仕草をしながら、窓から空を見上げる。
「そうですな・・・緩やかな変化ではございますが・・・此処最近明らかに異常なスピードで山が出来たのですよ。窓を見てくだされ」
そう促されて俺達も窓の景色を見てみる。すると、一つの山が大きく見え、その周辺にはどす黒い闇の様なモノがあるのが見えた。山がある事自体は教えてくれないと気づかなそうだが、どす黒い闇の様なモノがあるおかげでこれが超常現象なのだという事が人目で分かった。
「これは・・・」
「そう、魔物が出てきたのです。架空の存在かと思われたのですがねぇ・・・今は魔術の心得のある者や剣術の心得のある者が此処に来るのを抑えておりますが・・・正直此処に魔物が現れるのも時間の問題ですかねぇ」
「そのどす黒い所から出るのか?」
「然様。我々はその魔力の量を見てみましたが、日に日にその魔力は増していき、魔物達も強くなっていく一方でしてな」
「それは一体いつから始まったんだ?」
「つい一週間前程度の出来事ですよ。調査をしているという事は、この出来事は誰かが意図的に犯したという訳ですかねぇ・・・」
「紅月という赤髪のウサギの魔導師が起こした異変だ。他にも各地で変化が起こっている。今僕達の周りでカオスエメラルドを集めるのはその元凶を倒す為だ」
「成程・・・。」
「気をつけてくれ、もしカオスエメラルドを持つ魔物が現れたら急いで俺達に知らせてくれ。すぐにそっちに向かうぜ」
「ああ、ありがとうございます・・・!!ああ、もしお泊りになられるのであれば、ご注意してくだされ。夜は迂闊に外を出ない事をおすすめしますぞ。悪魔の使い魔が現れますからのぉ。魔物がいらっしゃる関係上、仕方ない場合もあるかもしれないが・・・夜は特に気をつけてくだされ」
どうやらシャドウの言っていた事は正しかった様だ。彼―アッシュの事はどうやら教会側としては受け入れてもらっていない、簡単に言ってしまえば対立関係にあるらしい。彼と会う場合は密会しなければならない様だ。しかし、俺達にそういった部屋はある筈も無いし、仮に魔術があったとしても、シェイドが覚えているかどうかは別問題だ。
となると、彼奴に相談しなければならなそうだ。
「分かった。こっちもわざわざありがとうな。・・・さてと、どうするか?」
「あんな状況を見たら、もはややる事はたった一つだ。そうだろう、シェイド?」
「ええ。僕も同じ事を考えていましたよ」
「だよな・・・じゃあ・・・」

「「「魔物退治に行くか!!」」」

下手に動くと危ないとは言うが、あんな状況で此処に襲ってきたらひとたまりもない。それは絶対に避けなくてはならない。
「よし、ならシルバーも呼ぶか。彼なら戦力も増すだろうしな」
「あ、それ良いですね!!」
「・・・好きにしろ。まあ奴なら足でまといにはならないだろう。急ぐぞ」
「そんな事を言って~、本当は寂しんだろ~?」
「口裂くぞ貴様」
「おお、恐い恐い」
この時はまだ平和だったのだろう。俺は最初から遊ぶつもりでいたし、シャドウやシルバーもなんだかんだでこの戦いに対しては余裕の表情を見せていた。
ただ、俺はちょっと油断していた訳である。皆余裕があったが故に、注意すべきところに注意が行き届いていなかった訳だ。

====================

「はっは~ん、お前ウォイスを畳み掛けようとした途端、塩酸振り撒けられたのか。うわっ、痛そう」
「・・・仕方ないだろう、幾ら何でもあれは予測つかなかったのだ」
マインドがボロボロになって帰ってきたのを見て、カースはそう言った。確かに奇妙にぷくぷくと豆の様な大きな熱傷があちらこちら見受けられる。正直、痛々しい。
「まさかウォイスがこんな残酷な事をする等思ってもいなかったぞ」
青く鋭いその眼差しは、やがて人々に害を及ぼそうとでもしているのだろうか?紅月の仲間だと気づけば即畳み掛ける様だ。勘違いをすれば一気に有利になりそうだが・・・。
「騙す以前にあの黒い奴―ガナールがいるせいで騙そうに騙せないのだな?」
「そう、それ。俺が考えるにはガナールに幻術は効かないと思うんだよな。心理学自体は役に立たないだろうが、幻術に対するレベルは正直俺達では役立たずだろうし」
相手が一体何処まで考えているのかはよく分からないが、紅月様ですらガナールの幻術を見破れなかった所を見れば、不意打ち等をしても返り討ちを喰らうだけになるだろう・・・。
「それならば、直接攻撃した方が早いというのか?しかし、彼奴はウォイスの従者だぞ?」
「ウォイスは『何故か』別行動をしている様だから、大丈夫だろう。それに、俺達には助っ人がいる訳だ」
そう言うとカースは後ろを振り向いた。マインドも続けて後ろに向く。後ろにはメイド服を着た人物がいた。あの時、コアを守ろうとしたあのアンドロイドだ。あの時はシャドウと戦ったらしいが、結局守りきれなかったという。仕方ない事だ、その後にシルバーが来たのだから。
「しかし、此奴は一体何者なんだ?」
「あー・・・そうだな、説明してなかったな。ティルト、自己紹介してくれ」
カースの声と共に、ティルトと呼ばれたアンドロイドはお辞儀をしてきた。
「初めまして、俺はティルトと呼ぶ。くれぐれも女じゃないからそこの所は言っておく。ご主人様のご命令ならば、何なりと」
女じゃない、と堂々と言っているが、マインドからすればただの変態の様にしか見えなかった。男性が女性物のメイド服を着ている時点で普通はそう思ってしまうだろう。
「あー、お前が勘違いしない様に言っておくが、元々ティルトは女性として作っていたんだが、何かある事情で男性として生まれたんだよ。決して変態とかじゃないからな?」
「・・・ああ、分かった。ヨロシク頼むぞティルト。ところで僕達は一体何をすれば良いのだ?」
下手にツッコんではいけないと必死で頭の中で唱えるのだが、反して違和感がますます出てきていた。このままだと言いかねないので無理矢理マインドは話題を捻じ曲げた。カースもその事に気付いたのか、「まあそうなるよな普通・・・」と小声で呟いてから切り出してきた。
「お前は絶対安静だ。紅月様が治療してくださるまで休んでてくれ。俺達はその管理を任されたという訳だ。要するにお暇を貰ったのさ」
よっと言ってカースはソファーに寄りかかって横になっている。
「まー仕方ないさ。お前はよく頑張ったよ」
「・・・紅月様、申し訳ありません」
「おいおい、むしろ褒めてたぞ?よくガナールと接触して殺されなかったな、どうやって生き延びたんだ?」
「・・・。」
『さあ、どうする?』
あの時選んだ選択肢が偶然機嫌を損ねないルートだったとしか思えない。元々提案した側の意見をマインドは飲み込んだ為、こうした事をするのは当たり前ではあったが、状況が状況だ。選んだ瞬間殺されかねない状況だってあっただろう。
余裕があった、という訳だ。仮にマインドが暴れたとしても、それを抑える手段をガナールとウォイスは持っていた。故に、優位な状態で交渉をした訳である。優位な立場に立っていなかった場合は・・・おそらく見せしめになったあの様と同じ様な状態になっていたのだろう。
(泳がせればそれが一番の近道になる筈だが・・・)
泳がせるには条件がある。相手に情報が知れ渡れていない事が一番大事だ。泳がせる事がバレれば確実にそれを利用される。また、その泳がせる行為自体、ガナールが望んでいた光景なのかもしれない。そんな事を考えれば堂々巡りになってしまうが、考える必要はあった。
「・・・言わないでおく。ガナールに目をつけられれば終わりだしな。他の奴らは?」
カオスエメラルドの探索だ。あと何故か紅月様が宗教都市に出かけている。何故だろうな?」
「ご主人様、ソニック達見に行かれたのでは?」
「僕は知らないよ。しばらくは安静にしているから・・・イタタタ」
「!!ティルト、近くに魔具があった筈だ、取ってきてくれ!!俺が痛みを和らげられるか試してみる」
「分かった・・・!!」
「チッ、結構深いんだよなぁ・・・治ってくれ」
痛みを訴えるマインドの手をカースは握り締めた。生命に影響はないので彼は握り返してくれたが、いつになればこの戦いが終わるのだろうかと彼は途方に暮れていた。

====================

「ちっ、魔物がいっぱいいやがる!!シルバー、押さえつけてくれ!!」
「ああ、任せろ!!」
サイコキネシスで大勢の魔物を一時的に動けなくさせた後、ソニックがホーミングアタックでしめやかに絶命させてはいるが、キリが無い。倒れた先から向かっても無駄の様に思える。
「ハァ、ハァ・・・シャドウさん、前です!!」
「カオススピア!!マズイな、更に強くなってきている・・・根本を叩かねば」
「根本って一体何処だよ!?」
「!!言い争っている間も無いですよ!!あれを見てください!!」
シェイドが指差した霧がかった先には、人影が見えた。増援に来てくれた様には全く見えない。何故ならば、魔物が襲ってくる方向から出てきているからである。
「今更何の様だ!!」
何者か分かったのだろうか、シルバーはいきなりサイコカッターで勢いよく人影に向けて放った。しかし、その攻撃は届いていない様だった。
「なっ・・・」
驚いた数秒後、突然地面から影の様なモノが物質化している事に彼は気付いた。気付いた時には既に遅く、その物質化した影は槍となって彼の足元を思い切り刺さってしまった。急な出来事だった為に、俺達全員が混乱した。
「ぐっ・・・貴様!!」
下手に動けない状況だったが、シルバーは魔術そのものを動けなくさせた。手が無事ならば、サイコキネシス自体は出せるからだ。痛みを伴いながらの使用だったからか、締める力は其処まで強くない様に思えた。
此処まで来ればもはや顔を見なくとも皆その人影が何者であるかが分かった。明らかに早くて驚いたが、あれは、間違いなく。
「この事件の黒幕がこの時にお出ましという訳か・・・ウォイスがいないタイミングを狙ったのか」
「・・・紅月」
かつてソニック、シャドウ、シルバーはアファレイドの襲撃事件及びそれに関連する秘密任務で紅月と顔を間近で見ていた。殺気に満ち溢れた瞳、理性をも吹き飛ばした意識や狂気、何もかもが一度は体験していた。
それでも尚、彼らは恐怖を覚えてしまったのである。そう、あれは確か半年も経っていなかった筈なのだ。筈なのに、明らかに以前よりもその特徴が現れていた。
ウォイスが「もう呼びかけには応えなくなったか」とポツリと呟いたのをシルバーは聞いていたが、そこから更に悪化した様に彼は思えた。だから、咄嗟に危険と判断して攻撃したのだ。
「久しいな、シャドウ、シルバー。まさか貴様らが此処に来ていたとは思わなかったが・・・ソニックも一緒・・・か。そして・・・シェイド」
「・・・貴方は既に力に溺れています。それに、貴方はウォイス様を裏切ったそうじゃないですか」
「裏切った?違うな、裏切ったのはウォイスの方だ。ウォイスが彼奴を殺したのだ・・・」
「ウォイス様はそんな事をしません!!」
「シェイド、落ち着け!!一旦退くぞ、シャドウ、良いな?」
「そう簡単には帰らせる訳にはいかぬ・・・折角此処まで来たのだ、もっと味わうがよい・・・我らの怒りや悲しみをな!!」
周りに黒い化物―闇の住民が出てきた。更に、そのまま獣も徐々に増えてきて、これ以上戦えば確実に死者が出る位にマズい事になったので、シャドウはすぐさまカオスエメラルドを出した。
「カオス―」
「フンッ!!」
カオスコントロールを出すよりに先に、紅月がシャドウの腹辺に銃を撃ってきた。その勢いにシャドウはついていく事が出来ず、そのまま撃たれて動けなくなってしまった。元々究極生命体で不老不死なので死ぬことは無いだろうが、これでは危険すぎる。
「シェイド!!逃げるぞ!!シャドウ担いでくれ!!」
「!!あ、ハイ!!・・・これでも喰らえ!!」
シェイドは突然後ろを振り向くと鋭い閃光が走った。目くらましに使うモノで、一時的に視界が役に立たない様にさせる様ウォイスが作ってくれた。
「今の内に!!」
「ああ、掴まれよシルバー・・・!!」
「分かった・・・シャドウは大丈夫か!?」
「安否よりまず俺達の身の安全を確認してからだ!!このままだと俺達全員殺されるぞ!!シェイド、俺に掴まれ。遅れるなよ・・・!!」
「あ、ちょっ・・・」
強引に掴まえてから、俺は音速に近い速さで走り出した。流石の紅月と言えども、音速に近い速度で走られたら追いつけないだろう。
・・・と思っていたが、紅月は必死に追いかけていた。それでも俺の方が早かったが、皆を担いでいるとはいえど、全力に近い走りの筈だ。
「ちっ・・・ウォイスやガナールはどうして来ないんだよ!!」
必死に走っていた。下手に此処で殺されても困るだけなのだから・・・。

~中間~

『ソニック、ソニック!!周辺に明らかに変な魔力の乱れを感じられましたが、一体何があったのですか!?』
ある程度紅月と距離が離れた所で、ガナールがテレパシーを使ってきた。
「遅すぎるぜ・・・、紅月が現れた。シャドウとシルバーが負傷してしまって今逃げている。そっちは?」
『今貴方の方に向かってますよ・・・紅月を一時的にでも動きを封じるつもりですよ。おそらくあの程度なら大丈夫です』
「お前が傷ついても困るぞ・・・?」
『貴方達は今怪我されても困るのですよ。的をこっちに向けた方が楽でいられるでしょう?』
「・・・。」
『紅月ならば確実に貴方達を追うつもりでしょうし・・・ですので』
「後は、任せてくださいな」
走った先にガナールを見かけた。急ブレーキをかけようか迷ったが、奴ならきっと動きを抑えられるだろう。
「ああ、恩に着るぜ!!」
一瞬のすれ違いでそう言ってみると、少しだけ微笑んでいる様に見えた。そして、右腕を上げた瞬間、自身の影と紅月の影を実物化して紅月の体を縛りつけた。
後は祈るしかなかった。彼らの事の方を優先せねばならない。

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「・・・ええ、貴方はウォイス様と似たタイプです。手段は違えど、属性型攻撃が得意な奴。私はそういった相手には得意なのですよ」
私がニコニコと笑うと、紅月は完全に動揺していた。心理学を嗜んでいない人でもこの慌てぶりで分かるだろう。完全に私が此処で現れる事を考えて無かったと思われる。
その考えは間違いではない。私だって、この出来事は正直想定外だった。シャドウとシルバーが傷ついていて、相手が紅月でなければおそらく私は此処に来なかっただろう。他の事情もあったのだから。
「―やっぱり、豹変していらっしゃるのですね。道理であんなに固い訳だ」
「それは一体どういう・・・ぐぅっ」
幾ら縛っているとはいえ、相手はウォイス様と張り合える者だ。念には念を入れなくては、自身の身が危うい。影で縛り付け、ナイフで動けなくさせ、鎖で巻きつけておかないと気が済まない。
「答えなさい、貴方は何者?ウォイス様をかなり執念深く追っている様ですが、何故そんな事を?」
事前に私は奴の元々の人と接触を交わしているので、奴がその元々の人でない事を何となく察していた。おそらく、ウォイス様も気づいているのだろう。そうでなければきっとこの子を殺そうとなんて思う筈がないのだ。支配する奴とウォイス様は完全に対立している。此処を皆理解していないから、混乱しているだけだ。そして、人々はウォイス様を支持した―それだけの話なのだ。それだけなのに―
(今や、その関係がこんな出来事を呼ぶなんて)
馬鹿馬鹿しい。興味すら沸かないのだ。私の感情が薄いからなのか、もうこの世の中に期待を寄せてないからなのか・・・どっちなのだろう?
「ハッ、その物言いだと・・・気づいているのか?」
「なんのことでしょう?その顔ヅラを汚したくはないでしょう、早く言いなさい」
「・・・ああ、残念だ。それはお前を殺すことになるのだからな!!」
突然、紅月の体から何か黒い物体が出てきた。完全に出てきた途端、紅月の肉体は糸が切れたかの様に崩れ落ちたのだ。黒い物体は私に襲いかかる。
(乗っ取りを利用しての自殺をさせる気か)
こうなるのは何となく見えていた。黒い物体は私に入ろうとした途端、動けなくなった。
「まあ答えを言いますと、気づいてますよ。貴方が行った行動がこの事件を引き起こしていることもね。・・・さては貴方、私がウォイス様に作られた事を知りませんね?」
完全に弾き返した。無理だと悟ったのか、奴は元の肉体に戻ってきた。
「ぐっ、何故我の術を知っている!?何故だ!?」
「さあ、何故でしょうね?私には分からない事ですわね。ただ、偶然の産物ではなさそうです」
下手にあの魔術について触れると、後でウォイス様に叱られるだろう。それに、今このタイミングでカラクリがバレたらきっと奴は私を引き裂こうとするのだろう。しばらくはきっと私が優位に立つだろう。だが・・・。
(下手に長期間いれば確実に私が不利になるでしょうし、ひとまずこの戦いに決着を付けないと)
「とりあえず、今は引きなさい。大丈夫だよ、『私は貴方の味方でもあるのだから』」
奴は目を見つめていた。私の瞳だけに見とれている様にも見える。間違いなく、術は効いていた。
「・・・良いだろう、今日の所は引いてやろう。だが・・・裏切るなよ?」
「こちらこそ。裏切ったら、こうですから」
ニッコリと微笑みながら、首を切る仕草をした。
味方でもある、っていうのはある意味間違ってはいない。奴の中にいる彼は、味方だ。一時的に敵の懐に入っているのも悪くない。その場合はソニック達にも騙されて貰おう。敵を欺くにはまず味方から。味方がその気であるならば、敵もそれに便乗してくる訳である。
とりあえずはまあ、この状況を切り抜けられたというだけでまだ良かっただろう。
「・・・とりあえず私はこれで失礼致します。ソニック達については触れないでくださいな。・・・それと、今日の夜は懐にご注意を」
「ハ・・・?」
「ではこれにて」
紅月の鎖を解いた後、私はそのまま瞬間移動して、ソニック達が逃げたであろう場所に移動した。最後の言葉を不可解に感じられた奴の顔はとぼけていて本当に滑稽だった。大笑いだった。

~中間~

「!!ガナール、大丈夫だったか?」
アポトス内の病院で、彼らは治療をしていた。シルバーは脚を怪我して結構危うい様だったが、幸い呪い関連は付いていなかったので、この程度ならば私の魔術だけでも十分元に戻れるだろう。それに対し、シャドウは重症だった。心臓に近い部分を撃たれたら流石の彼も意識が無くなるだろう。こちらも呪いに関しては無かったのだが、怪我があまりにも酷すぎた故に治療は難航しているという。
「私は大丈夫ですよ。・・・シェイド、あの怪我って貴方の魔術で治せる範囲かな?」
そう言って私はシャドウを指差す。人に指を指してはいけないとは言うが、下手にあの怪我でシルバーの方の怪我に行っちゃったら困る。
シェイドは「う~ん」と言ってシャドウの傷を確認する。数秒見たあと彼は答える。
「うん、多分大丈夫だと思います。無論、しばらく安静にする必要がありそうですけど」
「良かった~、私回復関連心得あまり無いものなので、心配になっていたもので・・・」
「ガナールさんにも苦手分野があるのですか?」
「無いって言ったら嘘になります。騙すのは得意なのですが、どうやら治療関連は苦手らしくて・・・。ああ、でもシルバーの怪我程度ならまだ治せなくないですので、そっちは私に任せてください。下手に魔力を減らされては今後足を引っ張りかねないので。シルバー、ちょっと失礼します。―少し痛むけど、我慢してくださいね」
「あ、おい・・・!!」
「ティアノフルメダ・サファク・・・」
怪我をしている方に術をかけてみる。すると、彼の傷口が徐々に塞いでいく。シルバーはこの光景を見て目を見開いていたが、変化は終わらない。出血もだんだん収まっていき、終わった頃にはもう殆ど支障が出ない傷になっていた。
「す、スゲエ・・・魔術ってこんな事も出来るのか」
「とは言っても、私はこの位が限度です。もっと上は沢山いますよ。シェイドさんの方を見てみなさい」
「え・・・?」
私の言葉に促されてシルバーはシェイドの方を向いた。シェイドは今シャドウの前に立っており、そして撃たれた場所を手で覆い隠した。深呼吸をし、何かの魔術をブツブツと唱える。覆った手の隙間から幻想的な光が淡く輝いているのが見えた。
3分位かかったのだろうか。あの光が見えなくなった時に彼は手を離した。―銃痕そのものが消えて無くなっている。シルバーは完全に魅入っていた。魔術というものの素晴らしさを彼は完全に魅了されていたのだ。
「・・・っ」
「シャドウ!!」
シルバーが動く前にソニックが先に動いていた。治ったとは言うが、一応まだ怪我が残っているシルバーが歩いても困るからだ。彼も続けて行こうとしていたが、怪我人は動くなという事で、私が軽く「動かないで」と言っておいた。
ソニックに助けられながら起き上がったシャドウはやがて目を覚ました。
「此処は?」
「病院。アンタ紅月に撃たれてそのまま意識が飛んだんだぜ。で、シェイドが治してくれたのさ。彼に感謝しろよ?」
「そうか・・・」
顔には何にも示してなかったが、感謝は多分しているだろう。でなければ、シェイドにお辞儀をする事はしないだろう。何故お辞儀なのかは私にはよく分からないが。
「まあ、とりあえずは良かったんじゃないか?でもまあ、二人ともちゃんと安静していろよ?魔術で治したのは良いが、反動もあるだろうしな」
「分かっているさ。・・・アッシュについてはどうするのさ?」
「あ・・・あー、そうだった」
「でしたら、私が此処を見守っておきますよ。ソニックとシェイドはアッシュさんという方にお会いになってください」
「Thank you、ガナール。恩ばっか着せてもらって悪いな」
「いいえ、お互い様ですから」
私はそう言って微笑んだ。

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続く
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ティルトはミルフィーユ様より。他の皆様の分は紹介の部分を参照。毎回ありがとうございます。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。