夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 1-04章 People who read mind

行こう、そう努力はしたつもりだ。だが、これはもうそれどころじゃない。ルージュが気遣って同行してもらったが、正直二人で押さえつけても漏れてしまう位の量だった。あれがうようよいて、行くどころか先を見る事すらままならない。
ルージュも相当驚いている。そして、その場にいる軍人を皆此処に呼んで行く手を防ぐ様に命令するが、完全に封をする事は出来ず、せいぜい漏れる量を減らす位しか出来ない。
「弾切れ起こしたら後ろと交代してリロードするのよ!!急いで!!」
そうは言うが、階段周辺でそれを行うのは難がある。下手に戻ると階段で滑ったりしるので若干危険である。
「どうするんだよ!!俺達じゃどうしようも出来ないぞ!!」
「知らないわよ!!貴方のお連れの魔導師さんとか呼べば解決しないの!?」

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「さあ、どうする?」
微笑んでいるガナールの姿を見て、選択の余地は無いと見た。あの微笑みは完全に「NOと言ったら殺します」と言っている様にしか見えない。私は冷や汗をかきながら、素直に従う事にした。
「・・・見逃してください」
ここで覚えていろよなんて言ったら、それこそ機嫌を損ねてアウトになりそうだ。ガナールは微笑んでいるが、実際の所その笑みが具体的にどんな笑みなのかなんてよく分からない。多分ウォイスも分かっていないだろう。
そして、無邪気な笑顔で「分かりました」と言って、近くまで来た。条件を飲んだのだし、殺されはしない―そう願うしかない。ひょっこりと現れたかと思うと、耳元まで近くに飛んできて、「言ったらどうなるかくらい分かりますよね?」と殺意を抱いたかの様な声で囁くので、もう正直疑心暗鬼の世界に溶け込んでしまっていた。
「まあ、約束は約束。貴方が告げ口をしない限り、私達もこの事を口にしません。・・・それで良いですよね?」
「一つだけ良いか、私が紅月の一員である事は告げるのか?」
「良い質問ですね、ハイ、告げます」
「・・・お前の身分も口にしないのにか?」
それを言うと、くるりと回転して、こう一言。
「―私の正体が知りたい、と?」
一番言ってはいけないワードに関連してしまった感じがある。駄目だ、知りたいけど知ったら殺される。ついでに言うと、盗聴器の様な物も仕組んでない(相手が相手なので持ってても多分機能しないが)。
「・・・異論は無いみたいだね、ホラ、私はそのまま突っ立っているから今のうちに逃げなさいな。1分あれば十分でしょう?」
「な、急にー「60、59、58・・・」
急にカウントダウンを始めた。完全にあちらの手の平で踊らされている。しかし、私が此処で死ぬ訳にもいかない。苦しいが、逃げるしかない。問題は、あのコアだ。あの爆撃以降、どうなったか見ていない。おそらくは奴らが中に入っているのだろうが、こっちで待ち伏せしていたら、叩ける筈だ。最も、ガナールとウォイスがそっちに行く可能性が大、最悪集団リンチなので、どうやっても救いが無い。しかし、何もしないでいると勝手に解決はするだろうし、闇の住民が自制効かなくなって、暴れまわったらこっちも相当ダメージが大きい。なので、壊さないでと言いたい。今言えば良かったのだが、今そうやって言った所で信用を得られるとは思えない。結局、自分は言わない方が良かったし、行かざるを得なかったのだ。

そうこうしている内に、あの黒い姿は全く見えなくなっていた。そして、人影つかない所を見つけ、私は其処でひっそりと待つことにした。それと同時に紅月様の連絡もせねば。
「紅月様、紅月様!!」
脳内で必死にメッセージを伝えると、紅月様の声が脳内に響き渡る。
『見ていたのだが、相当酷い事になっている様だな』
「もはや私一人では太刀打ち出来ません!!貴方様が一番警戒しているガナールの接触には成功しましたが、何より何者かあの建物爆破し、コアを壊す事だけを考える連中が地下でうようよしていて・・・」
『闇の住民の制御は?』
「コアの制御が主なので、壊れたら無差別攻撃が起こるかと・・・ウォイス様を見張る作戦は失敗ですね」
元はと言えば紅月様が仰った事だ。それを自覚していたのだろう、少々動揺した声が聞こえた。咳払いをすると、話を切り替えてきた。
『・・・建物の爆破は誰がやったか検討がついたのか』
「いえ、全く。ウォイス達がやったとは考えられないので、私の知らない人物で関連している人かと」
『知らない人物で関連している・・・か』
「例えばですが―ウォイスが天気異変や裏世界の異変で知り合った方、もしくは・・・貴方様よりも前に接点のある人、他に接点があった人等かと思ったのですが・・・」
『・・・良いだろう、其処は我が調べておく。ではこれでー「お待ちを」
紅月様はこれで御終いだと思われたのだろうが、そういう訳にはいかない。この状態で放置は一番困るし、何よりガナールについての報告がまだだ。それを言うと、不本意ではあるが耳を傾けてくださった。
『なるべく手短に頼む。こちとら改変のペースを探るのに忙しいのでな』
「ガナールの方は、ウォイスと主従関係を結んでいる。其処は分かってますよね」
『?ああ、天気異変周辺で急に余所余所しく出てきたあの黒服の・・・』
私達が知っている情報はそれだけだ。紅月様は立場の関係上、ウォイスの事はよく把握しきってはいたが、ガナールは全くだ。正直人でどうかすら怪しい。誰かに作られたとかの可能性も否定しきれないし、実はウォイスが作った只の人形でした、というオチもあるかもしれない。それも兼ねて、一番警戒している。その証拠に『ガナールに会ったら逃げろ』とまで命令されている。
「・・・主従関係で済む問題じゃなさそうです」
『具体的には?』
「ウォイスは把握しきってない様に見えるのですが・・・主とは程遠い何かを感じまして。何でしょうか、完全に信頼しているけど、裏で操ろうとかそういう感じのモノが」
『味方じゃないと言いたいのか?』
「・・・いえ、仲間です。表向きでは・・・ずっと。裏だと敵と認識している節があるのかもしれないかと。それだけ把握しといでください」
『了解、あ、お前はもう戻れ。壊れるのも時間の問題だし、其処の拠点が壊れた以上、此処に滞在する理由は無い。むしろいない方が被害が少なくなる』
「部下たちは?」
『部下もだ。こんな時に賛同者減らすのはご遠慮願いたい』
「・・・承知しました」
『よろしく頼んだぞ』

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一分後

「本当に何もしなくて良かったのか?」
「ええ、大丈夫です。正体なんて、分かる筈が無いんですから」
「―それは絶対外すなよ。これで外れたら、お前の存在自身が・・・」
「それは言わないのが定石でしょう?」
「・・・正直心配なのだ。お前が知られたらとな」
「何なら情報や記憶もろとも崩します?」
「物騒すぎる。情報操作はまだしもな。そういや、あのファイルは持っているのか?」
「?ああ、あれですか。あれは基本あの人に管理して貰ってます」
「何処に置いているんだ?」
「あの人の家の机のロッカー部分に・・・その、何かする気ですか?」
「・・・・・・知っておいた方が良い情報がありそうな気がしてな」
「とは言っても、3~6ヶ月前位のモノですよ?追求する意味ってあるのですか?」
「追求する目的は無い。お前についてある程度把握しときたいんだ。主としてな。ルナに頼めば多分もう一つの資料を手に入れるんだろうが・・・あの事件起きたからな、ちょっと難しいかもしれない」
「破棄されたか、紅月の手に渡っているかのどちらかですか?」
「紅月の手に渡っている可能性は0と見て良いだろう。ガナールが来た事に驚きを隠せてないし、お前なら分かると思うがあの表情は・・・」
「怯えていた・・・という事ですね。つまり、知っていたら怯える必要も無いと?甘いですね、それだと強大な力を持ったと知って怯えている可能性や、殺人気としての私を怯えている可能性だってありません?」
「お前の場合、あくまでメインは暗殺なんだろう?露出している状態のお前は少し弱い。暗殺対策をする事位は出来ると思うんだよな、変装とかで」
「直接会いさえすれば、そこまで怖くないと・・・?」
「彼奴の魔力、見させて貰った。あれが幹部の一人だとしたら、魔導師は多分他にもいる。能力が偏っている方だ、一人自身が何らかのスペシャリストと考えるのが妥当だな」
「・・・えと、その。カースの方も一応忘れないでくださいね?」
「ああ、黒い奴だろ?彼奴は色々謎が多くて俺もよく分からないからスルーしている。他に問題がある筈だ・・・あまりしたくなかったが、協力を要請するか」
そう言うと、何だか見覚えのある様な無い様な文字で何かを書き始めた。彼の書き癖からなのだろうか、紙には隅から隅まで文字でいっぱいだ。一応言っておくが、此処に机なんかは無い。
そんな事はどうでもいいのだが。問題は明らかにメモ用紙に書く内容なんかではないってことである。
「何ですか、それ」
「手紙。魔導師に何人か友人がいるんだよ。・・・最近知り合った奴から、年寄りの人まで色々だ」
「―王宮にも?」
「・・・最初はご友人の中でも信頼している奴らから狩り出してみる。それが駄目なら、友人全員で。王宮は正直使いたくない」
「・・・理由をお聞かせしても?」
「普通に考えろ、王宮にそれが届いた後の対応が面倒くさいだろ。不老不死だので騒がれるのが一番困る。・・・彼奴なら多分協力してくれる筈」
「検討がついているならそれで良いです。しかし早いですねぇ・・・2日目で手紙出すのですか」
「もう夜が深けている筈だ、出すのは明日。届くのは・・・4日、5日目か?」
「そしたら、異変の段階が進んでいる可能性高いですね」
「・・・時間の勝負だな、お願いだから持ってくれよ・・・」
そう言って拳に力が入っている彼を見て、私は考え込んだ。どうやらあの人の元に来る事は出来ないっぽい。それにしてもあの人は一体何者なのだろう?尋ねる訳にはいかない。それが彼の傷に触れる様なものであれば、私は叱られてしまう。それに今回は言わないで一人で行動した方が良い様な気がしてきたのだ。
「ウォイス様、単独行動を起こしてもよろしいでしょうか?」
「?内容を知りたいのだが」
「内容、ですか・・・幹部の内の誰かを殺したいだけですよ。暇だから」
ニッコリ微笑んでいても彼は動じるつもりは無い。人の成れの果てにいたとしても、多分彼は動じないのだろう。彼自身が成れの果てにいたら、だが。
考え込んでいるのか、彼は手帳を取り出した。何を書かれているのかは分からないが、多分敵味方全員の反応を予想しながら対策を立てているのだろう。それを見た後、言い放った。
「駄目だ、基地が分かっていない上に相手の数がどれほどか分からない」
「・・・駄目ですか。基地の場所なら検討がつくのですけど」
「今回ばかりはお前の行動を制限しなければならない。あの異変は俺一人で解決出来る程小さくないし、何より此処の大陸にいる奴らほぼ全員が影響を受ける。お前といえど、そんな人数の重みならば協力するしかない・・・お前一人で何が出来るのだ?」
「一人でなら、幹部を殺して全体を乱す事位なら出来ますよ。あと、基地を知っておくのも大切なのでは?」
「・・・根本的な解決になってないぞ。紅月の唱えた術が時を早める術だったりしたらどうするのだ?術だったら止める術が無いと永続的に続くぞ」
鋭い指摘に、自分は答えきれなかった。情報だけならこっちが勝っているのに、情報が不十分で言えないなんて・・・!!失言したのが分かったのか、半ば笑っている。一体何を楽しんでいるのやら。
「幹部の中で誰かを殺したい、だったか?それをやることに対するメリットとデメリットを正直に言え」
「メリットは、敵に直接ダメージを負える点、それによる動揺で数が把握出来る点にあります。逆にデメリットは敵の戦略が一時的に乱れる点位かと」
それを聞き、深呼吸をしている彼は、結構冷たい目をしていた。物事を冷静に考えている時の目だ。溜息をついた彼は私に指を向け、命令をした。
「お前の実力を試してみるか・・・命令だ、何か行動を起こせ。無理の無い範囲で、自己責任でな」
「承知しました。―良いでしょう、殺してみせましょう。そして暴いてあげましょう、紅月の意思を、貴方の目論見を!!キャハハハハ!!」
笑い続ける。もしかしたら、こんな経験は初めてかもしれない。何をしても良い、これほど素晴らしい言葉は無い。自由を得られた事に嬉しいと思ったのは、これが初めてだ。
(でもどうして、私は仕える事を放棄する事を喜びに感じているのだろう?)
その解答が出る事は無い。多分作られた体ではまず感じられない領域なのだろう。

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「くそっ、コアは何処だ!!」
謎のメイドに追いかけられながらも探しているのだが、見つからない。大きい筈なのだが・・・。もしかしてだが、あのメイドの元いた場所がそれだった可能性があるのでは・・・?そう思って行ってみると確かにコアはあった。あったのは言いのだが、大きすぎる。仄やかに光るそのコアは真っ赤で、カオスエメラルドのそれと比べると形は少々歪だ。そして、大きさの程はと言うと
「僕の背丈の2倍近く・・・後ろがあんなんじゃ到底出来ないな」
とは言っても此処が目的地なのだから、此処で暴れてくれれば、おそらく誰かが駆け寄ってくれるだろう。おそらくだが。

そうこう思っている内に謎のメイドは目の前に現れた。モップからは刃のそれがギラリと鋭く光っている。それを『モップ』と呼んで良いのだろうか?僕からすればそれは『刀』だと思うのだが・・・。
「―殺す、殺す殺す殺す殺す・・・」
なんか物騒な言い方をしているが、この際彼(彼女?)の言葉は無視しよう。そんな事よりも、目の前に降りかかる刃の動きをよく見なければ。右の頬辺を突こうとした後、しゃがみこんだ隙を利用して背中に突き刺すそれを、僕は蹴り飛ばした。刀はその勢いに負け、明後日の方向に飛んで行く訳だが、持ち主も巻沿いを喰らうハメになる。よろけているその様子は、僕からすれば隙以外の何物でも無いのだ。
「貴様は少しは黙っていろ!!」
「!!」
懐からあらかじめ用意していた拳銃で相手の足元を撃つ。―耳が痛く感じられた。

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発砲する音が聞こえた。その音に応えるかの様にあの化物は何処かに逃げて行った。逃げたというよりかは向かった、と言った方が良いのだろうか。俺達の事は完全に無視している。何故、そっちに行こうとしたのか?俺達の命を狙うよりも重大な事が起きたからだろうか?単純過ぎるのだが、何となくそう感じられた。
知能はそれなりにあるのだ、大事な物がどちらかなんて奴らには多分分かりきっている筈。それでも、拳銃等の類を奴らが持っていると考えるのは不適切であろう。何故なら、今現在いる化物は四つん這いになっており、仮に持っていたとしてもスコップ程度で留まっているからである。拳銃を扱える程度の知能を持っているとは考えにくい。それに、今この場所で発砲なんかしたら最悪味方に当たる可能性がある。そんなリスクを侵してまで、やるのだろうか?
其処から考えると、多分撃ったのは奴らにとっては敵視している人物なのだろう。それを踏まえれば、答えは簡単だ。
「シャドウが近くにいるのか!!」
「!!それは本当なのですか!?」
「奴らの後について行こうぜ」
「ハイ!!」
偶然彼らが落とした道具を拾っておいて、俺達は奴らの跡についていく事にした。多分そうすればシャドウと会う事が出来るだろう。

「そういえばですけど、シルバーさんって未来から来たんですよね」
奴らを追っている最中、シェイドは急に話を振ってきた。
「あ、ああ。・・・奴らにバレたらどうするんだよ」
「すみません。未来から来たなら結末も知っているんじゃないかなあ、って」
確かにそれも有効な手なのかもしれないとは思った。だが・・・
「幾ら何でも荒廃した世界からそんなデータ取り出せるとは思えないな・・・・・・あとそういうのって言っちゃ駄目の様な気がするんだよな」
「え、駄目なのですか?」
「だって・・・実質予言の様な物なんだろ?あんなのやってさ、どうするつもりなんだ?その結末をねじり曲げるつもりか?その予言に囚われて周りを壊すつもりか?そういうのが嫌だからこういうのはあえて言わないのさ」
以前それで苦しめられた事がある。ウォイスの見る予知夢だ。以前俺は彼にこう告げられたのである。『何もしないなら多分この仲も長く続かない』と。意味はサッパリだったけど、俺は長く続かないって言われて、悪夢を何度か見た物だ。結局、その長く続かない夢の正体は『天気異変』の時の格闘部分のそれだったらしく、彼の予言は間違っていたという訳だ。しかし、実際にウォイス率いるメンバーとソニック達で激突が起こった訳なので、予知夢そのものは正しかったのだろう。・・・・・・最も、俺は激突が起こってしまった直接の原因を作った身なので、色々と反省しているのだが。
「まあ誤解招いて大変な事になるのは駄目じゃないか?」
「それもそうですね・・・あ、いました!!」
奥底には緋色の光が不気味に光っている。その先にあったのは光の色とよく似合う黒い針鼠と、メイド服を来ている人が何故か争っていた。其処に化物は入っていき、二人同時に「邪魔!!」と言って無様に飛ばされた。俺達が進んでいる方向に飛んできたものなので、俺達はしゃがみこみ、飛ばなくなるまでずっとその態勢でそっと友人の勝利を祈り続けるのであった・・・。

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続く。
next 1-05章 Manifestation of madness

めちゃくちゃ更新するの遅くなって本当にすみません!!

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。