日記ノ十六ノ巻~Residenti delle tenebre
「うげっ・・・不気味だな」
「僕らも封印する量を見ただろう、これくらいは当然だ。・・・むしろ半減したか?」
「そうだが・・・・・・それでこの量は、ちょっと不気味だ。反撃される可能性は無いんだろ?」
『それは無いよ、この中の人達は行動はある程度出来ても、抜け出す事は穴が無いと無理だし、干渉も出来ない。ー二人が見える事は基本ありえないから安心して』
「そうか、礼を言うぞルミール」
二人は今、能力を使って結界の中の世界を見ていた。相変わらずこの中は闇の住民で埋め尽くされており、封印していると直ぐに分かる。穴は空かない、二人が蓋をしているからだ。ー最も、この蓋は二人でないと完全に閉じた事にならないのだが。
奥の奥に行くと、あの黒い物体とは違うモノが三つあった。
一つ目は紅月の肉体。二つ目は紅月の魂。そして三つ目が・・・。
「生きている・・・とはな」
「だが、今眠っているんだろうな。ー干渉、出来ないんだっけ」
「ああ。お前、まさかアレを使う訳じゃ・・・」
「その、『まさか』だよ。干渉するなら、この能力で使えば!!」
そう言うと、少年は三つ目のあの子に向けて手を翳した(かざした)。・・・術自体に手応えはあったが、反応を幾ら待ってもビクともしなかった。
「・・・あ、これ無理だ」
「術に失敗したのか?」
「いや、術自体は成功したんだ。だが、どうやら完全に気絶してるみたいでな。悪いが、彼を起こすのは不可能だ。ー術を強めても、無理だったから、多分俺達で起こすのは出来ないな」
「生きてはいるのだろう?」
「反応があったから・・・な。死んでいたら術自体が失敗している。生きている事は確かだ、安心してくれ」
「そうか。・・・ところで紅月は?」
青年はそう言うと紅月に目を向けた。無重力空間に近いからか、血にまみれた様にも見える髪は四方八方に散らばっており、眠っている。そして、傍らには紅月の魂があった。
「紅月の魂は起きている様だな。ー結界の力に阻まれて、上手く魔術を唱えられない様だが。・・・多分、ノーリスクで干渉が出来る」
「それは乗っ取られたりとかしないのか?」
「ああ、結界の力を舐めない方が良い。ー周り見れば分かるだろうが、皆倒れていたり眠っていたりしているだろ?動いている奴はいても、俺達みたいに活発に動く奴はいない。・・・力が思う存分操れてないんだろ。ーそれに」
後ろを見ると、この周りにあった光ある光景とは違い、闇にまみれた光景が見えた。ーそして、其処から先は・・・
「誰も動いてない。・・・止まっていたこの空間とは違い、あっちは少しいただけでも長い時を過ごした事になる。ーだから、死滅する。だから、彼があっちに漂流してしまったら・・・・・・分かるだろ?」
「そうだな・・・。彼の願いを叶える為にも、彼と紅月を移動させるか。何時此処が闇に塗れるのか分からないからな」
「まあ、俺達はそんなの関係無いけどな」
と、少年は彼を抱いた。青年も紅月を背負うと、光溢れた世界の奥へ運んだ。
~中間~
「これで大丈夫か?」
「ああ、しばらくはこれで大丈夫だろう。しかし、あの悲鳴は・・・敵である俺でもあれは悲しい・・・な」
「そうだな、僕らが出来る事というと・・・」
「冥福を祈るしか、出来ないのか?」
「・・・・・・・・・ゴメン」
そう言うと青年は両手を握り、祈りを捧げた。少年もシュンとした顔で悲鳴がした方向に向けて、祈りを捧げる。それが約10秒続いた後、青年は切り出した。
「ー行くぞ。長い時間の干渉は僕らでも危険だ」
「・・・直ぐに行くから、お前は戻っててくれ」
「・・・?ああ・・・分かった」
そう言うと、青年は姿を消した。一人ぼっちになった少年は、少し深呼吸した後、眠っている二人を、両手で撫でた。
「お前らはきっと知らないんだろうな・・・こうして、二人が一緒に眠っている事なんてさ。ーまた、行ってくる。・・・次に会うのは、何時になるんだろうな。・・・じゃあな」
少し笑うと、少年も青年の後を追うべく、姿を消した。
この空間にあるのは、あの事件に封じられた者達である。
ーそして、その封じられた者の中には空間の中の空間に眠る者がいた。
それが、彼である。
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