夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 2-02章 Floating

夜中

 

「ちゃんと一人やっつけましたよ。・・・残念ながらそれは中心ではありませんでしたけど」
「・・・本当にやったんだな、やはり凄いよ、お前は。僅か一日でそれを成し遂げるとは。心は痛まないのか?」
「まさか。そうしたのは他でもない、貴方様ではないですか」
「それもそうだな・・・という事はあんなになったのは」
「―妨害が無ければ、全てはちゃんと出来ていましたよ。それがあの子が必死に私の手を押さえつけるんですよ。『もうこれ以上手を汚す様な事は止めて』、ですって!!笑えますよ、その為に私が生まれたのに!!」
「・・・そんなに壊すのが好きなのか。一歩間違えたら第二の紅月になりかねないな・・・・・・どうやら俺はとんでもないものを作ったらしい」
「―?とんでもないものとは酷いですね、私は・・・」
『「俺」「貴方様」によって作られた存在「だからな」「ですから」』
「アハハ、重なっちゃいましたね。それはそうと、もうすぐ満月じゃないですか。どうするのです?あの満月姿、あの子は一回見た事があるんですか?」
「・・・一度も見せた事が無い。紅月ですら俺の弟子だった頃は見せなかった。見せたのは―彼奴らだけだ」
「・・・・・・成程。じゃあ、隠れてないといけないですよね。ちゃんと理由付けて行かなくては、多分あの子ついていきますよ。生半可なものではまず通らないでしょうね。どうするのです?」
「その時はお前が俺の代わりをやれ」
「え、ええ!?それは流石に無理ですよ・・・幾ら私が幻術使いだからって、ずっとそれをやっていたら私にまで影響が・・・・・・」
「・・・冗談だから真に受けるな」
「貴方の冗談は分かりにくいのでお願いですから真剣な時はちゃんとしてくださいよ・・・まあ良いです、その後はどうしましょう?」
「さあな、正直に言えば、俺もこの後どうなるかもよく分からないんだ。ただ・・・彼奴がいる所に行く事になるかな」
「―彼奴?」
「まあ、彼奴とはあまり接点が無いからな・・・友人の友人だしな。まだ近い方かもしれないが。行ってみる価値はあるだろう」
「・・・一緒に行けないのですか?」
「出来れば止めて欲しい。・・・命令ではない、お願い程度だ」
「・・・分かりました。」
「悪いな」

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誰もが君みたいに音速の速さで駆け抜けるといったら大嘘だ。普通の人間であれば、そんな事したら顔が潰れそうな位であろう。あんな事が出来るのは、我らの様な種族・・・面倒なのでヒトと呼ぶ事にしよう。ヒトしか出来ない。
此処は人とヒトが共存している世界である。何故なら、差が殆ど無いからだ。ヒトは皆小さく、力強いのが特徴ではあるのだが、その能力を使うのにもそれなりの代償がいるという訳である。人は大きく、其処まで強くないのだが、能力を使う際にはよほどの事が無い限りデメリットは無い、らしい。
「お前の方がよっぽど非現実的じゃないか。超能力を使っているのは言い逃れ出来ないけどさ、あれほど証明出来る物もないだろ」
「違う、あれは超能力に値しないって何度も言っているだろうが。ああ、もう格好良く言おうとしたのに!!」
「お前の主観はそうかもしれないけど・・・なぁ?シェイド、やっぱりアレは超能力だと思うか?」
「え!?え、えーっと・・・はい、あんなのは今まで見た事無いですし、やっぱり超能力ですよ」
シェイドもそう言っていた。果たして俺の持つその能力を何処まで知っているのかは俺にはさっぱり分からなかったのだが。
ああもう、面倒な事になっている。俺の能力は一体どうやって説明をすれば良いんだ。いや、皆の能力そのものの説明をどうすれば良いんだ。
「あーもう!!お前ら俺を弄り回すのは止めろよ!!」
「アハハ!!」
「・・・。」
俺達三人が笑いながら話すのに対し、ウォイスは溜息をついてぼんやりと空を見ていた。何処か浮かない顔をしている。気になった俺は声をかけてみることにした。
「どうした?」
「・・・。」
声をかけても何も返事をせず、ただぼっとしている。俺は彼の前に手を振ってみる。
「お~いってば」
「・・・ああ、シルバーか。どうした?」
「どうしたって・・・お前なんか調子可笑しいぞ?」
「・・・気のせいじゃないか?それよりも、丁度良かった。ちょっと話がある」
「え?」
大声を出しそうになったが、それより先に彼が耳元で囁いてきた。
「夜の11時にこの建物の屋上に来い。一人で来てくれ、他の人にはちょっとばかり話しておけない内容だから」
「あ、ああ・・・。とりあえず、元気出していこうぜ、な?丁度此処には美味しい食べ物ばかりが集まる所だからさ、食べて元気出そうぜ?」
「そうするよ。どうやら少し疲れている様だな・・・美味しい食べ物があるんだもんな、後で食べてみるか」
そう言うと、彼は微笑んだ。自然な微笑みに俺は若干違和感を感じた。
(・・・?何か変だぞ?)
「・・・風呂にでも入って楽にしているか」
そう言うと、彼はそのまま風呂場の方に行ってしまった。ただ、その時にはその違和感も何処かすんなりと消えていた。
多分俺は昨日の戦いできっと疲れているんだろう。そりゃそうだ。散々歩かされた後にあんな事件に立ち会えば、疲れるに決まっている。だから今日休んで明日に備えるんじゃないか。
そう考えてきたら、消えていた違和感も忘れてしまった。どうやら、俺は本当に疲れているらしい。
「いや~俺達も疲れているんだしさ、食事回りよりも普通に此処で食べた方が良いんじゃないか?こっちのご飯、すっごく美味しいぞ?」
ソニックが呑気にそんな事を言っている内にも、きっとこの感情は忘れてしまうだろう。

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「えーっと、11時って言っていたけどさ。これで良かったか?うう、寒い・・・」
「悪いな。あんまりあの子に言いたくないのさ。―ハイ、これ。羽織っていろ」
ウォイスはそう言うと、コートを渡した。
「せんきゅ。・・・言いたくない用事ってことはやっぱり・・・?」
「・・・もうすぐ満月だ」
そう言うと彼は空を見上げる。満月、新月、三日月・・・皆が趣があると言われている様な月ではなかったけれど、綺麗な丸を描きそうで描けない様な楕円形をしている月が辺を照らす。
何故、今頃そんな事を言うのだろう?俺やソニックは彼が狼男の様な症状を持つ事は分かっているし、それで何度も苦しめられた。何故・・・?
「満月になると姿が変わる事・・・それに何か問題でもあるのか?」
「見られたらマズイという話だ」
「見られたらマズイ・・・?」
「お前はアファレイドの住む人々の特徴を知っているか?」
「いや・・・俺は全く・・・というよりも何故それに関連するんだ?」
「アファレイド生まれの人は全員目の色は青だ。わざわざ外国の人との婚約に制限を付けたりしている程、その文化を尊重している」
「・・・あ、そうか。あの姿になるとお前は瞳が・・・。ついでに、アファレイド周辺は目の色が違うだけで差別を受けるとも聞いた事があるな」
「ご名答だ。もうこの際言ってしまうが、あの子はアファレイド出身だ。弟子につけた時もいた時だしな」
「・・・?そしたら、今までどうやってやり過ごしたんだ?あの様子じゃ、何年か共にいたんだろ」
「俺はあの子が小さい頃こう言ったよ。『満月の夜には悪魔が出てくるから早く寝なさい』と」
「悪魔・・・?お前の事か?」
「さあな。それはさておき、だ。・・・どうも今のままだとどうしても夜中でも行動しないといけない時が出てくるだろう。それが例え悪魔が出てくる様な時間帯だったとしても・・・な」
「それがどうしたんだ?いじめられるのを恐れているのか?」
「違う。・・・単独行動をさせて欲しいのだ」
「え?だって」
「―俺はあの方の近くにいてはいけない存在だ―」
唐突に、小声で、そう呟いたのだ。いてはいけないの意味が俺にはさっぱりだった。言及はするな、という事だろうか。
「・・・分かった。あと一つだけ質問良いか?何故俺にしたんだ?ソニックやシャドウでも良かったんじゃないか?」
「もう一つ、情報を渡しておこう。むしろ、その情報がお前の胸だけに留めて欲しかったのだ」
「・・・?」
「ガナールが幹部の一人を殺した。どうも手がかりを見つけたらしくてな、お前なら分かるだろうって言ってこれを渡してきたよ」
そう言うと、密封された袋を渡した。中身を確認してみると、ひとつまみする位の大きさをした綿が入っていた。
「これ、どういう意味だ?死体の服に綿があったなんて、意味がわからないぞ」
そう言うとウォイスは綿に睨みつける。
(ああ、これは・・・。道理で違和感があった訳か。って事は彼奴と接触した形跡が残っていたという訳か)
何故あんな違和感があったのか、不思議に思ってはいた。ただ、そうすれば、何故あんな事が出来るのかを考える必要がある。明らかに非現実的だ。
「・・・其奴の名前とその近い人物は聞き出せたのか?」
「聞いたらしいな。名前はリージュ、近い人物と言っても、どうやら幹部になりたてだったらしいから、位は幹部の中でも下の方だったんだろうな・・・分からなかったよ。幹部の方で仲がそれなりに良かった奴はいたらしいが、ソイツの情報は無い」
「成程なー・・・分かった。じゃあ、俺が預かっておくよ。あと、彼奴も俺がちゃんと世話をしておくよ。・・・でも、ちゃんと言う事も大事だぞ」
「分かっているよ、それくらいは」
若干微笑んでいる様子は見られたが、心の底から笑っている様な感じはせず、冷たかった。

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The 4th day

歪な感情は捨てろ。そんな事で彼らは振り向いてはくれない。
私達が望む光景が必ずしも幸せになる訳ではない。
犠牲が伴い、其処から笑顔が溢れる物だ。
だから、私のやっている行為は間違ってない。
間違っていないのだ。
頭が痛いのであれば、感じなければ良い。
心が痛いのであれば、吐き出せば良い。
足が痛いのであれば、休めば良い。
私が痛いのであれば、消えれば良い。
ああ、私は一体何をしているのだろう。意味が分からない。
「あ・・・アアアッ!!」
頭痛。鋭利なその剣は、何を壊すおつもりだろう?―分からない。
私が今やっている行動は何か?―分からない。
ただ、理由なら分かる。『邪魔なものを取り除く為』だ。
これさえあれば、私はそれに身を投じられる。
結局、私は劣等品にしかなれない。だから頼るのだ。

毒と薬は使いよう。
皆は毒だって言うけど、私は薬に見える。
それだけの話だ。
激しい頭痛に見舞われた後、私は何もかも感じなくなった。
「・・・プログラム発見、開始。あと5分・・・」
私は端末を前に佇んでいた。

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「・・・事後報告ご苦労。お前はどうするのだ?」
「私は貴方と違って、お仕事があるのよ。まあ貴方のやる行為もお仕事の一つか」
「ああそうだ。だから後は頼むぞ・・・彼奴らが不安だしな」
「・・・なんだかんだで心配なんでしょ?」
「口裂くぞ」
「じょーだん。そんなに怒らないでって・・・」

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続く
next 2-03章 Scream

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様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。