夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 2-03章 Scream


端末のインプット完了まであと20%。
これが終われば、次はその周辺の端末をハッキング、情報を得る算段である。勿論、それまでに出てくる敵は一匹残らず排除する。当然のことだ。
ほくそ笑んでいるのは何処の人間だ?
「人間だの機械だのでどうこう言う辺、生命体らしいな」
生命体、果たして自分は生命体なのだろうか?
背後にいる敵はそう言っていた。そうだ、これはあの時いた―
「・・・?」
「インプットしている内容以上に無表情だな・・・」
メイドロボット。自分は知っている。このメイドロボットは失敗作だった事を。そして、奴は彼奴らの配下にある事を。自分以上に言葉を発せているけれども、心があるからではない。そうプログラムされているのだ。自分と似た者同士という訳だ。
「まあ、多分同一人物だろう。貴様を排除しにー」
ロボットは言いかけた。排除しに来たと。排除という言葉に反応した私は容赦無く鎌を振り回す。避けるのに必死で、言い切れなかったらしい。
「・・・此奴、一体何者なのだ・・・?」
「私はガナール・イプシオンと申します。今日は貴方のご主人に関する情報の一部をインストールする為に此処に参りました」
「そんな事分かっている。感情を持つとはデータにあったのだが、どうしたのだ・・・?」
「邪魔する様なら排除します。しないなら早く消えてください。10秒以内にこの部屋から立ち去らねば敵とみなします」
相手は疑問ばかり投げかけてくるが、そんなの知ったこっちゃない。話は聞いてくれそうにない、そう判断したロボットは持っていたモップを自分に向けた。―先は刃になっていて、正直危ない所だ。
「生命体と機械人間・・・どっちが凄いのだろうかね?」
「二つも素晴らしい技術の結晶です。差別化は不可能です。工学か生物学に科学を入れた物、ジャンルが違いすぎます」
一歩引いて、目を閉じる。一瞬でも隙が生じれば自分は斬れれてしまう事だろう。怪我をすれば、修復は難しそうである。向こうはアンドロイドの様なロボットだから、修復するのは自分よりも大変そうだ。
「短時間で決める―」
集中した。頬辺が若干熱く感じられた。ロボットは自分が最初から本気である事を分かったのだろうか、向こうも二刀流をしている。まあ、自分の本気を出す姿は他の人よりも直ぐに分かるであろう。印が出てくるのだから。
「素晴らしい魔力だ。貴方の体の一部を利用すればご主人様もお喜びになられる・・・!!」
興奮しているのが見て取れた。元々あの子にそんな感情があったかどうかは疑問に感じてはいるが、自分にそんな余裕など存在しなかった。

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「待たせて本当にすまなかった」
待ち合わせの時刻でやって来たシャドウが最初に言った言葉だ。彼も彼でとても忙しかっただろうし、大量の仕事を一日で終わらせた上でこうして普通に会話する状況を作ったと思うと、むしろ逆に不安になってしまう位頑張ったんだろうなと思ってしまう。
・・・最も、彼に疲れの表情が現れてなく平然としていたから多分いらぬ心配なのだろうけれども。
「本当に申し訳ないな・・・この事件終わったら何かおごってやるよ。疲れてないのか?」
「所詮事後処理だ。直接命に関連する事はしていないだけまだ・・・。それよりも、ウォイスはどうした?」
「ウォイスさんは・・・いなくなりましたよ」
「・・・?どういう事だ?」
「ああ、それがだな・・・」

 

『ちょっと訳があって離れないといけなくなったんだ』
朝起きてきて、早々そう言った。俺はあらかじめ言われていたので問題は無かったのだが、他の人からすればそれはあまりにも唐突だったので唖然としていた。「言い出しっぺが何故このタイミングで?」とソニックはそう尋ねてみたのだが、
『こっちもかなり大事なのだが、他にも大事な面があるから』
と申し訳なさそうに言っていたのは今でも覚えている。
俺とソニックは他の大事な面がなんの事だか分かっていたから問題は無かったし、ソニックはそれで納得した。だが、シェイドはそういう訳にもいかない。だから、「僕も連れていって」と言った。だが、
『こっちにもプライベートがあるのだ』
と言って、理由をはぐらかしながらもその要望を拒否した。後ろめたい事、見せない方が良い様な事をプライベートという言葉だけで終わらせられるという意味では、プライベートがどれほど万能かを知る事にはなった。しかし、この嘘が何度も続けられる訳ではなさげだ。
「なるべく早めに終わらせろよ?」
事情を知っていての発言だ。ウォイスはただ『ああ』としか言わなかったが、若干悲しげな目つきをしていた所が不思議に思えた。

 

「という訳でな、ウォイスはしばらくは単独行動を起こすみたいだ」
「なるほどな・・・」
シェイドがいるので、いなくなった本当の意味を話す事は出来ない。ただ、察しはついた様で、シャドウは納得したかの様にただただ頷いていた。
「彼がそうしたいと言うならそうしておくか。まあ彼の事だからやらかしたりはしないだろうしな・・・」
「シェイドの世話は俺達でやっておくから、な?」
「・・・僕を子ども扱いしないでくださいよ~。僕これでも貴方達と殆ど同い年に近い年齢なんですよ~?」
「え、そうだったのか・・・!?悪い・・・」
衝撃の事実発覚。なんとシェイドが俺達と歳が近い事が分かった。シャドウはまあコールドスリープがどうとかソニックが言ったので、実年齢と肉体的な年齢・精神的な年齢はズレが生じているのは分かっているのはまあ別件としても、俺やソニックで歳近いという事は、13~16歳辺なのだろうか。それにしても若い。ウォイスの話を聞いても子どもなんだろうなとは思っていたが・・・。
「もう、僕これでも14歳なんですよ?失礼しちゃうなぁ」
「1歳年下か!!」
現時点で、俺は15歳になっている。という事は学校であれば同じになっている可能性もある。まあ彼の誕生日が分からないのでアレではあるが・・・。
「な~んだ、俺達と殆ど変わらないじゃないか!!これから普通に呼び合おうぜ、my friend?」
「は、はぁ・・・」
急にテンションが上がったソニックに、シェイドは引いていた。まあウォイスが小さい頃から世話してきたって言うのだから、敬語を使うのが当たり前になっていたのだろう。
そんな事よりも、年齢話についていけないシャドウの方が可哀想に見えてきた。完全においてけぼりだ。
「あー・・・シャドウ、大丈夫か?」
「・・・帰っていいか?」
「止めてくれ、俺が苦労するから」
「ならさっさと出発しろ」
「分かったから・・・」

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さよなら、故郷よ。
俺はあの故郷の事が大好きだった。
これが何番目の故郷かは忘れてしまったけれども。いや、覚えていないのだ。
また、あの故郷に戻る日々は来るのだろうか。少なくとも俺が平穏に故郷に住む事はもう二度と出来ないだろう。
愛しいあの子は一体何処へ行ったのやら・・・

 

「久々だな、あの時以外で一人で過ごすのは」
伸びをしながらも、遠くに見えるあの景色はいつも綺麗なままだ。いつまでも、その輝きを照らし出して欲しいものである。
自分の故郷の一つ、アファレイド魔導王国を遠目ながら見ていた。あの頃はとても良かった。あの頃は・・・。
そう思えると、やっぱりあの紅月がとても憎たらしく感じられる。あの頃の記憶の殆どが彼奴によって汚されてしまった。絶対に許せない。個人的な恨みも込めてはいるけれども。大切な友人を亡くした恨みは強い。
ラネリウス、ノヴァ、ディアネス、ハルチア、ラヌメット、ガラル、アルマ・・・此処で様々な人物と出会い、そして多くの人の亡くなる所を見てきた。今ではディアネスとハルチアとラヌメット以外は皆亡くなったり、消息不明となっている。自分一人では限度を感じていて、何とも歯がゆい光景だ。王宮を始めとする国民は皆無事だろうか。急激な変化についていけてるのだろうか。そう思うと、いてもたってもいられなくなる。
あの国は自分を必要としている。だが、自分が来ればおそらく彼奴も― だから、自分は彼奴の脅威を壊すしかないのだ。
「必ず、俺やソニックがこの世界を救ってみせる・・・必ず、必ず・・・」
そうじゃないと、皆が報われないのだから。そう言い聞かせた。

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「ちっ、感情を麻痺しているからって本気出しやがって・・・!!」
モップ(に見える刀)を振り上げているが、ガナールは首を動かして華麗に避ける。そして、其処から近づいていく。ロボットの方の刃はとても長く、此処まで来ると正直その長い刃が邪魔になってくる。短い刃の方が有利という訳だ。ナイフを握りしめ、振り下ろしていく。―貫通しかけた。モップの抜かれた部分を上手く利用して、ロボットはその短い刃を受け止めた。・・・動揺の色が見えた。無理と悟ったガナールは、そのままモップの抜かれた部分を文字通り真っ二つにして、距離を取った。そして・・・咳き込んだ。
「ゴボッ」
副作用が体を蝕んでいる様で、ガナールは必死にそれを隠した。だが、膝は地をついていて、その努力は正直無に近い。勿論ロボットがその隙を見逃す筈も無く、接近していく。
「・・・!!」
ギリギリだったが、帽子の額に当たる部分が切られた。金属部分だった為怪我はしなかったが、ガナールは名誉を傷付いた様な気分になった。傷を付けたのが今回が初めてだからだ。肉体的ダメージよりも精神的ダメージの方が大きい。
「貴様・・・!!」
獣の様な唸り声をあげながら近づくガナール。だが、獣はとある音を聞くと、直ぐに理性を取り戻す事となった。
『端末のインプットが完了しました』
「!!」
端末を取り出し、すぐにガナールはテレポートした。煙玉を使って逃げる事も考えはしたが、相手はロボット。赤外線センサーがあったら御終いだし、自分も視界が奪われる事を恐れていたのだろう。
「あ、待てっ!!」

 

テレポートした先は、原っぱだった。移動した直後、ガナールは副作用の効果が強すぎたのか、そのまま倒れてしまった。
「・・・ケホ、ケホ・・・そうか、薬を服用して、それで端末を・・・」
感情麻痺が解けてきたのか、表情は苦しみの色になった。ガナール・・・私が何も感じていない内に人々を切り刻んだりしていたのかもしれない。残念ながら、麻痺が発生している間は記憶が曖昧になってしまう。でも戦ったのだけは覚えていた。
誰かがこっちに歩み寄ってくる。先程の戦闘で体が動けないし、首を上げる事ですら困難の様だ。敵だったらもはやなす術も無い。家に戻る手段もあったけれど、これも結構時間がかかりそう。せめてあと1分あれば・・・
足音は私の目の前で止まった。青いブーツが映っていて、それだけでは敵か味方も分からない。相手がしゃがみこんだ所で、私はようやく相手が誰か分かる事になった。
「大丈夫か?」
「・・・ウォ、イス様・・・?」
「ああ。・・・もしかしてあの薬を使ったのか?」
「ええ・・・使いました。副作用がかなり強いので、よっぽどの事が無い限り使わない様にはしてたのですが・・・」
感情麻痺をさせる薬の副作用は大きすぎる。効果が効く直前は激しい頭痛に見舞われ、効果が続く間は記憶が曖昧になり、効果が切れた後はこうして一時的に疲れで体が動けなくなる。場合によっては幻聴や幻覚、二日酔いに似た症状が出てくる事もあり、危険である。本来なら使う事すら止めるべきなのだ。
そうまでして、服用する理由は基本的には只一つ。『仲が良かった人が敵に回った時に対処する』為だ。感情を持たぬ機械になれば、そういった事もせずに済む。しかし、感情を持たなければ心理学等役に立たない。中間に位置する為の行為に過ぎないという訳だ。
ウォイス様がそれをしようとするのは本当に稀だ。これを服用したのは、ソニックらと戦闘した時位だ。あれは状況が特殊だったので、他の理由で使ったが、副作用があまりにも大きすぎたので、それ以来は全く使わなかった。その位ならば、泣いてしまった方が楽の様な気がするのだ。
「アファレイドに俺の家がある。ルナもきっといるだろうから、それでちょっと治療を頼むか・・・動けるか?」
「一応、・・・っ」
何とか立ったが、立つのが限界だ。よろけそうになった所をウォイス様は支えた。そして、おぶった。
「シェイドさん、は?」
「・・・どうにかして逃げたよ。満月まであと少しだし」
「明日、でしたっけ・・・?」
「ああ。・・・データ、ありがとう。後は俺が片付けておくさ」
「ありがとう、ございます。その、えっと、何が入って、いるのですか・・・?」
「?ああ、これ、禁術が入ったデータが沢山積まれているのだ。あと、作戦内容も入ってる」
「・・・き、じゅつ?」
「まあ細かい事はルナの所に行ってからだな。今のお前じゃまともに会話出来そうにないだろうし」
「すみません・・・」
「良いんだよ、ちゃんとやってくれてるから」
ウォイス様がそう言うと、南の方角にある大きな街に向けて飛んだ。私を背中に抱えながら・・・。

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続く

next 2-04章 Bat cage

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。