幻想の赤月 -12章 かつての英雄ら
ウォイス アファレイド王宮
アファレイドはいつもと変わらず、広場では会話して、買い物をしている声が響き渡っていた。俺達は、ルナの所へ、行こうとした。
が、此処で問題があった。
何でも、昨日の夜にあの人が引きこもっていた図書館で騒ぎがあったとか何とか。詳しい事は分からないが、夜に剣と剣がぶつかり合う音が聞こえ、朝になると、幾つかの書物が落ちていたらしい。因みに、本のページが破れた等は無く、直接的な被害は無い様である。何でもボサボサの子とフードを被っていると思われる子が影に写っていたらしいが、詳しい事は全く知らないとされているそうだ。
そのせいで、王宮に訪問しようとすると兵士が止められた。まあ、俺が此処に仕えていたという事実は周囲には既にご承知だったので、そのコネで容易く入れたが。宮廷に仕えた俺を舐めては困る。
「うわ~、大きい・・・!!」
「此処か、ルナのいる場所は・・・、いや此処とは少々離れているがさほど問題無いか」
訪れたのは多分天地異変の時以来だろうか。此処はあの『紅月の始罪』なんて呼ばれている事件を起こした場所なのだ、此処は非常に犯罪等に敏感になっているとは聞くが、昨日の事件の影響もあり、俺ですら入室検査をやらされた。勿論、傍らにいるシャドウ・ルファーもだ。シャドウは、英雄の友人として人が集まっていたが、俺も俺で『永遠の魔導師』とかで人が集まった。やはり、洗礼は受けるのだな・・・。ずっとこうなるのも困るので、俺は魔術で手品をやって終わりにしたが。
俺は今、王室にいる。ホテルの時会ったディアネスに会うべく、此処にやってきた。此処には昔の友人が沢山おり、シャドウとルファーは客室で待って貰っている。ディアネスも最近は忙しく、面会の後はあの事件の調査に向かうとの事だ。まあ、俺もあの件についていずれ話さなければとは思ってはいたので、まだ良かったのだろうか。
「ーで、ウォイス。あの事件について、お話願いたいのだが・・・、まず王子が結界に飲まれたという情報は本当なのか?」
「ああ、本当だ。二重空間大結界を貼った際、魔力切れになったらしくてな。結果結界に飲まれた・・・ただ、幾つか分かった点があってな」
「その、幾つか分かった点とは?」
古き友人が興味本位で聞いてきた。まあ、友人らには話すべきだろう。
「これは極秘だがな。まず、結界についてだが・・・結界の柱はシャドウ・シルバーの魂に眠っている。今客室で待つシャドウが、この平和を支えていると言っても過言では無いだろう。シャドウとシルバーについては・・・言わなくても分かるだろう?」
シャドウとシルバー。『あの英雄と称えられたソニックの親友で、世界を救った英雄の内の2人である』という事はもう周囲には知れ渡っている。そうでも無かったら、行く道中に人が群がる事はしない筈だ。
「ーその柱はどうやったら崩れるのだ?」
「主に崩れる条件は3つ。
1つ目は『その人本人が死亡した場合』だ。転身の術等で魂を移動して、移動先の肉体の状態で暗殺されたりした場合も入る。つまり、二人には死ぬという選択肢は無いと言って良い。実際シルバーに工夫を凝らしたしな。
2つ目は『その人に宿る魔力が無くなった場合』。これも魂を移動しても有効だ。ー魔力が完全に切れれば、柱を支える力が消えて、崩れ落ちてしまう。ただ、結界分の魔力も彼らには入る訳なのだから、まだ・・・な。ただ、3つの条件の中では一番難しいであろう。
3つ目は『柱自らが崩す魔術を掛ける場合』。この術式はシャドウ・シルバーしか知らない。これは意図的でない限り、ありえないだろう。操ってから崩すのは、おそらく無理だろう。
先程言った内、どれか1つでも当てはまれば、その人の結界は崩れる」
あくまでもその人の結界が崩れるだけで、相方は変わらない。だが、おそらく負担が普段の二倍になるので、相方の負担は大きくなるだろう。
「とまあ、此処までは良い。問題はもう一つだ。これは俺も最近知ったが、どうやら王子は魔術に細工を施した様だ」
「細工・・・ですか?あの王子が?」
「おそらくは俺の考えを否定した結果なのだろう。紅月をーラヌメットを封印した。結界の中でな」
「それは一体どういう事です?そもそも紅月は結界に飲まれたのでは・・・?」
「ああ、俺もつい先程まではそう考えていた。だが、どうも結界と同時に施した様でな・・・、その封印もシャドウとシルバーが持っている。本人は知ってないがな。内容も詳しい事が分かってきてはいるが、詳しくはな・・・」
「ー少なくともこれでしばらくはあの悲劇も起こらずに済む、と?」
「そうだな。だがこれは限りがある。今こうしている間にも紅月に忠誠を誓った人達が、封印した結界の柱、俺は『所有者』と呼んでいるが・・・所有者であるシャドウ・シルバーを探している筈だ。おそらく誰かは掴めてない」
俺がそう言うと、意図を読めたのか、そのまま「帰ってくれ」と言ってきた。
「では、失礼します。・・・何度も言うが、極秘事項だ。誰にも言うなよ」
有無言わず、俺は其処から立ち去った。
細工されていた事に気づいたのは、封印された直後。そして、その細工内容を知ったのが、ここ最近の出来事である。ーこんなに綺麗に作られたものだから、俺はそれを守ろうと思った。それが、彼の願いなのだろう。紅月を殺さず封印したのは、紅月が、本来の彼がいたからなのだろう?
毒に犯される前に、俺があの人を封じられたらもしかしたら笑顔でいられたのかもしれない。でも遅かった。あの時殺しとけば良かった。何度も何度もそう思ってきていた。ソニックが亡くなった時も、シルバーが涙を流し「出てってよ」と言った時も、シャドウが「変わってしまった」と溜息をついた時も・・・。
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シルバー ???
目を閉じて、声を聞く。俺にしか聞けない声を聞いて、歩く。
『ーママ、買ってよ!!』
『もう、あの子ったら・・・もう一週間駄々こねてるわ・・・』
欲しいものをおねだりして泣いている女の子と、そのお母さんの心の声を聞いてた。
(そうか、駄々こねている時ってこんな感じなんだ)
俺は、そう言ってメモ帳を取り出し、その光景をペンで書く。そろそろ最後のページに行きそうだ。そろそろ新しいのを買うべきだろうか。帰る時にメモ帳を買っていこう。これも多分一ヶ月しない内に埋まるだろうけれど。新発見が多いから、楽しい。もっと知りたい、そうして俺の意欲はますます増すのだ。
最も、その意欲もどこまで続くか、分からないが。
『ねえねえ、遊びたいよ』
風に紛れて、不意にそんな声が聞こえた。「ーやれやれ、またあの子か。」と思いつつ、少し笑って返事した。
「もう散々遊んだだろ?」
『あんなのが遊んだと言えるの?』
「少なくとも今は止めてくれないか?こういう時間を邪魔されるのは、そこまで好きじゃないしさ。ーそれに、カオスエメラルドも無事なんだし。ウォイスが作ったこの入れ物に入れとけば、気配を察知されなくて、良いんじゃないのか?」
懐からその入れ物に入っているカオスエメラルドを見る。白く光り輝くエメラルドは、光が遮断されていた。そして、普段なら感じる筈の混沌が、感じられないのだ。多分この状態でカオスコントロールは出来ないであろう。
『カオスエメラルドが無事ならばそれで良いんだ?』
「というより、俺の場合最悪エメラルドを投げて、俺の命を優先するべきだろ。・・・この平和、誰のおかげだと思っているんだよ?」
『ありゃりゃ、こりゃお手上げ。そうだね、エメラルドは第二だよね。第一は、貴方の魂に眠る『アレ』だもんね』
「『アレ』、どうやって封じたんだ?構成知りたいのだが・・・無理だな、彼結界に飲まれちゃったし。」
『何か、シルバー結界以降から性格変わった?』
「そうかな?自覚はそこまでしてないけど・・・。気のせいじゃないか?」
『ソニックみたいになりたいからこうなっているとか?』
「そうかもな。んーじゃあ、そろそろ帰ろうか」
『そうだね。・・・あれ、彼処にいるのは誰?』
その風に紛れた声が『ほら奥にいるじゃん』と言って、その奥を眺めた。その先には変な化物が人を傷付けていた。
「ー!!助けるぞ!!」
『でも、いいの?!もし、戦ったら其処にいるって・・・』
「極力魔力は使わない、俺の能力なら魔力は使わないし、絶対漏れない・・・サイコキネシスを使うか」
俺はそう言って、右足に思い切り力を込め、地を蹴った。不思議な事にその力で奥まで行けた。ー何があったんだろう?
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シャドウ アファレイド王宮~客室
「ウォイス様がお越しになるまで此処でお待ちください」
「わぁ~♪凄い凄い!!見て、綺麗だよ!!」
ルファーはそう言うと、ソファーをつんつんつついた。
「おい、暴れるな。此処は王宮だぞ?」
「あ・・・」
僕の声で、彼女はシュン・・・としてソファーに腰を下ろした。
「で、ルナ様方はどちらに行ったの?」
「ああ、多分彼処ー研究所にいるだろう。だが、何故あんな事をしたんだ?」
「最悪操られていたりして・・・」
「まあ、そうなれば戦闘に入るな。お前は確か・・・」
「支援タイプなので、攻撃は2人に任せるね」
ドンッ
何かがぶつかる様な音が微かにした。だが、窓の景色から見てそれはかなり遠くに離れているからで、実際はもっと大きな音がしたのだろう。先には何やら巨人の様な黒い物体が見えた。あの時の悪霊がそのまんま大きくなっていた様にも見える。何やら誰かと戦っているが・・・この距離からでは誰と戦っているか分からない。
「ー何だ、アレは・・・」
「黒い物体・・・これって闇の住民?」
「その割にはかなり大きすぎる、もしこれが暴れまわったらマズイぞ・・・」
その周りは草原だった為、まだ良かったかもしれない。これが市街地だったら、何万人の負傷者が現れるであろう。移動したのか、其処で召喚されたかは分からない。
「ウォイス呼ぶべきだろうか・・・早くしろ・・・早くしないとマズイぞ・・・」
下手に動くと王宮の者が不信に思われる。動くに動けない様な状態に僕はイラついていた。そう思っているとドアが開いた。グレーの髪をした彼は、ドアを開けたと同時に動揺していた。
「ー?それは一体・・・」
「ウォイス、待っていたぞ。ーとりあえず、急ぐ。良いな?」
「・・・これは避難命令だしといた方が良い、シャドウ、ルファーお前らは現場に向かえ、俺は王宮に知らせ、避難命令を出しに行く。終わり次第、其処に行く」
「分かった。ルファー掴まっていろ、カオス・・・」「待て、直ぐに送らせる。場所はー彼処か。ならその近くに送る。ムビメントアルモメント!!」
「あ、おいー」
ウォイスが何かを唱えると、風景がお城から街中になった。そして、その直後に市民の悲鳴が耳が痛くなる位にあがっていた。
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「喰らえ!!」
「グアアアアアアアア!!」
自分が投げた槍は、相手の手に当たった。だが、そこまで手応えを感じなかった。魔術を使用せずに攻撃するのは、とてもではないが、無理だ。キリがないのだ。
(・・・仕方が無いか)
溜息を一つ出した後、目を閉じて、とあるモノを思い浮かべた。
(ー我の声を聞こえる者、全てを目覚めろ・・・覚醒するのだー)
自分はそのとあるモノを投げた。ー光の様な速さでモノは奴の足を突き破る。そして、そのモノは粉々になって、もうモノとして機能出来なかった。蒼い目をした自分は、仕方が無いと言って、魔術を唱え始めるのであった。
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続く。