夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

『ε、製造データ5』

Heroes calendar 54 years~

「転生って面倒だよ、だって術を用意しなきゃいけないんでしょ?しかも、その転生後の記憶もあやふやでさ。もしその後の子が嫌だって思ってしまえば、御終いだし。それでも、転生するの?」

老いぼれの女性にそう尋ねてみると、彼女は微笑んで、私を見る。

「私はねぇ・・・そうさね、祈る事しか出来ないのですよ。貴方の様な人であれば、きっと運命等を変える事が出来る程度の力はあるのだけれども、そんな力は私達には無い。ある人は本当にひと握りの人だけなのですよ。意図的にね」

力なく微笑んでいるその姿は、結界を貼った時の笑顔とは程遠い、優しく包み込む様な。そんな感じだった。ひと握りの人だけだって言ってはいるけれども、貴方は立派に成長し、幼さが残る年齢で、英雄と名乗れる程の名誉を手に入れた。私はあの時はその場に立ち会っていなかったとは思うけれども、それでもそれはとても素晴らしく、誇らしげに威張っていただろう。それが可愛らしくて。

「転生が面倒なのは、まあ、面倒でしたよ。ただ、守護者を引き継ぐ時には、他の人を頼むのはちょっとねぇ。なら、まだ私の生まれ変わりを捧げた方がまだ良い様な気がしてねぇ。それに、裏切ってしまう可能性も無くはないし。貴方みたいに感情が欠けていて、忠誠を完全に誓う様な人であれば、問題無いのだけども、この世界は残念ながら、そんな人間はいないからねぇ・・・」

「私は感情は抜けておりませんよ。・・・それに、とっくのとうに私が何者かなんて、察しているのでしょう?貴方はそういうお方だ。そして、私の秘密を誰にも言わなかった。本当にありがとう」

「お互い様かな。貴方の立場はとても薄汚い様なモノではあったけれども、逆に言えば、『守護者の汚れ仕事』を簡単に任せられる。その名前付けで良かったのかい?」

「ええ、十分に。むしろこういったドロドロした様な出来事は大好きですから。読みがいがあって」

「そんな性格も結構丸くなったけどねぇ。やっぱりシルバーがいるお陰かい?シャドウだと逆に・・・」

「どっちもです。ウォイス様は、まあ別件ですけど。そもそもあの方は・・・私ですらも少々分からない事がありまして。まだ調べている最中です。勿論、内緒で」

「分からないねぇ・・・年齢的にもあの悲劇を知っている人で身近にいる人は減ってきている。もし聞くなら早めにしなさい」

「そんな事は言われなくともご承知です。貴方もやり残した事があればお早めに。もうあと3日程なのでしょう?転生日。私は転生についてはよくは知らないので。それに、私はそういった事に興味なんて持ちませんし、今後も持たないでしょう。」

「まあ貴方は存在そのものがイレギュラーだからねぇ。転生以前の問題でしょう?」

「否、生命があるかどうかすら怪しいです。ただ、死ぬ事に恐怖を抱くのは、生命全てに共通する事なのでしょうか?私にはよく分かりません」

「死ぬ事に恐怖を・・・まあ私には答える権利はありませんねぇ」

そう言うや否や、彼女はホットミルクを音を立てながら啜る。

「ですよね。・・・さて、私はそろそろ出かけなくては。いつまでも貴方の世話をする訳にはいかないのですよ」

「ああ、新しい守護者さんの紹介かい?」

「まあ、そんな所です。何でもシルバーと共に活動するのだとか。結構長生きしているらしいですよ。その割には外見年齢が若いですし」

「一つのエメラルドを二人でかい?ウォイスも結構慎重だねぇ」

「万が一に備えてでは無いでしょうか?仮にどちらかが壊れたら、もう片方は結界の守護に回らないといけないのですから」

「カオスコントロールを扱えるシルバーにはキツいかもねぇ・・・ああ、という事はシャドウも?」

「いつかは配置されるでしょうね。でもまあ私には関係の無いことですよ。私は『守護者ではない』、ただのウォイス様の従者ですから」

「ああ、そうだったね。貴方は脅威の排除が目的ですからねぇ。やりすぎには注意してくださいね?たまに貴方って気性が荒くなる時ってあるから。あれは何故かしら?」

「・・・・・・・・・憤りですかね。では、転生日の前夜にまたお会いしましょう。よろしくお願いしますね、シアンさん」

そう言って、私は彼女の家を後にした。彼女ももう63歳だ。あの魔女は今ではおばあちゃんになって、子ども達の面倒を見る人になっていた。そんな日ももうすぐ終わる。

 

「お元気で」

 

そう言って、私は微笑んでいた。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。