夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

『ε、製造データ4』

結論から言えば、逃げた先にあったのは、訳の分からない出来事だった。もうこうなってしまった以上、私は相手を頼らざるを得なくなっていた。

「貴方がほつれた所を誰が直しているんだと思っているの?」

まあそういう意見があっても私はただ謝るしか無かった。謝る以外に方法が見当たらないのだ。償い?それって何故求めているの?自省が欲しいだけなら、多分私は与えられない領域なので、諦めてくださいと言ってしまうだろう。欠けてしまっているのだから、反省も何も無いのだ。

そう言ってみると、貴方は私に向けて「でもやった事実は認めてくださいな」と言って顔にデコピンを飛ばしてくる。それが痛い所にピンポイントで勢いよく当たってくるのだから、地味に痛く、もしかしたらビンタよりも痛いかもしれない程だ。少なくとも私はそう考えている。そして貴方はやんちゃなあの笑顔を見せる。痛いのに許してしまうのは、貴方の雰囲気からか、それとも私がつられやすいだけなのか。

「でもまた派手にやったねぇ・・・幾ら何でもこれは酷過ぎだよ」

割と平然としている様にも見えたが、顔色はどうも優れていない。ついでに言うと、少々顔の表情がぎこちない。私は何とも思わないのだが、どうも人がこの光景を見るとぞっとするらしく、場合によっては悲鳴もあがる様だ。ますます興味が沸く。

そのまま足で下にあるものを蹴飛ばし、奥に進む。多分、此処にはちゃんとある筈なのだ。主が大切に取っていた体が。

「・・・本当にあるんだよな?」

「無かったらこんなに厳重に警備とか置かないでしょうに。あの性格だから本物はかなり手厚い保護をしているらしいけど・・・・・・残念、私が一枚上手だった様で」

「だからと言って、あんなに気絶させるのは駄目だろ・・・おじゃましま~す・・・・・・誰もいないよね?って」

何故こんなに手厚い保護をしているのかは扉を開けたら直ぐに分かった。多分此処は本当の倉庫なのだろう。あの書斎にも様々な本があったが、こちらはどうやらかなりの量がある様だ。軽く見ただけではどれくらいの本があるか等想像すらつかない。

流石の貴方もこれほどの量で見たのは初めてだったらしく、目を輝かせている。というより図書館に連れて行った時でさえこんな状態だったので、「本を目にする事自体少なかったのでは?」と尋ねてみた。案の定、「図書館って何?」って首を傾げていたので、もうこれは決定的である。勿論、此処で図書館の意味を伝えるのだが、どうも本屋と図書館の区別がつけないらしく、目が回っていた。

「全然よく分からないや。とりあえず、これをどうするの?」

「とり憑く」

「え?」

呆気に取られた様だ。口をぽかんと開けていて、あちらこちらに「?」が浮かんでいるのが見て取れる。一応聞き間違いか確認してきたが、同じ事を続けてみる。

「えっと、死体だけどとり憑くの?」

「うん、とり憑くの」

「・・・これ奴らに見られたらジ・エンドだよな?」

「そうだね、だから別々に行動を起こすの。大丈夫だよ、どんなに騒いでも今は問題無いよ。ー異常事態だし」

「悪戯っぽく笑うのはどっちに似たんだか。・・・私はやらないからね」

「貴方にやれなんて一言も・・・というより元々私は貴方の身体を借りて貰っている身だから当然私がやるべきだよ。こういうのは私の方が上手なんだよ?」

元々私は物理や攻撃的な魔術を扱うのは正直苦手だ(それでも全体からすれば『凄い』の領域らしいが)。どちらかと言うと、守りに徹底して相手が自滅するのを待つタイプである。まあ貴方の能力はカウンター系の様な気がするのだが、それでも怪我をさせないという意味合いでは、守りに徹底しているといえよう。何処かの魔導師さんとは大違いである。

「・・・という訳でお借りしますね、ガラルさん」

私が微笑んでいるのに対し、彼は不安そうな顔を隠しきれてなかった。

 

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。