夢想の闇夜 第2幕 2章 実験結果
さあ、始めようか。あちらは『魔術』の世界。こっちは『科学』の世界。
これを機に両方混ざり合わせれば新たな力が生まれるだろうー。
所詮、人間は全てに白黒付けたがる。善悪の様に。誰もが完璧な世界を心見たいのだ。
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フォルカ ???
「お~い、取ってきたよ~」
「ありがとう、そこに置いといて」
「はい」
今科学者5名と王と私で特殊な部屋にいる。目の前には未だに眠っているウォイスが眠っている。開始から約1年が経つのだが、一行に起きてくる気配は無い。
「・・・う・・ん」
1年経ってようやくウォイスの唸り声が聞こえ始めた。意識は無いだろう。だが、指1本入れてみると握るなど、赤ちゃんの様な状態なのだろう。実際事故にあった時こうなる事がある(作者の弟がそうだったのだから間違い無い)。
「ああ、いつになったら本当にリンクするの??」
今日で1年。彼の身体も成長期からか前より大きくなった気がする。
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ウォイス Mental space(精神空間)
「・・・あれから1年経ったがどうなのだろうか」
此処は一体何処なのか。色々考えても何処にいるか分からない。
時計は無いし、太陽も無い。あるのは光と闇のみ。
あと普通なら水・食料が無いと生きていけない筈なのだが、飲まず食わずなのに1年経っている。むしろ成長している様にも感じた。
正直言って不気味だ。
目を覚まそうとしたら、全く見覚えの無い世界にあったのだ。これはあれだ。夢遊病という奴なのか?症状は多少違うものの、近いといえば近いだろう。
「それよりも本当に此処は何処だ!?どうやったら出れる??」
「・・・出れる方法は無い。リンクするまでずっと一緒」
声がしたので振り向いた。そこには俺がもう1人。
「え・・・?お、俺・・・?あれ、死んじゃったのかな」
「違う。死んでない。ーもう1つの人格のオレだよ」
そう言われた後、もう1度彼を見た。目つき・目の色が少々違う。だが、正直言ってそれ以外は全然分からない。ぶっちゃけ言おう。もし仮に急いでた場合、ほぼ確実に見間違えるだろう。ほぼ絶対。
「つか、お前誰だ!?」
「オレ?・・・お前であり、お前ではない、変な存在・・・?」
「変な、とは?まあ、そんな事は良いんだが。とりあえずお前何者?」
「リデァ。もう1人の俺だよ・・・。『人格』のな」
「・・・ハハ、マサカ本当ナンダッタンダ」
嘘だと思ったが、周りの反応なども見て考えると確かにそうだ。あれは『二重人格』の扱い方だ。リンクするなり、流されてたが。
「そうだよ・・・。まさか分離するとは・・・俺も思ってなかったが」
「・・・?待てよ、じゃあ母上を殺した記憶が無いのは・・・?」
「ー俺が殺したから覚えていない。」
「・・・。」
痛みを軽くする為に・・・?あるいは自らこうなる事を恐れての行動・・・??
そんな当時の俺は全く意味が分からなかった。分かったのは結構後だ。
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フォルカ ???
「・・・ウォイス~、生きている??」
あれから1ヶ月。未だ眠っているまま。全く動く素振りもしない。
「お~い、聞いてますかぁ~!!」
ドンッ
??ドンッ?ちょっとStop Please。コレ、破壊音・・・。つまりは・・・。
「!?まさか、殺しに来たとか!?ランディア王・・・。スミマセン~!!此処を守るしか手が・・・」
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ランディア 王宮
「・・・おい!!何者だ??」
「ーウォイスは何処だ??」
「とりあえずは話を聞いてもらおうか?お嬢さん」
変に使者と侵入者が変な会話をしている。・・・これはマズイ。
「良いから言え!!ウォイスは一体何処にいる!!」
「だからそれは私殿でも知りません!!この国にいる事自体不明です!!」
「・・・ほう、では王なら知っているのだろう」
「王!!」
「ウォイスが殺したと言っていたが、嘘だとは・・・」
そこにはウォイス(?)が殺した筈のルフィアがいた。
「この様子だと知っている様だな、教えろ」
「・・・場所は不明だぜ?一応言っておくが、アイツは眠っているぞ」
「良いから教えろ!!」
そう言うとルフィアは俺に向かって術を唱えた。
「うわぁ・・・。これはマズイ」
譫言(うわごと)の様に俺はそう呟いた。
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フォルカ ???
「フォルカ殿!!」
「あ、リリア。王宮の方は?」
「現在、ランディア王とルフィア様が戦闘中でございます。ー確実にウォイス狙いだそうです」
「と、なると此処がバレるのも時間の問題、って事ね・・・」
ウォイスは現在手術中。この時に襲ってしまえば1年の苦労が水の泡となってしまう。これだけは絶対に避けたい。
「・・・私達だけで守りましょ・・・」
「ですが、ルフィア殿はウォイスの母親ですぞ!!魔術でくr「魔術なら私も得意だから」!?」
時間稼ぎをしておこう。これくらいならまだ出来る。死んだふりなどした末には最低命は保証出来る。
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ランディア 王宮
「ハァ・・・ハァ・・・」
「まだこれくらいしか出来ないのか、此処の王は」
「・・・降参。場所は教えてやる。しかし命は取るなよ?俺のな」
「ーようやく気が変わったか。地図をよこしな」
「ほらよ」
「・・・ほぅ、では此処にはもう様が無い。じゃあな」
フォルカ。申し訳無いが、俺にはまだやるべき事がある。・・・まだ死ねない。
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フォルカ ???
「!?」
「ーさあ、ウォイスをよこせ・・・」
「結構早かったわね・・・。でもウォイスを渡しはしないよ」
「・・・。」
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ウォイス Mental space(精神空間)
「・・・聞こえる」
「そうだな。あれは母親だ」
「ー死んだ筈だろ??」
「あいつ、多分別人か殺した人は別の人だった??」
「・・・そうだな。ー!?」
「危ない!!」
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フォルカ ???
「・・・うわぁ~、これは」
明らかに当たれば即死であろう武器が出てきた。巨大なハンマーの様な・・・。
「これで貴様もおしまいだ・・・。」
パリッ
「?」
ガラスが割る様な音がこの部屋に木霊した。それは何か。彼女に夢中になっていて気づかなかったが、ウォイスが此処を割っているのだ・・・。実験体にしていたのか、あの人は・・・。などと思っているだろう。
「!?ウォイス・・・?」
彼女も驚いた顔で割れた音の音源を見る。そして・・・
パキーン!!!
私も彼女も助手はその光景に見とれていたらしい。黒色の針鼠がガラスの中から出て行く。間違い無い、ウォイス・アイラスだ・・・。
「・・・まさか、このタイミングで目覚めるとは」
「ー貴様・・・。この前はやってくれたな」
「ん?ーあの時の人・・・。」
「リデァか・・・。その目は」
「まあ、俺は壊れてしまった存在だがな。でもリンクは出来なかった」
「・・・?それはどいゆう・・・?」
「ん?薬がある。・・・これで人格はリンク出来るのか??」
「・・・!!その薬に触れちゃ駄目!!」
それを言うのにはもう時間が遅すぎた。彼は薬に入っている注射を差した。
「!!グァ・・・。」
リデァは急に痛みが走ったのか、座り込んでしまう。
「ー貴様、何をしている」
「その薬は・・・『蓬莱の薬』!!」
「ウ・・・ウゥ・・・助けて・・・」
リデァは助けを求める。そう言っている間にも姿に変化が生じ始めた。髪は長くなっていき、束も5束から10束(?)になる。身体も黒から白へと変わり、目は青から赤へと変わっていく。耳は横に垂れ始め、尻尾は長くなり、ふわふわの毛が出来始める。・・・『狼』になろうとしているのか?
「・・・ハァ・・・ハァ」
満月の月に照らされたリデァは服用する前とは全く違う姿をしていた。明らかに常人ではない。ではあの状態は・・・?
「正直言って、私も詳しくは知らない・・・。それ作った覚えが無い・・・」
「・・・リデァ・・・。化物・・・?」
「・・・俺は生きている?お前ー俺を殺した張本人。・・・だから、仇は取らないと」
「へ?」
「殺しはしないが・・・。痛い目にはあってもらおうか!!」
そう言って彼は彼女に襲いかかる。
「!!強・・・」
パキーンと刃が欠ける。強・・・。何処にそんな力があるのだろうか?
「・・・この姿。どうやら俺の力を倍増してくれる様だな。ー不老不死になった気分」
「ーいや、貴方はもう不老不死になったのよ・・・。ウォイス」
「フッ、ウォイスか。俺もウォイスだ。・・・もう1人の『人格』のな」
「今日が17歳の誕生日・・・。もう一生17歳のまま」
「・・・死には来れない生人か。とりあえず、やっておこ」
「!!」
「じゃあね、母上・・・。妹と父に謝ってよ・・・。お願いだから・・・。天国で。ー俺は死ねない、もう一生妹達には会えない。そう伝えておいて・・・」
グシュ
「・・・ゴメン」
そう言ってリデァはナイフを引っこ抜いた。彼女は倒れた。
しかしリデァの生気は感じられなかった。周りを見るとリデァの周りに魂が1つあった。
「本当はこんな事望んでなかった。幸せに過ごせたらそれで良かった。それなのに・・・それなのに・・・」
「・・・リデァ?」
「こうやって魂にしたくはなかったよ・・・。母上を・・・」
そう言うと彼は母を抱きしめ泣き始めた。
「リデァ。これからは私が守ってあげるから・・・」
「ー母親の代償は、俺が頑張って償うよ。・・・多分一生無理だろうけれど」
「・・・リデァ」
「あ・・・日差しだ」
日が差した時、リデァは目を閉じた。そして姿は白から黒になり・・・元に戻った。「魔学を滅ぼせない。俺は・・・不老不死となったから」
リデァはそう言って、右手を握る。それは強い決意を持っての行動だと分かっていた。
それが、ウォイスの『不老不死』となった原因なのだ。姿が変わったのは『不老不死』が表に出ていたのだ。
それ以来彼の人格は元に戻った。いや、正しく言うと白くなった『満月姿』が『リデァ』で、『元の姿』が『ウォイス』である。記憶はリデァ次第らしい。
「・・・リデァ・・・?」
「ーもう!!心配したんだから!!」
「フォルカ。悪かった」
「ウォイス・・・。王に報告しないと」
「そう、だな・・・」
そう言うと彼はパタリと倒れて眠った。疲れが溜まっていたのだろう。
「王、生きていると良いけど・・・」
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フォルカ 王宮
「王・・・!!何処にいらっしゃいますか~!!」
「・・・俺なら此処にいるぜ。いてて」
「生きていたのですね!!良かった・・・!!」
「痛!!強く握るな!!強すぎだ!!」
悲鳴を上げる。あまりにも嬉しさに力が入っていたらしい。
「あ!!スミマセン、王様!!」
私は慌てて手を離す。「ゆっくり離せ!!」と言われるが、そんな事が行動に起こすのは無理がある。・・・離した後に言われても「じゃあやり直せ」なんて言う人などいる訳が無い。これから気をつけますよ、王様・・・。
「・・・しかし、まさかウォイスの母が来るとは」
溜息ついた後、王は少しトーンを上げて彼女の話題を取り上げた。確かに意外だ。あんなに攻撃したのにまだ生きているとは・・・。彼女も不死身だな・・・とは思っていた。これ、本当に殺したのかと首を傾げてしまうが・・・。
「殺した筈じゃないんですか?というよりよく生きてましたね」
「ギリギリのタイミングで場所を伝えたら殺さずにそっちに向かった・・・。悪いな、自分の欲望のまま行動を起こしてしまって・・・。」
「とりあえず生きているだけでも良い限りですよ。・・・ところで、王様?」
「?」
「・・・後で研究室に来てください。話はそれからで」
「?・・・ああ。分かった」
問題はそこだ。あの薬は訳分からない。正直言って本当に『蓬莱の薬』なのかさえ分からない。・・・しかし長命になるのは間違い無いらしい。不老不死、そこまでになるのだろうか・・・??
私が考えた『蓬莱の薬』の原料をいくつか挙げてみる。
その1、『不死鳥』の血。不死鳥・・・いわゆるフェニックスの血があったのでは無いだろうか?伝説でも光を浴びるだけで結構生きられるとか何とか。
その2、『吸血鬼』の焦げた皮膚。日光に当たると皮膚が焼ける。その灰を吸い込めば、不老不死になるという話を聞いた事がある。
その3、『かぐや姫』に出てくる奴と同じ。かぐや姫は最後月に帰るのはおそらく皆知っているだろう。行く前に置いた中に蓬莱の薬があった。
「・・・と私は考えているのですが、どうでしょうか?」
「ふむ・・・。しかしアレは一体何処で手に入れたのか?」
「ーあと王、ウォイスの母親について分かった事があるのですが、いいですか?」
「何だ?」
「母親の血を摂取し、調べてみた結果ですが・・・。ルフィアは生粋のイチジクの者でして。旧名がルフィア・イチジク。その血をウォイス達は知らぬ間に流れていたみたいです」
「道理でウォイス・ディアナの魔力が凄かったのか・・・。アイラス家もイチジクに負けないくらい強いというしな・・・」
「ーだから『生粋の魔導師』と呼ばれていたのですよ。イチジクとアイラスも、魔術の始まりに関わった繋がりですからね。器も良かったのでしょう」
「母がとても強いのもコレか。・・・しかし、野放しにするとは。ーウォイスに迷いが生じたのか?」
「それはどういう事です?」
「『イチジク』の名を引き継ぐか『アイラス』の名を引き継ぐかの問題だ」
どちらも強い。そのハーフで生まれた彼も両方の利点を持つ。・・・問題は『悪意』が生まれるかどうかだ。二つの種族は両方『善』『悪』に分かれる。
「そこまで考えなくても良い気がしますが・・・。あ、でも秘術で彼処全体を氷漬けにした程強いからなぁ・・・。」
あの行動は『悪』の眼醒めにも見える。実際彼が魔導王国を滅ぼしたのだ(生存者が殆ど居ない上、もう既に壊滅状態だったので殺人犯などにはされなかったが)。今後こんな事になってしまうと、それこそ本当に危なかっしい。
「・・・ところで、アイツは?」
「彼ですか?今眠っていますよ。手術の疲れが溜まっていましたから。」
「そう。母を見ると瞬く間に悪意を見せただろう?それこそあの時みたいな」
「リデァがその塊である可能性は高いですよね・・・。比較的好戦的ですから」
私達が出した結論・・・それは彼が目覚めたのは『悪意』混じりの『善意』である事、そしてもう1つの人格は『善意』混じりの『悪意』の可能性が高いという事だった。正直多少『悪意』が混ざるのは皆そうだから仕方がない。問題はそれを打ち破れるかだ。打ち破れた者は『英雄』となると聞いた。
「・・・まあ、彼が目覚めてからで良いですよね?この事」
「そうだな」
ウォイス・アイラス、リデァ・イチジク。17歳であり、不老不死に近い者。不老不死になるのは多分もう少し先の話だろう。
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3章へ続く