夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

異変の始めの始め

珍しく此処に雪が降っている。それもあってか、少し寒かった。俺にとっては雪国生まれだったというのもあり、そう感じる事は此処では無かったのだが。南、しかも暖流が流れている此処で雪が降るのは大変珍しい事なのである。

当然此処の周りの人達は「大変だ大変だ」と大慌てである。雪そのものを見るのが初めての人が大勢いるからであろう。俺からすればそんなの関係無いが。問題は・・・

「ねえねえ、これって美味しいの?」

彼はそう言って雪に触れる。当然、それは雫に変わる訳だが、彼らからすればそれだけで大はしゃぎとなる。・・・雪は基本食べてはいけないのだが。それを指摘すると「えー」と言った。

「積もれば、雪合戦等も出来るのだが・・・無理だろうな」

「ゆきがっせん?」

「ああ、雪合戦。小さい頃はよくやったものだ」

・・・その小さい頃がどれくらい前なのか、彼には分からないのだろうが。俺はふと幼い頃の事を思い返してみた。

笑いかける友達の声に、悪戯して笑う俺の声。そして、その傍らで「楽しいね」と笑う妹。周りがクスクスと笑って、それを眺めている様子が脳裏に浮かんだ。

(・・・そういや、あの後どうなったんだっけな)

忘れてしまった様だ。

「出来ないの?」

「出来ないだろう、雪が積もっている訳でも無いのだからな」

・・・あの時を過ごす事は、もう二度と訪れない。もうその周りの友達はいない。妹も、父も・・・。あの平穏な日々は二度と訪れない。かつて『母上』と親しんで呼んでいた彼女も、今ではもう・・・。

(ーそう言う俺も随分と成長してしまったな)

その成長も17の時に止まってしまったが。・・・まあそんな話は其処まで良い思い出では無いので深くは考えないでおいた。

「さて・・・と、修行するぞ」

「うん!!」

寒いから今日は暖めくなる魔術でも教えようか。ー単純に俺が少し寒いと思ったからだ。きっと彼も寒いだろう。

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太陽が俺達に気味の悪い起こし方を覚えになられた様だ。注ぐ光が俺を起こした。

「・・・暑いな」

森で日差しがある程度遮断されているとはいえ、今日は異常に蒸し暑かった。何故かは分からない。森林から離れる必要があるだろう。

(最近は異常気象が多いな)

それによる大きな被害はそこまで無いので、俺も其処まで考えていないが・・・実際それで彼がどうなったとかは無く、森林に異常等は見られない。だが、言うとすれば初期の状態なのかもしれない。そこから考え始めたらもうキリがないので切り捨てるが。

「ねえねえ、これはどうすれば良いの・・・ですか?」

敬語も大体使える様になった。そろそろ会わせても大丈夫だろう。というよりそろそろ会わせないとならないだろう。

この時点で俺は『ソニック側』と『こちら側』とで別々に動いている為、たまにどうしても彼を置いていかないといけない時があった。だが、俺が場を離れた時に何処かに出て行ったり、誰かに狙われた等があったら、それはもう大惨事になるかもしれない。もしそんな事が起こるのであれば、折角アレに備える為に育てたのが台無しになってしまう。彼もそろそろ俺の真意を納得し始める年齢になってきている。ーこの際、何故此処で彼を育てたのかを、彼に伝えなければ・・・。今まで隠していたのはそれを話しても理解しがたい上、「それもう過去に話しましたよ」と軽く受け流してしまう事を恐れてのことだ。

 

『ツマラナイ』

 

リデァがそう言った。当然彼には聞こえない。・・・そういえば最近疲れる事ばかりをしていた。リデァは続ける。

『何故疲れる事ばかりするのだ?過労死してしまうぞ?』

過労死だろうが、関係無い。不老不死だからだ。ただ、疲れているのは間違い無かった。リデァの言う事は間違いでは無い。だがー

(・・・彼の遺言ー最後の命令を、役目を果たさなければならないのだ)

その命令を破る事は、許されない事だ。ー俺は彼に忠誠を誓った者なのだから。

『・・・故人に思いを寄せるのか?だからその子供をー守るのか?』

そう言っても俺は・・・。【もし僕が死んだらあの子を守ってくれないか】と仰ったのだ。【ー逃亡してでも】と、付け加えて。

『あくまで貴様はそれを望むのだな?だが、それをずっと貯め続ければお前がどうなるか・・・分かるよな?』

リデァは俺に『破壊』を求めているのか?かつて俺は母国を壊した。ーその原因が、そのストレスからだと、お前は言いたいのか?ストレスだけで俺はー

『じゃあ何で、お前はあの時泣いていたのだ? お前はあの時を体験して、どう感じた?憎いと感じたであろう、悲しんだのであろう? お前は警戒を少し怠った、だから王はー』

・・・怠った?俺は完璧にやった。あらゆる手段を使って俺は守った。ああ、守った。

『王だけ守る事に夢中で、彼奴の豹変に気付けなかったのであろう?ー気づいたとしても、必死に否定したのであろう?』

彼は、彼奴に乗っ取られていない・・・・・・乗っ取られていない筈だ・・・。

 

「どうしたの?」

「ん、いや何でも無い。さて、修行を始めるぞ」

「ハーイ」

そう言うと彼は準備をして行った。

(・・・憎い、か)

リデァの言っている事も間違いではない。確かに俺はあの時、過ちを犯した。感情に任せて、俺は全てを壊した。あの時も泣いた。泣いていたのは、守っていた筈の彼が・・・いや、もう分かっている。

暑さのせいか、それとも彼が俺に語りかけてきたのか、頭が痛くなってきた。今日の修行は少々控えておこう。

(ー確かにストレスが溜まっているのかもしれない。・・・そろそろやるべきかもしれないー多少の犠牲はあっても)

無茶しすぎない様に、誰か俺の監視を兼ねて欲しいものだ。魔術の素質がある者に。彼でも良いが、彼を出すのは止めるべきだろう。と、なれば友人の中にいる**が良いのだろう。・・・流石に率直に言うと反感を買うであろう。ならば別の友人・・・そうだな、ルナに聞いてみれば、あるいは出来るかもしれない。

「フフ・・・どんな感じになるか楽しみだ・・・」

 

俺は歪んだ笑みを浮かべながら、表に出た。彼はそんな事を考えているとは知らずに、笑顔だった。

 

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続く。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。