夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 0章 Start

~紅月サイド~

「紅月様の仰る通りでございます!!従わない者は全て抹殺すれば良いのです!!」

紅月はこの景色を眺め、誓った。『此処を無にしてやる』と。あの過去を断ち切り、全てを作り直すのだ。彼奴の縁を断ち切る為にも、これを成し遂げる。

7年間、紅月はそれを達成させる為に仲間を集めた。今ではこの基地も大賑わいを見せている。彼は本来ならば10年程掛けてそれをやるつもりだった。しかし、時の宿命のせいで、それを中止せざるを得なかった。

あの時点で30歳になっていたのだ。どんなにやろうと努力しても、30代以降はどうしても身体が衰え始めてしまうのだ。それを抗う事を、彼は出来なかった。

でも長年の時を得て分かった事は沢山あった。

 

1つ目は師匠について。

縁を切る前から薄々と分かっていたことだが、師匠は少なくとも不老であることを確信した。初めて会った時点で見た感じでは15~18歳位の年齢だった。それから20年近く経っているのにも関わらず、彼は未だその姿のままだった。紅月はその件に関しては、少々羨ましかった。そして、それは警戒心を強める事になった。不老である、という事は身体もその外見年齢と同じ年齢になっている筈だ。そして、その身体で物理攻撃等をやったらー・・・言うまでも無いだろう。

また紅月に会う前の師匠の事も少し分かった。師匠は元々其処に勤めていたのだ。ではあの時何故教師をやっていたかというと、王の勧めからだそうだ。それは紅月が殺した王の前の王、つまり悲劇の王の父からやっていた事だった。

だが、それ以前に何をしていたのかは分からない。ただ、不老である事は間違いなかった。その証拠を裏付けるかの様に、後者の記録も書かれている。それは紅月にとって重要な情報でもあった。

 

2つ目はあの事件の後について。

あの二人を目撃した後、師匠はあの後王子の補佐をしていたが、1ヶ月後王子と師匠は失踪。それ以後の行方は分かっていない。というのが公に出ている情報だった。しかし紅月はそれについて調べた時幾つか分かった事があった。

失踪したのは師匠の目論見と王宮の判断から。本当かどうか分からないが、王が師匠に向けて何かをしていたという噂を耳にした。目論見が何かは分からないが、少なくとも事件が起こる前から疑っていた可能性はあった。王宮の件については紅月も何となく察しがついていた。王宮は紅月を恐れていたのだろう。実際彼は其処を襲ったのだから尚更だ。

因みに二人を目撃した方の師匠の相方。彼は紅月が証拠隠滅のことも見計らって、暗殺を図ろうとした。紅月自身で彼を殺せた、という訳ではないが彼はその後死んだとあった。・・・まあ生きていたとしてももう年寄りだ。今更関係を持とうと思うまい。

 

3つ目はあの英雄について。

先程、師匠と王子が失踪したとあるが、師匠に関しては今年に入って行方が確認されている。春頃にかの有名な英雄、ソニック・ザ・ヘッジホッグと会ったそうだ。その時の記録は全く無かったが、おそらくその時何かきっかけを作ったのだろう。少なくとも秋頃には悩みを相談出来る位には仲が良くなっているのを紅月自身が確認した。

そして部下からの報告だがーどうやらソニックらの周りに『黒い服を纏った人』がいて、その人と戦った半殺しにされたという。ソニックとは関係の無い事かもしれないが、少なくとも紅月に敵意を向けているのは確かで、服装や行動、言動から察するに相当のやり手で、隠密になって行う作業が得意だという。・・・もしこれが本当ならば、あの人達とは違った意味で迷惑だ。注意せねばならない。

 

紅月は『黒い服を纏った人』を一番警戒していた。師匠はパターンがある程度読めるが、その人に関しては情報が全く出てない。そういうのを得意にしている為、それに対する守りも頑丈だ。下手すれば知らない間に情報が流れてしまうかもしれない。・・・というのも以前その人に会った事があるのだ。私と同じ位目が紅く、冷淡で暗い、紅月とは違う意味での狂気を感じさせる。そんな目をしていた。誰も信用してないのか、もはや感情なんて捨てたのか・・・そこは分からないが、孤独の目をしていたのは事実で、紅月は少々戸惑った。「あんなに明るい人の中で、どうしてそんな人がいるか」と。結局その答えが出てくるということは無かったのだが。

 

とにかく、この異変を起こすのにもその人の行動と師匠の行動を警戒せねばならない。

(貴方なら・・・ウォイスならこれを見てどう思うのだ?我を恨むか?それとも我の中にいる◎◎を恨むか?)

紅月は歪んだ顔で微笑みながら、その術を唱え始めた。

 

 

~ウォイスサイド~

 可笑しい。何かが可笑しい。時空の乱れが起きたとかそんな大きな事ではないが、乱れを感じる。・・・ただそれが何なのかは分からないが。俺が起こしたそれとは違う気がする。

周りを見てもそれに気づいた人はいない。どうやら気づいたのは俺だけの様だ。だが、微弱で何が何だか俺も把握しきれてない。・・・嫌な気配がする。それだけしか感じ取れない。

「・・・お前は感じたか?」

「?え、それって何をです?」

「・・・・・・何でもない」

どうやら彼も、それを感じ取れなかった様だ。感じ取れたのは俺だけらしい。いや、ガナールなら気づいている可能性もあるかもしれない。ただ、気づいたのなら調査するべきだろう。俺はスケジュール帳を見て、今日が空いているかを確認した。彼は俺が急にそれを開いた事に疑問を抱いたらしく、やがて俺に尋ねてきた。

「あの、どうしたんです?予定でも入れるんですか?」

「ー早急に調査せねばならない事情が出来た。・・・上手くいけば異変が起きる前に妨害出来て少しは楽になるかもしれない」

「異変・・・というと、貴方が起こしたあの異変とは関連はあるんですか?」

「無いと思うが・・・まあ調べないと分からない事だな。準備してくれ」

「分かりました、ウォイスさん」

「・・・あと、場合によっては以前話したソニック達と共に行動するかもしれない。結果次第ではな」

「え、ソニックさんと?」

人と共に行動すること自体彼にとっては珍しい事だったのだが、彼はそれよりも思いもしなかった名前があがって、そっちの方に反応した様だ。少々驚いた後、彼は輝いて「一回会ってみたいと思っていたんです!!え、サインとか出来ないかな」ともはやそっちにしか見ていない様にも見えた。

「・・・まあそれが出来る様にも、調査するぞ」

「はい!!僕頑張ります!!安全と分かっていても、会わせてくださいね!!」

「ああ、分かっているから・・・とりあえず早く準備しろ。早い段階で妨害しとけば成し遂げるのに時間が掛かってこっちの方が有利になる」

「分かってますって・・・」

ブツブツと何かを発しながら、彼は着替え始めた。

(・・・あ、そういや俺もまだパジャマ姿だったな)

面倒だったので、魔術で服に着替えてから俺は髪を整えることにした。

 

~中間~

 

「・・・こっちの方は異常無し・・・となるとこの周辺だな、影響を受けているのは」

「ウォイスさーん。こっちも終わりましたよ。かなり異常な数値が出ました」

俺達はこの大陸のあちこちに移動して、様々な所を調べた。その結果、中心辺に山が出来る時のエネルギーが急速に大きくなっている事が判明した。その早さが尋常ではない。つまり、近いうちに山が出来るであろう。時を得ずに急速に成長させるとなると、これはどう考えても・・・

「異変、だな」

「でも、何でこんな事をするんですかね・・・山を誕生させるなんて・・・」

「気候の変化等が発生するな。それによって育てる物が変わっていく。短時間でそれは人々が苦しむ事になるな・・・下手すれば死者が出る。そっち、木とかに異常はあったか?」

「異常・・・あ、そういえば近くの農家の人に聞いたんですが、どうも作物の収穫の時期が早まっていると聞きました」

「収穫の時期が?」

「なんでも成長する早さが早かったとか」

「・・・色々大変な事になっているな。ただ規模が大きいな。此処周辺でこれをしているという事は、敵はおそらくその影響が及ばない場所にいるという事か・・・?」

俺が考え事をしていると、急に強い地震が発生した。ニュースに取り上げる程度ではないと思うが、それなりに強かった。

「ここ最近は地震無かったと思うが・・・何があった」

「知りませんよ・・・あ、情報来ましたよ。此処いら辺が震源地らしいですよ。マグニチュード5,3で此処の震度は4だそうです」

とりあえず初期段階ではあるが、異変は確実に起こっているという事か。問題はそれをした人が誰か、だ。これくらいの事をしているとなると、普通の輩じゃそれを起こす事など出来ないだろう。まず、山を作るとなるとそれ自体がもはや事件なので捕まる気がするが・・・。

「・・・あ、でも途中で紅月を見ましたよ」

「!?紅月がか?」

「周りに赤いハリモグラに黒いハリネズミ、ネコの様な者もいましたね」

「・・・黒いハリネズミ・・・そいつ、下アラジンが着る様な物履いてなかったか?」

「ええ、履いてましたが。知り合いですか?」

「・・・まあ仲間が以前そいつと戦ってな・・・成程、そいつと紅月とその仲間がか。対峙はしなかっただろうな?」

「しませんよ。・・・というより単身であんな所に行ったらどうなるかくらいは僕にも分かってますよ。多分相手気づいてませんよ。姿を消していたので」

「何となく把握した。・・・戻るぞ、ソニックらにもこの事を伝えとく。家にいてくれないか?」

「また留守ですか・・・最近多いですね」

「事情が色々複雑だから仕方ないだろう。・・・先に帰っててくれないか?」

「分かりました」

そう言うと、彼はそのまま家に戻っていった。俺はそれを見届けた後、少し溜息ついて、ガナールを呼んだ。

「ガナール、来い」

「・・・私はいつでも隣にいますよ、ウォイス様」

呼んだのとほぼ同じタイミングでガナールは俺の背後に立っていた。彼奴は少しずつ俺に寄って来て、最終的には耳元に立っていた。そして彼奴は耳元でそっとあの件の結果を囁いた。

「・・・紅月らはどうやらカオスエメラルドを利用して此処いらの大地を狂わせる様、準備を続けている様です。前段階でとりあえず山を誕生させるかという所まで来ており、一応シルフィにその事を伝えておきました」

「相方も、それを理解しているか?」

「ええ、一応確認しときますが、ウォイス様。あの方との記憶は共通です。『離れない限り』、私が見たものは、あの方には見えています。・・・まあ眠っていたら話は別ですが」

「・・・分かっている。ありがとな、助かるよ」

「お褒めの言葉を頂き、光栄です」

「とりあえず、お前は紅月にとっては厄介な存在だと警戒しているのは確かだ。情報を集める時はいつも以上に気をつけてくれ。・・・そうだな、とりあえずエメラルドの回収だな。情報を集めてくれないか?」

「それ自体に問題はありませんが・・・その、あの異変の影響でそういう探し物をする際、問題が起きてしまいまして。おそらく正しい情報を得ても、その辺の地形が変わっておおよその場所しか特定出来ませんが、よろしいでしょうか?」

「それで構わない。・・・いつも負担掛けてすまない」

「いえ。お勤めであるのならば、それを全うするまででございます。では」

「あと、この事は彼の耳にしないでくれ。下手にエメラルドを集める等と言うと彼奴疑うと思うしな」

「承知しました」

ガナールが跪くと、そのまま何処かへ行ってしまった。行った後、俺は空を眺めていた。

(・・・さて、どうするか。とりあえず彼らに会わせるのは確定だな。異変であるのは間違いないのだ・・・一回この地形の気候を一回確認して・・・かな)

ガナールがあの情報を得るまでは、俺も待機しといた方がいいかもしれない。とりあえず俺は、この景色を眺めている事にして、脳を休める事にした。

 

続く

next 0-11章 Beginning of the ruin

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。