夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 -14章 Compensatory ability

『代償』。何かを得る為に、何かを失う。

とある魔導師は永遠を手に入れ、家族を失った。

とある子は力を手に入れ、栄誉を失った。

英雄は名を手に入れ、命を失った。

私は大事なモノを引き換えに、此処と****を手に入れた。

 

この世界に平穏な日々を送らせているのだ。

それが私達のおかげである事は知らずに・・・。

*******************

シャドウ アファレイド魔導王国~とある草原にて

シルバーと交代してから5分。空間に変化が起きた。先程あった結界はガラスが割れた時と同じ様な音を立てて、崩れ落ちた。それと同時に化物の足は街の方角へ進み始めようとしていた。当然僕はそれを止める為に足止めをしているが、正直体力が持たない。長時間は無理、って事であろうか。シルバーがその方向にいないのがせめての救い、だろうか。

「とりあえず、これをどうにかせねば」

ただ、結界が崩れた事で自由に入れる様になり、ルファーも此処に訪れる様にはなったが・・・。

「これは、凄いね」

ルファーもただ立ち尽くしているだけである。入れ違いで来たので、シルバーが此処にいる事を彼女は知らないであろう。結局、僕がやるしか無いのだろう。ルファーが戦闘に慣れていると思え難い。回復に回って欲しいところか。

相手が動くよりも、僕が動く方が早かった。僕はすかさず後ろを攻めた。急所を突けば...!!

*******************

不意に声が聞こえた。何となくだが、見覚えのある人の声だ。

『何故我が此処にいるのか分からない』

おそらくこの人は記憶喪失なのだろう。何となく、街に行けば分かるのでは無いだろうか。という意味もあるのだろう、街に行こうとした。行った所で、「化物だ」等と言われるのを、この人が知る由も無いだろう。己の姿に、違和感を覚えていないのだから。

(うーん、じゃあどうしようかな)

少し考えたが、流石にこの傷で戻ったら今度こそ確実に仕留められるだろうし・・・というか、彼も大丈夫なのか?誰かいればまだ大丈夫かもしれないが。

色々考えたが、結局は此処で待機していると考えて良いだろう。結界が崩れてしまったが、それはある意味好都合かもしれないし。

 

「・・・ウォイスが此処に来るまでの時間稼ぎも出来ただろうし」

 

少し眠くなってきたけど、まあ、寝ない様にしなければ。春といい、此処で寝たら確実に風邪を引くだろうし。

*******************

~過去~

??? ???

「ところで」

私は彼を見つめていた。彼の表情は喜んでいるのか怒っているのか分からない様な無表情で、少々怖かった。前よりも増して威圧感を感じる。なのに、その姿は当時のままである。色々な質問がしたかったが、とりあえず私の尋問(の様に見える質問)に答えなければならないだろう。

「・・・どうして、お前が生きているのだ?彼奴の言う限りでは死んだと聞いたが・・・まあ、嘘の可能性も考えられたが・・・・・・」

「生きていて、悪いのです?」

「・・・悪いとは一言も言ってないのだが」

周りには彼の他に、あの時よりずっと成長した彼に、黒い服を纏った人、そして今有名になっている人と似ている人がいた。

「そう、ですね。経緯を話すとそれなりに時間が要りますが・・・良いですか?」

彼は何も言わずに首を縦に振った。そして、『長くなる』と言って足が疲れたら困るのか、彼は椅子に腰を下ろした。黒い服を纏った人以外の付き添いの人も、彼同様椅子に腰を下ろした。

「・・・席、座らなくて良いのですか?」

「いえ、結構です。話している間に彼が来たらと思ってやっている事ですので」

「そうですか。では、貴方方が旅立った時辺から後の話をすべきですかね?」

「そうですね、そうした方が良いですよね?」

あの子がそう言った瞬間、座っている彼の方からそれとは異なった意見を言った。

「・・・いや、紅月が狂う所から教えてくれ。貴様らからすればそれで構わないかもしれないが、僕達が話についていけなくなる」

「ーだな。それは話すべきであろう」

彼もその人の意見を賛同した。・・・それを話すのは若干面倒ではあるが、やはり話すべきだろう。彼が捏造した話を聞く前に。

「・・・分かりました。では、狂った所辺から話しましょうか」

 

~従者目線~

昔、彼は教師を勤めていたという。その道中で主と知り合っており、同時に狂う前の紅月と知り合った様だ。

「まあ、狂う前の彼も別の意味で厄介でしたけどね」

「・・・えっと、どういう意味で?」

「単純に幼かっただけだ。まあ、結構大変だったけどな」

ある時、主は前代の王が亡くなったのとほぼ同時に宮廷魔導師として王宮に留まる事を決めたらしい。それと同時に紅月は『主の弟子』として宮廷魔導師になったそうだ。

「まあ、宮廷に行ける位の実力はありましたし、前代の王とある程度関係が良く、時々当時王子であった彼の教育をさせていたとか何とか」

「・・・そうだったか?でもまあ、実質宮廷魔導師と兼ねてやっていた様な状態だったな」

「だが、何故王子が王になろうとした時とほぼ同時に入ったんだ?」

「それは・・・言ってもあまり分からないだろうから、言わないでおく。まあ、お前ならある程度回答が予想出来るだろう?」

「まあ、そうですね」

そしてそれが10何年か経った後、王は紅月によって暗殺された。当時はとても大騒ぎになっていたそうで、その子供である王子と婚約したいという者が増加してしまった様だ。主が『王子が成人するまでは代理をやる』と言った事で、収まったという。

「・・・でも何故、紅月が急にそんな事をしてきたんだ?」

「さあな。俺に対して嫉妬か何かを抱いたのか、操られたのかは俺でも詳しい事は分からん。・・・だが、そんな事をする人がいないという訳では無いからな・・・」

「で、それは今現在も続いている、と?」

「そうですね。先程の様子を見る限り、かなり進行してしまっていますが。・・・やっぱり操られたと考えられるでしょう」

「彼奴をどうにかしないといけないのか・・・」

そして、1ヶ月程経って主は王子と共に王宮から脱走し、行方不明になったという。公の場では王宮も分かっていないと言われていたが、微妙に違っている点があった。

「・・・行方不明になったのは、王子を守る為でもあれば、今後の展開で王子を成長させなければならないと悟ったから。それを知らせたのは、お前と彼奴等俺とよく接して信頼出来る者達だけ。王宮の大半は当時出た理由が分からなかった」

「でも、通信手段で繋がっていた、という訳か。そうでなければ、此処を容易く通り抜けられるとは思えない」

と、此処までが主とあの子が知っている彼の行動であった。主のルートで行けば其処から何年かあの子と一緒に隠居生活をし、ソニックらと接触したという訳である。

一方、彼のルートはかなり壮大であった。

「あの後、どうやら紅月は貴方達の行方が取れなくなってしまった様です。なので、過去を知る人を優先に抹殺していきましたよ」

「で、当然貴様にもその被害が及ぶ、と」

「ええ。あの後彼のせいで大怪我を負ってしまいましてね。一時期は生死を彷徨う様な状態になっていましたよ」

「でも、助かったんですね」

「偶然、その時とても強い魔導師さんがいましてですね。おかげで助かりましたよ」

その後、『行方不明』になったという偽りの情報を流し、彼の魔の手からは逃れられたという。因みにあの時、紅月が彼を抹殺しきれてなかった理由は、暗殺間近で物音がしたからだそうだ。

そして彼はそのまま此処で過ごして、今に至る様だ。

「その道中の間で大変な事が起きたんだな」

「まあ軽く説明しますとそんな感じですかね」

詳しい説明をして欲しかったが、そんな時間は無いだろう。タイムリミットが迫っているからだ。

「・・・で、今度はそっちの番ですよ。あの後、何が起きたのです?」

「ああ、それは・・・」

*******************

ウォイス アファレイド~空中

「ちっ、少し遅れたか・・・」

ようやく動ける様になったが、少々手遅れの様な気もしてきた。彼奴らが足止めしているが、大丈夫だろうか?此処で死んだとかになったら本当にシャレにならない。

「・・・そういえば、見た時、誰か戦っていたな」

その人が誰かはさておき、その人も限界に近づいている筈だ。一般人ならば、尚更である。・・・死人が出ない事を祈るしか出来ないだろう。

「生きていれば、回復出来るからまだしも・・・此処で生き返らせる魔術を使ったら俺が捕まるしな・・・」

生き返らせるのは此処ではタブーとなっている。此処で禁術を使うのも気が引けるし、誰かの為であっても生き返らせるのは無理があるという考えが浸透している。否、それは相当負担が掛かるので俺も連発する事が出来ない。出来てせいぜい二人だ。・・・まあそれが無い様にも先を急がねば。

*******************

続く。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。