夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

『ε、製造データ2』

行方知らずになっていたあの人が帰ってきた。今日も微笑みながら、何かを抱えている。

「終わりましたよ」

そう言うと、それを近くの机に置いた。俺がそれを覗くと、それが何かが分かった。誰かのタオルと、メモリだ。メモリの奴は俺が手に入れて欲しいとお願いして手に入れた物ではあるが、タオルの方は・・・

「雨に濡れたので、貸してくれたんです。あの時お礼も言えないまま、逃げる様に・・・」

「私にはそんな時どうすれば良いのか全く分からなかった」と呟いて、そのまま窓を見上げていた。外は本降りになっていて、見計らったかの様に閃光が空を貫いた。俺はメモリとそれを確認してみる。パソコンで確認してみると、悪質なデータとその他もろもろ書かれていた。人を殺すデータを沢山詰め込まれている。基本的にはソニックを排除する為に書かれてたのだが、一部明らかにあの人自身が作ったであろうデータがあった。

(ロボット自体に自我が宿るとは思えないのだが)

ただ、そのあの人自身が作ったデータの殆どがガナールに関してだった。途中から彼奴に頼まれてデータを変えたのか、本人の私怨だけでそれに変えたのか・・・。それはもう今となっては分からない。その本人はもう、いないのだから。しかし、ガナールのデータはかなり取られていた。少なくともガナールが『生命体で誰かの肉体を使っている』位は把握出来ている。彼奴がそれを知っているかどうか不明だが、これは致命的だ。となると、彼奴ら今後ガナールに関して行う事というと、一つしか考えられない。

「―ガナール、彼奴に変わってくれないか?」

「別に構いませんが・・・理由だけ聞いても良いですか?」

「・・・後で彼奴が教えてくれる。今回は彼奴と話をした方が話が通じやすい」

「・・・分かりました」

何か言いたげではあったが、彼奴を信じたのだろう。そのまま目を閉じて何かを呟いていると、やがて目を開いて周りを見渡した。

「大丈夫か?」

俺の声に反応し、静かに頷く。時間からしても、少しばかりうとうとしている様だ。

「―お前は誰かの視線を感じたか?」

「・・・感じた。殺気まではいかなくても私を疑っているとは思えた。でも始末しておいた。後先面倒になるのはごめんだった」

本来の口調とは違うのは、呪文を唱えたからだろう。

「後始末したのはどっちだ?」

「・・・ガナール」

そう言うと、力が失ったかの様な勢いで椅子に寄っかかる。どうやら身体的に限界が来た様だ。少しだけ安心すると、私はガナールを抱えてベッドで寝かせた。帽子は邪魔だと思ったので外し、服もある程度楽にさせた。

・・・改めて見ると、ガナールがあの人と同一人物なのだと脳裏に焼き付いてくる。離れている様に見えて、非常に近い存在なのだ。俺よりも、もっと近くて・・・多分一生付き合う事になる相手なのだから。

「少しは休んでくれ。お前も疲れているのだろう?」

そう言って出ようとしたが、地面に何かが落ちていた。実際に拾ってみる。首飾りだ。魔力の気配は感じられないが、何か不思議なものを感じさせられる形だ。見覚えがある。これは確か、あの人が「偶然お気に入りを見つけた」と言って買った物だ。何処にでもある店で買った物なので、別にそれが大きな意味を持つとは思えないが、俺の場合はその形に見覚えがあった。何処で買ったかまでは聞かなかったが、多分彼処で買ったのだろう。・・・彼と以前行った事があった。あの時の・・・彼と・・・

「・・・何故、あの時俺は・・・」

怒りより先に、後悔が生まれた。そして、次に悲しみが生まれた。

『―大丈夫か』

「大丈夫だ・・・」

自問自答の様に答えるその質問もまた、胸に槍の様な物を貫かれた様な気分になる。多分俺も様々な事件に巻き込まれ、疲れているのだろう。

「・・・今回は絶対に表に出ないでくれ。下手すると大事な所で覚えてない自体に直面する。・・・したら、お前の存在もバレる。だから絶対に出ないでくれ、良いな?」

『分かっている、ふと疑問に思ったが、何故其処までガナールを慕う?』

「―俺よりお前の方が感情豊かなのだ、解釈の余地がある」

俺はそう言ってガナールの横にある布団を広げ、倒れると数分もしない内に眠った。

 

続く

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。