夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 -2章 鎖術師の事情~Silver knihe

・・・銀色に輝く夜。月はあの事件以来初めての満月だ。

今頃ウォイスは姿を変えているだろう。

シルバーは今頃、様々な不安を胸に何処かに行っている。

シャドウは未だに仕事をしているか、終わったのか。

シアンは小さいからもう眠っている。

シルフィは表に出て5人を観察中。

我は彼の身体を借りて、世界を駆け巡る。ただ、駆ける。

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英雄歴0年 あの事件から1週間ーシルバー達が本を見た後の夜

ガナール ???

『・・・ああ、寒い』

もう1人の俺はそう言ってハァハァと白い息を吐く。

「随分と冷え切っているな」

そうだ。先月の満月も結構冷えていた。

それもそうだ。先月の時点で寒い。本格的に寒いのだから。

『・・・それはそうと、何故あそこへ行く?』

「後に分かるさ。絶対に」

『・・・そう。では、楽しみにしてるよ、ガナール』

それを言ったきり彼の声は聞こえなくなった。

(多分、分かってくれる筈だ・・・)

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シルバー 影の国 とある館

「・・・。」

「続きを見よう。」

「そうだな」

シルフィは次のページをめくった。

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『秘術を持つ魔導師』の続き

不老不死というのは、基本方法は無い。あったとしても無理に等しく、やろうとしても殺される、又は出来ずに死ぬ。理由は不明だ。

・・・彼は心を惑わす事は出来ない。何故なら3000年も生きているからだ。いくら何でも知恵は付くだろう。惑わしても意味が無いのだ。惑わされる事もない、彼自身の意思。それを曲げる者は痛い目に逢うだろう、おそらくは・・・。

あの魔導師は魔学の知能に関しては一番知っている方だ。どんなに強くても、魔学の始まりを知らず、もっと前の魔術など知らないだろう。

(此処から先は読めない・・・)

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シルバー 影の国 とある館

「・・・知らない、か」

「しかしこの本自体にヒントはいくつかありましたね」

シルフィはそう言って本を閉じる。

ー?一瞬何かが引っかかった。待てよ。ーという事は・・・?

「・・・シルバー??」

「・・・記憶の奥の底から何か突っかかっているんだ・・・」

「?」

「あの人・・・。グッ・・・」

「!?大丈夫?シルバー」

「・・・大丈夫ー」

「ーそう、アレの共鳴反応ね」

シルフィは理解してくれたみたいだ。人柱の1つの特徴を。

 

・・・二重空間大結界の人柱は時々共鳴反応を示す。その共鳴反応は、相方が生きているかどうかが分かる。タイミングは自由、心に余裕が無い場合は発生しない。それが俺が分かっている範囲だった。

 

「ああ、聞こえる・・・。」

「・・・大丈夫?」

シルフィやガナールなどはこれが分からない。分かるのは俺とシャドウだけだ。

 

『・・・無事カ?』

『笑エル余裕スラアルジャナイカ』

『ーソウダネ』

『・・・貴方ハ・・・』

『ールミール・・・。結界ノ塊』

『初めまして。我はルミール。貴方の言う通り、結界の塊だよ』

『結界ノ・・・』

『貴方達の名前は?人柱の者』

『・・・シャドウ』『シルバー・・・』

『そう・・・。よろしくね、シャドウ、シルバー』

『・・・。』

 

「ねえ、起きてってば!!」

「・・・!!ルミール・・・?」

「?ルミール?シルフィだよ?」

視界が元に戻った様だ。一瞬シャドウとルミールと呼んだ姿が見えた。ちゃんとシャドウと俺の胸には人柱の証でもある印があった。服をめくっても、印は見当たらない。共鳴反応の時だけに現れるのだろうか。

「・・・俺は一体・・・」

「ー貴方は共鳴反応を起こしただけよ。安心して」

「やっぱりアレが共鳴反応なんだな。瞬間移動したかの様な感覚がソレか」

シルフィは「?」という顔を浮かべていた。あの感覚は俺とシャドウしか分からない。そう、感覚だけ彼処に行かれて自由に流れるかの様な・・・。

「まあ、もしかしたら共鳴が起こるかもしれないからヨロシク」

「はぁ・・・まあ、しょうがないんだけど」

「しかし、どうやらこの本、俺達が読めるのは此処までか」

「ここから先を読むのには、魔力を更に高める必要がありますね」

「・・・ということは、ウォイスに教わって貰うのが一番か」

「そうですね。鍛えてもらいましょう、彼にね」

「ーうん」

彼に教わる。確かにそれが一番だろう。

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ガナール ???

「・・・ウォイス様」

「ーガナールか。お疲れ様」

「はい。随分と冷えていますね」

「そうなのか?」

「?あれ、ウォイス様は寒くないのですか?」

「ああ、だって俺は北国から来ているから。というよりお前の場合、服で体温調節が可能なのでは無いのか?」

「・・・どうやら表の人は熱い所に生きていたみたいなので。」

「そう・・・」

「・・・ところでウォイス様、無礼を承知で一つ質問して良いでしょうか?」

『無礼を承知で』という言葉を聞いた瞬間、ウォイスの目は鋭くなった。

「ー何だ?」

「その・・・。ウォイス様は過去にアファレイド王国にいたってありましたよね?」

「?ああ、ルナが襲撃された際に使いとして送った奴か。」

「・・・ウォイス様の術の一部、それじゃないのもありますよね?アレは一体何ですか・・・?」

「ーほう、気がついたのか。」

「その様子からだと気のせいではないみたいですね。何ですか?」

「・・・俺の母国だ。母国が魔導王国だった。ー当然、アファレイドではないが」

「ーそうですか。実は資料探している際に出ている時、こんなのが見つかったのですが・・・。」

そう言って我はウォイスに見つかった『ある物』を手渡す。

「・・・何処で手に入れた」

「シルフィがいる、裏世界ですが・・・?」

ウォイスは完全に動揺している様だ。それもその筈。今、ウォイスが見ているのはー我が手に入れた資料は魔導王国についてだった。それも・・・

「・・・ウォイス様・・・?」

「いや・・・大丈夫だ。」

全然大丈夫ではないだろう。右手が震えているのが見えている。完全に怒っている。八つ当たりは勘弁して欲しい。レベルというのがある。

「少し落ち着いてはどうでしょうか、ウォイス様」

「・・・そうだな」

ウォイスは一旦俺を見て顔を背けた。後ろから見た彼は泣いている様にも見えた。化けの皮が抜けるのを見た気がした。

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ウォイス 影の国

ガナールの勧めにより、俺は一人で影の国に行った。

何故、彼はアレを見つける事が出来たのか。

俺は見覚えが無かったのだが、アレは何なのかは一発で分かった。

もしこの資料を歴史家の人などの手に渡ったら、確実に歴史に書かれる事となるだろう。これだけはどうしても避けたかった。

俺の『戦術』が乱れてしまうのを恐れていたのだ。

そもそも俺は不老不死で1億年は生きている人なのだ。当然いくつのも国の誕生を、崩壊を見てきた。魔導王国の数も見てきている。当然その国の文字もやろうとなれば書ける・・・。しかし、それを見せないのは『魔術』が扱える事恐れての行動である。普通に考えて、此処と外国の文字に違いがあるのは愚問である。結果、仮に魔術が書かれた文字があったとしてもその文字すら読めないなら元も子も無いのだ。だから、彼処に行った時も『あれ』以外の魔術を使わなかったのだ。だから、あいつらは『あの国のみの術しか知らない』と思っている筈だ。実際、あの結界と一部を除いて考えるとそうだ。

自分を別の生き物に変える魔術、指定された場所を何かに当てると見える魔術、自然と一体にさせる魔術、霊を操る魔術などがあるが、これは沢山あるので省略する。

 

「・・・あら、ウォイスではありませんか」

「・・・?シルフィか。」

「その様子からだと『アレ』に怯えた様ですね」

「お前か?これを見たのは」

「ええ、私ですよ。面白い資料を見つけたので渡してみたら・・・。まさか魔導王国だったとは」

「・・・言わないでくれよ?」

「なら1つ条件付けてで良い?」

「・・・内容は?」

「私とシルバーを弟子に出来ないか、って話」

「俺は別に構わないが・・・。大丈夫なのか、お前ら。裏がある様にしか見えないが」

「そうかしら?でもさ、シルバーに関しては人柱の件もあるから鍛えといた方が良いのではないのかしら?」

「・・・。」

言い返せなくなった。確かに人柱は魔力切れになれば崩れてしまう。魔力の量を増やすのは良いかもしれない。・・・それに当分は敵は来るとはあまり思えなかった。

「ー分かった。話をさせてくれ・・・。」

「ありがとうございます、ウォイスさん」

「・・・とりあえず寝させてくれ」

「残念ですけれど、今日はそうなるのは難しいみたいですよ」

「・・・どいゆう事だ」

「だって、もうすぐ」

シルフィが何かを言いたげにしていたその時だった。

雲に隠れていた満月の光が俺に降り注ぐ。

「あ・・・ああ」

離れていた身体がくっついたかの様な感覚が全体に響く。そしてゆっくりと目を閉じた。

「・・・シルフィ、アレは・・・。彼に・・・見せるな」

「・・・?まあ、彼以外誰にも見せませんよ」

シルフィはそう言った。

***********

シルバー ???

「・・・しかし、お前それで良かったのか?」

「今日は満月。だから頼めば出来るのではと思ってな。」

「そうか。後悔はしてないよな?」

「大丈夫。・・・あとはお前の努力次第だ」

「分かった。ありがとな、ガナール」

「・・・貴方も頑張りなよ・・・?」

目の前にいたガナールは自然と一体になる様に消えた。

「さて、俺は満月の空を堪能しようかな」

「満月の空を堪能するのはちょっと早いみたいだよ、シルバー」

「!?シアン、どうして此処に?」

目の前にはシアンがいた。ちょっと不安そうな顔をしている。

「・・・どうしよう」

大人っぽくは見えるとはいえ、実際は子供だ。更に言うと声の発し方は本当に怯えている様にも見える。

「どうしたんだ?何かあったら言ってみろ」

「ーアルファルット地方のクロノス都市で異変が起こっているんだって・・・。」

「・・・クロノス都市!?確かアファレイドと仲が良い所だったよな、そこ」

「そう。その情報が今届いたから困っていたの!!」

「異変だったよな?何の異変だ」

「ずっと夜が続くのよ・・・。クロノス都市だけ」

夜が続くー。これは気温・日光を浴びさせないつもりか!?

「下手すると此処にも影響受けるぞ・・・。シアン、今行けるか?」

「はい、準備は整ってます!!」

「行くぞ!!」

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ガナール ???

シルバー。気をつけるべきかもしれない。

いつもなら失敗しても立ち直れる。しかし今回の戦いからは・・・。

『負け』は相当痛いだろう。

 

・・・今回からの戦い。『皆』苦戦するだろう。

 

冷たい風が服に受ける。素肌の懐に銀のナイフが付いていた。

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続く

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地名説明・用語説明

アルファルット地方 テュカリエト地方の東側に位置する地方。比較的温暖な所が多い。魔力の量の多さの差が多い。
クロノス都市 アファレイド王国と仲が良い都市。シャインハイル王国の首都。雨が比較的少ないが、砂漠程ではないので普通に生きている人が多い。
共鳴 此処では『人柱』の存在を確認する為の行動に当たる。人柱・結界者が自由に共鳴を起こす事が出来る。シルバー曰く心に余裕が無い時は発生しないそうだ。尚、共鳴反応による空間に行けるのは人柱のシャドウ、シルバーのみ。ルミールは空間に留まる形となる。

 

あとがき あとがきによる挨拶は久しぶりですね、ポルです。登場人物・地名・用語がある程度溜まったので思いっきり出してしまいたいと思います(出しすぎは注意しますが)。ちょっとだけウォイスの術が気になりますが。

・・才能の頭脳なら彼の方が上ですしね。

さてそんなことよりも、そうですね。今出ている内容を年代ごとに並べたいと思います(黒羽様のも入れ)。

では。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。