夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 2-09章 Tears shed somebody scream

The 6th day
???にて

「・・・っ」
目が覚めた時、見覚えのない天井が見えた。ふかふかのベッドの中に包まれて眠っていたらしいが、そもそもあの環境の中でこんな場所に行き着けるとは到底思えない。・・・もしかして、見る影も無くしてしまう程の様変わりをしてしまったのだろうか?
(さて、現時点の状況を確認しないとな)
きっとロクに風呂にすら入れなかったのだろう、体中が土臭く、この布団の中にまで匂いが移りそうだ。
俺は此処に来るまでの経緯を知らない。というのも、アイツが派手に暴れている間、俺は眠っていたからである。いや、仮に起きていたとしも俺は現状を知る事は出来ない。それがデメリットなのだ。
「ようやく起きましたか」
「・・・ガナール」
「そうですね、彼処で眠っていたら流石に困る故、此処まで運びました。此処はアポトス、ソニック達が今いる場所です。・・・安心してください、『彼』とは別の場所ですから」
アポトス?かなり遠くまで運んだものだ。きっと魔術を使ったのだろう。
「ガナール、彼は起きたかしら?」
「あ、シルフィさん。つい先程起きましたよ」
扉を開けた先にはシルフィがいた。朝食を用意していたらしく、スープの湯気からそれが出来立てである事が分かる。
「―教えて、彼処で何があったの?魔力のブレも相当、倒れていた場所には闇が切り裂かれた跡が幾つも見えたわ。・・・闇の住民と戦った、それは分かるわ。でもあれは幾ら何でも・・・」
「・・・覚えてないんだ」
「え・・・?」
「覚えてない。何があったかなんて俺は知らない。・・・何があったんだ?」
「・・・。」
俺の告白を彼らはどう思ったのだろうか。ガナールは目を細め、何かを思考しているかの様なポーズをしていて、何かを呟いている。シルフィは俺の発言に対して意味が分かっていないらしく、手を握り締めている。・・・怒っているのだろうか?
「―記憶が無い、と。・・・フフ、あの姿で開放をするならば確かに意識が吹き飛ぶかもしれないですね。ならばウォイス様らしくない戦術を使っても不思議ではないですね」
(うん?コイツ何か勘づいているぞ・・・?)
間違いなく奴は、俺が嘘をついている事に気付いている。何かを思考していたのは言葉の本筋を探っていたのだろうか。仮にそうだとしても、答え等出る訳が無い。
誰にも言えない秘密は誰もが一つか二つは持っているものであり、それを無理に探ろうとする人は基本的に成ってないと思っても不思議ではない。ならば、奴らに向けているその「視線」は不思議な事である事位は分かっても良いのに。・・・まぁ、無理もない。少し賢い人ならばちょっと考えれば「違和感」位は勘付く筈だ。依頼した本人が後ろめたい出来事を隠していた事位は。
本当の事を言ってしまえば、俺はアイツが憎い。今こうして仲間と手と手を取り合ってハッピーエンドを迎える様に努力しているだろうが、俺はそんな事を微塵も思わずにただアイツを○○してしまえば良いだけなのだ。後の事はもう知らない。その目的が果たせば、俺は此処にいる存在意義が無くなって流浪の旅に終止符を打てるのだから大仕事なのだ。
「まあ、無事なら良いんだけど。ところで、シェイド君の所を向かわなくて良いの?」
「シルフィさん、それが出来ないんです。・・・シェイドはまだ彼の秘密を知らないのですから」
「未だにあの姿の事について話してなかったの?」
「・・・そういう話をすると経緯を説明しないといけなくなるからな。それに、こんな場面で見せろと?」
「そういう場面『だからこそ』よ。違和感の塊の状態で挑もうとしても距離を取られるだけでしょうに」
シルフィは窓からこっそり下を見下ろす。
「・・・どうやらソニック達は下山するつもりらしいわね。無いと知ったから去ろうとしたのかしら」
「―!!しゃがめ!!」
ガナールが叫んだ瞬間、パリンと窓のガラスが割れた。シルフィはどうやら風を少し操ったらしく、窓の目の前にいたのにも関わらず彼女周辺にはガラスの破片は無かった。
「何事だ!?」
「・・・どうやら、私達を監視しているあの『連中』がいるらしい。―随分と入り組んだ所にいるみたいで。私の事を完璧に警戒されていますね。・・・おそらく私の攻撃範囲を超えている位置にいる筈」
となると、範囲は最低でも500m程度は離れている事になる。どんなに範囲が広い魔術だろうが、ガナールが使える術だとせいぜいその位が限度だろう。
「―判断力が鈍っているぞ、ガナール。その様子だとまともに睡眠が取れなかった様だな。・・・寝ていろ、寝床位は守ってやるから」
「し、しかし・・・その敵は私を狙っているのでは?」
「目的など知れる筈が無い。・・・シルフィ、先程行動を起こした奴を追えるか?」
「細かくは無理、でも相手凄い勢いで逃げているのは分かるわ。―違和感を感じる位には」
「相当速く走っているのか・・・行けそうか?」
「大丈夫よ、もう既に対策は打っといたわ。・・・ホラ」
シルフィが指差した方向には竜巻が発生している。風の精霊のイタズラにしては随分と荒く、周りが巻き込まれそうで心配である。まあ、そこいらも考えて遠い所で起こしたのだろうけど。
「風はデリケートだけど使い方によっては凄い力を生むんだから。・・・貴方は強い(こわい)人でしょうから荒そうですけど」
「・・・チッ、ああそうだな。さっさと見てこい」
「とことん煽りには弱いですね・・・じゃあ行ってくるわね」
ニコリと笑うと、シルフィは扉から部屋を出て行った。やっぱり女性はそういうのを避けようとするのだろうか。・・・あの竜巻は女性らしさの欠片もないが。
「私は眠ってますよ。・・・多分半日以上は眠っているでしょうからよろしくお願いしますね」
「・・・分かっている」
「―おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」

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「もう此処に留まる理由は無いんだよな?」
一日お世話になった宿の部屋の中、少ない荷物をまとめながら、俺はそう言った。
「ああ、あの事件は僕達では解決出来そうにもないしな。・・・やれることと言えば、最小限に抑えられるように天地を揺るがす存在である紅月をやっつける位だ。その為にも早くカオスエメラルドを集めないとな」
「そうですね、被害を抑えるその為にも。・・・ウォイス大丈夫かな」
「大丈夫だって、アイツなら死にはしないだろ」
まあ死んでも生き返るのだから実質死が無いのだが、もしかしたらシェイドにはまだ話してないのかもしれない。あの告白から察するに、7年位のも間世間の目を通されないまま育ったのだと思うので、ウォイスは相当苦労しただろう。その内秘めた感情を抱いて、何かボロを出していたかもしれない。俺達には知りえない範囲だけども、きっと彼の心に変化を及ぼすには十分な時間だろう。
・・・今は胸に留めておく事にしよう。多分シャドウとシルバーはこの事に気付いていないだろうし、下手に探りを入れたら何かヒビを入れてしまいそうだ。
「シャドウ、お前なんか複雑そうな顔をしているが・・・大丈夫か?」
「?そう見えるのか?」
「なんだろう、こう・・・解決出来ない事を知っている様な顔をしてる」
シルバーはそう言って、シャドウの顔をじーと見つめる。シャドウは仏頂面を貫き通していて、動揺の素振りも見せない。ああそうだった、コイツ基本感情表に出ない奴だった。何かを感じ取っても基本顔はそのままだから分からない。ルージュだったら分かってくれるかもしれないが。
「まあまあ、シャドウはいつもそんな顔だからな。なぁ相棒?」
「・・・相棒呼ばわりするな。さっさと出発するぞ」
「酷いじゃないか、俺達を気遣う事位覚えようぜ?」
「気遣う理由も無い」
そう言ってシャドウは部屋を後にする。
「・・・シャドウさんっていつもこんな感じなんですか?」
「ああ、いつもあんな感じだ。―内なる感情は一切外に出ない様なタイプだけど、あれはあれで感情表現の一つなんだよ。・・・俺もよく分からないけど。ソニック、アイツ下手にプライドとか傷つけると単独行動取ろうとするかもしれないから煽るのも程々にしろよ?キレて俺が説得するのも面倒なんだからさ」
「Sorry,sorry!悪かったからさ~」
「・・・本当に反省しているんだよな?」
「Really!」
「まあまあ、二人共緊張しすぎなんですよ!ホラ、深呼吸しましょう?」
「「ちょっと口を挟まないでくれ!」」
「あ、ハイ・・・」
シェイドは小さくなってしょぼんとした顔で俯いてしまった。ちょっと申し訳ない事をしたかもしれない。
遠くで「こっちに来い」と言うシャドウの声が聞こえたが、俺はその声を無視してシルバーを直視していた。

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「フフン、まあ私にかかればこんなもんでしょ」
竜巻を作り出した所に行ってみると、其処には赤いハリモグラっぽい人物がいた。黒い服に身を纏っていてとても美人な女性だったけれども、その印象とは裏腹に狂気を感じさせるには十分過ぎる死体が多く見られた。魔力も相当だ。
「・・・貴方、紅月の賛同者でしょ?カオスエメラルドの気配もあるわ」
「・・・。」
「私はシルフィと言うの。裏世界・・・影の国出身だけど、貴方にもあの世界の香りがするわね?」
「―裏世界にいる筈のお前が何故此処にいる?シルフィとシャックはゆっくり過ごしていると紅月様が・・・」
「イレギュラーだったのね、私の存在。ご友人が「助けて」と言われたら助けない理由があるかな?つまりは、そういう事なの。で、カオスエメラルドをついでに持っているみたいだし・・・盗人にもなって奪っておきましょうか。貴方が持つ品物ではないわ」
「紅月様の物だ、貴様に渡す訳にはいかない。シルフィ・ヴィーナス、貴様を此処で殺してやろう。このディアが直々にな!」
そう彼女が言うと、いつの間にかナイフが握られていた。この人は相当腕が立ちそうだ。
そして何処か崇拝の域を超えた何かを感じた。もうこの人はきっと・・・。
「フハハハ!!」
―なんて考える余裕も無さそうだ。可哀想かと思うけれども、相手は大罪を背負った罪人を庇う狂人だ。所詮その程度の相手なのだ。
「風よ舞いなさい!!」
竜巻を起こせばきっと此処は崩れてしまう。だから、無理矢理にでも遠くへ押し返してやるのだ。ついでにカオスエメラルドも吹っ飛んでしまえたら最高である。手放してしまえばこっちのものだ。
「ファムブイズ!!」
彼女は幽霊の様なモノを呼び出して、私の元にやってくる。私はそれを平気で風を送るのだが・・・。
ブォッ!!
「えっ!?キャッ!!」
どうやらあの幽霊は火を纏っていたらしい。風を受けて更に燃え広がった火は私の左腕に当たった。其処から服に燃え移り、体中が炎に包まれる。
(熱い熱い熱い!!)
下手すれば私が焼け焦げて死んでしまう!!私はすぐに術を唱えて、自ら水を浴びて炎を消した。冷たいが、焼け死ぬよりはマシだ。
「―女性の命でもある美貌も軽く燃やしてしまうなんて。・・・流石に驚いたわ」
「貴様はそのまま焼け死ぬのだ!!」
「・・・油に変えようというのかしら?」
「―それも良いかもな」
口は災いの元。災いがこんな形で出てくる事は彼女も想定してなかった様だ。
―燃える。
恐い。
恐いに決まっているじゃないか。
その感情が揺らいだからか、彼女の頬が一瞬歪んだ様に見えた。そして、遥か彼方へ吹っ飛ぶのだ。・・・超能力だ。感情が昂りすぎたせいで勝手に発動しちゃったらしい。これで私はギリギリで命の危機を脱した訳だが、吹き飛ばした方向が何処かなんて知る由もないので、実は結構マズイ状況だったりするのだ。
「死ぬよりかはマシだったかもね・・・でもやれる事を逃したかもしれないわね」
何処に吹っ飛んだかなんて知らないんだから、特定だって無理に決まっているじゃない!!というよりも、よくもまあ水を浴びせるハメに遭ってしまったものだ。私としては非常に許せない事だ。
「・・・ハァ、お風呂借りようかしら」

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ガナールはスヤスヤと眠っている。俺は子守を任せろとは言ったが、奴が起きるまでには随分と時間が余っている。それに、今日の夜は満月―簡単に言ってしまえば、俺が一番猛威を振るっていられる時間でもある。今日・明日の夜が過ぎれば、多分紅月らの活動は活発化する事だろうし、この間は眠っておいた方が良いのだろう。夜中のあの姿はどうも眠気を吹き飛ばしてしまうので、この眠気が明日の朝に響いてくるかもしれない。
「その前に」
懐から手鏡を取り出す。顔全体が見える位には大きい手鏡。俺は鏡の前で深呼吸をし、術を唱えた。今現在、この術を知っているのは俺だけだ。下手に他人に見られると色々と不気味に思うので、一人の空間で使うのが望ましい。
何故なら―
「・・・リデァ、起きているか?」
俺は鏡の前でそう言う。これを他の人に見られたくないのはもう想像がつくだろう。しばらくすると、鏡の俺は俺の動きとは違う動きをしだした。そう、リデァだ。姿は俺そのものであるが、間違いなく彼なのだ。
リデァは俺のいる空間を見渡した後、小さい声で喋り始めた。
「人が眠っているな、アイツは確か・・・」
「ガナールだ、しばらくは眠っているだろうから子守をやっている。起きるのにしばらく時間が掛かるからな、寝ようと思ったんだが」
「その前にあの時の事を聞いておきたいと」
「ご名答。どうだったんだ?」
「・・・まず、此処いらの闇の住民は壊滅した。単身で突っ込んでいた事に関しては紅月もド肝を抜かれた様だ」
「という事は完璧には染まりきれてないのか・・・」
染まるか否かの判断は他の人でも大体は出来るのだが、正確に決められるには難しいだろう。紅月が使っているあの洗脳術はどの程度まで染まっているかによって、術者の及ぼせる範囲が決まってくる。勿論、これは許可を取っていなかった場合でのお話であり、ガナールみたいに許可を取って取り付いている場合は基本的に全力で挑める訳である。
その中で術者である紅月が及ぼせる範囲はそれなりに広まっている。5年以上は経っているので、取り憑かれた奴はもう殆ど眠っている状態だろう。しかし、脳内までは浸透しきっておらず、その結果取り憑かれた奴の知識・実力は完璧に扱えるものの、自身の知識・実力は扱えない様な形として君臨している。最終的には取り憑かれた奴の人格そのものがいなくなるので、マシと言えばマシだが、それでも酷い範囲だ。
「多分完璧に浸透するのが遅くてもあと1年か2年位だろう。これよりも酷くなると、取り憑かれた奴が死んでしまう」
「・・・分かっている。その前に殺しておかないといけないんだろう?紅月の威力は凄まじい、これ以上悪化したら俺でも抑えきれるかどうか分からなくなる」
「―お前、本気でその事を言っているのか?取り憑かれた奴は元々はお前の弟子だぞ?」
リデァは珍しく奴の心配をしている様だった。
「殺さなければその被害が拡大してしまうだろう、そっちの方が駄目だ」
「殺す事にしか目がいかないのか、お前は!」
「第一、お前があんな事をしなかったら良かった話なのだ!俺はその処理をしている、それだけの話なんだ。・・・分かったらこれ以上問い詰めるな」
「・・・。」
リデァは叫びを聞いた途端、黙り込んでしまった。そして、一方的にこの術を解いてしまい、鏡の中の俺は俺の苛立ちの顔に戻ったのだ。
―醜い顔だ。この顔で出歩けば不審に思ってしまう。無心でいるのだ。無心でいれば問題ない。紅月は殺すべき相手だ。それ以外の感情移入は許さない。
「えっと、ウォイス?何苛立っているの・・・?」
不意に聞こえた女性の声で俺は我に返った。振り返ると、びしょ濡れになっているシルフィがいた。地面には水滴が落ちたと思われる跡が見えている。
「何でもないから心配するな。それよりも、何故そんなに濡れているのだ・・・?」
「話は後で良いかしら?それよりも、お風呂に入りたいのよ。入らせて」
「べ、別に構わないが・・・」
妙に苛立っている様な気がするのは気のせいだろうか・・・?

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続く。

next 2-10章 Full Moon

更新遅れてごめんなさい!!

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。