夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 2-04章 Bat cage

 

「・・・ようやく着いたぜ。カオスエメラルドの反応も全く無かったな」
俺がそう口ずさむと、彼らは先の灯りを見た。
此処は宗教都市で有名なアポトスである。宗教的な意味では聖地とされている事が多く、此処の人々は特定の日に祈りを捧げているらしい。此処で崇拝されている神は様々ではあるが、創造した四人(?)の神々を崇拝する宗派が多い。他の宗派同士で争うのは基本的に全体の宗派でもタブーとされてきているので、よほどの事が無い限りそういった事は無いらしい。
少々北側に行った割には、それなりに冷たいと思った。というのも、此処の都市は異変が起きる前から山脈があり、1000m程あるとされている。の、だが・・・。
「変ですよ、此処の高度1200m前後あるのですから。地震の形跡も無いですし」
異変の影響からだろう。皆が若干苦しそうな表情をしているのは、急激な変化で高山病に近い症状が現れているからだろうか。
「服装の程は大丈夫だよな?」
「ああ、大丈夫だ。・・・というよりもお前がいればどうにかなるだろう」
確かに、有名人が此処ではあまり見かける事も無いから、俺がいたら食いついてきそうだ。
「・・・でも、気持ち悪いぜ。クラクラするのだが・・・」
後ろでひょろひょろと歩いてくるシルバーは、完全に高山病にかかっている。もうすぐだ、もうすぐだと声を聞いて一生懸命だったのだから、本当にお疲れ様と言いたい。
とはいえ、歩きで1000m行くと何時間もかかるので、俺とシャドウは走って、シルバーとシェイドは魔法や超能力で飛んで行ったのだが、逆にそれが仇となったのかもしれない。
「まあ、病院に行けば酸素ボンベとかあるだろう・・・高山地帯だしな」
「悪い・・・」
とりあえずは病院を探して見つけるのが一番だろうか。シャドウが面倒を見てくれると言ってきたので、俺とシェイドは病院を探す事にした。

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アファレイドにて

「あ、ガナール・・・!?どうしたんだ?」
ルナの研究所にはガナールの様にルナに作られた人達が住んでいる。入ってきて早々に心配してくれたのは、その人の内の一人、メルガである。彼はその人達の中でも一番常識人に近く、銃の扱いに長けており、その能力が買われて一部の部隊の隊長を務めていると聞く。
「メルガ、急いでルナを此処に呼んでくれ」
「ああ、分かった!!」
大急ぎでルナを呼びに奥へと駆け込んだ。本当に彼は話が早くて助かる。
一息ついた所で、俺はガナールの様子を改めて見てみた。
「気分はどうだ?」
「まだ優れてません・・・動けない・・・」
言葉は大分マシにはなったが、まだ後遺症が残っている様だ。いつまでこれが続くのかは俺には分からないが、少なくとも今日一日はこれが続くと見て良いだろう。
「ウォイスー、ルナ様を呼んだぞ!!」
「・・・薬を服用したのか」
ガナールの様子を見て、彼はそう言う。
「ああ、その通りだ。副作用の効果が以前と比べて酷かった。どうも体がまともに動けてないらしい」
「そうか・・・ちょっと研究室に来い、治してやるから。メルガ、ガナールをおぶってくれ」
「了解です」
「ありがとう、ございます・・・」
ガナールはただそう言うしかなかった。俺はメルガを助けながら、研究室へ向かう事にした。

 

「心拍数に異常なし・・・意識に若干の障害あり、体の一部に麻痺に近い症状が出ている・・・。あと、若干の幻覚が見えていると。ふむ、確かに以前よりも症状が重くなっているな」
あらゆる部分を診察してみると、ガナールは自身が思っている以上に症状が出ていた。かなり可哀想な事になっている。
「・・・薬漬けになりそうだな」
「大丈夫だ、あの液体の中に入っとけば数時間で元に戻る範囲だ」
「液体・・・服は脱いだ方が良いよな?」
「服は・・・・・・良いです、このまま、入りたい」
「だってさ、ガナールこの中に入っててくれ」
水色の液体がガラスの円の中に入っている。理屈だけで説明するのは無理だが、回復の効果をもたらしてくれるらしい。前試しに一回入ってみたのだが、俺は全然回復したという気分にはなれなかった。なのでこれは、彼が作った人々専用のモノと考えた方が妥当だろう。
ぽちゃん、と音を立ててガナールは液体の中に入った。幾つかの管が中に入っていたので、自力でどうにかしようとしたが、麻痺になっているので使えず、代わりに俺がその管を付けてあげた。
「終わるのは多分5時間後だ。それまでは眠っていてくれ」
「分かりました・・・」
ルナが起動のスイッチを押すと、ぶくぶくと泡が出てきて、管の中から何か液体が出てくるのが見れた。そしてものの数秒でガナールは眠りについた。麻酔でも入れられたのだろう。この状態になると、終わるまでずっと屍の様になり、液体の中にずっと閉じ込められる。意識が飛んでいるのが唯一の救いだろう。
「これで治ると良いが・・・。それよりもウォイス、アレはよほどのことが無ければ使うなとあれほど言っただろう」
「俺は知らないぞ・・・。データの採集だけ言っていたのだから、あれはガナール本人が撃ったのだろうな。・・・まあ、止めておけと言わなかった俺の責任でもあるか」
「ええと、ルナ様、ウォイス?」
「「何だ?」」
「こんな所で喧嘩してはガナールに見られるんじゃないか?意識が飛んでいるとはいえ、聞こえている可能性はあるぞ?」
メルガがそう言うと、半ば強引に俺とルナの腕を握って研究室を出た。ウィーン、と機械音と共に扉が締まると、彼は一息ついた。
「・・・危なかった。ああいう事をあの時の奴らに聞けば確実に記憶に残るからな・・・彼処で告白すれば多分彼奴反応するぞ」
「本当なのか?」
意識が飛んでいるから、聞こえる筈が無いと思うのだが・・・どうだろうか?
「当然だろう?俺は彼処の中を直々に体験した身なんだぞ?試しにやってみるか?」
「止めとけ、ウォイスにはそんな時間は無い。・・・どうするつもりだ?ガナールは出た後もあの副作用はしばらく続くだろうし、お前はお前で姿が変わってしまうのだろう?」
俺は・・・一体何するのだろう?場所のせいもあり、このままでは此処に留まってしまう事になる。だが、そんな事をすれば確実に遅れてしまう。
・・・やむを得ない。ガナールを一時的に此処に留めて貰って、俺は俺でやるべき事をしよう。ガナールの仕事の一部を終わらさなければ。
「出かけてくる。それと、ガナールにこう言ってくれ。『副作用が完全に治まるまで此処に残っていろ』、とな」
「分かった、言っておこう。あ、それとだな・・・」
「?」
「いや、止めといた方が良いな。いってらっしゃい」
「・・・いってくる」

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最近は意識すら朦朧としているらしく、いつもはこうして外の景色を眺めているのだと貴方は言う。外の景色が見えるのかと聞いたみたが、どうも言っている事がどう考えてもありえない光景を言っているので、おそらくは実際に見えている光景とは異なる光景を見ているのだろう。
光景といえば、そうだ。最近地震と共に地そのものに変化が生じてきている。それが只の地震だけなら良いが、地殻変動が起きている以上、大地震が起きている可能性は大いにあるし、それはそれで大惨事だ。
これの犯人は彼である。しかしそれは決して言ってはならない。何故ならば、その『彼』は今こうしてお話をしているからだ。
本来ならば、これは止める様に説得するや、或いは無理矢理にでも止めさせたりするのだろう。しかしそれは無理なのだ。会話聞いていくと、どうも誰かが邪魔をしているのだ。ではその誰かは誰なのか?勿論、我や彼の師匠に当たるウォイスがやる筈が無い。しかし、魂離術を会得し扱える様な人材は思い浮かべた中だけで言うならば、いないのだ。
「乗り移る、って言っていたけど。その後あの頃の会話が聞こえて・・・で、その後も一度似たような光景があったかな。今度こそは完全に、って言っていたよ。・・・貴方がいる時点で、完全にその完全は成されてなかった事が証明されたけど」
「こんな身なりでも結構苦労している。其奴の乗っ取りは殆ど隙が無かった。生半可な物では会話は愚か、貴方の姿ですら見れない。強敵だよ、貴方が乗っ取った人物は。・・・其奴は誰だ?」
彼は言おうか悩んだ様な仕草をしたが、こくりと頷いて割と素直に言ってくれた。
「今僕が名乗っている名前と同じだよ。前はリーナ・・・?なんだっけ、そんな名前だったらしいよ」
「・・・?誰だ其奴は?」
「其処までは詳しくはちょっと・・・アファレイドの教師だったらしいけど」
ならば話は早い。図書館に行けば、おそらく元々の人物に関連する書物はあるだろう。駄目であれば、聞き出せば良い。だが・・・。
「そうだね、貴方じゃきっと拒絶されるだろうね」
「・・・・・・大丈夫だよ、策はちゃんとある。ずっと過ごす訳じゃないんだから、いける筈」
「ははーん、さては目の色を変える魔術を使う気だね?だったら無駄だよ」
「!?」
「だって、あの図書館魔法全く使えないよ?使おうとすると綺麗さっぱり消えちゃうの。悪戯しても無意味だったから間違いない」
・・・どうしたものか。カラーコンタクトでごまかす事が出来るのだろうか心配だ。その事を貴方に伝えると、予想を反して大きく頷いていた。
「そうだよ、それだよ!!少なくとも皆はそういう文化には疎いから、おそらく大丈夫だよ!!」
嘘は言っていないらしい。確かに、彼処は魔術や古代の文明が栄えているのだから、科学的分野となってくるとおそらく穴があったりするだろう。
おそらくこの策で行けばどうにかなるだろう。
「助かったよ。・・・ではリーナ辺の名前を探してみるか。多分行ける筈だ。その前に・・・」
我は奥を見つめる。揺らめいている炎の様な物体があり、そこには本来の我の姿が映し出されている。この姿はある人以外では見る事が出来なく、我も時々この姿をしている事を忘れてしまう。その度にその人は「自身の姿を忘れてはいけない。それは貴方の存在を表すのだから」と念を押して言ってくる。若干うんざりしていているのは此処だけの内緒だ。その人は多分我を心配してくれているのだから言ってくれるのだろうが。
「まずは、この閉鎖的空間から出なければ。幸い、此処は我の家族の人がいる。お願いすればおそらくは・・・」
「お願い、そういった事は言わないで。いつ奴が貴方の行動を見ているのか分からないの」
「見ている?・・・我を舐めて貰っては困る。我は貴方の師匠や奴ですら惑わせる事が出来る者だぞ?見られてたまるか・・・一番の幻術使いの座を渡す訳にはいかない。それが我、ガナール・イプシオンなのだから」
一番でなくてはならない。それが我の特技であり、存在意義でもある。それが無かったら、我はあの方に認めて貰えなくなる。認めて貰えなければ、誰が我を認めるというのだ?恐怖で沢山だ。
「・・・ようやく名前を言ってくれた。いつもはそんなに強固じゃないのに、何故僕に対してはそんなになるの?」
「神様気取り・・・と言えば言いのだろうか。我は貴方の才能を見出している。あの方が手をかけたのも頷ける」
「でも、あの方が手にかけたのは・・・僕を監視する為でしょ?」
「否定はしないさ。こうなる事を予期出来たのならば、おそらくはそうするだろう。・・・だが、豹変した貴方の姿を見て、彼は必死だったよ。皮肉だな、彼は滅ぼす事が彼にとっては最善の道なのだと完全に信じ込んでいる。それどころか、現状を打破しようと我々を利用しようとしている」
「・・・それを知っていながら、貴方は彼についていくの?」
「我はこの道を進んだ。後悔はしていないし、何だろう、居心地が良いんだよ」
居心地が良いなんて言葉は不適切なのかもしれない。だが、確かに其処に我は温もりを感じられたのだ。
だから、我は彼に従った。彼が微笑むその姿を、我は望んでいたのだー。


~中間~


・・・。目が覚めた時には既に痛みは和らいでいた。頭痛もしないので、おそらくは治ったのだろう。ガラスの板の先には私の後輩、メルガがいた。歪んで見えているので、多分私は液体の中にいるのだろう。彼は私が目覚めた事に気付いたらしく、近くの端末をいじって液体を取り除いた。無くなった時にはもう、私はいつもの光景が見えていた。
「ガナール、大丈夫か?後遺症は残っているか?」
「大丈夫、ありがとう。・・・まだ若干意識が朦朧としているけど」
「ウォイスから伝達だ。しばらく休めだそうだ。お前、アレ飲んだだろ」
「そうだけど・・・何か問題でもあった?」
「大アリだ。アレはよほどの事じゃなければ使わない品物。予想出来る範囲でだが、ウォイスの話でお前が無茶する所は無かった筈だ。何故使った?」
「・・・。」
理由。私は何故あんな物を使ったのだろう?メルガの言う通り、普通にやってても特に何の障害も無くそのまま達成される筈だったのだ。一体何故だろう?自分でも正直言ってよく分からないのだ。思い出せ、思い出すのだ。大事な記憶が其処にある筈だ―。
・・・・・・。
「無理矢理思い出す必要は無い。ゆっくり思い出してくれ。薬の影響はかなりあるだろうしな。あと・・・お前何者だ?」
「え・・・?」
「お前、声質似せているだろ。彼奴に」
「えーと、彼奴って誰か聞いても良い?」
「・・・忘れた」
まあ、似たような所はあるかも知れないし、正直微妙な所である。無意識にやっていた可能性だってあるのだし。
「まあ、頭の隅にでも置いといておくよ。じゃあ行ってくるよ」
そう言って外を出ようとすると、私の腕に彼が掴んだ。無理にでも行こうとすると、彼は力を強めてくる。
「・・・お願い、行かせて。私は動けるから」
「駄目だ。ウォイスが『しばらくは休んでいろ』と言われている。少なくとも今日は駄目だ」
「行かせろ!!」
「クッ・・・!!」
強引に引き剥がした。休んでいる訳にはいかないのだ。重要な情報が逃げてしまったら無意味だ。
(それに、今回に至っては自己責任で動けるんだ。邪魔はさせない・・・)
この隙を逃す訳にはいかない。彼には申し訳無いが、しばらく解かせない幻術をかける他ない。
「フェクトムフェイク!!」
「!!しまっー」
一瞬の隙や気の緩みは幻へと導く大切な要素だ。彼はピクリと動かなくなり、やがて倒れた。どうやら見事にかかってくれたらしい。彼なら冷静に突破口を見つけようとするだろうから、おそらくは大丈夫だろう。
これでしばらくは来ないであろう。倒れる音も、私が支えた事によって綺麗に消えたし、このままソファーに寝かせてやればしばらくは気づかれない筈だ。確か、此処は王宮付近だった筈なので、此処から図書館までは少々時間がかかるだろう。彼の言葉を信じるのであれば、幻術は無意味らしいので荒事は起こせないし、目の色を一時的にでも青に見せる事も不可能になる。念の為にカラーコンタクトレンズ(何故か此処には科学的物品が仕入れていないらしい)を買っておいて正解だった。目の異常等はあらかじめルナに見てもらったので、問題ない。
「うっ・・・結構来る」
インディゴのカラーコンタクトは私の目にはピッタリはまった。ただ、少々慣れていないので少し違和感を感じるが、仕方ない。服装をしっかりと整え、私は研究所を後にした。

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風向きが変わった様な気がする。急にピタリと止まったので、一瞬不思議に思えたのだが。もしかしたら、何処かにいるかもしれない。彼はそんな気がした。だから、彼は探し始めた。友人に似た人を見つける為に。
彼の勘は当たっていた様だ。どうやら、遠くから英雄らしき人物がやって来たらしい。彼が感じていた違和感の正体も奴らは知っている様で、カオスエメラルドと呼ばれる宝石を探しに此処までやって来たという。一人高山病にかかって、近くの治療室で治療をしているというらしい。
そういえばと、彼はとある事を思い出した。あれは何ヶ月前のことだったか。記憶には其処まで遠くはないのだが、確か晴れていた時に郵便の人が笑顔で送り届けてくれたのだ。その人は見た目は彼と同い年位に見えたのだが、中身はかなり幼かった記憶がある。笑顔で送り届けてくれた時には彼も若干驚いたのだが、そんな事よりも、手紙の内容の方に驚かされる事になった。
手紙、とは言っても彼は文字が読めない。なので、ボイスレコーダーが代わりに入っている事が殆どなのだ。しかし、今回は手紙で来ていた。上にボタンがあった事に気付いた彼は、試しにそのボタンを押してみると、声が聞こえてきたのだ。
『アッシュ君、お久しぶり。元気にしているかな?』
その声の主が一体何者なのかは分からなかったが、口調や声、雰囲気からおそらくはあの人なのだろう。声は続く。
『僕、今はウォイスさんの弟子として魔法を勉強しているんだ。小さい頃からずっと見ていたんだけど、凄いんだよ!?僕の知らない魔法を沢山知っているんだ。どうやったらそんな風に出来るか聞いてみたんだけど、よく分からなくてさー』
何の為の手紙だろうか。ウォイスというと、彼の友達の師匠でもあった筈だ。直接対面して会話をした事は殆ど無かったので、彼が具体的にどんな人かは知らなかったのだが、とても冷たい目をしていたのと、仏頂面をしていることは覚えていた。友達との仲はそれほど良かったらしく、悪戯をして困らせてきたと自身がそう言ってきた。
と、そうこう考えている内に遠くから『早く本題に入れ』という声が聞こえた。声の主とは違う誰かだろうが、おそらくはウォイスだろう。
『ごめんなさい。えっとね、近い内に君に会う事になりそうなんだ。それでね、お願いがあるんだよ』
「・・・お願い?」
『僕の身分はウォイスが保護しているから問題ないけど、いつも通りの名前を言っちゃうと大変な事になるんだって。公では僕とウォイスは行方不明のままだからって。だからね、偽名を使う事になったんだ。お願いというのはね、第三者がいたら僕の名前じゃなくて、偽名の方で読んで欲しいんだ』
偽名の意味は何となく分かっていた。確かに、声の主がそのまま名乗ったら大事になりそうだ。
『偽名はね、シェイドっていう名前にしたの。シェイド・サンシャ。これからはシェイドって呼んで欲しいんだ』
『出してすぐに彼に会う事はおそらく出来ない。多分三ヶ月後位になりそうだ。彼は無事だ、安心してくれ』
『これだけ伝えたかったんだ。名前完全に覚えたら、この手紙は捨てておいてね。情報が漏れると大変なんだ。一方的で申し訳ないけど、お願いね。じゃあ、切るよ。元気でいてね!!』
と、此処まででプツリと音声が切れた。
「シェイド・・・シェイド・サンシャ。それが彼の名前か。彼が考えたのだろうか」
とにかく、名前は覚えたので、直ぐにその手紙は声の主の言う通りにクシャクシャにして捨てた。


探してみると、確かに彼はいた。見知らぬ連中3人いたのだが、おそらくはその英雄という人々なのだろう。その内1人は酸素ボンベを吸って呼吸を安定させようとしており、一番最初に彼の存在に気付いた。
「・・・赤いコウモリだ」
その人の声に気付いたらしく、声の主はすぐに振り返った。振り返ったその姿は本当に彼奴そっくりである。
「!!アッシュ!?」
「・・・久しいな、シェイド」
なんて言えばよく分からなかったので、とりあえず彼は偽名の方を言っておいた。

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「此処が図書館かー・・・広いなぁ」
武器も一通り研究所に置いてあったので、問題はない。
最初に驚いたのは、広さだ。王宮付近という事もあり、図書館はとても広く、何段にも重ねられた棚の中には沢山の本が置いてある。私も生まれた直後は此処の書物で勉強をしたものだ。此処にいれば多方の知識は入れられるだろう。
さて、本題の『リーナ』と呼ばれた人を私は本で調べたいのだが、ざっと見た感じでは先生に関連する項目や、魔導学校に関連する項目辺が丁度良いのだろう。早速、私は此処の中では一番有名な学校を開いた。
『アファレイド魔導学校
 王国直々の学校。初等部・中等部・高等部の三つの部があるのだが、これとは別に部があるという噂もある。基本的に王宮に直属している人々は此処で学んでいる事が多い。今年の主席はシアン・クロックリバーであり、彼女は生活魔術分野においてはかの有名なウォイス氏を上回るという。
先生も多くは此処の出身である事が多く、高等部に行くと一人一人が何らかのスペシャリストである場合が殆どだったりする。・・・』
シアン・クロックリバーと呼ばれた女性の写真があったが、そんな事はどうでも良い事である。教師を探さなければ。

2時間程かけて本を探したのだが、全くと言って良いぐらい教師の表が無かった。やっぱりプライバシーの侵害になりかねないのだろうか。
ダメ元でとりあえず受付の人に聞いてみる事にした。
「あの、すみません。魔導学校の教師について調べたいのですが」
「ああ、悪いがそれは今扱えない情報になっていてね。許可書が無いと無理なんだよ。悪いが、引き取って貰えるかね?」
「ええ!?」
思わず叫んでしまった。なら、どうすれば良いのだろう。魔術は効かないとは聞いていたので、抵抗は出来ない。とはいえ、私だってそういう訳にはいかない。少々粘る事にした。
「ウォイス様のご命令でもですか?」
「ああ、駄目だ。そもそも貴方は何者だ。見かけない顔なのだが」
「・・・ウォイス様の従者ですよ」
「駄目だな、本人も来て貰えないと。お引き取りください」
ウォイス、という名前を使っても首を縦に振ってくれそうに無かった。どうやっても無理そうだったので、私は引き返そうとした。・・・そう、声をかけられるその時までは。
「そこの貴方、少しよろしいでしょうか?」
不意にそんな声が聞こえたので、私は振り返った。最初手の方に目が行ったのだが、筋が出ている辺、それなりに年齢は行っている様だ。私はその人の顔を見てみると、サイドテールの髪が出ており、肩辺まである前髪は結構鋭かった。あと、何故か片眼鏡をしているのが見えた。視力でも悪いのだろうか。
「貴方、ウォイス様の従者なのですか?」
「え、ええ・・・」
「では、貴方はガナールという者で?」
「そうですけど・・・あの、意図が見えてこないのですが」
「成程・・・少しお話がしたいので、ちょっと良いですかね?」
「はぁ、まあ、良いですけど・・・お名前をお聞かせしても?」
「ああ、これは失礼致しました。私はノヴァ・リヴェルと申します」
その中年は、そう言うと親切ご丁寧にお辞儀をしてきた。

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続く。

next 2-05章 Identification

かなりの進展があった様な気がする。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。