夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 1-02章  蟠りがある中で

「さてと、とりあえず周りを見るか!!」
「「はーい・・・」」
シルバーが目を輝いている姿が眩しすぎて直視出来ない。二人は彼のテンションに振り回されてもう既にヘトヘトだ。

現在1時40分。―変化開始まであと4時間ちょっとだ。

「もう寝てよーぜ・・・」
「さっき言っただろ!!食べ終わったら周り見るってさ!!」
「それくらいなら周り走り回っていたいぜ・・・」
「お前の言う周りは俺らとは全然違うんだろ!!というか此処を一周しないと合流する時とかに困るだろ」
最もらしい意見を言われ、彼は「うっ・・・」と汗が少々垂れた。
「もう少しだけ休みましょうよ~それこそ2時とかに」
「飯食べて皆元気にならなかったのか!?」
シェイドは「だって~」と可愛げに声を出して、休もうよというメッセージを送るが、シルバーはそれの意図自体把握出来ていなかった。そのまま頭を撫で、「もう少しだからさ」と言った。少なくとも休む意思はこれっぽっちも存在しないらしい。
「ゆっくり休んでまた動くのは嫌だから、とりあえず見ようぜ」
そう言いながら、シルバーは周りを見る。
辺は先程と比べて、更に繁盛している様に見える。多種多様な人がいる。観光客で来ていたり、何処かの人が値切りをしようとしていたりする。こちらはどちらかと言うと、食べ歩きが出来る食べ物が多く取り扱っており、おそらく最初に来るべき所だったのだろう。生憎、先程のフードコートで腹を満たしていたので、食べ物を食べる余裕は無かった。むしろその香りが嫌だと思ってしまう位だ。
「うぅ・・・美味しそうだけど、これ以上食べらないよ・・・」
「明日食べに行こう。絶対美味しい物が沢山あるって」
美味しい物を食べ損ねたのが一番のダメージだったのかもしれない。

周りに行く事自体は簡単だが、人が大勢いる中で動くのは難しい。市場があった南部とは違い、北部は人混みが酷かった。その為、周る時間も長くなり、とりあえず一通り周りを見てみるだけで20分程時間が経った。

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3時。2時間40分。

猫は未だに帰ってくる気配が無かった。先程の人は昼寝していて、他の人が此処を守っている。―そろそろハッキリさせた方が良いのかもしれない。そのままその猫を撫でてみる。
(触り心地は普通の猫と一緒だな・・・)
猫はそのまま倒れてじゃれている。甘えているのだろう。
「じゃあ、これならどうだろうか?」
俺はとある物を取り出した。多分これなら何か変化あるかもしれない。本物の猫であったらそれはもう謝るしかないのだが、もしかしたらの場合だ。一応使ってみる。―俺は猫の右腕を持つ。
「・・・猫だったら本当に申し訳無いな」

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「・・・。」
ピピッと耳元で響く。どうやら此処がポイントらしい。
(割と早い段階で見つかったのかしらね?)
「おいおーい、見つかったか?」
「ええ、見つかったわ。これよ」
それを見せると、彼は目を丸くした。あちこち見渡した後、静かに頷いた。
「・・・うん、うん。間違い無いね」
「案外結構見落としがちな所にあったわね・・・さて、これどうしようか?こっそり埋めちゃう?」
どうせ彼奴らが取りに行こうとするのは目に見えてるのだ。その間に奪われてしまったらそれこそ大変だ。
しかし、彼はそのまま笑って大変な事を言う。
「・・・いや、とある事に使おう。俺にいい案があるんだ」
「へえ、聞かせて貰おうかしら??」


「―結構大変な事を考えたのですね、あの人達は」
影でそう呟くと、その人は闇の中に消えていった。
(彼も、彼奴も大変でしょうね)

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「―痛い痛い痛い痛い痛い!!」
そう言ってジタバタ暴れ回る相手は、もう猫ではない。猫の姿に変身した人だった様だ。
「痛い様だな、まあ当然と言えば当然だよな。塩酸なんか掛けたらそりゃ痛いだろうな」
プクーと腫れたそれは、爪楊枝とかでパンと割れそうな勢いだった。火傷の様な傷ではあるのだが、まあ見る限り哀れというか何というか。
「監視してたのだな、俺の動きを・・・まあ残念だったな」
「クッ・・・、だがどうだかな?」
「ー?」
グラリと何かが揺れる。いや、何かなんてものじゃない。地震だ。あまりの強さに立っていられず、尻餅をつく。それは目の前の相手もそうだった。そしてその番人の人も。
ガン、と音が鳴り響く。あの爺さんは未だに気付いておらず、鼾(いびき)が揺れても尚途切れない。これはこれでも随分と余裕ありそうな感じではあるのだが・・・
「・・・早い段階でこれか・・・貴様ら!!」
「ハハ、バレてしまっては仕方ない・・・くそ、とりあえず腫れている部分をどうにかせねば・・・」
「あ、待て!!」
そのままネイトに繋がるドアをこじ開け、相手はそのまま逃げて行く。俺も追いかけようとしたが、下に何か落ちていたのが見えたので、それを見つめた。
「これは一体・・・」
見た目でも何となく分かった。瓶だ。その中にある粉末が何かまでは、分からないのだが・・・
「おい、何があったんだ!?」
ようやくあの爺さんが、騒ぎに気づいた様だ。俺の元まで走ってきて、何があったのかを聞いてきた。俺は話した。あの猫が紅月の配下であったこと、その人がネイトに逃げたこと・・・そして俺が見つけた謎の粉が入った瓶を見つけた事・・・。
「なあ、この粉が何か調べて貰えないか?」
「?お前でもある程度は出来るのではないのか?」
「時間が無い中それをやるのは流石に無理がある筈だ・・・それに彼奴を追わないとマズイ事になりそうだしな」
「・・・。」
「―急ぐぞ、ネイトに突っ込む」

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「ふう、ようやく眠れるぜ―・・・」
「お前らがウジウジするから北部と南部を見るだけに留めたんだから・・・とはいえ、疲れたな」
中心部からすぐにあった東部の宿屋で宿を取ったのは良いが、二人は疲労困憊で、特にソニックは思い切りベットで大の字になって倒れており、動く気などこれっぽちも無い様に見える。
「そういえば、今何時なんですか?」
「4時だな。でもまあ早く来て良かったかもしれないな」
近くの市場でオレンジジュースを買って、それをコップに注ぎながら、その声を聞く。
「シャドウさん、大丈夫なんですかね・・・?」
シェイドはそう言いながら俺が注いだオレンジジュースを飲む。歩いたからか、飲む勢いが出発前よりも凄かった。ソニックも大の字から起き上がって同様に飲むのだが、正直こぼしたりしたら目も当てられない事になりそうだ。
「でも、多分ネイトの何処かにいるんだろ?」
「見た感じ、変な所は見当たらないんだけどなあ」
そうだ。確かに気をつけろって注意された割には、全く何も無かったというか・・・ウォイスが此処に入れなかった事だけ除けば、何も問題無い。そこがむしろ緩むどころか更に厳しく警戒を行うハメになるのだ。正直早く何か起こってしまいたい。遅くなればなるほど、この事態を無視する可能性が高まるのは間違い無いであろう。

「ん?」
シェイドは空を見つめると少々不思議そうな顔をした。
「どうしたんだ?」
「いや、その・・・何か人が飛んでいたので、何があったのかなーって」
上を見つめても誰もいない。ただ、凄い速さで飛んで行った可能性も否定出来ないので、窓を開けてみて、横を見る。一瞬だったが、何かが飛んで行った姿が見えた。
「・・・何があったんだろう?」
少なくともここ1年で空を飛ぶ誰かを見るのは数回しか無かった。魔導王国ならば、飛んでる人は少なくはないが、此処は其処からかなり離れているのだから、魔術扱う人は少ない。むしろ此処の住民の移動手段は飛行機や電車なのだから、飛んでる人がいればそれは十中八九変人扱いされるだろう。そんなイメージを着せられても尚、飛んでる奴なんて見たことが無い。実際俺も懸念している。俺の場合は色々と違うが、まあ他の人からすればそれと同類だろう。
「ここで首を突っ込むのもどうかと思うんだけどなあ、揉め事に無理して入る必要は無いと思うけど」
「とりあえず、様子見でもしてみるのはどうでしょうか?」
「えー、休もうぜ」
見事に三人の意見が分かれた。目を瞑っていたい俺と、首を突っ込みたいシェイド、そして今すぐ寝たいと駄々をこねるソニック。行くか否かだと『行かない』の意見が多い訳だが、遅かれ早かれ、さっきの謎については何か解明しとかないといけない様な気もする。ただ、タイミングは今じゃない。そう伝えてみると、シェイドは首を傾げた。
「今はその時じゃないと言いたい訳ですか・・・今追わないと何があったのかよく分からないのに?」
「色々考えてみろ、もしあれが手下だったら逆に相手の方が好都合。それに、多分この状況だから多分噂が出るんじゃないかなって」
「噂?」
「まあ明日になってみれば分かるとは思うがな・・・シャドウがいるし、そういう情報は後からでも手に入る気がするんだよ」
「・・・正論だな」
「ソニックが入ってくる幕は無いだろ」
「まあな」
俺が睨んでも、ソニックは完全に笑っていた。シェイドはその様子を見て苦笑いをしているが、まあ和んでくれてはいる。・・・和んではいけないのだが。
「分かっているんだよな?」
「ああ」
「じゃあこれからどうする?」
「寝る!!」
「「・・・・・。」」
もうこれは確定したらしい。彼のドヤ顔が確信している様にしてか見えない。シェイドの顔を伺うと、何処か呆れている様な顔をしていた。多分俺もそんな顔をしているだろう。この空間の中で彼のうざさを感じるのには十分な静かさだった。

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「・・・。」
「そういう訳なんですよ、シャドウさん」
「貴様ならば、ある程度は把握出来たのではないのか?」
「途中までは何もかもが順調だったのですよ」
「・・・『途中まで』は?ということはイレギュラーな事でも?」
「幾つか。まず、ガナールの行動が急に活動的になり、私からの監視を掻い潜って何処かに行ってしまいました」
「活動的に、か。ウォイスの命令は受けていたのか?」
「いえ、全く。おそらくはあの人の意思に従ったのかと」
「でも彼奴があんな事をするとは思え難いな。ウォイスの信用を落とすのでは無いのか?」
「少なくとも現時点ではウォイスはまだその事に気付いていません。後で呼びかけますが、おそらく誰でも直ぐに勘付かれるのは明白ですね」
「ソニックやシルバー、シェイドには伝えたのか?」
「いえ、全く」
「・・・そうか」
「それで、二つ目なのですが、どうも厄介なことにエメラルドが隠されたのですよ」
「・・・!?紅月らなのか、それは」
「・・・・・・それが、違うんですよね。第三者がエメラルドを隠したのです」
「第三者・・・?」
「私からでもあまり分からないのです。多分この世界について多方把握されているのでしょう、完全にバレない様な服装をしてました」
「フードでも付けていたのか?」
「ご名答ですね。そうですよ、フードを付けていたせいで顔が全く見えなかったのですよ。しかも仮面の様な物を被っていたので、尚更です」
「完全に監視されていると分かっていないとそれは行えないな」
「ですよね。少なくとも此処を把握しているのは明らかです。問題なのは・・・」
「そいつらが味方か否か、ってことか?」
「それも重要なのですけど・・・一番はそれによる戦闘が起こってしまう可能性です」
「・・・僕はまだ良いが、ソニックや紅月がその人達に襲ってくるのはマズイ。そういう事か?」
「それによって規制なんか行われたらそれこそ首を絞める事になるでしょう?」
「それもそうか・・・」

「・・・分かった。奴らのことも警戒することにしよう。だが」
「・・・?」
「使命の方が優先だ、まずはGUNの方を片付けなければならん」
「あ、その使命についてなんですが」
「何だ」
「地下の方に凄まじい量の魔力と、あの黒い奴の集まりがあるみたいなので準備はお忘れなく」
「ああ、多方把握はしてる。大丈夫だ」
「・・・あと、これだけは言っときたかったので良いですか?」
「?何だ、それは」
「それはですね・・・」


バーンと音が木霊する。僕は奴の話を最後まで聞くことが出来ずに、起きてしまった。
ルージュも同様の様だ。布団から起き上がって、窓を見る。下には悲鳴やら何やら煩い声が多数。
「・・・これはどう考えてもテロだな」

 

5時32分。この時点で既に勝負は決まっていた。僕達が完全に危惧していた筈のその出来事は起こってしまった。
―もし、ウォイスがこの事を事前に予知夢で分かっていれば、もしくは・・・。
『背後でそれを嘲笑うかの様に立っていたその人物は、一体何者なのだ??』


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続く。

next 1-03章  core

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。