正体の目~The identity of the white child 前編
手に腕、胸に背、首や顔。様々な所に管が幾つもある。
そしてその管の集まりは巨大な丸い筒にある訳なのだが、その筒は密閉空間であり、その中に赤い『液』がある。
その中に眠っているのは白い子。
その白い子は微かに目を開いた。そして、その筒を割ろうと殴り始めた。此処にいるのは窮屈だから、と。やがて其処に亀裂が発生する訳だが、白い子はそんなの分からなかった。そして、それが割れた時、沢山の液がタラタラと垂れ下がって、管もあちらこちらに散らばる。
その中の内、真ん中にいる白い子は、笑い始めた。
『ーようやく、外に出られる』
その時の白い子は、全く未来の事など知らずにただ、哂っていた。狂気に満ちたその声が、この空間に響いた。その時、誰も知らなかった。白い子が『アレホド』になるなんて。皆がアレホドになったと気がついた時には既に遅かった。白い子は既に・・・。
***********
「あーあ、暇だなぁ」
私は暇つぶしに散歩していた。理由は先程もあったが、暇つぶし。私にとってはそれくらいにしかならないのか。私は単純に眠る日々を過ごしていた。
「あ、グレファだ。ーありゃ、ガナールもいる」
ただ、呑気でそう呟くと、私はあの人達の元に寄った。
「ねえ、何しているの?」
「お前か。いや、単純に『これ』をどうにかしたいと思ってだな」
「そうなんですよね、『これ』って一体何ですかね?グレファさん、分かります?」
「分からないからどうにかしたいのだろう」
グレファとガナールの持っている『これ』を見てみる。何やら不気味な形をしている。私はそれに触れてみて、適当にカシャカシャと構造を組み替えた。軽く10分は経っただろうか。簡単に形が完成した。
「・・・凄い、しかもかなり複雑なのに、簡単に」
「これくらいなら、口ほどにもならないね。でも、何で『これ』を作っていたの?見た感じ、かなり古いよね?正直これ動くの?」
「さあな?」
「ーいや、待ってくださいよ。多分を此処をこうしてやれば・・・ホラ」
ガナールが軽く構造を変えた上に何かを唱えると、光を発した。最初は軽いモノであったが、やがて目が眩むくらいまばゆい光を発してきた。
その光は複雑だった形を軽く触れられない『何か』になって、宙を一回転する。
「な・・・何だコレは」
「さ・・・さあ?私もさっぱり」
「というより、これは一体・・・」
触れようとすると、光はさっと避けて、勢い良くガナールの頭にぶつかる。すると、どういう訳かスーと見えなくなった。
見えなくなった途端、ガナールが頭を抱え、何かを否定している様に見えたが、やがて何も言わずに俯いた。
「ねぇ、大丈夫?」
私がそう言ってガナールの身体を揺さぶろうとした。その時だった。パシッと私の手を取り払う様にガナールが私の手を避けた。
「大丈夫・・・私は一体何を」
あの人は軽くそう言って笑う。何となくだが、ガナールではあるが、ガナールでは無いと察した。
「・・・ねえ、君は誰?君、ガナールじゃないよね?」
「ー何でそれを分かるのかな?」
「私だけしか分からないよ。私以外、多分分からないけれど」
グレファはそれを聞くと、少し私とガナールを見た。そして、グレファは溜息をついた。
「・・・ああ、成程。だから言えるのか」
「そういう事、だから教えてよ」
「不思議だなぁ、何か此処に来るのは一体どれくらい前なんだろ」
「私達の質問に答えてよ」
「・・・初めまして、なのかな?私はガラル。確か90年前に死んじゃった筈なんだけれど、何故か此処にやって来たんだよね。何か探そうとしたら、肉体が無くてさ。んで主を探したけれど・・・まさか使われていたとは」
「え・・・えーと、んじゃ今のガナールの肉体の主は君なの?」
「ご名答。よく分かるね。でも、どうして分かったの?」
「まあ、色々不可思議な事件を経験している身なので、こういうのは慣れていた。って言えば、納得出来る?」
「成程ね~。・・・でも、意外だなぁ。まさか本当にやってしまうなんて」
「まあ・・・今ガナールは仮の身体で動いているから。本当の身体なんて、実際無いんだけどね」
「無い、かあ。じゃあ、魂だけあっても困るから、こうして私の肉体を借りて行動しているんだ」
「まあ、そう言った事だろう。ーところで、『やってしまう』とは何だ?」
「そのまんまだよ。友達が死ぬ間際に『生き返らせてやる』と言ってね。その後死んじゃったから分からないけれど・・・多分、本気だったんだろうなぁ。友達、真剣に泣いていたから」
「・・・もしかして、その友達って・・・ウォイス?」
「あれ、聞いた事あるの?」
「知っているも何も・・・僕ら、友人だぞ?」
「やっぱり、あの人は普通の人じゃなかったんだ・・・天使様だったとか、その辺も」
「?」
「詳しくは彼に聞いてみて」
「なら、その服装するのはマズイぞ」
「?何で?」
「ーその服装はガナールの服装だ。この状態で会ったら彼、ガナールと思われる」
「むしろ姿を隠して、私達2人でガナールについて尋ねた方が良い。そういう事?」
「成程ね。私の存在は伏せておきたいなら、それで良いよ」
「それに・・・お前の存在を知ってしまったら、明らかにウォイスの考えを変えてくるだろうしな。すまない」
「いや、それで良いよ」
じゃあ、と言って、グレファと私はウォイスの家に行った。ガラルは近くの宿で休む様指示した。
「まさか、幽霊に会うとはな」
「まあ、私もそこまで考えてなかったけれどさ。・・・やっぱり、アレなのかな?ガナールとガラルって名前似てない?」
「さあな。それを知っているのは、ウォイスしかいないだろうな。それにルナが知っている様な感じもしないしな」
「そっか。確かにあの態度だと、考えづらいね。彼も37歳だけど、大丈夫かなぁ?」
「まあ、それくらいの歳なら大丈夫だと思うのだが」
「そう・・・だよね。あ、着いたよ」
「やっぱり、此処を知るのには、色々疲れるな」
そう言って、私達はウォイスの元に訪れた。
「・・・お前らか。一体どうしたのだ?」
「まあ、少し話がしたくて、黙って欲しいから部屋の中良いかな?」
「いいぞ」と部屋に案内をされた。
部屋はとても豪華な装飾品で彩られていた。急にお客様が入ってくる事が多いのだろうか?
「んで?何なのだ?」
「・・・ガナールの名前の由来について、聞きたくて」
「んー、って。お前に話さなかったか?」
「いや、全然。というより知っていたらわざわざ此処まで来なくても」
「・・・まあ、そうだろうな」
愚問だったか、とでも言いたげに彼は紅茶を飲んだ。どうも彼は紅茶好きの様だ。
「まあ、簡単に言えばガナールはガーナから来ている。まあ、寒くて甘いというイメージがあってな」
「それは『公の場』としての発言でしょ?」
「・・・どういう意味だ?」
「私ね、幽霊に会ったんだよ。ガラルって子。その子、ウォイスの友達だったって子だからね。もしかしたら、繋がっているのでは、って思ったの」
「!!ガラル・・・??ちょっと待て、ガラルは今何処にいる!?」
「まずは私の質問に答えて。答えたら教えてあげるよ」
「・・・。ああ。ガナールは其処から取ってる。無論、ガーナの所も少しあるがな。まあ、ちょっと話すと長くなるから、覚悟して聞いてくれ」
「ああ」
「まあ、時代の方は90年くらい前・・・いや、付き合い始めたのは実際の所は95年か。何か気がついたら傍にいた感じか。本格的に付き合ったのは俺が彼を助けたからだな。・・・一応言うが、付き合うと言っても『親友』としてだぞ?気がついたら、仲良くなったが、ガラルはそこまで長生き出来なかった。14歳で当時不治の病であった病気に罹って亡くなった。かなり凄い事だったがな、最悪罹って1ヶ月しない内に死ぬのにも関わらず、彼は1年だった。その後、俺は彼の死を完全に否定していたのだろうか。ー俺は狂ってしまった。結果として、何十年も彼を生き返らせようとした。結果を言うと、失敗だったがな。だが、魂を少し掴めたのだ。そして、その魂を何かで埋める必要があった。ーそして、それを埋めたモノが・・・」
「ガナール・イプシオン・・・。そしてあの方の魂の一部・・・つまり、埋める元があの方・・・?」
「ご名答。これは俺だけしか知らないがな」
「・・・ガナールが出来る前の過程が相当重かったとは・・・」
グレファはそう言うと、軽く空を見た。
「今のガナールの30%がガラルの意思を持っている。それだけでも十分な成果だった。30%も出来たのだから。俺はそれで物欲が絶えた。だが」
「だが・・・?」
「20年付き合うとガナールとはいえ気がつくだろう。『何故か扱い方が変わる時がある』という点は。お前なら分かると思うが、長年付き合うと何となく感じ方が変わる時があるだろう?気がついたら輪から外れていたり、知らない間に友達になったりと」
ウォイスは真剣な顔で私に向けてきた。
何となくだが、分からなくもないのだ。
けれど、何故かモヤモヤするのだ。
私の扱い方が可笑しい様な・・・・??
「・・・分からなくは無いです」
それを答えるのが限界であった。
「そうか」と言って、私の感情をある程度察してくれたのか、それ以上突っつくといった行為はしなかった。
「まあ、それくらいと言えばそれくらいだが。何処にいるのだ?」
「・・・私の家にいます。ただ、察して逃げちゃう可能性があるのですが」
「構わない」
「んーじゃあ、伝えに行ってきますね、グレファ、10分くらいしたらウォイスと一緒に」
「・・・分かった」
「あ、おかえり」
「ガラル、ひとまず魂を抜いて貰っていいか?」
「ん、何で?」
私は此処であった事を軽く教える。
「そっか。肉体あったら不気味に思われるもんね」
ガラルは納得してくれた様だ。そして、「いつでもいいよ」って言って座った。
「んじゃ、悪いがやるぞ。・・・魂離術!!」
「連れてきたぞ」
8分後、グレファとウォイスは部屋に入ってきた。
「ん、随分早かったね?」
「まあ、それくらいは・・・ガラル、いるか?」
『此処にいるよ』
「・・・!!」
『やだなあ、いつでも君の隣にいるよ。ウォイス』
「ーガラル・・・?」
ウォイスは少し横を向いた。そして、ガラルの魂を見つけたらしく、軽く撫でた。
「・・・会いたかった。ゴメン。」
『大丈夫だよ、ウォイス。やっぱり、私を生き返らせたかったんだ・・・』
「あの後、70年間お前を生き返らせようと研究した。だが、どうしても生き返る事は無かった。・・・だが、ルナという子が、私の願いを叶えたのだ。魂の30%だけ、手に入れたのだ」
『ーそっか。それがガナール・・・なんだね』
「・・・何処でそれを?」
「いや、単純にいたからさ。その後用事があるからって言って、行っちゃったよ?」
「そうか。やはり、長くいられないのか?」
『うん。そこまで長くはいられないと思う。でも、少しだけでも良いから、君に会いたかった』
「・・・ああ。グレファ、アッシュ。申し訳無いが、2人きりで話がしたい」
「まあ、70年ぶりの再開だ、積もる話もあるだろう。2人きりの時間を楽しんで来い。行くぞ」
「うん。ーガラル、良かったね」
そう言って私は部屋を出た。
***********
続く
next 正体の目~The identity of the white child 中編
***********
あとがき
お久しぶりです、ポルです。多分、今回初ですよね。こういう話は。
今回はウォイスとガラルとガナールの話にしました。
グレファとアッシュについてはいつか話を出せたらなぁ、って思ってます。特にグレファ。
メタ話を言うと、ウォイスの設定多すぎて、困ってますww 満月姿のウォイス君、出番欲しいな、って言うのが現状であるww
では。 キャラ紹介は後編でやろうかと。