夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

犠牲となったモノ~World wanted

空間世界に事柄を並べる。そしてその事柄の内容に誤りが無いか確認をし、あった場合は修正する。そして、それが終了したら僕はこの空間世界を飾り、その後再び『世界』を創る事となる。

僕はそんな事を繰り返し行っていた。相方であるシルバーと共に。

過ちがあったら其処で直す。そして、二度とそうならない様努力するのが、この空間世界で行う事であった。生存の確認、守護者の様子等である。まあ、雑談話で花が咲く時があるのだが、基本的にはこの世界の安全の為に日々労働している、という訳である。因みにこの事は誰も知らされていない。何故なら、この空間世界はシルバーと僕以外入る事が出来ないからだ。空間を破って入る事も出来ない。特殊な世界である。シルバーと僕は週に1回か2回程そんな事を行う。ー基本的には、一人になる事の多い夜に行う場合が多い。また、誰にも見られない様、『眠りながら』話している事が多い。なので、外部の交渉を一切受け付けない。無理矢理起こすと現実世界に戻る。もう片方の方はそのまま滞在する事となるが、待つか戻るかは片方次第である。

結界の作りは頑丈であった為に、後遺症も多かった。僕の柱が壊れて以来はその後遺症は強くなったのだろう。・・・おそらくだが。シルバーには申し訳無かったのだが、あの状況で助かるにはこれしか無かった。

『・・・逃げろ、シルバー・・・』

結界を外した時、放った言葉がそれだ。誰にも聞こえない位小声で、そっと囁いた。外した後は全く覚えてない。いや、覚えてはいる。ただ、あの後は気絶したと思う。理由は分からない。痛みも何も感じなかった。

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ー此処は静かである。

先程の騒ぎ声も、歓喜に満ちたあの声も、あの悪魔の声も、何もかもが聞こえない。聞こえたのは、隣にいるヤツの寝息だけだ。

出ようとしたが、出れない。特殊な魔術に阻まれて(はばまれて)、どうしても外には出られないのだ。特に僕の入っているこの空間はとても強く、魔術を使おうとすると、周りの空気が邪魔をして、魔術として成り立たないモノが出来てしまう。

僕はこの時点で此処から出る事を諦めていた。どうやっても、彼処までの道のりは一本道である上に近くには大勢の敵がいる。ガナールやウォイス並の魔導師ではないと、この道は通れない。今の僕では、どうする事も出来ない。

 

『ー聞こ・・・?反応して・・な・・?』

 

そんな声がしたのは此処に入ってから何ヶ月か経った満月の夜だった。その声の主は直ぐに分かった。ー生きているのだ。

『良かっ・・・反・・・してくれたか・・・』

声が掠れているのは、既に僕の結界が切れているからであろうか。声の主はすこしホッとした様な声を発した後、説明してくれた。

『・・・、なら・・・聞いて・・・・・?スペード・・・殺され・・・・・・・。ガナールが・・・エメ・・・を・・て行っ・・、・オ・・メ・・・は無事・・・』

所々何かの音に阻まれていたり声が小さくなったりで、聞こえなかったが、それでも内容は把握出来たのだから、それで良しとしよう。

『それと・・・は長・・いられないんだ。・・・、満月の・・け、この・ハ・・・が出来・・・う。だか・、聞こ・・くても、・・反応は・・・つもりで・・から』

分かった。わざわざありがとうな。こちらも気をつけてくれ。

『・・・分カッタ』

少し沈黙が走った後、声の主は反応して、そして周りの雑音は途切れた。

「・・・・何笑っているのだ、気持ちわりぃな」

「フンッ、僕が笑って可笑しいのか?」

「あの時になって、真剣な顔をしていたお前も、今はこうして牢屋で笑っていられるとは。遂に壊れたか?」

「・・・半分は認めよう」

牢屋の番人にこの事を知らせたら、大変な事になるだろうから、言わないでおこう。こうして、月に一回『満月』の夜には、不思議な声が響いてくる様になった。番人は全く悟られてない様だが。

 

結局あの声は『あの日』が来るまでずっと続いていく事になった。主は多分、こうして少しでも僕に勇気付けようとしてくれていたのだろう。『此処から出られる方法を今探しているから』と言っていたのは、嘘ではないだろう。主は嘘をつく様な人ではない。つくのであれば・・・多分誰かを守る為であろう。

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君が微かに見える。そして掠れた声ではあるが、聞こえている。遠い遠い場所なのだが、『何か』を感じられる。それは温もりなのか、愛情なのか、友情なのか、全く分からないのだが。

もし、君が此処にいたらどうなるのだろうか。

僕はそう思いながら、眠りについていた。ウォイスが、全てを守る為であろうというのであれば、僕はいつ、帰ってこられるのであろうか?

 

そして、君は僕の存在を理解しているのだろうか?繋がりが切れてしまっても、僕の姿は、声は、思いは届いているのだろうか?・・・そして、君は理解出来るのだろうか。こうして捕まって隔離されているこの僕が、密かに泣いていたのを。僕が泣く、それはもしかしたらあの時以来なのかもしれない。・・・いや、過去は考えたく無かったのだ。過去は、僕の理性を押さえつけなくさせてしまうのだから。僕は抑えたのだ。それならば、未来を見れたらと、毎晩夢を見ようとした。夢を描く、これがこうした暗闇だらけの空間に、孤独の空間に唯一の光を灯せるのだから。

この空間の孤独は、いつも僕の心に傷を付けるのだから。

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何程いたのか分からなくなった時、久々に聞く音が聞こえた。靴が地面を鳴らす、あの音だ。どうやら、誰かが入ってきた様だ。

「ご苦労だな」

「・・・ライザじゃないか。どうかしたのだ?此処の牢屋には人柱の者しかいないぞ?」

「ーその人柱の方に用があってだな」

「・・・?」

番人のザルガが珍しく疑問の顔を浮かべた。人柱の方ーそれはおそらく僕の事を指しているのだろう。しかし、僕に用があるとは一体どういう事なのだろうか?疑問を浮かべたまま、僕はライザ(と呼ばれた女性)を睨み付けた。

「・・・一体何の様だ?人柱の名を上げろと言っても言わないし、エメラルドの在処も教えないぞ?」

「フン、囚えられて10年経っても尚、未だ口を開かないか」

「・・・・・敵である以上、教える訳にはいけないのでな」

「そうか・・・10年経ったが、ようやく役に立つ時が来た様だな」

「・・・それは一体どういう意味だ?」

ガチャン、と特殊な檻(?)が消えた。ーこの時点で僕は察した。

「!!グッ・・・離せ!!」

「折角出られたのに・・・何故拒む?」

「・・・離せと言っているだろう!!」

思い切り力を込め、手を振り回そうとした。しかし、その手を振る直前にザルガに押さえつけられた。・・・くそっ、動けない・・・。

「忘れたのか?お前は囚われているのだ。・・・主権は私達の方にあるのだ」

そう言うと、ライザは僕の首元を手を添え、僕の目を見てきた。ー何故、目を見るのだ?何もしていない筈だ。ライザは笑うと、僕の腹元を思い切り殴ってきた。

「・・・グッ・・・!!キ・・・貴様、何を・・・」

息が出来なくなり、少しずつ視界がぼやけていく。

 

ー嫌だ。殺めたくナイ。

 

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私の理性は消えた。もう、縛られなくても、ヨイ。

自由ダヨ、もうあんな辛い事、シナクテ済ムノダカラ

そうやって私は嗤う。

 

「・・・!!」

どうやっても無駄である。私は逃さず、槍を放つ。グシャッと心臓を破る音が聞こえた。あーあ、死んじゃったよ。弱い弱い。もう少し、手応えのあるヤツと戦いたい・・・。

「お前は何者だ!!」

新たな挑戦者が目の前に現れた。灰色のハリネズミで、その瞳がアイツに似ているアイツの息子さんか・・・。

面白い、少しは楽しませろ。

 

僕の人間性は破壊されていた。欺こうとも、自由だ。

だが、何か忘れている様な気がするのだ。

一体、何を忘れたのか、もう覚えていないし、気にも留めていなかった。

笑わせる。

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『矛盾しているでしょ』

何故かその声だけは強く覚えていた。誰だかは忘れたが。

別に何が矛盾をしているのだ。

『・・・何故、貴方は人を殺生するの?』

それが、私の使命だ。それに・・・楽しいのだ。

『楽しい?じゃあ、貴方は自分の欲だけの為に、無実の人間を殺すの?』

無実?何処が無実だ?全く関係の無い話だろう。

『ー関係無い?じゃあ、どうして?』

この世界の異変、無実な人間などいない。

『じゃあ、異変を『続けさせようとさせる』人達も、殺していいの?』

それはいけないだろう。幾らなんでもそれは酷いだろう。

『矛盾しているよ。貴方は無実な人間を殺すのに、関係のある人間は殺さないんだ。ーじゃあ、地獄行きは確定だよね』

それが何故地獄行きになるのだ。

『関係無い人を無理矢理関係付けさせようとすると、絶対関係無い人、怒っていずれ貴方を苦しめる元になるよ?』

・・・質問に答えろ。

『ーじゃあ、『貴方のタイセツな人』、殺しちゃうの?』

大切な・・・・人だと?殺す訳がー

『じゃあ何で、あの人を殺そうとしたの?』

あの人といると邪魔だからだ!!

『邪魔?『大切な人』なのに、邪魔なんて、貴方も馬鹿だね』

煩い・・・黙れ!!

『貴方はーいずれ、裏切られる側に立つと思うよ。まあ、せいぜい後悔するといいさ。『このままでいたいのであれば』』

声の主はそう言うと笑う。・・・頭が痛い。主のせいだ、主があんな事言うから・・・。

『ーその言い方、言い逃れしているよね?』

・・・!!

『図星、かあ。・・・あーあ、もう時間だ』

時間?何のだ?

『君が選ぶ道、どちらに行くかの分かれ道を決める時間の事だよ―』

 

主は笑って消えていった。私は迷いを生じてしまっていた。

 

「貴方の言う通りにすれば、僕は貴方の様な方になる事が出来るのか?」

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静かなる空間。私は一体何者だか分からなくなってきた空間に、

声ガ、映像が、映り込む。

 

僕を信じて欲しいのだ。そして、助けてくれ・・・。

僕の力だけでは、僕は目を覚ませない。

君の声が遠くなっていく。僕を一人にしないでくれ・・・・・・

でも、嘘をついて欲しくなかった。君が嘘をつくのは、似合わないから。

 

私の記憶を、消去スル。

私の信号を、消去する。

そして、貴方を排除スル、削除する。

私ノ居場所ヲ無クサナイデ、私ヲ殺サナイデ

 

『まだ終わりタクナイー』

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『いい?これ・・、こうし・・。』

君の話を信じたかった。

僕は分かっていた。お前が『悲しんで』いる事に。

だから、僕が救けたかった。

かつて君が、僕が絶望に追い詰められた時に助けたのと同じ様に。

そしてーあの時の『借り』を返す為に。

君と共に、此処を守りたい。一緒にいたいのだ。

最期の時を君と過ごせたらと素直にそう言う。

 

あの時、僕は知っていた。君は何度も独断で此処に来て、助けようとした事を。しかし、それはウォイスらが「危ない」と言って、禁じられていたからであろう?だから再開したとき、「ごめんなさい」と言っていたのだろう?その声と笑顔と泣き顔はおそらくは悟っていたのだろうー・・・。

 

見えている。聞こえている。これがいかに素晴らしい。君と共に過ごせる日々があったら、と。

僕が欲しかったのは存在意義だったのだろう。僕は牢獄の時を何年も過ごした。存在があるが、全く無く、孤独であった。

だから羨ましかったのだ。君の様に常に人が絶えず、笑顔で笑っているその姿がー。

 

あの時は名前すらも無かったのも同然であった。名前が欲しかった。其れだけでも十分嬉しかったノニ。

でも、もうそれは二度と起こらない事だろう。こうして自由になったのだから。牢獄の日々に終止符が打たれたのだ。

そして、この生活をして、初めて気がついた。

 

『貴方は僕が羨むモノを沢山持っていた』という事

それはとても小さな嫉妬でもあった

だから、欲しかったのだろう。

接触もこの為だったのかもしれない。

反対の様な存在だったから、助けられると思ったのだ

でも、結果は無理だった。

貴方は何も出来なかった。

出来なかった事には憎しみや怒りで満ち溢れる事は無かった。

貴方の苦労を、十分に理解できていたから。

だから、今度は僕が助けるのだ。

遅れた分、しっかり返さなければ。

 

僕は強い決意と共に、貴方を守ると誓った。

『貴方を孤独で、悲しみに満たさせる訳にはいかない』と。

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終わり

ザルガは赤虎様、ライザは黒羽様よりお借りしました。

 

とある曲をベースに1時間半程度で書きました。ノリで書いたら、5000文字行ったから驚いたという。最初は日記編にしようかと思いましたが、明らかに長くなるなと悟った為にこうなりました。後悔はしてないんだ。いずれやろうかと思っていたから。

久々にあの人目線で書けたので満足してます。 では。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。