夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 -13章 思考のすれ違い

ウォイスがシャドウとルファーを現場に送らせようとしている頃、シルバーは黒い化物と応戦していた。彼はとても鋭い木の枝を覚醒させ、身体を貫かす程の力を得た木の枝は彼の本来の力、サイコキネシスで黒い化物の足首を狙い投げていた。

「・・・少しはこれで落ち着けよ・・・・・・ふう」

此処は広い広場。アファレイドの首都である所に近く、街が一望出来る場所に位置しており、観光としても有名である。近くに誰もが訪れない色鮮やかな草原があるが・・・関係無いので省略する。この日は平日で仕事客が多かった為に、この広場に訪れる者は少なかった。それがせめての救いだったのかもしれない。先程シルバーが耳にした「買いたい」と連呼していた子供と、その母親は既に避難しており、他の人も同様である。なので、彼処にいるのはシルバーと黒い化物のみと考えて良いだろう。

どう抗おうが、あの能力を使っている間は必ず目が蒼くなる。敵はそれを認識しているのだろう。「蒼くなったら注意しろ」と脳裏でそう命じているのだろう。彼はそれを承知の上で、攻撃している。

「ーモノでやるのは流石に無理があるか。ならば・・・」

「あまりやりたくなかったけど」と前置きすると、彼は呪文を唱え始める。すると、広場に雲が集まり始め、やがて雨が降り始めた。それを見届けた後、彼は周りを見た。誰もいないと確認した後、彼は手を捧げた。

「ダミションエンジェルエンドデーモン!!」

そう言うと、地に手を翳す(かざす)。すると白と黒の波の様なモノが現れ、其処から黒い化物に襲いかかる。そして、襲いかかる道中で土は削り取られ、地面が吹き出して行った。

この魔術は闇魔術と光魔術を混合したモノである。厳密に言えば、これは邪悪なモノと聖なるモノを合わせ持った属性である。これを喰らった者は闇か光に飲まれ、その底で傷を負う。またどういう原理かは説明出来ないが、一定時間の間、辺の空間に歪みが生じ、時空間に関する魔術は暴走するという効果がある。

「ギャアアア!!」

黒い物体は闇には無効ではあるが、光や聖等に関しては弱点である。あの事件で闇の住民の弱点は何かしら掴めていた為に、「どれを喰らえば倒れるか」を判断する事は出来た。そして、瞬間移動で『彼処』に行ってしまわぬ様にするにはどうすれば良いか。それを総合して出した答えがこれであったという訳だ。

時空を歪められている間、歪められた空間にいる人は、その歪められた範囲しか留まる事が出来ない。それは術者であるシルバーも同様の効果を持つ。つまりー

(・・・時間、どれだけ稼げるだろうか?エメラルドがあるから、それでカオスコントロールは・・・・・・無理だな、1個でこの空間を抜けられるとは思え難い。となれば、1対1になるのか。この空間が解けるまでは)

この空間が解けるのは、今から30分後だ。その制限時間を早めたり、遅めたりするのは不可能である。

「・・・という訳で、もう少し戦わせて貰うぞ!!」

そう言うと、彼は黒い化物を切り崩しに掛かるのだった。

*******************

シャドウ ???

「!!」「きゃっ!!」

視界が普通の状態に戻った時、僕達は少しだけ浮いていたらしく、地に落ちた。僕は多少は慣れていたのでそこまで驚く事では無かったが、ルファーは初めてなのか、尻餅をついていた。・・・彼奴も無理矢理事を進むようとするのだな。

「・・・しかし」

目の前の景色が明らかに可笑しい。まず、空間が歪んでいる。暑すぎて周りの景色がユラユラと揺らめくのはまだ理解出来るが、目の前の景色はその範疇を超えていた。揺らめすぎだ。その揺らめすぎている部分の輪郭だけを取れば丸の形の様になるとも見れる。そして、もう一つ。普通の所と揺らめいている部分との景色の差が半端では無かった。揺らめく部分だけ廃墟の様に、ボロボロの建物しか無かった。

「とりあえず、これは超常現象である事には違いないよね・・・?」

「ああ、これは僕も初めて見た。ただこの空間、移動している最中に起こしたのか?」

「あるいは、あの距離からじゃ見えなかっただけですかね?」

「・・・とりあえず、其処に向かうぞ。其処に敵がいる事に変わりないだろう」

其処まで距離が無かったので、其処には5分足らずで着いた。だが、歪んだ部分に入ろうとすると・・・

「っ!!何だこれは・・・結界・・・か?」

「時空間を歪める魔術・・・あ!!奥に誰かいる!!」

砂煙でよく見えないが、誰かがいる。そして、その隣には巨大な黒い影が・・・。だが、誰かは分からない。おそらくはあの巨大な闇の住民を逃げ出すのを防ぐ為に使ったと思われるが・・・。多分奥にいる誰かがこの術を唱えたのだろう。

「結界破って行こうよ!!シャドウのカオスコントロールがあれば行けると思う!!」

「・・・無理だ、カオスエメラルド1つでくぐり抜けられるレベルじゃない。せめてもう一つエメラルドがあればまだ行けるかもしれないが・・・・・・」

「駄目元でやってみて!!」

何故かこういう時に限って、彼女は目を輝かせていた。「是非見てみたいな」とでも言う様に。

「・・・仕方が無い。僕だけでやってみるぞーカオスコントロール!!」

 。

瞳を開くと其処は廃墟。失敗したか?と思って後ろを振り向くと、揺らめいてはいるがルファーが立っていた。・・・どうやら成功したらしい。

「・・・?どういう事だ?」

「シャドウ!!奥に人がいるから、助けてあげて!!」

「あ、ああ・・・それにしてもどうして成功したのだ?」

少し考えてもあまり理解出来なかったので、僕はとりあえず奥の方に行ってみる事にした。

 

~中間~

「・・・フウ、大分弱ってきたな・・・・・こっちも、疲れたが・・・・」

奥に進むと、聞き覚えのある声と化物の声がした。その人はまだ僕の存在に気づいていないらしく、化物と睨み合っていた。どちらともかなり戦ったのか、大分疲れ果てている。化物は僕の存在に気づいたのか、視線がこっちに向けられた様に見えた。

「あの術から15分・・・タイムリミットが訪れる前に倒さないとならないな。早くしないと・・・」

そう言うと、右手を挙げてオーラの槍を持つ。そのまま投げるつもりだ。しかし、疲れ果てたのか、足が少しふらついていた。

敵も相当疲れている様で、殴ろうとすると少し狙いを外してしまっていた。

「喰らえ!!」

彼は槍を放った。その槍は胸の右側に命中した。敵は疲れ果てている彼には目をくれず、槍を抜く事だけ考えている様だった。・・・これは行ける。

「・・・カオスランス・・・!!」

抜いているその背後を狙って、シルバーと似た様な槍を放つ。シルバーもようやくそれで僕の存在を目視した。

「シャドウ・・・・・・もっと早く来てくれよ。もうクタクタでさ・・・」

「此処まで何処まであると思っているのだ!!こっちは王宮で会議中だったのだぞ!!」

・・・気づいた後10分程度王宮で待つしか無かったという事は伏せておきたい。

「・・・まあ、半分本当なんだな。とりあえず、彼奴は光関連を当てればどうにかなるから・・・・ちょっと、休んでる」

「ああ。僕に任しておいてくれ」

シルバーはそう言うと、その場所から逃げた。・・・彼の放った言葉である『タイムリミット』がいつまでであるか聞くのを忘れたが、「早くしないと」と言っている辺からすれば、早く退治しなければならないだろう。

「・・・さて、此処から僕の時間だ。ー本気で戦ってやる」

*******************

ウォイス アファレイド~王宮周辺

俺が来た時には既に周りは悲鳴の声で満ち溢れていた。パニック状態である。まあ、事件が起こっている場所が丘の上、という事もあって、見える所が幾つかあったからだろうが。どうやら誰かが戦ってくれている人がいるということを完全に把握してない様だ。まあ、大きな大きな得体の知れぬ化物が見えただけでも、非現実なのだから、こうなる事もある程度予想出来てはいるが。フォルカと共にいた時代にそういうのを見ていた俺にそれでパニック状態になるという事は無かったが、少し驚いた事に変わりない。

「・・・これを落ち着かせろと言われてもな・・・・・・・」

俺がそれを初めて見た時の事を思い返すが、パニックになったのは俺だけで、周りの人達が冷静だったので・・・多分時間が掛かるだろう。

王宮内でも騒ぎになっていた為、冷静に対処出来る人も少ない。どうすれば・・・。だからと言って、其処に行こうとしたらあのパニックしている人達に飲まれてしまう。とりあえず・・・。

「       」

そう唱えておいた。周りが騒がしいなら、静まれば良い。静まった後全員避難場所に連れて行けば良い。・・・眠っている人を動かすのは、可能だ。つまり・・・。

「・・・という訳だ、避難場所に行って貰えると助かる」

そう言うと、大勢の人は避難場所に行き始めた。流石に全員を眠らせる事は無理(人数が多すぎて効いているどうか確認出来ない)だったので、ひとまずは眠らせている人達を避難場所に送った後、起きている人達を説得させた方がまだ無事でいられる可能性が高い。

大勢の人が別の場所に行ったのもあり、此処はがら空きだった。残っている人は約30名程だったが、それでもこの街は広い。当然、俺が眠らせて避難場所に強制的に移動させた事を見ている。これをどう説明するか、事実を全て話した方が良いだろう。・・・全員が信じるかどうかは知らないが、事態が色々特殊なので、全て真に受けるだろう。というより俺の実力を認めているのは此処だから、信憑性は高い筈だ。

「・・・こっちも苦労する事間違い無しだな・・・・・・説得するの、時間掛かるがやるしかないか・・・・・・」

それ以前に時間間に合うのか?もう俺の体感では20分程度経っている。あっちもそろそろ疲れ始めている筈だ。・・・最悪、無理矢理でも連れて行かないとならない。

「・・・何、してるの?」

小さな少年が俺に声を掛けてきた。多分、俺の行っている行為を疑問に思っているのだろう。

「ああ、化物が奥の方で暴れているから、避難場所に移動させただけだ」

「でもさ、君は全員眠らせて何処かに・・・」

「其処が避難場所だと言っていただろうが・・・。とりあえずだな、逃げろ。こうしている間にも化物が此処に来る可能性がある。来て、お前が殺されたらどうするのだ?俺が此処を守るから、お前は正気である者達を連れて此処から逃げろ」

「で・・・でも」

「御託は後で良い。今はとりあえず俺の指示に従ってくれ・・・大勢の命が関わっているのだぞ」

「・・・・・・分かった」

そう言うと、小さな少年はそういう人を探す為に此処を離れた。俺は一息ついた後、丘の向こう側を見た。・・・何か結界の様なモノを貼っているのを目視出来た。

「シャドウ、悪いが俺は此処を離れる訳にはいかない様だ・・・半ば強制だが、此処を守らないとならない様だ」

俺も取り残されている人を見つけなければ。俺は小さな少年とは逆の方向へ走り出した。

*******************

「ハァ・・・ハァ・・・・此処まで来ればまだ・・・・大丈夫だろ」

力抜けた身体で此処まで歩くのは辛かった。だが、此処まで来れば・・・。少し休憩しよう。魔力をかなり使ってしまった。多分この結界も5分足らずで・・・。

 

あれ、結界を作ったのは・・・・・・誰?

 

確かにあの時、あの術を唱えて此処を不思議な空間に導いた筈だ。・・・でも、そんなのは本来ならば10分足らずで、切れるのに・・・・・・。もう25分程経っている・・・あれ?

「ーもしかして、知らない間に能力が・・・?」

そう思った瞬間、目が熱い事に気がついた。其処まで深く考えずにこれを使ったからだろうか?とりあえず、此処から逃げないと・・・。

*******************

続く。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。