夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

不明記録~Una spirale di negativo

英雄歴100年

「ふむ・・・此処はこうすれば、こうなるのか」

今日は珍しく私の主が勉強をしている。いや、最初はそう思ったが、よくよく見ればこれは魔術の研究をしている様だ。周りにはそのメモらしきモノが沢山落ちていたり、貼られていたり、置いていたりしていた。一枚取って読むと『3・2・5後、4・3・3・・・』等と書かれている。その謎めいた数字が一体何かは大体予想は出来る。ただ、その後に意味分からない文字が書かれていた。途中まではアファレイドの文字だが、途中から意味不明の文字に変わる。・・・術を唱える為にわざわざ新しい文字を考えたのだろうか。

「ウォイス様、ココアご用意しました」

するとウォイス様は研究をしながら、冷淡に言ってきた。横から見て気がついたが、片眼鏡をしている。彼、眼鏡無くても大丈夫だった筈だったけれどな・・・。

「ガナールか、ありがとな。テーブルの横に置いてくれないか」

「了解しました。・・・何をやっているのです?」

「悪魔の弱点を突く属性、聖属性の魔術の研究だ。良かったら簡単なのを見ると良い」

「棚の右上のファイルに入っている」と言われたので、私はそのファイルを取り出し、メモを見た。少し頭を捻れば、唱える事の出来る内容が書かれていた。ただし、この時点で脱落する人が4割程いると思うくらい難しい事が書かれていた。『契約の解除の仕方』や『闇を光にさせる魔術』等が書かれていた。・・・もしかして、彼はこの術全て覚えているのだろうか・・・?

「えーと、これもしかしてまだ序の口ですか?」

「ああ、これくらいなら多分中等部卒業した者は覚えられる。まあ、俺からすればそんなのまだまだだがな」

「で、今は何をお作りでいるのですか?ウォイス様の事ですから、悪魔を逆に乗っ取る、なんて事はー・・・」

冗談混じりで言ったが、今現在ウォイス様が書かれているメモ欄の上には『悪魔を天使にして乗っ取る魔術』と書かれていた。そこから何行もある術の唱え方(演唱方法)と、アファレイド文字でも相当極めないと読めない文字などがズラリ。何処から何処まで読むのかすら分かりません。しかもこれ全文読むのならおそらく10分掛かると思われます。

「まあ、これはそこまで難しい事では無い。契約を逆に利用するのだから、その契約魔術を逆にして読めば良い部分が殆どだ」

「ーあんな魔術を、逆さまに読む事自体難しいと思うのですが。スプリフォでも、そういうのは殆どしませんし・・・。もしかして、紙に書かれている文字って全て術式ですか?」

「ああ。書物だけだと限りがある。ー永久に封印させる魔術とか、そういうのは禁忌だろうしな。生き返らせる魔術も考えているがな」

生き返らせる魔術、誰もが一回は体験するであろう出来事。この国でも、生き返らせるのはタブーになっている上、どうやったらそうなるのかすら分からない。

「ーだが、お前もある意味生き返らせる魔術に掛かっている。以前、ガラルと会って分かっただろう?死者の魂を一部複製し、あの人の魂も複製、そして俺が作った魂で、お前は生まれた。ーそれはある意味、生き返らせている上、生命体としても言えるのでは無いのか?」

「・・・・・・そうですが、ルナですら生き返らせるのは無理なのですよ?科学で解明出来ないのであれば、魔術で解明は不可能では無いのです?更にウォイス様は霊に会話を試みたり、最悪操る事も出来ますが、普通の人ならば、霊を見る事ですら困難だと思うのですが」

「そうだな、生き返らせる能力を持つのは俺しかいないのかもしれない。だが、俺の使う魔術は結局【ある意味】ではだからな、どうにかしたいものだ」

そんな事を言うのは、私からすれば凄すぎる人が言う台詞である。いや、実際凄い事をしたのだから、私がそう思うのは筋違いだろう。

「・・・・・・やはり、貴方は何処か歪んでしまったのですね」

私が素直にそう言うと、ウォイスはココアを一口飲んだ後、問い詰めてきた。

「それはどういう意味だ?」

「シルフィにも話を聞いたのですが、どうも聞いていると何処か変わったなと。少なからずシルフィは『きっと色々あったから歪んでしまったのかしら』を言ってましたよ」

「確かに、俺は何処か変わってしまったかもな。実際、自覚はあるしな、俺がお前を作りたいと思った時点では少なからず、俺は感づいていた」

そう言うと、不敵腐れた笑みを浮かべ、彼は続けた。

「多分、長年生きていれば性格も変わるのだろうな。まあ、多分今の俺はおそらくガラルが死んでからこうなったのだろうな。些細な変化が重なって、長い時間の間で豹変するのだろう、奴と同じ様に」

「奴というのは、貴方がお考えになさっているのは『悪霊』ですか?」

「ああ、その悪霊は何度も対峙しているが退治しきってない。俺並に魔力ある上、実力がある。ーだが、もうすぐ切れる。復活が成した時、それは闇の再来を意味するが、それは同時に闇を完全に抑える事が出来るかもしれないのだ。少しの確率があるのであれば、俺はそれに賭ける気だ。ーそこにある程度犠牲を出しても、な」

「ウォイス様・・・、私を殺しても、それを成そうと言うのです?」

「残酷な事を言ってしまうが、そうなる。最悪全員死んで、平和が訪れればそれで良いと思っている。正直、俺は生きてはならない気がしてならない。その『悪霊』を倒せるというのであれば、死ぬつもりだ。ー不老不死になってたとしても、一緒に死ぬ様な気がするのだ」

おそらく相当の覚悟がいるのだろう。この話をし始めたウォイス様は、自分の拳を握り締めていた。見た感じ、相当力が籠っている。おそらく私が生まれるずっと前から、その因縁関係は切れてなかったのであろう。

「ウォイス様、もし私が犠牲になって、貴方が生き残ったとしたら・・・どうします?」

「一緒に死にたい」

「素直な意見ですね」

「ああ。だが、多分無理だ」

「どうしてです?」

少しだけ苦い顔を浮かべた後、こう言った。『俺には使命があるから』と。

それは何の使命なのですか、と尋ねてみたかった。でも、尋ねてはいけない。そんな気がしたのだ。多分この時に質問すれば、教えてくれる・・・だが・・・・・。

「ウォイス様、その使命というのは一体何ですか・・・?そもそも、貴方は人間でありながら、神様に近いと聞いております」

「・・・そうか、そうだな。そろそろ教えておいた方が良いとは思っていたが、自ら質問してきたか」

「教えてください」

「ーそう、だな。ただし条件がある。この内容を言わないでくれ。これは公の場では伏せてる。それに・・・俺はその過去話をするのは嫌いだ。だから、一回しか言わない。いいな?」

真剣な眼差しを向けていた。殺気ではないが威圧感が半端なく流れている。私は小声で魔術を唱えた。周りの音の干渉を一切受け付けない魔術を。その魔術をウォイス様は聞いていた。ウォイス様は穏やかな顔をしていた。

「分かった。なら話すぞ・・・そうだな、何処いらから言うべきだ?」

「とりあえず、悪霊の正体が気になります」

「ならば、時代は魔導歴が使われていた頃になるのか」

魔導歴・・・歴史の書物で書かれていた時代を判断するモノの一つ。確か、アファレイドでは『レヴィアーデンが~』と言っていた。

「・・・もしかして、レヴィアーデンに関係しているのです?」

「ああ、何だって其処から巡り巡ってこうなっているのだからな。・・・そうだな、まずレヴィアーデンについて教えなければならないか」

そう言うと、紙を用意し適当に図を書き始めた。

「レヴィアーデンは魔術の創生に関わった国だ。そして、軍勢はアファレイドよりも強力だった。隣国であるラトルシェーンとは仲が良く、ラトルシェーンの特徴である部分も持っていた。レヴィアーデンは北に位置していた・・・地図は・・・・無いから後で教えるが。とりあえず、この辺の冬が少々暑く感じる位、寒かった」

「・・・何故、レヴィアーデンをよく知っているのです?」

「俺の両親は其処で魔術の創生に関わった人物だ。父上は当時の王とよく話相手になった。母上は何処の貴族から愛されていた。二人とも貴族だった。だから俺は生まれた時からかなり上の立場でいられた。実際幸せだと思っていたーあの事件が起こるまではな」

「あの事件って一体・・・」

「当時アルベアと呼ばれた人物が王だったが、その王が暗殺されたのだ。王妃もな。最初は皆何故かと全員疑心暗鬼になっていたがな、犯人が誰かは、父と俺は誰が犯人かは分かっていた。だが、言う訳にはいかなかった」

「その事件の犯人は一体何なのです?」

「ー俺の母親、リフィア・アイラスだ。だが、それを殺す訳にはいかなかった。王妃が子供を埋めない身体になっていたのを理由に、俺の父上が後継者だと王はそう告げてな。実際後継をする紙があったのだから、非を唱える者はいなかった。戦争も抑えられた。もし、其処で犯人が一体何者か教えれば、信用ならなくなり、それこそ戦争とかをして、その国を滅ぼす事となる。なので俺達は母上が犯人である事は伏せて、俺達は王位を引き継いだ」

「つまり、ウォイス様は王子になったという訳ですか?」

「ああ。俺もその時は幼かったので、知るのは随分後になったがな。ただ父上は懸命だった。戦争を起こさないその為に、父上は犠牲になったのかもしれない、今になって思うと。・・・ガナール、これが見えるか?」

私はそれを見た。動揺を隠せなかった。

「・・・ウォイス様、今も尚・・・??」

「ああ、だが基本誰にも見せない様にしているがな。見せたら俺の身分がバレてしまう。俺の身分は基本隠しながら生活しているしな」

確かに、あれが彼だと知られたら、それは同時に不老不死である事を教える事となる。ウォイス様でなくとも、そんな事を言う訳が無い。実際私がそんな位置に立ったら、そんな事をするであろう。

「ーまあ、それで俺は国を動かす側に立った訳だが・・・まあ、それも長くは続かなかったがな。今度は父上と俺、そして最愛の妹を狙いな・・・。当然、俺達は抗えた。しかし、勢力の差があってな。母上は暗殺のグループに入っていた上、奇襲攻撃を仕掛けてきた。なので、俺達は防ぎようが無かった。実際それで国を滅んだ」

「どうして、そんな事をしたのですか・・・?」

「彼女は俺達を殺して、自由自在に国を操りたかった。また、人殺しが大好きであった。だから、無実な人物を殺めて笑顔でいられた」

・・・?ちょっと待って、それって何処か似ている点が・・・。思考を必死に辿らせていた。

「・・・・・・・・ウォイス様、私分かってしまった気がします。もしかして、その悪霊というのは・・・ウォイス様の母、リフィアなのですか?」

「ー推測に過ぎないがな。では何故、悪霊だと言ったと思うか?」

「それは・・・えっと、そう言った方が伝わりやすかった・・・は単純すぎるので・・・霊、なんですよね。えっと、えっと・・・・」

「流石に駄目だったか。あの後父上と妹は母上に殺された。俺は何とか生きていけたがな。あの後再び殺しに来た。俺を狙ってな・・・だが、その時色々あって、逆に追い詰められたんだ、母上は。・・・でも、逃げられた」

「え・・・?」

「肉体を切り捨て、彼女は逃げた。何故か彼女も不老不死になっていたのだ、そして魂の状態で永久に彷徨う事になった。俺も不老不死になり、肉体を持ってはいたが、俺も母上と同様、彷徨った」

「・・・待ってください、色々訳が分からないのですが。まず何故、不老不死になったかを教えてください」

「・・・。」

ウォイス様は口を閉ざしてしまった。おそらくは話したくないのだろう。そして目を閉じた。

「あの、ウォイス様・・・??」

『ウォイスは語りたくない様だ』

その言葉を聞いて、ハッとするとウォイス様はいなかった。声の主を辿ってみた。その声の主というのが彼なのだが・・・。

「ー自分を他人事の様に言うのですね、貴方は・・・以前お会いした事、ありました?そう、あの時は自己紹介してなかったですが」

「見抜かれていたのか」

「ええ、長い事従ってきた私を舐めて貰っては困ります」

「・・・そうか、なら隠す必要は無いか」

隠す必要が無い? 彼は何を言っているのだろうか。と思っている内に、彼は自己紹介をしてきた。

「初めまして、なのかは知らないが。俺はリデァ。お前が知るウォイスの、もう一つのウォイス・・・だ」

「裏世界のウォイス様・・・という訳には見えませんね。二重人格、と」

「そういう事だ。今、ウォイスは眠っている。多分、これ以上聞き出そうとすれば記憶を消してくるだろう」

「なら、貴方にお聞かせします。ーウォイス様の不老不死は一体何処からなのです?」

リデァはそれを聞くと、少しだけ眉を動かした後、先程ウォイスが座っていた椅子に座った。

「ー多分、書物の中に・・・あった」

リデァが変な事を言った後、私の元に見せてきた。『不老不死の薬の解毒の仕方』と書かれている。

「・・・これがどうかしたのです?」

「ウォイスの書物、全て見れば分かるが、此処には不老不死の薬の製造方法は無い。あと、すぐ其処に解毒する薬がある。これ、意味分かるか?」

不老不死の薬は無くて、解毒するのは目の前にある?ーこれを意味する事、それは私でも直ぐに分かった。

「ー自殺志願者?」

「それもあるかもしれないが、先程の話を合わせて考えてみろ」

先程の話というと、ウォイスが言った『あの事件』についてだろうか。

「・・・ああ、成程。母上を殺す手段ですね。不老不死を無くした所で、母上を殺す・・・と。しかし、それは利用されたら逆効果、ですよね?」

「ああ、お前物分り良い方だな。お前の名前、聞いてなかったな。ウォイスからよく話をしてくるが、分からなくてな」

「ああ・・・私は、ガナールと申します。ウォイス様に忠誠を誓う従者です」

「ガナールか・・・そうだな、ガナール。お前はどうやって不老不死になった?お前の気配は普通の人間とは違うが」

「そうですね、何と言えば良いのでしょうか。でも詳しくは」

「そうか・・・。さて、そろそろ夜だ。ウォイスも眠ってしまったから、今日は俺が一日中行動出来るって訳か」

「ーその、それはよした方が良いですよ。紅月が貴方を狙っているのですよ?第一貴方は・・・」

「行動は見えていたんだ。実際ウォイスがそれを説明してくれているし、変わって行動を起こしていたりしていたからな」

リデァ曰く何があったかは完全知っている、らしい。そしてリデァは「今日はもう遅いし、狙われるかもしれない」と言って、今日はウォイスの家で泊まる事になった。

「服はウォイスのを使ってくれ。後でウォイスに言っておくから安心しろ」

「あ、はい・・・。ーリデァさんはウォイス様の事、信頼しているのですね」

「そうでないと困るがな、何万年もの付き合いだ」

リデァはそう言うと笑った。どうやら、リデァの方が感情豊かであるらしく、ウォイスの浮かべる笑みとはまた違った笑みを浮かべていた。

 

ウォイス様の部屋は非常に綺麗だった。あの書物の塊以外、いつでも客人呼べる様な状態になっていた。おそらく書物の塊があった部屋も含め、隅々まで掃除が行き届いているのだろう。

あと、もう一つ言うのであれば、彼はどうも流行に乗るタイプらしい。最近有名になっている掃除グッズを所有していた。私もそういう傾向はあるが、ウォイス様程ではない。おそらく二年後に来たら、変わっているだろう。それくらいお金に余裕がある、という事なのだろうか。実際紅茶も質の良いモノが多かった。こんな様子女性が見たら殆どの人が+評価になるであろう。

とりあえず、ウォイス様の家に泊まった感想を言うと、綺麗すぎて逆に本当に泊まって良いのかと思った。そんな事を頭の中の日記に書き入れた後は、私は眠りについた。

 

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続く。

負の螺旋とリデァを出したかったのです。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。