正体の目~The identity of the white child 中編
ウォイスが出てくれないかと言って、3時間程経つ。未だに会話しているらしい。幸い、ガラルの肉体は出ていた為に、ガナールはガラルに縛られなくなっていた。
「・・・全く~。急にガラルって子が割り込んで来たから驚いちゃった」
「まあ、それを知らない私達も悪い気がするんだがな」
「そう・・・だね。後で謝っておかないといけませんね。あんな元気なウォイス様を見るの、久々ですよ」
「それ程、親しかったのだろうな」
グレファはそう言うと、少し悲しい顔をした。
「ー悲しいのか?あの人が戻ってきたら、ってさ」
「よく分かったな。・・・亡霊でも構わないから、来てもらいたい」
「・・・人を生き返らせる事は、此処では出来ない。生き返らせる、それはどんなに復元したとしても、無理だよ。ー其処にいるガナールが、何よりの証拠だろ」
「そうですよね・・・元々は生き返らせる為ですから。ーまあ、私は私ですよ。代わりのいない、私ですから」
ガナールはそう言うと、笑う。澄んだ顔をしているのは何故だろうか?
「まあ、少なからず彼にしか分からないのだろうな」
「ーうん」
そう言うと、私はソラを見続けていた。
***********
「・・・何でこうなったのだ?」
『んー。分からない。・・・でも驚いたよ。君が神様だったなんて』
「冥界で聞いたのか、それは」
『うん。ウォイスの話をしたら、「それはネプトゥヌス様の事でしょうか!?」ってさ』
「ーあいつか。全く、あいつは一体何をしているのだ・・・」
『あいつって?』
「まあ気にするな」
そう言って、少し寂しげな顔になった。「これ以上一人にしないで」とでも言いたげに。でもー・・・。
『・・・寂しいの?』
「ー大丈夫だ。俺は見た通り友人がいる。十分だ」
無理して笑っている様にも見える。多分、泣いてる所を誰にも見せたくないからだろう。
触れられない。いや、透けてしまうのだ。いる様で誰もいない様な形。
「・・・・・・そろそろ行くか」
『え、何処に?』
「一人で行かせてくれないか」
『いや、構わないけれど・・・』
「・・・ありがとう。行ってくる」
そう言うと、有無言う暇も与えずに部屋から出て行った。
「終わったのか」
グレファがそう言って入れ違いで入ってきた。
「・・・どうやら、かなり大きな出来事があった様だな」
『うん、あの人「一人で行かせてくれ」と言って、部屋を出てしまったよ』
「何かあるな、ウォイスは」
「ん~。グレファ~、ガナールが起きたよ~」
そう言って、フラフラとアッシュが入ってきた。あまりフラ~としているので、倒れるかどうか心配したが、さほど心配しなくても良さげだ。
「んで、ウォイスが何か顔を伏せて歩いていたけれど、アレは何なのかな?私、空気だったからアレなんだけどさぁ~。もしかして、喧嘩しちゃった?」
『ウォイス何処行ったか知ってる、アッシュ?』
「ん~。多分彼なら『彼処』に行くんじゃないかなぁ~。」
「アッシュ、悪いがその伸ばし方止めてくれないか」
「分かった、分かったから。じゃあ、彼処に行ってみよ。多分いるから」
『その多分の言い方が凄く怪しいんですが・・・』
「ん~?もしかして、疑っているのかな?」
のほほんと笑う彼(彼女?)を見ていると、どうしても和やかな雰囲気になるのは気のせいなのだろうか・・・?
『いや、何でも無いです。行きましょう』
***********
ただ奥に行く。
あまりハッキリしない記憶を頼りに、ただただ歩いていく。
目の前にあったのは大樹。
アア、ディネシア様・・・、お呼ビでしょうか?
無意識にそう言って、私は大樹に触れた。
「・・・ウォイス?」
ふと、そんな声がしたので見た。すると、そこにはアッシュらがいた。ガナールもいる。
『大樹の聖樹『ホープの聖樹の子孫』の所・・・どうして、ウォイスが?』
「笑わせる。此処にいて、可笑しいのか」
ウォイスを見てみると、恐怖を覚えた。
「・・・何で怯えているのだ?俺は何もしていないのにさ」
「だって・・・目・・・目が・・・・・・・」
目の形が可笑しい。いや、この際言っておこう。『瞳が怖い』のだ。笑っていても、その『獣』の目のせいで、怖く見える。透き通っているアカに猫の様な目。そして、全く感情の無い顔。
ウォイスは自覚してないらしく、少しずつ歩き寄ってくる。
「アッシュ・・・何故、俺を嫌うのだ?」
「嫌いなのではないんだ。でも・・・怖い・・・どうして?普通のハリネズミなのに・・・『狼』に見える・・・?」
そう言って気がついたが・・・満月になれば『狼』になるではないか。何を言っているのだ・・・私は。
「・・・嫌うのなら、それで構わない。ー血を吸えたら良いだけだ」
「・・・え?」
血を・・・吸う?吸血鬼か何かか、と思ったがそうでもないらしい。
「少しだけ、血頂くぞ」
「ちょっと待て・・・っ!!」
一瞬肩に傷が入った事に気がついた。しかし、完全に手加減しているのだろうーそこまで出血してなかった。普通の切り傷だ。
一瞬にして戻ったウォイスの手にはナイフがあった。そして、其処には私の血らしき赤い液が少し矢先に立っていた。ウォイスは微笑んで、舌でその血を舐めた。
「フフ・・・美味しい。ーご馳走様」
ウォイスはそう言うと、姿が変わった。ーどうやら今まで幻術を掛けられていた様だ。今は夜の8時。そして月は満月だった。血を舐め、興奮したからなのか、意図的になのかは、私には分からない。
『・・・ウォイス?』「ウォイス・・・様?」
ガラルとガナールが声を掛けていた。ウォイスは何も言わず、2人の元に寄ってくる。
『「ウォイス「様」ではない・・・『君』「貴方」は一体何者『だ』「ですか」!!」』
2人が同時にそう言ってきた。ウォイスは何も言わず、奥に行く。
「あ、待ってください!!」
ガナールはそう言うと、空を飛んで追跡した。ガラルはガナールの肩に乗っている。私とグレファもウォイスを追った。
***********
「どうやら目覚めてしまった様だ」
「え、それは一体どういう事ですか、ルナ様?」
「シグ、これを見ろ」
そう言うと、ルナはシグに資料を見せた。
「・・・これは」
「ー明らかに可笑しい。吸血なんて今までで一回も・・・」
「ガナールは無事なんですよね・・・?」
「ああ、無事だ」
「なら、方法があります」
「ほう、それは一体何なのか、気になるな?」
「ウォイスなら、おそらくこの後瑠璃の森の中をひたすら彷徨います」
「?何故だ?」
「今の状態が『獣』なら、の話ですが。おそらく今は破壊衝動が起こっているのではないのでしょうか?」
「破壊・・・衝動だと?奴がか?」
「獣なら何かを餌にしている筈、ですので餌を探し求めるのは普通ですよ」
「では何故、血を舐めたのだ?」
「多分・・・これはあまり信じたくないのですが。何でも他人の血をほんの僅かな雫でも舐めると、あの姿の本来の力がその日の晩のみ蘇るとか。まあ、噂に過ぎないのですが、ありえるかと」
「吸血・・・それが覚醒条件か?」
「ハイ。しかし、思ったんですが」
「何だ?」
「そのー。シルバーさんは何でも覚醒を自由に操れるとか」
「そうだな、彼なら無条件で強くさせられるな」
「・・・もしもですよ?『吸血』を無しで覚醒したら、どうなります?」
「・・・・・・さあな。悪いが、シルバーの能力についてはあまり触れない様にしているのだ」
「どうしてですか?」
「未来から来たハリネズミだ。未来に生まれる前にこれを作ったら可笑しくなる。それに、研究ではおそらく証明は出来ない。それこそ、彼の使う超能力は魔術の類ではない、特殊な類だ」
「そう、なんですか」
「ああ。シグ、お願いがある」
「ハイ、何でしょうか?」
***********
「吸血、かあ」
ガナールが軽く、そう言うとあくびが出てきた様だ。そろそろ精神的に限界なのだろう。
「しかし、此処まで活動するなんて、珍しいですよね」
「そうだな。本来、あいつと共に動くのだろう?」
「そうですね。ーウォイス様、何があったのかな・・・・」
私達は私とガナール、アッシュとガラルに分けて行動していた。
ウォイスが自由に彷徨っている訳なのだが、此処、瑠璃の森は広い。とてもでは無いが、見つかりづらい。なので、手分けした方が良い、そう考えた訳である。
「辛かったら、言ってくれ。休むからな」
「うん・・・」
私はガナールが長時間起きている事が出来ないという事を知っていた。ルファーやシグは生命体なので、元々肉体を宿している事になる為に慣れる訳であり、最終的に普通の人間と同じ様になる。対してガナールはあまり外に出る事が無い。ー実力なら彼(男性か女性かは分からないが一応彼にしとく)が上だが、日常の耐久力は正直言ってあまり無い。体力面では無く、精神的に、だが。
こんなに行動するのは、ガナールにとっては相当な負担の筈である。少々無茶している様にも見える。
「・・・ごめんなさい、こういうの慣れてなくて・・・」
「良いのだ。むしろこちらが謝りたい。無理矢理こんな事に引っ張らせるのは悪かったな」
「いえ、ウォイス様の事もありますから、やらなければなりません」
一回深呼吸をしたガナールは、少しウトウトしていた。これはなるべく早くしないとマズイだろう。
「・・・行きましょう。彼の気配は北の方向にあります」
「分かった」
そう言って、私達は北に向かって再び歩き始めた。
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バシュ、クチュ。
「・・・足りない」
そう言って、俺は獲物を食べる。美味しい、俺がこうしてご馳走になるのは久々かもしれない。
「ー食事中に勝手に此処に来たら、機嫌損ねるの、普通だよな?」
食べ終わり、軽く尻尾を使ってナイフを投げる。
「・・・やっぱり。何となく、分かっていたが」
「ーアッシュじゃないか。何だ、俺を止めに来たのか?」
「いや、そうじゃないんだ。ただ、何となく此処に来ただけ。まあ、強いて言うのなら・・・その経緯、話してもらいたいな」
ニッコリ笑うアッシュを見ると、何となく私は付け狙われていると思った。
「ー申し訳無いが、今食事中なのだ。30分くらい後でも構わないか?」
正直にそう言った。せっかく獲物を捕らえたのだ、ゆっくり食べていたいのだ。ーあの人らにとって、弱肉強食の世界等あまり知らないのだろうが。
アッシュは奥にある俺が食べていた獲物を見て、少々青ざめた。
「・・・え、もしかして奥にあるあのリス・・・食べて・・・いるの?」
「ああ、それがどうしたのだ?」
「いや、何でもない・・・。普通『獣』はそういうの食べるもの、私達が特殊なだけで・・・うん、何かゴメン」
アッシュはそう言って、少し落ち着いた後此処から少し離れようとした訳なのだが、アッシュは何か思い出した様で、行く前に俺の方を向いてきた。
「ーそういや、ガナールの事なんだけど・・・あの人、ちょっと疲れているみたいだから、後でルナに伝えてくれないかな?」
有無言わずに、アッシュは奥に行った。
「さてと、食事の続き・・・と」
再び私は食事の続きを取る事とした。
ーガナールの疲労、か。
今まで2人でやってきていたから、そこまで気にしてなかったが・・・。
やはり、肉体の無い状態で肉体を持つのは大変なのだろう。
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『誰かの日記、魔導歴9999万年、推定英雄歴-74年前後』
「あの時、あんな事しなければ彼処は平和な世界になっていたのだろうか?
歯車が回っている以上、もうそれを知る術など無い訳なのだが。
だが、もしこれが他人に知られてしまったらどうしようかな?
そこまで気にしなくても・・・良くないか。
流石に国が1つ滅びました~をこうして軽く扱うのも悪いだろう。
正直、私にとってはそんなのただの暇つぶしに過ぎないのだが」
魔導歴と呼ばれた時代があったという事はこの日記の破片から分かったという。
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「・・・結局寝付いてしまったか」
ガナールは薄く微笑みながら、眠っていた。流石に限界だった様で、今ガナールの家に連れてきている。
いつもは威厳を常に放っていて、棘があった筈なのだが、今はとてもそれが嘘みたいで、見ていると温かい感じがしていて心地よい。常に無理していると思ったのだ。
アッシュらには申し訳無いが、眠ってしまった以上、家で寝かせた方が良いだろう。
特に問題も無く、家に着いた。
まずはとりあえず汚れた服を脱がせ、部屋着と思われるモノを着させた。普段顔を隠している為に素顔が見れないのだが、幸せそうに眠っているガナールの姿はかなり綺麗だった。・・・まあ、今のガナールの肉体は普段入っている所では無いのだが。
その後、服は洗濯させ、ガナールを寝床に連れて行き、布団を被せた。私だけという事もあるが、少々辛い。
「うわぁ~、美味しいそう~・・・」
寝言を言ってくるガナール。今、あの人はご馳走になっている事だろう。
まあ、それで構わないが。
気のせいか、少し眠くなってきた。私は少々申し訳無いが、万が一の事もある為にガナールの浴場を使って身体を洗った後、ガナールが使う寝床の近くにあるソファを利用し、予備の布団を自分に掛けて、気が付けば眠りについていた。
***********
続く