夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 2-08章 Apollo

 

「大変です、紅月様!!ウォイスが、ウォイスが・・・ぐあぁぁ・・・」
通信機から下僕の悲鳴が聞こえる。外では剣と剣が交差するあの忌まわしい音が鳴り響く。
単身で奴は大群に突っ込んだ。普通ならば無茶すぎる行為であったし、我も「ついに狂ったか」と思ってたかをくくっていたが、その思いとは裏腹に奴は沢山の下僕、闇の住民を蹴散らしていた。
繰り返し言うが、奴はたった一人で襲いかかった。奴と比べれば比較的弱いとは言えど、5000体をも超える闇の住民やそれを率いる人々ならば幾ら奴でも弱る筈だった。それが、こっちが押されるという結果となっている。ありえない。
『所詮は、只の一つの式に縋った魔導師か。単調過ぎて笑わせる』
通信機から奴の声が聞こえる。笑い声の中には余裕すら感じられる様な狂気を感じられる。
『紅月、この声が聞こえるのだろう?宣言してやるよ、日付が変わらなぬ内に此処一帯は死骸で埋め尽くされる。俺によってな。来いよ、無慈悲に葬り去ってやる』
その声の背景がどんなモノなのかは分からない。ただ一つ分かるのは、人々の悲鳴が聞こえるだけ。その悲鳴の中に、化物らしき声が聞こえはしたが、この化物もおそらくは―。
「お断りだ。我の前から消え失せるのは貴様の方だ、ウォイス・アイラス」
『分かってくれないか。・・・残念だなラヌメット』
それっきり、通信機は役立たずになった。奴が思い切り壊したからだろう。奴はいつもそうだ。傲慢でいつも我はコキ扱いをして、人々を導く。
手柄はいつも奴に来る。我に求めるモノは大きくても見返りは小さい。
「分かってくれないのは、貴様の方じゃないかウォイス。・・・ちっ」
あれは虐殺だ。何故奴は罪にされなかったのに、我は罰を受けるのだ。
奴の方がよっぽどの数を殺めたというのに、何故・・・?
「途方に暮れている所悪いですけど~、紅月様~、奴らが壊滅されているぜ、単身で挑んだってのに、どうやったらあんな馬鹿力出すんだ本当。もう此奴只者じゃねーだろ」
「・・・マインドはどうした?」
「お休み中ー、奴の世話はあのロボット?アンドロイド?が何かやってくれているさ。こりゃ此処に攻め入られるのも時間の問題だな」
「・・・・・・あの勢力を保てるのも時間の問題か」
「?」

『・・・殺してやる』
満月の夜、かつての師匠と戦う直前に言った奴の台詞だ。その直前、我は確かに見ていた。毛が真っ白に染まり、瞳が燃える炎の様に深紅の色に変わるその瞬間を我は確かに見ていた。
ずっと彼が満月周辺に姿を消していた事に疑問を感じていたが、その問題はこれで解決された。
だが、威力が半端ない事になっていた。同一人物なのにも関わらず、全然違う。恐怖すら覚えられた。
あの時からもうすぐ8年が経とうとしている。我はあれ以来数々の呪文を覚え、そして無慈悲に葬った。
しかし、あの刃は絶対に届かない事を我はなんとなく悟ってしまった。
我の持つ力では、あのウォイスに勝てない。
一体どうすれば・・・。

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「zzz・・・」
早めに寝たシルバーはすっかりと寝息をたてて眠っている。と、そこへガラリと開けて出てきた。ガナールと・・・。
「シルフィ?何故此処に?」
「野暮用があってね、ちょっとだけ貴方達の手伝いをする事にしたの。大変なんでしょ、怪物退治」
「・・・ガナールか、話したのは」
ガナールは頷く。
「多分起きている二人は気づいているでしょうけど、根本的な解決になってない。・・・しかも、おそらくその事件は今の異変に関連するけど、異変を解決してもおそらく自然は治らない」
「ハ・・・?」
「要は、解決しても魔物はずっと湧き出るってコトよ。数は減るかもしれないけど、無理に近いわ。最近の地震で地形に変化が出てきて、その弾みで蓋が取れちゃったのよ。闇の住民は、その蓋の中にいたって訳。で、その蓋が溢れ出てくる鍋から離れちゃったから当分は湧いてくるでしょうね」
「シルフィの力じゃ出来ないのか?」
シルフィは元々精霊の力で風を作る力がある。
しかし、彼女は首を横に振った。
「無理よ、私が出来るのは風で削り取れる位。中をくり抜く感じで魔物が溢れ出る所を移動する事はできても、魔物の発生そのものを防ぐ事が出来ないわ。出来るのは神様か地の精霊であるノーム位でしょう。ああ、魔術は駄目よ、魔術は自然の劣化版だから一時しのぎにしかならない」
じゃあどうしろと、と言いたいが僕でも解決出来ない問題だ。水を操ったりするウォイスを利用、でも解決は出来ないだろうし、解決策が見当たらない。紅月はどう責任を取ってくれるのだろうか。
「まあこの件についてはアファレイド魔導王国の方へ報告しようかと思います。・・・それに例の件もあることだし」
「例の件?何だそれは」
「―あの姿になったウォイスが、単身で軍団に突っ込んだの。おかしいって思わない?満月ですらあの勢いは可笑しいわ」
単身で突っ込む時点で色々と尋ねてみたいが、どうやら二人の反応を見る限り嘘偽りは何一つ言っていない様だ。そうじゃなかったら二人共他人を寄せ付けない態度を見せる筈がない。
「助けに行けば良いだろう。送り届ける事位は可能だ。カオスコントロールを利用すれば一瞬だが?」
「・・・無理ですよ、あの乱れ様だと下手に近づくと巻沿いを喰らう勢いですもの。あと、おそらくウォイス様は全てを敵と認識して攻撃している」
「味方無しでやったらまあそうなるよね・・・。どうした事か」
「貴様ら実力あるのだからそのまま行けば良いだろうが」
「ウォイス様に殺されたくないです」「ウォイスに殺されろって言うの?」
二人は即座に拒否した。満月姿のウォイスに関して二人共抑えるつもりはないらしい。やっている事自体は敵をやっつけているだけだからだろう。
苦い経験でもあるのだろうか?
「仮に捕まっても大丈夫よ、だって明日満月でしょ?だったら一人で十分だわ」
「ですね、下手に助けに行ったら逆に追い込まれるかも」
「・・・。」
だったら話を持ち出すな、馬鹿。
勝手に話を持ち出して、勝手に話を解決して、終わらせる。
「滑稽だな」
まあ、情報は手に入れたので、危機が迫れば勝手に教えてくれるだろう。それが貴様らなのだから。
逆の意味で信用している訳だ。

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真夜中のアトポスはとても静かだ。
それもその筈、此処はいつもこんな日々なのだ。皆はもう夢の中。
その中に、眠れない赤いコウモリかネコかがいる。
元々夜行性なのだろうか、それとも眠れないのかはよく分からない。
ただただ、彼はある人を待っているのだ。帰ってくる事をずっと祈りながらこの景色を眺める。
―景色は光を見せる事はせず、彼を罵っていた。

~中間~

「アッシュ、もう大丈夫?」
温かいシチューを食べた後、僕とソニックはあの教会に来ていた。僕が空を飛んでソニックを頂上まで持ち上げると、其処にはアッシュがいた。僕の声がした途端、彼は後ろを振り返った。
「ラネリウス、・・・いや、間違えた。シェイドか」
「?ラネリウス?」
ソニックはラネリウスって言葉に反応した。まあ、本人は知っているだろうけれど、ラネリウスはアファレイドの王様だった人だ。紅月の最初の被害者とされていて、悲劇の王とも呼ばれている。まだ日が浅い為、歴史書や教科書にも鮮明に書かれている。結果、基本的に皆知っている筈である。当然、国内外両方共である。
「待て、ラネリウスはあの時の王様だぞ?そしたら何故・・・あっ」
ソニックはとある事に気付いた様だ。みるみる顔色が悪くなっていく。僕は何故そんなに青くなるのか分かっているが、アッシュは分かっていない様だった。教養を受けてない彼にとっては何故そんなに青くなるのか分からない様だった。
「シ、シェイド・・・お前まさかラネリウスの子ども・・・とかじゃないよな?年齢からして可能性があるんだが・・・」
「え、そうですけど」
反射的にラネリウスの息子である事を肯定してしまった。ウォイス様には『絶対に身分を明かすな』と念を押されたから決して言わなかったが、ついつい素が出てきてしまった。此処まで来たらもう押し切るしかないだろう。
「そっか、本当に・・・What!?Really?ジョークだろうな、それ?」
「いや、本当です。ラネリウスは僕の父上です」
「・・・悪い、話が突飛すぎて信じられねぇ。使っている素材が妙に豪華だったりしているのがそれだからとしても、偽名名乗っているからとしても、信じないぞ・・・?流石に国の紋章のモノを持ってたら信じるしかないが」
「ありますよ?ホラ」
懐から紋章たるものを見せる。ソニックは完全にド肝を抜かれた様で、手足がガクガク震えていた。
「あ、ああああ・・・ヤベエ、本物だ。行方不明になっていたのに何故此処にいるんだ?」
ソニックにしては随分珍しい態度だなーと感じていたが、一般人目線からすれば8年間行方不明になって亡くなってしまったと思っていたら、些細な事で生存していたと知った様なものなので、おそらく他の人も似た反応するのだろう。・・・僕はよく分からなかったけれど。
「それは・・・僕にも分かりません。だって、お城から抜け出したのってまだ子どもだった頃ですから・・・ウォイス様に聞いてください」
「アッシュ、お前この事知っていたのか!?」
その声で僕もアッシュに振り向くと「ああ」と言って首を頷いていた。勿論その直後にソニックが「ハァァァァァ!?」と叫んだのは言うまでもない。
「わ、悪い。一言言わせてくれ。・・・無礼な態度を取って申し訳ございませんでしたァ!!」
終いにはソニックはお辞儀をする。ウォイスの時も似た様な事をしたって言うが、デジャヴを感じてくる。
「あ、あの・・・この事は内緒にしててください。特にウォイス様に。あと態度はそのままでいいです。命令って言えば聞いてくれますか?」
「は、はい!!」
「・・・ダーメ、ソニックらしくないです」
「ああ、任せとけ?」
「それで良いです。その状態でお願いします」
「・・・お前ら何しに来たんだ」
「「はっ・・・」」
アッシュの言葉に僕とソニックは我に返った。一回深呼吸をしてから、僕達は本題に入った。
「お前も知っているかもしれないが、紅月ってヤツが無理矢理天地を作り替えて世の中を支配しようとしているんだ。俺達はそれを止める為にカオスエメラルドを探しているんだが、知らないか?」
「僕達が旅をしているのはそれが目当てなんだ。教えてくれると助かるな」
僕達がそう尋ねると、アッシュは睨みつけてきた。
「・・・念の為言っておくが、悪用するつもりはないな?」
「俺がカオスエメラルドを悪用した事があったか?」
「・・・ならいい。まず、此処にはカオスエメラルドに関連するモノは無い」
「ええ!?」
バッサリと切り捨てる辺、何処かシャドウに似ているなって思った。
「ただ、どこかの女性が似た様な質問された事があってな。目撃はしたが、よく知らん」
「アッシュは、その女性が持ち去った可能性があるっていうの?」
「俺はそう考えてる」
おそらくのその女性は紅月の従者だろう。となると、ちょっと遅かったという言いたい訳か。
「その女性は何処に行った?あと、特徴は・・・?」
「特徴・・・そうだ、全体的に黒色の服を着ていた。赤いハリモグラだ。場所は知らん」
アッシュはそう答えた。
もう既に夜中だ。下手に会話を見られてしまうと後先が大変なので、これ以上此処に留まっている訳にもいかない。その事を告げるとアッシュは「そうか」と言って、これ以上は語らなかった。
・・・が。僕達が降りようとした時に彼は何かを言っていた。それが何かを聞こうとしたが、残念ながらそれを聞く前に彼の姿は見えなくなった。ただ落ちていくばかりであった。

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悲鳴は夜遅くまで響いた。
聞こえなくなった時、その時にはもう既に糸は切れていた。
狼は夜明けと共に別の獲物を探しに姿を消した。しかしもう既に暴れまくったからか、すぐに倒れ寝息を立てた。
狩られた獲物達は夜明けと共に跡形も無く消えてしまった。
・・・そう、あの悲惨さを語る者は、もういない。

彼はいつか、眠ることを止めた。

 

『5日目~People who hunt their prey


大切な人を守る為に牙を剥く行為は生きる為には必要な行為だ。母親や父親が守らなければ種は保てない。昔の生物はそういう事への執着についてあまり気付いていなかったのかもしれない。それが所謂愛情というモノなのだろうか。或いは母性と呼ぶのか。
自分に大切な人はいない。いや、いるのかもしれないが、あれは使命なだけなのだ。所詮そんなモノなのだが、あの人はいつも自分を大切そうにしている。そして何処か避けている。自分には分かってしまうのだ。あの人は私に一体何を望んでいるのだろう。
牙を剥く行為自体に私はあまり違和感を覚えてなかった。しかし、愛情や母性はイマイチ分からなかった。仕方ない事ではあるのだが、やっぱりそれを知らねば、いつか心無い発言で信用を失いかねない。その学ぼうとする理由すら愛情等とはかけ離れているけれど、とりあえずは把握だけしておけば良いのだ。自身に感情等封じているのだから、情が移る事もあるまい。
ある人はずっと暴れていた。今も暴走している。多分気付いていないし、出来ないのだろう。もう他人の声等聞く余裕なんてないのだろう。だから自分の声も届く事なく地に還るだけである。改善の目処はいつになっても立たない。もう言葉だけで解決出来ないのだろうか・・・?
目処は立たない。むしろ目処なんて立つものの方が少ない。
イレギュラーが混じりさえすれば、それを嫌う。
平常を皆好み、いつまで経っても平行線のままが良い。
ずっとそれを望む人もいる。
・・・・・・。
そんな事した所で、単調過ぎてすぐに飽きちゃうよ。』

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続く。

next 2-09章 Tears shed somebody scream

あと何回で2章終わるか予想してみよう。何回だろう?

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。