夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

正体の目~The identity of the white child 後編

mental space(精神空間)

「・・・。」
久々にこの空間に来た気がする。此処に行ったのはどれくらい前だったか。忘れてしまった。しかし、此処なら居ても疲れないし、むしろ疲労回復には丁度良い。・・・まあ、此処にいれば誰からも見られないというのが欠点だろうか。相手からすれば私は眠っている事だろう。まあ、それは仕方あるまい。かつて『あの子』が私の所に寄って来て、時々会話したというの訳だが、結界を施してからは『あの子』はパッタリ消えてしまった。

『あの子ってもしかして・・・』

誰かは薄々ではあるが、分かっていた。だが、もし仮にあれが本当の『あの子』なら、彼らが目にした、豹変した『あの子』は一体何者だったんだろう?それで、ウォイス様の言う「何者かに取り憑かれた」という事だったら、じゃあ、その『何者』は一体誰だろう?私が知っている人物なのかもしれないし、そうでも無かったのかもしれない。私は其処で思考停止してしまった。その何者かは正直言って私が知る訳無いのだ。知っているのはそれを発言したウォイス様だけだろう。私は頭を軽く叩いて、其処でこの話を考えるのを止めた。いずれ、知るときが来るであろう、そう思ったからだ。

そして何となく感じていた。あの子は私に助けを求めていたんだなって。彼が察した通りとはまた別の意味でだ。そう、あの子の笑い方は儚げだった。私は知っている。その儚げな笑顔は、彼が今、まさにやっている事だ。触れたら壊れそうで、そして、綺麗である。何故かは分からないけれど、少なからず、あんな顔してしまったら、見過ごす訳にはいけなくて・・・・・・そんな感じがしてしまって仕方が無い。彼の笑顔は心の底で笑っている。それなのに、時々、どうしても悲しげにあの顔で笑う。それは彼の元々の本性なのか、それともあの子が気になって仕方が無いのだろうか。あるいは彼を動かしたあの出来事で心が揺れ動いたのだろうか。それは私が一番分かっている事であった。だからこそ、私は彼を助けるんだ。かつて私が彼に助けられた様に。もう一度、あの輝きを取り戻りたい。だから・・・。
***********

「大丈夫?」
ガラルがそう言って、自分の頭を叩く。私は吸血した所を見る。大丈夫、大した切り傷ではない。流石に、彼は吸血の仕方を知っているらしく、普通に誤って針を指に刺しちゃったくらいだった。それくらいで助かったが。
「・・・手加減、してくれたんだ。ある意味凄いなぁ・・・って、関心している場合じゃないか。助けないと・・・彼、苦しんでいる様にも見えたから」
「苦しむ?」
「うん。顔を見た時、明らかに今まで見たウォイスでは無かった。きっと、目・・・それこそ猫の目だよ。あんな感じで見られたから、幾ら私でも背中がゾクゾクしちゃって・・・これ、きっと彼に聞こえていたら、否定されるだろうけれど・・・あるいは、ね」
私はそう言って、森の周りを見る。・・・大丈夫、誰もいない。
「まあ、私なんてそんな事しちゃったら色々大変な事になるから、あまりしたくないんだけどね」
私はそう言って、笑う。

彼を孤独にさせる訳にはいけなかった。他人には理解してくれない『部分』を私は理解しきっていた。それは分かっていた。だから、彼を守ろうとした。でも・・・。何処かで思っていたんだろうな、怖いって。それが知らない間に自分に振りかかったんだろうか。私は否定してしまった。彼は薄く哂って「やっぱり、仕方が無いよね、こうして笑う姿が怖いのでしょ?仕方が無いよ、仕方が無いんだよ・・・・・・」と言っていた。私は罪を犯してしまった。彼のその言葉はどう見ても泣いていた。ゴメン、そう言って逃げてしまった。彼はその後、俯いて(うつむいて)しまって、そのまま泣き出してしまった。泣いたというよりかは、驚いた顔で、雫が肌に流れ落ちただけなんだけれども、私にとってはそれはとてもとても悲しかったのだろうと察してしまった。だから、私は彼を守りたかった。罪滅ぼしなのか、本当に願っていたかなんて、今ではもう、理解しきってなかったけれど。

「ガナール達、見つかったかなぁ」
「いや、多分・・・あの子達なら・・・寝てると思う」
「え・・・・?」
「別れる前にも、ガナールの様子、可笑しかったでしょ?あれ、眠いという事を表しているんだよね。まあ、あの子は元々肉体無かったから、有る事自体があの子にとっては相当苦労するんだよ。んで、分かる通りウォイスの従者として動いている事が多いから、相当疲れてるんだよ。まあ、肉体はその中にいた『人格』と共に動く事になるから、まあ、眠れる時は眠れるんだよね。だから、ああやって普通に生活している様に見えて、ガナールはそれだけでも相当な負担が掛かっているんだよね・・・理解出来るかな、ちょっと難しく言っちゃったけど」
「・・・あの、1つ良いですか?どうして、それをよく知っているのですか」
「んー・・・。まあ、ウォイスの友達になるとそういう話も頻繁に聞くからさ、そういうの知らないといけないし。あれだよ、障害者でも優しくしようとする為に、ある程度勉強するのと同じだよ」
「あー、成程。というかよく的確にモノ例えるんですね」
「んー、間違っているかもしれないが。まあ、ガナールの扱いは丁寧にしないとならないかな??」
「ガナールかぁ。ガナールって確かウォイスの従者って言っていたよね?」
「?ああ、そうだな。ウォイス自身ガナールを慕っているから、主従関係は良いと思うよ」
「・・・あれ、私を忘れさろうとしたのかな」
「え・・・?」
「私ね、こう考えているんだ。ウォイスは永遠を生きるから、失うモノを見届けないといけない。でも生み出すモノを見届ける事も出来る。だから、悲しみが満たされる時期と喜びに満ち溢れる時期に分けられるでしょ?・・・んで、私が死んで、彼は特に悲しんだ。大切な人ともっと触れ合いたい。そんな欲が、彼を動かしてしまったのでは無いのか、って」
「・・・動かしてしまった?それは一体」
「私は死んだ後の彼を知らない。多分、私が死んだ後から君が言う『アファレイドで名が有名になった時』より以前に何が起こったか。これは、誰も知らないって事になるよね」
「そうだね。何時頃、有名になったかすら、分からない。知らない間に永遠の魔導師を名を知らない者は現れなくなったとかさ。どれくらい前なのか、誰にも理解出来てない。・・・そう、それどころか今現在では『アファレイド』の彼を詳しく知る者すらいない。これは、歴史から抹消したという意味では無いのかな。ガナールですら、知らないんだよね。怖いよね・・・」
そう言う私も相当怖いのだろうが、まあ、それは後ででも構わない。

さて、ウォイスを探さないと。

***********


『嫌・・・来るなぁ!!化物!!』

『化物・・・?化物は私ではない、私の感情を潰したお前ではないか』

『・・・!』

『ー殺ス』

そう言うと、ナイフを突き立てた。私は今納得してしまった。

言う以前に身体が動いた。止まったら殺される。そう悟った。

『・・・!!しまっ・・・!!』

其処は行き止まりだった。あの人は何も言わず只々私を狙ってくる。その距離は徐々に狭まり、最終的には二人の吐息が聞こえるくらい近づいた。

また何も言わず、ナイフを突き立てようとした。私は思わず目を瞑った(つぶった)。

 

・・・しかし、一向に私の痛点に痛みを感じる事は無かった。私は恐る恐る瞑っていた目を開けた。目の前には正気を取り戻した彼がいて、泣いていた。

『!!どうして・・・。』

その様子は正直言うと、不気味だった。それに、顔を表に出して分かったが・・・雰囲気が全く違う。冷静でも形が違う。それは一体・・・?

『君は一体・・・、君は私を殺そうとして・・・』

『・・・え?殺そうとした・・・・・・?』

『・・・君は誰なの!?』

私は正直な事を簡潔に言ってしまった。これが彼なら大変おぞましい事になっていただろう。しかし、彼は私の事を無視して耳元で囁いた。「ー今の内に私から離れてください」と。理性があったので、比較的楽になったが、それでも緊張がほぐれなかった。

『・・・分かった、君の言葉信じるよ。・・・ありがとう、私の知らない『キミ』』

私はそう言って、逃げた。そして『キミ』は笑っている様にも悲しんでいる様にも見えた。そしてその澄んだ赤色をした目は、「誰にも言わないで」と言っている様にも見えた。

ーうん、誰にも言わないから、安心していいよ。

殺そうとしたのは・・・どうしてなのかは分からないけれど、きっと私は気に触れる事をしたんだろう。明日、君に会ったら謝ろう。そしてキミに感謝しよう。

***********

こっそり歩いていたら、彼に会った。彼は疲れきっていたのか、聖樹の近くで眠っていた。全く、探している苦労を知らずに暴れるだけ暴れまわって眠っていたとは・・・まぁ、暴れまわって無実な人を殺してしまうよりかは何倍もマシに見えるか。私が苦労しただけで十分だ。私は彼を起こさない様に心がけながら、彼を抱えた。
「もう、暴れまわった結果がコレか」
『目、大丈夫ですか?』
「さあ・・・ね、分からないかな、こうして瞳を閉じてしまっている以上」
『そうだよねぇ・・・・』
そう言うと、ガラルは少し疲れていたのか、私の方に乗ってきた。霊なだけに、軽いが何か乗っかっている感覚があって、不気味だった。金縛りと似ているといえば似てるか?
「さてと、ガナール達の所へ行こう。んー。結局、彼処にいるんだろうなぁ」
『?』
「とりあえず、ついて来い」
『分かりました。行きましょう』
***********

結局、ウォイス様はあの後朝になって、目が覚めた。私が目覚めた時にはアッシュも目覚めていた。起きているのはアッシュと私だけになるのだが、せっかくなので、話しかけてみることにした。
「・・・で、どうしたのですか?あの後」
「んー。結局あの後私だけでウォイスを運ばないといけなくなって・・・大変だったとしか」
「でも、よく起きてられたんですね」
「まあ、帰ってきた後はこっそりお風呂に入ってその後寝てしまったけれど・・・。まあ、何故か早く起きたんだよね・・・誰かのせいかな?」
「あ、そういえばガラルは何処へ?」
ガラルはその声に反応し、アッシュの肩に乗っていた。
『んー。どうしたんです?』
「えっと・・・その、大丈夫?これ以上留まる事は止めた方が良いんじゃないかな?私、ウォイス様の話だけの知識だけど、これ以上留めたら神様だの死神だの探し始めるでしょう?」
『朝になったら別れを言おうかな、って思ったけれど・・・、うん、そうだね。そうするよ。んじゃあ、ウォイスに後でこう伝えておいてくれる?「常に一緒にいるから安心して」って』
「分かりました。起きたら伝えておきますね」

その後、ガラルは透明になり、消えてしまった。私は少し寂しかったけれど、こういう別れもしなければならなかったのは理解しきっていた。

~~~~~~中間~~~~~~~~

「・・・っていう話」
「へえ~、ガナールそんな事経験したのか・・・」
目の前にいる友人は興味深く聞いてくれた。私は微笑み、紅茶を頂く。そして軽く口にした後、柔らかな口調で話してきた。
「それで?ウォイスはどういう反応をしたのだ?」
「・・・内緒ですが。ウォイス様はあの後、少し微笑んで『やっぱり、行ってしまったか』と仰って(おっしゃって)おりましたよ。そして、少し泣いている様にも見えましたね」
「そうか・・・・」
友人はそう言うと、友人の息子さんが「だっこー」って言ってくるのでだっこしながら、笑う。
「まあ、ウォイスの秘密話が聞けて良かったぜ。ありがとな」
「いえいえ。」
「ねえねえ、ガナールの手品見たい!!」
友人の息子さんが無邪気な目で私を見るのですから、当然ここはやる事にした。
「良いですよ、折角ですから何処か面白い所でやりましょうか」
友人の息子さんは私の手をぎゅっと握り締めた。その笑顔は無邪気で可愛らしかった。

その後は手品をやった後、微笑みながら私は戻った。
「・・・やけに喜んでいるな」
「ええ、先程家に訪れたものですから」
「そうか。~は大丈夫だな、次はグレファだな」
「そうですね。ウォイス様、行きましょう」
「そうだな」
そう言って私達は彼のいる所へ行く事にした。

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end.

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キャラ紹介

ガラル 約90年前(約英雄歴-70年)にウォイスと共に過ごしていた子。病気により亡くなったのだが、魂としてウォイスと再び触れる事となった。

アッシュ 誰に対しても笑顔で接してくれる子。ほんわかしている事が多いが、そう見えて勘が冴えていたり、謎を解いたりと賢い部分がある。

グレファ 冷静でどんな場合にも的確に指導出来る子。感情の変化があまり見られないが、誰かを助けようという心構えは他の人と比べ強い。

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あとがき

どうもポルでし。ウォイスとガナール以外のキャラを数名入れてみて書いてみましたが、いかがでしたか?

アッシュ・グレファは実はピクシブで一回出てます。はてなブログ目線だと初登場ですが、全体からすれば2回目ですね。今回は後半アッシュ目立ってたなぁ、って考えていましたww

一方ガラルはウォイスの過去を知る人物として、出してみました。ある意味『永遠の月光花』の始めでもありますね。アファレイドを本格的に居座る前のウォイス、いつか書いてみたいですが、それはまた別の話で。ガラルとウォイスメインでしょうね。ウォイスの設定も増えますよww

後半はダイアリーの方で制作しました。行が詰められているのはその為です。全く動作が分からなかったのですが、どうにか出来ましたww

・・・とまあ、この辺で終わろうと思います。閲覧ありがとうございます。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。