夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

『ε、製造データ3』

「良いから黙ってくれないかな?自分だってこんな事したくないんだぞ?何故こんな事をしてまで貴方は忠誠を誓うのかな?」

「笑ってくれるその姿が一番の至福。貴方だって至福を奪われるのは嫌でしょ?」

「じゃあそうやって横たわる人を見て、彼奴が喜ぶのか?」

「それはどうか分かりませんよ。復讐が目的だったのであれば、それは達成された事になりますよ―私の手によって、ですけど」

腹ただしい、とでも言うかの様に貴方は頭を掻く。意見の食い違いも少なからずある物なのだが、やっぱりあの時動かない方が良かったのだろうか。私は頭を抱える。

「そんなに苛立っているのであれば、私を殴れば良いじゃない」

「貴方にやったら跳ね返るだろ・・・」

貴方がちゃんとしてれば良いんだけどさ、とか言うつもりだろうか。

「・・・言うつもりは無いさ」

「あら、読めました?」

「貴方の挙動、仕草、思考、全て読めているさ。断言するけど貴方は絶対に私を倒す事は出来ない。心を空っぽにさせる、そう考えた事もあるかもしれないが、それは悟りを開く様な行為だ。悟りを開く行為、貴方には出来やしないさ。というか物欲や忠誠もろとも吹き飛ぶ事になるしさ」

「無心になる事はまずありえない、と?」

「そういう事だ、心理戦なんか陥ったって、私の前ではそれが全て裏目に出て御終いさ。確かに貴方は僅かな動きで心理を読み取る事は出来るけど、正確に読む事は出来ない」

若干自慢話をされた様な感じを受けたが、若干余裕のある様にも見えた。・・・その割には表情が若干硬くなっている様に見える。とはいえ、本人は多分気付いてないし、よほど見ないと分からないのだが。

「―今貴方が考えている事、私を口説いてしばらく私を出さない様にする」

唐突にその事を告げると、貴方は少しだけ動じた。・・・どうやらビンゴの様だ。貴方は笑いを浮かべ、頭を抱える。

「よく分かったな。そういう意味では擬似的に心を読んでいると言えるか。それでどうするの?私を倒して逆に支配するの?」

「何もしないよ。乗っ取っても私に害を及ぼし、逆効果なのは・・・あの異変の時に思い知らされたのだから」

あの異変以来、私は貴方に逆らう事はしなくなった。理由はさっき述べた通りだ。・・・そして、あの時に何かが起こったのかという位、仲良くなった。ギャップに耐え切れなくなるのでは、そう危惧していたのだが、私はとある事を思いついた。それ以来、貴方は何も負担を掛ける事は無くなった。・・・私の疑惑が向けられる場合が殆どだが。

「―そういえば、もうすぐテストみたいだよ」

「・・・?」

「その間は貴方も眠ってて貰うからね」

私の含み笑いに、貴方は理解出来ないまま首を傾げている。それで構わない。どの道貴方は非道の道を無意識に歩いているのだから。

 

 

赤い液体の中で私は目を開ける。沢山の管を腕に付けられて、意識も朦朧としている中、不思議なことに脳内に何か変な物を植えつけられた感触を受けた。完成体に近づくこの体を私は気付く事は無い。古いバージョンの感情の記憶は、失われるのだと思う。そう思えば、私は何故か怒りを覚えた。

誰もいない。今なら逃げられるーと思った私が何処かにいたのだろう。私はいつの間にかこの閉鎖的空間から逃げ出していた。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。