夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 -10章 予想考慮時間~Possibility of betrayal

シグ アファレイド魔導王国~魔導研究所(20分前)

「ただいまです~」

扉を開けて出迎えてくれたのは、ルナとポフィルだった。

「おお、お帰り・・・ってどうしたのだ、その怪我は」

「敵に襲われまして。おそらくは紅月を慕ってソニックらと戦った者達と思われますが・・・それで・・・」

「ガナールが本気を出して、今睡眠中、と。大変だっただろう?」

「ハイ・・・あの子を運ぶのは大変でした」

ルナはそれを聞いただけで苦笑いをした。おそらくは苦労している様子を脳内再生をしたのだろう。

「まあ、ご苦労様。ゆっくり休んでくださいな」

ポフィルが私達の会話に混ざり込み、私の傷を治してくれた。幸い、深い傷は無く、ポフィル曰く3日くらいしたら全治するだろう、との事であった。

 

結局、私達は深い眠りについた後、朝になった訳である。開館する前に私は目覚め、あの手この手でガナールを背負いながら、此処まで歩いてきた。今現在もガナールは眠っている。多分、あの時本気で殺す気だったから、その反動が今になってきたのだろう。・・・あの睡眠ガスをまともに吸ったから、という理由もあるだろうが。

 

不意にドアをノックする音が響いた。そして、その後「おーい、ルナ、いるなら開けてくれないか?」と声が微かに聞こえた。その声からして、声の主はシルバーだと思われる。ルナはその音に反応し、ドアにあるロックを外し、ドアを開けた。

「・・・ん、シルバーと・・・シルフィ、だったか?どうかしたのだ?」

「いや~、ガナールの様子はどうかな、って。何か知らない間にウォイスやシャドウ等とで、戦っているなんて聞くからさ。もしかしたら、『誰か』洗脳しているんじゃないかな、っていうのもあってさ。・・・だから、暇つぶしに来てみたんだ」

「・・・まあ、奴らはアレだからな。此処で立ち話もあれだから、中に入ると良い」

「まあ、なら遠慮なく入らせていただくわ。お邪魔します~」

シルフィは上品に部屋に入り、私達を見て笑顔で挨拶をした。

「初めまして、シルフィ・ヴィーナスと申します。裏世界から来ました」

「あら、ご丁寧にどうも。私はポフィル・フルーフ、こっちはシグよ」

「よろしくね、シルフィさん」

私はそう言って、挨拶した。

そして1、2分後にシルバーが入ってきた。何やらルナと色々会話しながら歩いてらしく、声は聞こえたが、内容が全然分からなかった。

 

「ところで、小説の方はどうだ?」

ポフィルが入れたコーヒーを一口飲んだ後、ルナはそう言ってきた。シルバーも冷たいレモンティーを飲んで、笑った。

「うん、いい感じだな。何か出したらいい感じに売れてさ、別の意味で人気者になっちゃって。追われる生活にはある程度慣れているが、レベルがな・・・」

今、シルバーは己の存在を隠しながら、小説を書いている。何故、そういう道を歩もうとしたのか、と以前質問したが、「少しでも多くの人の心が救われたら、それで良いんだ」と意味深な事を言ってきた。収入というよりかは顔の知らない人達の心をいかに救われるかを大事にしているらしく、そこいらは彼らしいなと思った。彼が予想外だったのは、それが大ヒットを起こして、社会現象になってしまったという事だろうか。彼は「そんな事になるなんて思ってもいなかった」と言っていた。魔術で洗脳して、こうなったというのは無い。そうでなければ、シルバーが本気で困った顔になる訳無いだろう。ただ、何故か読んでみると、何処か惹かれる部分があるのだ。そう、体験した事が無いのに、『体験した気分になる』のだ。それが、彼の人気を仰ぐ事になった理由である。

「それでさ、以前ファンレターを少し読んだが・・・何か、20~30代女性が多いみたいだな」

「いや、そんな事無いと思うのですが。普通に歩いていても、男性や老人の方々が読んでいる人をよく見かけますし。しかし、よくあんなに売れますね」

「売れるのは嬉しいんだけどさ、何だろうか、外に出るのが恥ずかしくてさ。バレたらどうしよう、なんて事もあるし。姿を現したら、今の状態じゃ多分・・・な」

「大騒ぎになるから、やめときなさい」

ポフィルが冷淡にそう言うと、シルバーは「ああ」と言って、苦笑いをしてきた。

「ところで、ガナールはどうしたんだ?」

「・・・ああ、あいつか。あいつはホラ」

相変わらずの寝顔で眠っている。

「おーい、大丈夫かー?」

シルバーが肩をポンポンと叩くと、ガナールは起きて、「ふわぁ・・・」とあくびをした後、寝ぼけ眼を擦りながらガナールは皆の方を向いた。

「う・・・ん。そうそう、確か図書館でヒスって子と・・・」

 

~中間~

 

「まあ、今にして思えば、あの結界の件はウォイスが招いた出来事なのかもな」

シルバーは考える仕草をしながら、全体を見ている。

「・・・例えば?」

「そうだな・・・・・・ウォイスが話してくれた過去からしても、ウォイスの独断で彼を連れて、育てたのだろ?それも結構長い。それなのにも関わらず、彼は結界の事件までウォイスはそれを隠して、俺達に接触している訳だ」

「そうですね・・・でもそれがどうしてウォイスが招いた出来事に?」

「実際その場にいなかった訳だから、詳しい事は分からないが、あの時、紅月を殺す事に成功していたら、元々はこうなる事には至らなかったのでは、と思っているが」

「・・・・・・それ、矛盾してないか?」

ルナが恐る恐るシルバーにそう告げた。

「・・・ん?」

「いや、確かウォイスは紅月があんな性格になってしまったのは『非常に強い悪霊が彼に取り憑かれた』と言っていた筈だ。・・・もし紅月を殺しても、その悪霊をどうにかしない限り、根本的な解決には至らないぞ?仮に暗殺しても、またいずれその悪霊が誰かに取り付いて・・・そうすれば、負の螺旋を歩み続ける事になるだろう?」

「それは、ウォイスの考えが正しかったら・・・っていう訳だろ?ー皆が思っている考えから沿って考えたら、ありえるんじゃないか?」

「そうですね。・・・でも、シルバー。貴方確か『他の人の洗脳だかでああなった』っていう考えだったわよね?それは、ウォイスとほぼ同じ考えじゃないかしら」

「まあ、そうだな。ただ、あまりにもそういう考えをしている人が多いから、そっち方面で一回考えてみたかったんだ。・・・ただ、正直思うんだ。それで解決出来るとはとてもではないが、思えない。聞いてみていいものなのかは分からないが、尋ねてみる。皆は、ウォイスを敵と思っているか、味方と思っているのか」

そう言っているシルバーの目は真剣だった。冗談で言うのはよした方が良いだろう。

最初に答えたのはシルフィだった。

「そう、だなぁ。敵を0、味方を10で表すなら、7か8くらいかな。自分に原因があったとしても、相手がああして殺そうとしたなら、相手が悪いと思うの」

最初に攻撃しようとしたのは紅月だから、紅月が悪い。という考えだった。

「私はシルフィが出した点数で表すのならば、8か9くらいだと思いますよ。ただし、それは疑問に思っている事を抜きにしての数です。それを入れたら6か7くらいでしょうか。従者である私が言ったらウォイス様が怒りそうですが・・・・・・疑問に関しては私は負の方の解釈が多いんですよ。それもあって、ですかね。それでも、ウォイス様がそれを直したいと思っているので、まだ良いかな、と思ってます」

ガナールはそう言うと、ストローを吸って、ミルクティーを飲み始めた。そして、多分あの点数は今後使用すると察したのか、紙とシャーペンを用意し、表を書いてくれた。そして、ガナールとシルフィの考えをメモ欄に記入の後、2人の点数を表に書いた。

ルナは「成程」と言って頷いた後、咳払いをした。

「俺は5~8と言ったところか。今こうして対立している点も含んでいるが。まあ、過去話はそれなりに聞いているが、所々「そうに違いないだろう」という部分があったからな。それは彼自身があの事件を否定している様にも見て取れる。直したいと思う反面、いざ過去と向き合うと心が痛くなって、現実逃避をしている様にも見える。そういう点では・・・な」

シルバーは少し驚いていた。多分思っていたより点数が低かったのだろう。

「そうだな、流石にポフィルとシグはそこまで干渉してないから、正直過去については聞けないな・・・そうだな。俺は7かな。裏がある様な気がする。そういう点で俺は注意している。これ、ウォイスに言ったら記憶消される可能性あるから言っておく。・・・ウォイスはもう1つの姿を恐れていたらしいな。化物と思われるのが嫌だったというのもあるが、もう1つ理由がある。ー殺意衝動だ」

「それは一体・・・」

「ウォイスは一時期俺を殺そうとした時がある。・・・理由は多分、知られたく無かったからであろうな。当然、俺は抗えてこうして生きているがな。・・・まあ、結界の柱は俺が持っているんだ。殺せば結界は崩れるから、その衝動はおそらく他人に向けられる。シャドウと俺以外で、よく知っている人物というと・・・」

「私とルナ、ってコトね・・・・」

「ご名答だな、シルフィ。そう、俺とシャドウは先程で除外される。だが、次に知っているというとシルフィかルナに向けられるだろう。ただし、それは衝動が起こり、殺す相手が居なかった時だけだ。・・・護衛魔術、怠らない様にした方が良いぞ」

「そうですね。気をつけなければ」

「守護者達にも伝えとくべきでしょうか?」

ガナールはシルバーに質問を投げかけてきた。

「ん?いや、必要無い。ー守護者まで巻き込むのはゴメンだ」

シルバーはそう言うと、いつもの雰囲気に戻った。

「・・・まあ、ウォイスなりに事情があると思うけれどな。あ~、難しいなぁ・・・」

途中から意味が分からなくなってきたせいで、私とポフィルは空気も同然の様な状態になってしまった。そして、この考えを述べた後、『あれ』は現れる事となった。

*******************

続く

タイトル変わってスミマセンでした。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。