夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

At the library

その本を見つめている時の貴方は輝いている。それは間違いなく俺が感じていたやつの類であろう。
「お前はいつも本に囲まれているよな。・・・俺がこうして訪れても止めないのだな」
「・・・開館前にどうしたのです?」
開館前、というのもあって此処は俺と貴方しかいない。貴方ならおそらく許可を取っているのだろうが、俺にはどうしても聞きたかった事があった。沢山ありすぎて、何処から説明させて貰いたいのか分からない。
「まず、色々と聞きたい事がある。俺が此処に来たのをお前は分かっていたのだろう?第一、お前も爺ではないか・・・紅月が老いているとはいえ、20歳位の差があるであろう?」
貴方はもうあの時みたいに本をずっと読み続けるのも無理が生じ始めている。彼が、俺の外見年齢とほぼ同じになっている位だから、各々かなり変わっている筈なのだ。俺を置いていくのはもはやお約束、という感じになってしまったが。
「聞いていただけです。ソニックという者が、此処を訪れたと聞いてですね。会いに行こうとしたらあの様ですもん、抗うしか無いじゃないですか」
「・・・まあ、どうだかな」
一向に貴方は俺を見ようとしない。俺が老いていると思っているのだろうか?等と思っていたのも束の間だった。彼は俺の質問に遮る様に告げた。
「貴方が不老不死なのは分かりました。・・・だから自殺を図るのは」
「あれは自殺の為に使うのではない」
「ではあれは何の為に・・・「紅月に使う、不老不死を解かせる為にも」
俺が少々怒気を含んだ声を発したのを貴方は聞き逃すという事は無かった。心髄を突っつく言葉を放ってから、俺は少々苛立ってしまっていた。
「紅月はラヌメットなのですよ?あの方は不老不死などではございません・・・事実、あの方は力技を扱う事はしないですし」
「貴様には関係の無い事であろう?どのみちあの薬を使わないといけない時が来るのは目に見えている。それで何が悪いのだ?正直法律等と言える問題でも無いのだ、それくらいお前も何となく分かっているだろう?」

悪魔を殺すのに、ルールなどいるのか??

「悪魔がどうこう言う以前に、何故貴方はそこまで紅月に毛嫌いしているのです?以前お会い等した事あるのですか?」
「俺は正義の為に動いている訳では無い。殺す必要があるなら、殺す。それだけの話だ・・・その為だけに生きていると言っても過言では無いからな。道連れしてでも、紅月を殺すつもりだ。それは揺るがない」
貴方は少々驚いたかの様に、読んでいた本に栞を挟み、後ろを向いた。こうして見ると、貴方はもうこんなになってしまったのか。俺はそういうのを見たくないので、突き放したかった。が。
「・・・要約すれば目的は『復讐』という訳ですか。不老不死はそれほど窮屈なのでしょうか?」
「お前は何が言いたいのだ」
「単純に生きていくのには絶望すぎて生きていけない。でも死ねない。生者にも死者にもなれずただ彷徨うのが怖かった。それで復讐という目的を作って、使命を果たしたらその薬で死んで楽になる・・・逃げているだけじゃないですか」
「ふざけるな。俺は彼奴がいたから、両親や妹を失ったのだ。国も村も何もかもだ。・・・それを憎まずにいられる訳があるか!!」
「憎いだけで動いている訳が無いんですよ・・・貴方が憎しみにまみれているとは思え難いですね」
「ハッ、お前らにはそういう風に見えるだろうな。お前らからすれば俺は国を繁盛へと導いたいわゆる英雄に近い存在だろうが、俺からすればかなり残酷な事をしたと思うぞ?領土拡大にも村の繁栄も犠牲を生じた。それを防げる程俺は能力を持たない。それは皆同じだろうが、俺は犠牲を無視していた」
「なら何故ラネリウス様のご命令を受け入れたのですか!?あれは決して主従関係を抜きにしても何か理由はあった筈なんですよ!!」
「・・・それは、虚勢なだけだ」
「いいえ、そんな事は無い」
貴方の語尾がですます口調では無くなった所辺で胸騒ぎがしてきた。何故言い切れるのだ?そう尋ねようとすると貴方は少々睨み、とある本を俺に突き出してきた。
「あの様な方になる前に言っていたんです。貴方の事でしょうからそんな感情を無理矢理抑えているのでしょうがーダダ漏れですね。しかも今さっきの言葉で貴方がレヴィアーデンにいた事も証明された様なものですね。・・・そうでなかったら、不老不死の解毒剤を使うなんていう発言はしないでしょう?」
「・・・っ!!」
図星だ。流石に一気に何個かの真実を突きつけられたものなので、俺も動揺を隠しきれてなかった。まして、今更嘘を言っても無意味であろう。
「何故いた事をずっと隠していたのです?それほど重要な出来事があったんですか、『貴方にとって』は」
「―貴様には関係無いだろう?復讐の原因を言ってそれでどうなのだ?あるいはまだ知りたいのか?」
「興味ありません」
その言葉に腹を立てた。バッサリ言うなら追求する必要など無いではないか。首筋に杖を突き立てた。貴方は避ける事もせず、怯える素振りも見せずに俺を見ていた。
「問うという事は当然残酷な答えを受け入れるのを覚悟した、という事であろうな?残酷な事は出来るのでな、その気であればお前を殺す事も不可能ではないぞ?老いぼれた者に俺を倒す事も出来ない」
「実力勝負したら確実に負けるでしょうが・・・でも殺せない筈ですよね?何があったかは分かりませんが、少なくとも信頼しているのですよ?」
「戯言ヲ・・・」
此処では魔術は使えない筈だった。でも目の前で空間が弾け、貴方と俺の距離が遠くなった。遠く上の方から、彼奴の声が全体に木霊する。
「レヴィアーデンの話以前に、やらないといけない事があるでしょ??それを達成して貰わないとこっちも困るんだよ~」
過去とは全く関連しない第三者が止めに入った時、俺が少々ムキになっていた事に気づいた。俺は杖をしまって、上を見た。
「・・・お前にもレヴィアーデンについては全く語ってない筈だが」
「知らないもん。貴方がそう言ってくだされば良かったものの、隠しているんですもん」
彼奴はそう言って、本を落とした。俺はその本を上でキャッチし、それを開く。・・・貴方の「本は大事にしてくださいよ」という声と共に。

その本は間違いなくそれだった。皆にはこんな文字、分かる筈も無いだろうが、俺が愛していた国の文字がずっしりと書かれている。
「・・・この魔術なら彼を止められるかもしれないな」
二重空間大結界と称された魔術についてのページをさらりと読んでみた。当然二人はそれが何なのか分かっていないので、質問してきた。嘘は言わないでおいた。
「―二重空間大結界。種類の異なる時空二つを別の空間で展開し、封印する魔術・・・これを利用すれば確実に闇の住民を封印し、紅月らの戦力を激減させる事が出来る。だが、これは・・・」
術者の他に数名の生贄が必要になってくる。術の大きさによって変わってくると思うが、これはどう考えても・・・
「―誰か一人か二人を生贄に使わなくてはならないという事か・・・?手段は選べないがこれをどうすれば良いのだ・・・?!」
ただ、これほど強力なものは少ない。探しても良いが、何より時間が無い。これ以上状況が悪化すれば結果的には破滅する事になろう。
「くっ、どうすれば良いんだ・・・」
頭を悩ましていると貴方はその本のページを見ていた。
「・・・レヴィアーデンの文字なんですか?」
「―だな。間違い無い。一応この部分を翻訳・要約すれば『封じられた者はその結界の守護者として生きていく事になる』と書かれている。そうだな・・・『人柱』と言っておこうか。なったら死ぬ訳にもいかなくなる。・・・・・・これがどういう意味を表すか、お前には分かるであろう?」
「不老不死になって人間とはかけ離れてしまう、ですか?」
「ああ。既に不老不死である奴を見ているから、そこに行けば嬉しい限りではあるが・・・総合的に見て、それだけだと不安定だな。実行すればの話だが」
「犠牲は投じたくないですね」
「正直時間が無い。犠牲を最小限に抑えるなら確実にこれをやらざるを得なくなるこれ以上どうこうで言い争っても無意味だ。紅月とやりあってもイタチごっこで攻防戦が繰り広げるだけである。確実に追い込まなければならない・・・こうなったら一か八かでやってみた方がまだ勝算があるだろう」
他の方法があっても拒否するつもりだった。貴方は否定を唱えるであろう、俺はそう思っていた。
だが、実際は違った。
「あまりしたくないですが・・・仕方ないですよね」
手のひらを返すかの様な言い方だった。
「・・・言わないのだな」
「無駄だと思っていますので。確かに犠牲を投じたくないのですが、此処まで来るともうそんなの言ってられないと思ってきたのですよ。貴方の必死ぶりを見れば、今の状況がいかに大変なものかがご想像出来ますし」
「ああ、忙しい。だからこんな朝早くから動いているんだろうに」
「だから他の人がいないんですもんね。・・・王子は?」
「いや~立派に育った。苦労しただけはある・・・もう立派な魔導師だ。王よりもおそらくは・・・」


『そろそろ戻った方が良いよ』

彼奴の声が耳元で囁かれた様な気がしたが、横を見ても誰もいない。先に戻ったのだろうか。
「・・・まあ立派になったから、今度会わせてやる。時間だから戻る」
「貴方らしいですね・・・行ってらっしゃい」
貴方の声を聞いてその場を後にした。
行った道を戻ると、朝日が照らしていた。もうすぐ皆が起き出す時間になりそうだ。呪われた何かが吹き飛ぶ様な気分になって、そのまま俺は走って元の場所へ戻る事にした。

 

戻った先にはあの人が笑っていて、俺の帰りを待っていた。
「おかえり」
改めて昔と今は違うのだと実感した。

 

I was so good if you always thought.
But do not think now is so good.
Further, wanted to help him.


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end.

 

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。