夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

従者の見たセカイ~Passato crudele di scudiero

あの方の為ならば、何をしても構わない。それが例え、誰もがやりたくなかったとしても。今まで、そうやって生きてきた。

とある者が非を唱えようが、私は構わなかった。だから、私は基本嫌われていた。

唯一、相手をしてくれたのはあの人だった。あの人は私を親友の様に接してくれていた。私はとても嬉しかった。あの人がいれば、他は何もいらない。そんな事を考えていた時期だってあった。あの人も笑顔で、よく私の話し相手になったし、話もよく弾んだ。

あの人は無邪気でとても可愛らしく、皆に愛されていた子であった。時々あの人がこんな忌み嫌われている私を優しく接し、親友の様に扱ってくれているのか疑問に思った。その時、あの人はいつも笑顔で「君が好きだから」と言う。私にはそんなの分からなかった。でも、あの人は心の底から笑っていた。あの人と一緒にいれば、それだけで良い。そう思っていた。あの人は私の相談にも乗ってくれたし、逆にあの人の相談は私が引き受けた。出来た事を見せ合ったり、一緒に買い物をしたりもした。だから、とても幸せだった。

でも、それはとある事件がきっかけに裂かれてしまった。

私があの方に従っていた時であった。あの方は苦い顔をしており、私に告げる事が嫌だという様な顔を顕(あらわ)にしていた。私は疑問に思い、あの方に尋ねてみた。すると彼はこう答えた。「お前の親友が暗殺者に殺された」と。その時の私は怒りで満たされていた。何故、あの人を殺したのか。そう考えていると私はとても耐えられなかった。しかもその暗殺者は、そのあの人のもう1人の親友であった。私はその人を酷く憎むようになってしまった。しかも、その人は容疑が掛けられておらず、別の人に罪を着せようとしていた。

その人の事情なんて知らなかったのだ。その人からすれば私があの人を取ったのだと思っていたのだろう。そして、私の話で盛り上がり、笑っているあの人が酷く許せなかった。結果としてあの人を憎む様になって、あの人を殺してしまった。でも私は何故生き延びたのだろうか?本来なら私が殺される筈だったのだろう。だって、奪ったのは私なのだから。あの人に罪なんて無い。むしろ私の方に罪がある。その人にそれを伝えたら、私を殺そうとしてきた。流石にマズイと思って、抗えた。正直これは仕方の無い事だと思った。結果としてその人は逮捕された。私は「急に私をナイフで殺そうとしたので、抗うしかなく、結果1発殴ってしまった」と言って、謝罪した。その人は情緒不安定であったのも、様々な変動があったからだろう。その人は謝る事もせず、ただ去っていった。

それ以来、私は更に忌み嫌われる様になった。「貴方がいなければ、あの人もその人も幸せに暮らせたのだ」と、私に責任を背負わせる様な形になった。やがて、私は他人を信じられなくなり、そして次第に孤立していった。私はやがて心を閉ざした。結局、人は他人を傷付ける事しか出来ないのだと、そう考えてしまう様になった。誰にも好かれず、気がついた時には私以外全員敵だったかもしれない。

そしてその時辺から悪夢を見る様になった。常に笑って話をするあの人に泣き叫ぶその人。2人共、血で塗られているかの様な身体をして。まるで私が更に忌み嫌われる理由を何度も見る様に何度も何度も脳裏に刻まれていく。私は辛かった。それを他人にくちづけする様な事は出来なかった。決して他人に教える事はしなかった。ーそれを知っていた彼以外は。

彼は私の悲しみを理解しきっていた。数少ない私の理解者であった。だから私は彼にだけ全てを教えた。主にも知らせなかった、私のトラウマを・・・。彼は一生懸命考えてくれた。あの人みたいに、無邪気で明るく。でもあの人とはちょっと違った気がした。顔は似てないのに、雰囲気や仕草がとても似ていた。真似をしている訳ではない、彼は素直にしていただけだ。だが、私は知っていたのだ。彼が笑っているその裏には、悲しみで満たされていた事を。彼もまた、大切な人を失っていたのだ。私は彼を助けようとした。結果として、彼は私にだけだが、そういう悩み等を教えてくれた。私達は似た者同士だったのだ。

いつしか私が忌み嫌われるという事は無くなった。それもそうだろう。私を知る人物は減っているのだから。世代交代ってヤツなのだろうか。それを初代として考える事にしよう。今初代は既に老人である。2代目も老人の直前にいて、3代目は立派な大人で、4代目は子供で、5代目はまだ生まれていない。変化がよく分かるのだ、その時代ごとに雰囲気が違うのだ。これほど私を忌み嫌われた者は、私を忘れていた。ずっと恨んでいても、忘れてしまっていたのだ。今では私も普通に此処で過ごしていた。既に皆で笑い合おうの様な感じであった。ー3代目は。

しかし、4代目になったら、また私と同じ様になってしまった。理由はあの人の子供の能力と雑種だったからだろう。私と似ている環境にいた為に、助けたかったのだ。彼の様に助けたかった。子供は笑った。私が来るといつも元気ではしゃぎ回ってくるのだ。あの人が言うからには、私がいない日は寝かしつけるのが大変だとか何とか。でも私が来た時はとても明るくなるのだ。そう、魔法が掛かったかの様に。私は助けたかった子供が私に対しては無邪気に寄ってくるのだ。それが子供の楽しみになっていた。私も使命を果たした後はこうして接する。いつしかそれが生活の楽しみになっていた。私も子供もこの時間がこの上無く大好きだったのだ。

でも、これも長くは続かなかった。悲劇は連続にして起こった。

まず、あの人が亡くなってしまったのだ。親友であったあの人を失うのはとても辛かったのだ。そしてその奥様もその後の悲劇によって亡くなった。私は悲しかった。信頼していた友達を失ってしまうのは。それは子供も同じだった。いや、私よりも辛いだろう。両親が亡くなるなんて、その歳ではまだ早すぎたのだ。せめて、その辛さを共に生きていくのならば、楽しい思い出も残して貰いたかった。他の人よりもー流石に両親まではいかないがー愛していた私にとっては、そう思うのが当然の様にすら思えた。

だから私は一時保護している所に寄った。子供は泣いていた。けれど、私を見て無理に笑っていた。私は「無理しなくて良いんだよ」って言って、そっと子供を抱き寄せた。子供はそう聞くと、泣いてきて私の身体を握り締めた。大丈夫、そう言って私は頭を撫でる事しか出来なかったけれど、子供は少しだけ安心したのかもしれないと思った。

私は紹介した。「こんな所に行ったら、君の様な人が沢山いるから仲良くなるんじゃないかな」って、子供に見せた。子供は憧れたのだ、この光景を。子供にはこれらを理解してくれる友達が必要だ。私は仲良くなれそうな場所を紹介した。まあ、結果として子供は立派に成長して、私のサポート無しでも、自由に生きていける様になったのだけども。子供は覚えてくれているのかな。でも、そこまで大きくない時に貴方の元を去ってしまったから、忘れていても正直仕方が無い事でしょうけれど。

私が離れなければならない理由、それは私の正体を知らせたくないから。我侭だけど、これだけは絶対に教えたく無かった。不思議な子、そう見てもらいたかった。だから、私は皆が記憶を蘇る様になったら、私は行かなければならない。私がアノヒトだと、悟られてしまう前に。そうじゃなかったら、私は皆の子供の記憶を奪ってしまう。それは私にとってはとても辛い事であり、皆が望まない『悪魔』の姿になってしまう。だから、知らない間に忘れ去られる『妖精』の様な人になりたかったのだ。

だから、少しだけでも良いから、思い出して欲しいな。私は本当に幼い時に現れる小さな妖精さんなのかもしれない。大人になってしまえば、私は忘れ去られる。そんな小さな小さな存在だけれども、私は一度たりとも、皆を忘れた事は無い。皆にくれた『思い出』が、今此処に存在しているのだから。もう、行ってしまったあの子の笑顔が、今もなお、輝き続けている。だから、思い出して欲しいんだ。ちっぽけで弱々しいかもしれないけれど、あの時助けた私を・・・。

『ねえ、君。小さい時に私と一緒に笑いあったのを、覚えているかな?』

私はそう言って、君に歩み寄った。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。