夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

???

「・・・これがアレなのか?」

「多分。合っていると思うが・・・」

アレを見てみる。どう見ても兵器には見えないが・・・

「・・・俺はこれが兵器には見えない」

「ーっ!!こいつ相当魔力あるー」

そう。言われてみれば確かに相当の魔力があった。目覚めれば相当恐ろしいと思われる。・・・魔導師に育てられた俺がそう思うのだから一般人は恐怖のどん底まで落ちるか何も知らずに死ぬかのどちらかになる筈だ。

「まさかウォイスが拒絶したから何かあると思ったが・・・。確かに一部の人は拒絶するな、これ」

「暢気な事を言う前に逃げた方が良いと、我はそう提案するよ」

「しかしだな・・・ これを『拉致』するのが今回の目的だろ?持って帰らねば」

「持って帰る前に目覚めたら確実に死にますよ、あれ」

「当然、秘策はあるから安心して良いよ。ーあいつの弱点はもう分かったから」

そう言って俺は『兵器』を持ち上げる。相当重い。

「まぁ、それで良ければいいけど・・・。今回は違うでしょ?」

あの人がそう言うと一筋の風が俺を横切った。

「ー・・・?それはどいゆう意味だ?」

「我はずっと疑問に思っているよ。何故、お前が変わりゆく世界に歯車を狂わせる理由を。お前は平和主義だから他人を傷つくのを恐れているけれど・・・」

「・・・お前は何が言いたい?」

「傷付ける為に自分を傷付ける意味が我には分からない。お前は戦いを避ける。だが、戦わなければお前が『死ぬ』んだよ?何故ー」

「それ以上言うな・・・!!」

パキンと一つの大きい実が圧縮し、割れた。

「貴方は怯えすぎている。『死』が怖いの?『他人が傷付ける』のが嫌なの?」

「・・・人工的に作られたお前には絶対に理解出来ないさ・・・」

するとあの人は意を決してこう言った。

「ああ・・・。確かに私は『機械的人間』。でも貴方は勘違いしている。私は貴方の考えなどから派生した言ってみれば『心を持った機械人形』。いくら感情を薄くても心はあってちゃんと貴方の考えている事も分かる。だから怯えている事も分かるし、君もあの方を考えているのも分かる。だから知りたいんだ。『人』という綺麗で愚かで儚くて虚しくて悲しいものを。」

「・・・。なら分かるだろ?俺の考えている事」

「・・・彼らの事でしょ?誰もが望む幸せを」

「ーお前に2つ教えてあげるよ・・・。まず1つ、『あの人は完全には死んでない』」

「!? 死んで・・・ない?」

「確かに死んでるだろうな。でも半透明で普通の人では見えないが、確かにあの人自体の魂は完全には消えてない。これはあれらの事件の者達にも知らない、俺だけが知っている」

「・・・お前はあの人の考えを尊重しているのか?」

俺は何も言わず縦に首を振る。

「ーあともう1つ。彼に幸せ的な終わり方はもう無い」

あの人は疑問に思っていたらしい。俺はそのまま続けた。

「仮にあいつを殺す事に成功し、平和が戻っても彼にとっては親友を殺してしまったという考えで絶望する。逆に殺されず事が成ってしまえばこの世界が終わり、俺達の死体を見て絶望する。封印したとしてもスペードの様に守られている者に殺され、そして争いの繰り返し。それだけでも彼はどうにかしたいと考え無限ループし、そして絶望する。結局、どんな結末を迎えてもどのみち彼は必ず絶望する」

そんな形にしてしまったのは『ラリネウス王暗殺事件』と『天気異変』と『闇の使者の襲来事件・天地異変』と『レヴィアーデン崩壊』とあの事件から派生する事件ばかりだ。それらの結末が1つの結末に結びついてこの結果になる。

「・・・全体から見ればハッピーエンドかもしれないが、成せた者が必ずしも幸せになるとは限らない。影で糸を引っ張っている者なんか特にだ・・・。それを知るのは、本人ただ一人。誰でも簡単に嘘をつけられる。彼の微笑みは本当の微笑み?本当に心の底から笑っている?そこまで読めるのは俺以外いないだろ?」

彼にはもう結論が出てしまっている。お前自身が幸せに満ちるかどうかというとそれは俺自身でも分からない。

「ーお前は彼を助けてあげてくれ。俺には助けられない。俺だけでは・・・。心の傷は一番治りにくい傷だから・・・」

様々な傷があるが、心の傷は相当痛い。それが引き金となって自殺する者は後を絶たない。しかも心の傷は簡単に傷付けられる。そう簡単には治らないのにも関わらず・・・だ。

「うん。この兵器も生命体。ーおそらく心を持っているだろう。兵器に憎しみや悲しみを背負ってはいけない・・・。彼、ウォイスの様に暴走してしまうか、俺みたいに力を制御してしまうかのどちらかに行ってしまうから」

「ー紅月はこれらの事を考えて滅んだ方が良いと考えてるんだよな・・・。とりあえず運ぶぞ。ガナール、頼む」

「・・・了解です」

***********

いずれ起こるであろう事件。

そう物や人は生まれては消えて無くなるのが当然なのだ。

ああ、そうなの分かっていた。じゃあ、何故こうやって居座ったんだろうか。

ー簡単だ。私はあの方を尊敬していて、且愛していたからだ。

ポロポロと涙が止まらなかった。もう泣かないと決めていた筈だった。でも泣いてしまった。

・・・事が過ぎてしまってはしょうがない。だからそうならない様に私は工夫をした。

 

・・・彼が 壊れる その前に あの方を 助けないと。

どんなに身体が引き千切られても、ズタズタにされても・・・。

私は此処を愛した『此処』に誓おう。『彼を止める』と。

 

一つの事件で裂かれた絆に終止符をー ーどんなに『犠牲』を出してでもだ・・・。

***********

此処の夜はとても輝いていて綺麗だ。俺は此処が好きだった。眠れない時は此処に来て王や下の執事やメイドと話しているのが常盤となっている。

「・・・眠れないな」

此処は何故かは不明だが外とは時空が変わっており、此処の1時間は外の世界でいうと10分に過ぎない。王自体がそんな事をしているからだ。王は人との関わりを優先とする人だ。こんな事をしていて良いのだろうか・・・。

(・・・どんなに時を過ぎようとしていても、これは変わらないのだな)

こんな事に気を取られる暇は無い。早く眠らなければ。と、そんな風に思っていたその時だった。見覚えのある姿が奥に行ったのを見えた。それと同時に明らかに嫌な臭いのする火薬があるのも感じた。ー裏切り者か?

(とりあえず裏切り者なら問題だ。・・・処理しないと)

そう言って俺は此処を後にした。

 

こっそりとついてきたが、奴は俺の存在には気がついてない様だ。

「ー奴らがいると邪魔だから、排除してもいいだろ?」

この時点で裏切ると分かった。問題はその人が誰かだ。

「・・・どうせ戦いたくない王なぞ要らないんだから」

「・・・!!」

身体が急に重くなる。月を見るとそこには満月があった。

(・・・もう少しだけ、待っていてくれ・・・)

無理矢理押さえ込んだ。せいぜい1時間が限界だろう。それ以上押さえ込めば制御が効かなくなる。

「この世界が無くなればいいのに」

そう言って奴は術を唱えた。本能的にこれはマズイと感知した。

「ーやめろ・・・。」

「・・・!?ウォ・・・イス?」

「紅月・・・。何をしようとしている・・・?」

「いや、ちょっと眠れなくてな」

「そんなの嘘だ!!お前はさっき奴らは邪魔と言った!!復讐の為?」

「ーウォイス、何をー」

「虚勢など無意味だ!!さっき見たのだからな!!・・・ぐっ」

「冗談はよせよ~。第一裏切る行為はーって・・・!?」

初めて紅月のこの姿を見せた。髪が長くなっていき、身体は白くなり、最終的には元の姿とは対照的な姿となった。

「・・・ウォイス?」

「・・・近づくな・・・」

紅月は攻撃したくとも出来ない様な体型をしていた。無理もない。細長い尻尾が銀色に輝く尻尾になっていっているのが分かる。そう、この尻尾は『狼』の尻尾だ。

「ーやらなくては・・・」

そう言って俺は紅月を攻めた。獣の様に。戦法は普通の時とは違う。明らかに戦法が違う為苦戦しているのが分かる。

***********

あーあ。暇だ。

とにかく暇だ。こんな仕事をやらされ早70年が経つ。

死後手に入れた力。それを利用とした仕事。

『人間界の人数の確認』、『生物の罪の確認』といった内容だろうか。

が、必ずしも暇っていう訳ではない。

偶然、本当に何万分の一であろう確率で彼と再開できた。

結果として守護者の情報や作戦のやり取りなどが出来る様になり、主力となった。

実際俺自身もこれがこの仕事の楽しみでもあった。実際彼自身も楽しみだったらしく、毎回世話話で花が咲く。

俺は死後の友達達の事や休みの日にあったことなどを話し、彼は彼らの状況や彼自身の面白い話をしたりする。

が、必ずしもそれが幸せかというとそうでもない。やはり少々差別を受けるらしい。だが、こんな差別を受けているが、実質平和が保っていられるのは彼がいるからで、彼自身が死ねば確実に世界は滅ぶ。いや、今なら間に合うかもしれない。何故か?簡単だ、あの時のメンバーがこの時代になって集まっているからだ。俺もその1人だったが、あいつがいるので守護してくれる筈だ。

「ついに俺の名も霧となって消えてしまったな」

「・・・これでどんでん返しが起こったら天地ひっくり変えるだろうな」

そうやってじゃれると、彼はくすくすと笑った。そこらへんは100年前と変わらない。

「緊張状態もそろそろ切れる筈だ。・・・っと、もうすぐ休憩時間終了だ。俺は行くぜ」

「ー最後に1ついいか?」

彼は行こうとした俺を止めた。

「・・・いつ本当の名前を言うべきだ?」

「ー最後だ。お前の詳細が完全に気づかれた時、全てを明かせ。・・・お前が見てきた事件、全てな」

そう言って俺は仕事に戻った。

***********

森の中はいつも暗い。今日は天気があまりよろしくない。それもありさらに暗く感じる。とにかく暗い。

しかし今はそこまで暗いだとは思ってなかった。不思議な能力を使って利用しているのだ。それでも暗いかと言うと暗い。

俺は見ていた。理由は簡単だ。ウォイスの報告により、ある所が戦っているという事で来たのだ。その所は大切な所だと分かっているのでさらに急いでいた。が、俺自身見破られると色々大変なのでステルス魔法で透明になっている。なのでおそらく彼も俺が来た事に気がつかないだろう。

(・・・しかし酷いな)

「っ・・・・お前は、王ではない」

「何故そう思う、そんな事は守護者であるお前でも許されない言動だ・・・」

目の前には彼ースペードと100年前の王ラリネウスがいた。

・・・あの時にはもう察していた。ラリネウスなどいない。幸いウォイスでは無くて良かったと思う。もしウォイスがラリネウスを見れば、即座に殺しに掛かるだろう。彼は殺される所を『見ていた』のだから・・・

「王は、100年前に死んだ筈だ」

スペードはそう言った。紅月も相当馬鹿だなと思った。それなら一般人で接触など出来る筈だ。ああ、出来るだろう。

その後、彼女は姿を現した。そしてしばらく喋っている・・・。

「・・・あいつは、自分で運命を決める」

「あら、貴方もこんな事を言うのね。シャドウさんみたい」

「貴様!!シャドウに何かしでかたのかっ!」

「別にぃ~、彼奴の力を奪っただけよ、お陰で紅月様の封印していた一つの人柱を壊せたけどね」

・・・敵で且幹部が言うのだ、間違い無いだろう。俺自身もこれより前にこの事に気がついたし、敵味方問わず『シャドウの人柱は壊れた』自体はおそらく全体に行き渡ったのだろう。が、どうも会話から察するに『何人か』は掴めきれてないらしい。

(・・・スパークの気配がする・・・まさか、此処に来る・・・のか?)

その予感は的中した。そこにはスパークとサファリがいた。ースペードがミスをしたとしたとしか思えない。

その後、ソシアも到着。ソシアはスペードの言いなりに従い、待機している。

「グッ・・・」

スパークはこのまま気絶した。

「・・・さぁ、次は貴方の番よ」

ライザは次にスペードを標的にした。そう言って相当な速さで駆け寄る。

ザッ・・・ザッ・・・キンッ

まるで剣と剣がぶつかり合ったかの様な音がした。ソシアはそれを見て恐怖で震えていた。

・・・スペードの手に杖の様な剣が刺さっていた。

「っ・・・。やべぇな、コレ・・・」

流石に俺自身黙っていられなかった。

(・・・出来るかは不明だが、やってみるか)

 

ガッ

 

「誰だ!!」

ライザは微かに聞こえた不自然な音に気がついた。

「・・・。」

無言で俺は表に出た。

「・・・ふぅ~ん。貴方も大した事ないわね?」

「『大した』か。ー気配で勝手に決めないで欲しいな」

4人共急すぎる入り方をしたためか、皆構えていた。内3人は味方なのだが。

「ー守ろうなんて思った事無いくせに」

「!?っぐ!!」

ライザは俺の攻撃を防ぎきれず、飛ばされる。

「お前は・・・ガナール・・・」

「ーウォイス様の令で此処に来た。おそらく彼も時期に来るだろう」

「・・・ガナールさん、何故此処に?」

ソシアが言おうとしたその瞬間だった。余りにも速すぎて肉眼で見るのにはあまり見えなかったが、明らかに殺意を持った彼女が襲い掛かってくる。

「・・・!!危ないっ・・・!!」

俺では無理があった。ソシアも唐突すぎて動けない様だった。スペードも腰を抜けた様な格好をしていた。

 

キィーン・・・

 

何かが切れた音がした。恐る恐る視線を妨害している腕を下ろしてみると・・・。

「!!スペ・・・ド?」

スペードが身代わりになって心臓に近い所を刺されていた。

「・・・どうして身代わりになったのです」

「傷ついていないお前に指一本触れさせねーよ。・・・それに、お前は大聖堂の娘でもあるんだろ?なら、尚更触れさせはしないさ・・・敵なんか・・・に」

スペードはそのまま倒れた。ソシアは急いで回復に専念した。

「・・・ガナールさん!!ライザを・・・」

「ああ・・・分かっている、分かっているさ・・・!!」

そう言って俺は鎖を呼び寄せ、手に絡ませた。

「・・・鎖ごときで何が出来る?そんなの魔術でー」

「やれるものならやってみなー」

ブラッドダークチェーン。ー奴が攻撃するその前に・・・

(封じ込めてやる・・・!!)

ライザは俺を追っている様にも見える。が、周りの鎖が邪魔をして先に思う様に進めない様な気がした。

「そんなモノ、壊してしまえばいいさ!!ダストブラスト!!」

その時を俺は待っていた。俺が先ほど掛けておいた罠を発動させた。

「ー甘いな・・・。」

「!?ぐぁっ・・・」

手、腕、もも、足など至る所に鎖が沢山締め付けられていた。ここまでキツく縛ったのだ、どんな魔術や攻撃も発動不可能だ。

「・・・ちっ、動けないッ・・・」

「ー流石に物事を1つに集中すると周りを見なくなるな・・・。それは人間と同じ、か。・・・じゃあな」

そう言ったのと同時に強く鋭い光が放った。きっと普通の人では目くらましになるだろう。だが、俺は全く痛くなどなかった。何故ならー・・・

 

その後について簡単に話すと、その後ソシアとサファリは気絶した後起き上がった。その時俺がやっていた事に関しては覚えてなかった。無理もない。俺が彼女達の記憶を取ったのだから。同時にライザの記憶もおそらく・・・。

***********

「・・・起きろ。スペード・・・」

「・・・? お前は・・・アッシュ・・・?」

彼の目は青かった。普段とは違う目の色だ。という事はある力を発揮しているらしい。

「今時を止めている。俺とお前以外は皆動いてない」

「ーだが時間を止めれば・・・」

「その時心臓が動いていれば『止まっていても動ける』。だが、お前もそろそろ限界・・・なんだろ?」

「お前の回復術で俺の傷を癒せられないのか?」

彼は横を振った。

「・・・無理なんだ。時を止めている間は事を起こす事は不可能。癒す事が出来ないし、傷付ける事も出来ない。だから、時間の猶予を与えているんだ」

「お願いがある・・・。止めても、言えないと思うからな」

「・・・お願いとは?」

「彼を守っては・・・くれないか??」

「どうしてそれを?」

「俺の勘だが・・・。スパークはこの後悲しみを背負う事になる。父の意思をお前に受け継いで欲しい。・・・お前も悲しみを知っているのだろ?」

「・・・分かった。ー俺の能力もそろそろ限界だ。戻すぞ」

「ーソニック様、申し訳ございません。死ぬとは思えなくて」

「・・・進む、時間よー時を戻れ、大地に」

アッシュは涙を流して時を戻した。そして彼は「ごめんね・・・」と泣き続けた。

何故アッシュが此処にいるか。しかし、時を戻したその時にはアッシュの姿は無く、代わりに別の人がいた。

「・・・おぅ、悪ぃ・・・」

***********

「・・・シルバーが再び行方が分からなくなったと?」

「そう。ウォイスなら何か分かるんじゃないかってね」

「しかしだな・・・。シルフィが何故シルバーを探すかが不可解だな・・・」

「ー守護者狩り令」

そう言うと彼は鋭い目つきに変わった。

「・・・守護者狩りで皆捕まったでしょ?あの後ガナールが牢獄に入っていた守護者・選ばれし者を開放したのよ。そこまでは実際に私自身目で見た事だから分かるのよ。でもね、それ以降ガナールはいなくなり、その1~2日後かな?シルバーはアファレイドに行った後行方不明になったの」

「そのアファレイドの情報は誰からだ?」

「GUNの方からです。アファレイド付近の森で白い針鼠を見たという情報から。推測が出来るでしょ?」

「まぁ、戦いに備えているならいいが・・・。何故アファレイドに行くんだ?あそこはもう廃墟ではー?」

「そう、そこが問題なんですよ。何故彼は魔導王国に行くかですよね?私自身手は尽くしているんですが、理由など何処にもなくて」

アファレイドというのは『表世界』(光の国とも)の魔導王国でかつてラリネウス王がいた国だ。そのラリネウス王の従者でもあった彼ーウォイスはこの時には紅月と面識があったという。当時は結界を貼ってなかった為、肉体も元々あった状態で会っているらしい。おそらく紅月以外で肉体を見ているのは彼以外いないのかもしれない。

「・・・彼女は何処だ?」

「? ああ、彼女ならシャオンと一緒にいますが・・・?」

「なら大丈夫だ。シャオンと一緒に俺の元へ連れて行ってはくれないか?」

 「しかし、彼らにとって私は初対面かと思うのですが」

「彼に『あの方』が~って言えば理解すると思うから大丈夫だ」

「はぁ・・・。まあ、いいですよ。事情話せばおそらく聞いてくれるでしょう。紅月・・・密かに接触していなければ良いんだけど・・・」

「ーお前なら違いを見分けられる筈だ。些細な変化ですら気がつくんだろ、お前は」

そう。私は変化を楽しむ趣味があるので、本人が本来気にしてない所も平気で「君、~、変わったね」と言う辺、些細な変化に気づきやすい。こんな趣味が本物偽物を見分ける作業に使われるとは到底思っていなかったのだが・・・。

「まあ、いいですよ。ちょっと不思議なトリックも用意しましたしね。では、行ってきます」

「はぁ・・・。行ってらっしゃい。」

ウォイスは呆れ様の顔で溜息が出た後、ぽつりと口にした。ーこの人はアレだ、相当考えすぎだ。

と、まあ状況を一旦確認しておこう。

 

・・・まずエメラルドの行方は守護者側に2~3個、紅月側に少なからず2個、選ばれし者に2~3個、不明が1個辺だろうか。ただし選ばれし者のエメラルドは捕らえられる為、紅月側に行き渡っている可能性がある。んで、エメラルドを持っているので確実なのはウォイスで候補としてガナール、シルバー、シャドウ(取り戻した可能性も否定出来ないので)辺だろうか。

紅月は転身の術で死体に自分の魂を乗せて行動、ライザは姿を変えて行動する。それに対しウォイスは魂離術(こんりじゅつ)で魂を移動する事ができる。紅月の魂をウォイスの力で冥界へと届く事が出来れば最高なのだが、生憎それは難しい状況だ。

紅月率いる者達は確実にウォイスと残りの人柱とエメラルドを探し求めている。紅月はおそらく肉体目的だ。問題はウォイス自身の記憶が紅月の精神に響くかどうかだ。私は知っている。あの方の肉体に乗り移った際、弱った所を見えた。この法則で行くのなら乗り移っても拒絶反応起こすだろう。・・・ソニックを知る者、つまり、ウォイス、シャドウ、シルバー、フィート、私など不老不死(あるいは不老不死に近い)の者はおそらく乗り移っても拒絶反応を起こす理由で乗り移る事はほぼ無いと言っていいだろう。最悪なのは過去を見ていない者の『守護者』が乗り移っていた場合だ。ウォイス自身は幻術が見破れるのでライザの変身は無意味。だが、それは『幻術』だからで、魂までは見破る事は不可能らしく、他の手段(会話、態度など)で見破る必要がある。実質、紅月の転身は一瞬で見破る事は不可能だろう。

では、シルバーはどうだろうか。・・・いや、考えるまでも無いか。彼に『偽る』事自体が不可能だ。何故か?簡単だ。彼には読心術がある(超能力の一種に入る)。嘘付く際、「バレたらどうしよう」や「早く終わらないかな」と普通に思っている事とは異なる。その心の声が彼には聞こえるのだから、すぐに『嘘』と見分けられる。それと同じだ。姿を変えて接触しても、「早く近づいてくれ」や「憎い」などと思っている事が彼には筒抜けだ。どんなに偽ろうとしても、足跡は残るものだ。そういった意味ではウォイスよりも『嘘』を見抜ける才能がある。

結論を言うと、近づいて抹殺するのは不可能。正面突破しか方法が無いという事だ。

「・・・これをどうやって彼らに伝えようかしら?」

私はそのまま歩いて、彼らを探した。気配で大体分かるので、おそらく時間はあまり掛からないだろう。

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???へ続く・・・

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様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。