日記ノ二十二ノ巻~Secret
ゲホッ、ゲホッ
最近、身体の調子が可笑しい。ボーとする。あの人らがいないから、楽には出来るんだけど。
「・・・大丈夫か?」
と、彼女はそう言って甘めの紅茶を用意してくれた。俺はありがたくそれを頂戴して、飲む。貴族の暮らしに飽き飽きとしていた彼女にとって、こんな事をするなんて新鮮なのかもしれない。
「大丈夫、ありがとね」
「・・・・・・結界の事か?」
一口していながら、予想もしなかった事を言われ、俺は少々動揺した。彼女から見れば俺が固まったと思うのだろうが・・・見抜かれた。
「分かっていたのか?」
「お前の様子が変なのは私でもすぐに分かる。スペードやスパークには見せないんだな」
「心配掛けたくないだけだ。それに」
彼女は鉢に視線を写した。黄色の月光花が見事に咲いている。・・・?
「・・・なあ、開花時期いつだっけ」
「3月、4月。今10月・・・咲いている筈が無い。お前が来る前咲いている訳が無かった」
一つ溜息を出して俺に指を指した。
「・・・・・・お前の能力ー『覚醒を操る能力』が暴走しているってことだ。実際今お前は目が蒼いぞ」
「・・・え、蒼い?」
冗談、という訳では無い様だ。凄い形相で私の目の前に睨んでいるのは、制御しろって言っているのだろうか。
「無意識に強くしているって事か?そうだとしても、魔力が漏れるとかって無いし・・・」
「それは多分微量だからであろう。そこいらはウォイスに聞いて欲しいな、私がそれを知っている訳でもない」
「制御を掛けるモノ・・・あるとは思え難いんだよなぁ」
「ルシア~ただいま~」
悩んでいると、スペードとスパークが家に帰ってきた様だ。二人は泥まみれで、黒と茶色がごちゃごちゃになって、自然と同化出来そうな格好(?)になっていた。二人は俺が来た事に気がついたらしく、無邪気な笑顔で俺を迎えた。
「よっ、どうしたんだ?」
「遊びに来ただけ。とりあえずお風呂に入ってくれないかな?・・・俺の服に汚れがついたらシミになって取れなくなるから」
「・・・お前家族じゃねーだろ。ま、洗うか・・・スパークも来いよ」
相変わらずの笑顔で彼らはそのままお風呂に向かった。・・・全く変わらないんだな、この二人は・・・・・・俺も、変わっていないが。
一回咳き込んだ後、俺はルシアに向けて口に人差し指を当てて微笑んだ。彼女は深くお辞儀をして、彼らの洗い物を洗いに行った。口封じである。俺がそんな事をしていると気づかれてはならない。華を盛り付ける所を、見られてはならない。彼の事ならきっと止めたり助けようとするだろう。・・・今回ばかりは助けて欲しくなかった。むしろその逆だ。倒して欲しかった。でも彼はそれを望まないだろうし、化物になろうがきっと彼は俺を元に戻そうと必死に戦ってしまうだろう。それだけは嫌だった。化物になって、大事な人を殺してしまう方が一番残酷で滑稽でないか。馬鹿馬鹿しいのにも程がある。
・・・最も、俺がそんな風に考えているなんて、彼はこれっぽちも思っていないだろうが。
こんな現象を起こると知ったら、彼らはどんな風に行動するのだろう?理性を無くした俺を納得させるか?傷付けて俺を元に戻すか?俺の意思に従って、俺を殺すか?それとも、俺を見捨てて逃げ出すか? 誰がどう行動するかは俺にも分からない。だから見守るしかないのだろう。
手袋を取って、少しだけ化物の手になってみた。爪が伸びて、人間らしさを失った手。それが人柱に与えられた力だというのか?スクリーンの先に見えたあの現象は、守ろうした者の最期の姿なのか?とりあえず、それを見て恐怖を覚えたのは間違いない。声をかけても、彼は反応しなかった。・・・それを周囲に伝えても無意味だった。せめてもう一人目撃していれば。彼処で何故起こってしまったんだろう?彼が彼でなかった気がしたけど、彼の雰囲気も未だに残っている。分からない・・・分からない。でも彼がそれを望んでいなかったのは間違いない。
・・・結局、あの時見たスクリーンは俺にとっては恐怖そのものだ。いずれ俺もそうなるんだと思うと、俺はいつから普通の道から踏み外れたのだろう?人柱になった時から?ウォイスに身を委ねた時から?それとも、未来から此処にやって来た時から?結局の所、それを知る人は何処にもいない。なら、もういっそのこと異常の道を歩んでいこうじゃないか。
等と思っている内に日が沈み始めた。また今日が終わっていく。・・・彼は、シャドウは元気だろうか?・・・俺はただ祈っている事しか出来なかった。