夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

Former associates

「これは昔のお話。

 君は知っているよね?紅月の悲劇。

 この悲劇に携わっていた人のお話だよ。

 その子は元々人間だったんだよ。

 でもとある事を理由に、何万年も生きる事になったんだ。

 そして、その子はとある人と友達になったんだ。

 ・・・その友達は病気で亡くなったんだけどね。

 そして、その子は狂ってしまった。

 『絶対、救い出してやる。・・・禁術?そんなのどうでもいい』

 そんな風に思ってしまったんだ。

 ・・・そして、その子は、とある計画を思いつく。

 それは決して人間には理解出来ない、もはや神様とかがやる行い。

 その子は大罪を背負いながら、此処を彷徨ったんだって・・・」

 

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死体を抱き、誰もいない夜。もう息をしていない彼を、俺は持っていた。

誰もいないから、俺が犯人なんて思われない。死体消失事件・・・そんなもの、俺がやれば良い事なのだ。彼奴ら等は使えない。

「・・・ガラル、お前を蘇生させてやる。どんな手段を使ってでも」

壊れたかの様な笑みを浮かべながら、夜道を歩く。・・・紅く輝いた目の背中には血が沢山付いていた。後ろに歪なモノがあるが、それはただの人形に過ぎない。その人形は俺に歯向かったが、その人形はもう動かない。俺は悪くない、貴様らが抗ったからだ・・・。

絶対ニ、絶対ニ・・・

「ハハハ・・・ハハハハハ!!」

もう既にこの頃から俺は狂っていたのかもしれない。それに気づくのに、彼が俺に向けて放った一言が俺の耳に耳に通るまでの時間が必要となった。止められなかったのだ。どうしても一緒にいたかった。ああ、それじゃ彼奴と同類だ。これくらいから、俺の悪意の種は、花を咲かせていたのかもしれない。

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The Castle Mage

 「・・・歓迎だぞ、お前さんが入れば此処も安定するであろう」

王はそう言って、笑った。隣には王子が立っている。王子も成長し、俺がこうして跪く所を見ている訳である。王子からすれば命名した人が目の前にいて、その人が跪いているのだから、不思議な感覚なのだろう。・・・最も、王も王子程では無いが、不思議に思っていることであろう。

「ーその力を証明して欲しい。・・・今とある地域で干害が起こっていてな、それによって飢饉が発生してしまっている。あとはもう分かっているだろう?」

王が意図的に狙ってこういう事を起こした、という訳では無いだろうが(あったら即刻首を斬るつもりだが)、確かにそれくらいの自然災害を解決するのは、それなりの実力が無ければ、解決は不可能だろう。・・・それくらいなら簡単だ。しかも今回は『雨を降らせる事』が目的だ。もはや魔術を使うまでもない。

「・・・分かりました。私がそれを達成させてみましょう」

俺はそう言って、微笑んだ。・・・まあ、この国は魔導王国だ。能力に頼らず、魔術で解決しなければ、無意味だ。

 

後日、干ばつで困っていた所は、予報外れの大雨が降ってきた。大体の作物がそれによって元通りになって、例年と同じくらい収穫出来たそうだ。・・・流石にかなりの干ばつに見舞われていたので、豊作にはならなかった。が、彼の力を体感出来たのは事実で、彼はそのまま王宮に留まる事が王によって許可された。

「・・・面を上げろ」

「・・・」

無表情のまま俺は顔を上げた。王の頬は緩んでいた。感情というのは分かりづらいものだ。

 

作業はいつも同じ様なモノである。王子であるアルマの世話に従者達の部屋の掃除。料理の監督もたまにやらさせられるのだが、彼は楽々とこなした。・・・表向きでは、だが。だが、毎日がとても忙しく、身体が馴染むまでにはかなりの時を必要とした。オールマイティなのだが、流石に休暇が2時間しか無いと考えると流石の彼も疲れてしまうのだ。

彼は何らかの方法で命が絶ってしまう時が来た場合、およそ1~7日で彼は蘇生する。再生される時間は、死因によって変わる。例えば水圧によるものの場合、水圧に押しつぶされない様な身体にしようとするので、その身体にさせるのに5日掛かる・・・といった様なものだ。因みにその回復するまでの間に別の傷を負うと、その部分の回復もしなければならなくなるので、回復までに時間が掛かる。そして、蘇生する瞬間が訪れるまでは死人と同じ状態になる、という訳である。

・・・というのが彼が把握している『不死の薬』の効果であった。

最悪自分が死んでも構わなかった。どうせ不死の薬で生き返るんだし、そもそもこの国でそれを治す薬や魔術などは禁術にされているのだ。治す可能性もほぼ0である。大丈夫であろう、と思ってはいた。ただし【ほぼ】なので、彼自身もそれは最後の手段と考えていた。死んでいる状態で、それを飲まれたら本物の死体になってしまうからだ。

(でもこの国は安全であろう。戦いが起きようが、俺には関係無い)

 

・・・王は土地が欲しい、と仰っていた。そうすればこの国は豊かな国になると考えていた。実際、ウォイスの予知夢にも戦争から勝ち上がり、この大陸内で最も貿易が盛んな所を見ていた。つまり、彼は感づいていたのだ。このまま行けば此処は間違いなく盛り上がると。そうすれば彼自身の地位も上がる事も間違いないであろう。

という辺で彼の企みは止まっていた。

「・・・戦争か・・・」

戦争しても、別に構わないとは考えていた。ただ、問題なのは彼が精神的に変化してしまわないか・・・。彼は分かっていた。もし戦争すれば別の所がどうなるか、此処はどうなるか、周りがどうなるかを。それは彼自身の経験からであり、彼自身の恐怖心から出来たモノでもあった。

(おそらく戦えば此処は勝って豊かになる。そして、平穏が訪れる。だが、それで良いのか?)

その為に犠牲を投じる・・・重大な事であった。その気になれば此処だって焼き払える。何もかも壊して無かった事にだって可能であろう。でもそれ以上に・・・怖いのだ。壊すならば、徹底的に壊してしまわねば。ただ、面倒である。あと狂ってしまってそのまま彼奴の様な人になるのは嫌だと思っていた。・・・彼奴の息子ならば、当然それも大きい事を、知っていたからである。

(少しでも良いからとりあえず情報が欲しいな・・・)

夜中ではあるが、彼は必死に紙にとある事を書いていた。ある情報の整理もしとなければならない。・・・多分、必要無いだろうが、万が一という事もある。多少の誤算も計算に入れる。それは強さだと思うのだ。

「・・・でも疲れるよな、少しはゆっくりしていきたいな」

街がよく見える窓を数秒見つめた後、彼は再びその作成に精を出すのであった。

 

心に決めた。戦おう。この街の平穏を保つ為に、豊かな国にする為に。

大事な物を失っても、得る物があるではないか。

王はそう決心した。そして、少しずつ、少しずつではあるが、確実に豊かに国になっていった。

ー自他共に、沢山の犠牲と、国の崩落と引き換えに。

「発達させた事は良い事である」、王はそう言った。だが、させた事【は】にしかならないのだ。その為に犠牲と崩落が生じた。それは王にとっても辛い事であった。どうしても守らねばならないのであれば、それは守らねばならない。そうでなければ、犠牲を出した意味は無い・・・。

王は王子に「戦争はいけない事だ」と教えた。それはせめてもの償いだったのかもしれないし、彼自身が精神的に参っていたのかもしれない。王子は「うん」と言ってはいたが、争いを見ていた彼にとっては、そんな事を言われなくても分かっていた事だろう。王子は出来る限り戦いを抑える様にした(結果としては、王子の子供がそれを完全に止めた訳だが)。

 

ウォイスは頭を悩ませた。一人では出来る事が少なすぎるのだ。

誰か似た様な人ー『弟子』か何かが欲しい、そう思ったのだ。

今まで彼は1人で過ごしてきた。仲間が朽ち果てる事を何度も見てきた。憎かった。

だが、それ以上に友達が欲しかった。

『仲間など必要無い』ーと彼は言っていたが、それはその結末が受け入れがたいからそう言ったのだ。冷たく言い放ったその言葉はもしかしたら、ウォイスが己に言いかけていた言葉だったのかもしれない。少なくても言える事は、それは嘘だという事である。あるいは己自身が壊れてしまうのを恐れていたのかもしれない。

孤独に生きる事、それが彼の生き方だった。でも、今は違っていた。話せる相手がいる。仲間がいる。慕う相手がいた。・・・それはいつしか彼が望んでいた世界だった。でも逆にそれが恐怖でもあった。

 

あの人は哂っていた。

彼の幸せを壊す為にも、此処を滅ぼす為にも、まずは内部を崩す必要があった。だが、ただのメイド等に憑依しても、出来る事は限られているし、何より地位が低いせいで行きたい場所に行けなかったりして無意味だ。最悪の場合、彼に感づかれて追い払われるのだ。・・・そう、憑依するならば彼と同じ位の者が必要だ・・・。

だが、彼や私の様な才能を持つ者は少ない。大抵は才能はあっても、禁忌魔術を唱えられない様な器の人だ。精神が保てなくなって、自分が発狂しては困る。彼を暴走させるのも良かったが、気分じゃないのだ。

時を待つのだ。そうすればいずれ崩壊する事が出来る・・・。

 

様々な思考が交差する中、王子は王に即位した。

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一部の魔術には精神を食い潰すモノが存在する。そしてそれは大抵強力な魔術である場合が多く(『構成を操る』といった扱い方次第では現実も存在する)、徐々に呑まれていくので、気づきにくい。

それらを耐える事が出来るのも器次第である。しかもこれは魔導師としての器としては【別】で、耐性がひとかけらでも入っている確率は75%、100回位唱えられる者はその人の50%、何度も使っても平気でいられる確率は其処から10%。そこから術を唱えられる程度の魔力を持つ事が絶対条件なので、『魔導師の才能があって、それらを扱える人』という条件は揃いづらい。

ウォイスは魔導師としての才能はあっても、食い潰れる事が無い位の心は其処まで持っていなかった。唱える事は出来ても反動が大きすぎる影響で、これを使っていられるのは1~2回までである。それ以上やると精神崩壊を起こす・・・と彼は推測しきっていた。ただ、彼奴は無事(もう闇に塗れているので無意味だろうが)なので、彼はそこを気にしてはいた。

ではその器を持っているのか、というと。ガナールとシャドウはその耐性が強いのが、分かった。共通点を言うと、二人共作られた者なのだ。精神の分野としては欠けているので精神の侵食も不完全なのでは、とされているが、それがどうかは不明である。逆にその耐性に弱いのがシルバーとシアンといった様な、主に感情移入がしやすい人がそれに当てはまる。冷たい人程扱えやすい、という事であろうか。

ともあれそれは彼にとって好都合であった。扱い方さえ正しければ、それはとても良いモノになる。実際、それらを使って英雄になった者も存在する。教えて損は無かった。結果としてガナール・シャドウの魔術の一部は精神を呑まれる魔術をある程度扱えた。当然、彼ら(?)はそれらを把握して戦っているので、楽である。

 

・・・という訳で、精神を呑まれる魔術は、基本的には扱ってはいけないモノである。にも関わらず禁忌魔術には指定されてないから不思議である。彼がそうする様にしたのか、元々こんな事に手を染めても何も意味も無いのを知っていたのか・・・それは分からない話だ。ただ、偶然そうなったと考えるのが妥当であろう。

 

・・・その精神を呑む魔術は闇魔術として扱われる事が多いらしいけど・・・私にはそんなの分からない。其処に住んでる人じゃないといけない。

そういえば、あの時のお話の続きを言ってなかったよね?話を切り替えて、そっちの方の話をしましょうか。

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Behavior of the fairies

 

表と裏は決して交わる事のないモノだ。世界に関しても同じで、もう一人の私と会うなんて思ってもいなかった。

「お前、一体何だよ・・・姿だけじゃなく、能力も似ている・・・何者だ!!」

「何者とは失礼ですこと。私は裏世界の貴方というのに」

「それが意味分からないから言っているんだろ!!」

呆れ気味で溜息をつく私とは対象に、彼は警戒していた。まあ、彼は巻き込まれた側だから、分からない訳でもないのだが、流石にそろそろ理解してほしい。彼は容量がよくないのか?

「あのな、お前らの目的は知らないが、危害を加えるつもりなら俺も黙っている訳にはいかないんだよ!!それくらいお前も分かっているだろう!?」

「あーあ、アホくさ。友情ごときでそれくらいー」

「・・・その口開けない様にしてやろうか?」

半分冗談で言っていた所を彼は槍を私の首の手前に静止し、先程とは一変して殺気を放っていた。・・・駄目だ、今の彼には冗談が通じないみたいだ。

「ーフフ、冗談ですよ。まあ、本気なのは見て分かりましたし。そんな物騒なこと、しないでくださいます?」

「・・・敵が冗談と言って構えるのを止める馬鹿がいるか?」

「ま、そうでしょうけど」

彼は未だに矛先を私に向けていた。私が怯える事は無いが、とりあえずこの状態をどうにかしなければなるまい。いざとなれば殺そうとするだろうがー彼がそれを成し遂げられるとは思えない。

「でも、貴方がそれを成し遂げられるとは思えませんけどね」

「・・・ああ、殺すつもりはない。だが、傷付けるつもりはいる・・・お前が反抗した時の対応として」

春になったというのに、此処だけは何故かとても冷たい風が吹いている様な気がした。・・・結構経ったと思った時、パリンとガラスらしい物が割れる音がした。

「!! 何だ?!」

割れた音を見ると、私は目を丸くした。遠くてよく分からないが、何か青と黒が不規則に動きながら落ちていく所が見えた。それは彼も同様で、直ぐに誰だか分かった。

「ソニック!!」「シャック!!」

彼がソニックらに目を奪われたおかげで、私に対する構えがゆるくなった。そのタイミングを私は見逃さなかった。私は彼の足元を蹴って、尻餅をつかせた。隙がある内に、私はシャックの元へ急いだ。

「!!待て!!」

彼の声には目もくれず、彼に会う事だけを考え、落ちた方向へ飛んで行った。

 

「待てって言っているだろうが!!」

「待つ訳無いじゃないですか・・・っ!!」

飛んでいく最中に彼が迫ろうとしていた。当然、敵意がある訳で、追っている所に箱が飛んできたり、包丁が飛んできたり・・・。殺す気だ、殺す気満々。後ろから何か飛んでくると思ったら、前に障害物があったりした。

(幾ら何でもやりすぎじゃないの!?)

多方それは避けて御終いなのだが、一部の凶器・・・鋭利な物が腕等に切り傷を作った。傷が深くなっていくにつれ、私は速度を落とし始めた。徐々に彼との差が無くなっていき、やがて私に追いついた。

「・・・!!」

「はぁ・・・はぁ・・・・流石にそこまで傷付けたら動く訳ないだろ・・・ふう」

私と比べて全く傷はついてないが、物を操るのに疲れてしまったのか、彼は少し息が乱れていた。・・・私はとりあえず傷を癒す為に魔術を唱えた。

「・・・?癒えていく・・・」

彼は私の傷が治っていくのを見て、少々驚いた様だ。私は彼の目を見ようとはせずにまた歩こうとした。・・・が。

「傷、癒えきれてないだろ」

「・・・!」

回復した腕を彼は掴んだ。しかも力が強い。・・・「行くな」っていう事であろう。彼は私が歩むのを止めたのを見ると、懐から何かを取り出した。

「痛むだろうけど、我慢しろよ?」

彼が取り出した物、それは塗り薬だった。・・・先程敵意を向けていたのに、どういう風の吹き回しなのだろうか。

「・・・何故私を助けるの?」

「さあな、彼奴の気まぐれが移ったのかもな」

私が黙っている間にも、彼は真剣に薬を塗っていた。彼曰く未来だと今の薬の様な物は無いからこれを常備しているとか。誰に教えて貰ったかは知らないが、今の消毒液と同じ位の効果はあった。おそらく何とか生きている植物を増やした上で、採ったのだろう。

「ホラ、できたぞ」

「・・・。」

知らない間に彼は私の腕に包帯を巻いていたらしく、右肩を見ると、リボン結びがされていた。別に巻かなくても平気なんだけどな。

「・・・ありがとね」

そう声を掛けると、彼は不意に外方を向いた。

 

・・・連れてこい、とは言ったものの・・・彼女単体で出来るだろうか?

・・・いや、それはいらぬ心配か。彼女は強い。

でも強いて言うならば、俺が出てくる幕はあるのか?それも楽しみにしておくか。

 

・・・さてと、俺もそろそろ行動するか。

 

続く...
様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。