夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

日記ノ十七ノ巻~Victim

神信ずる者、全てにおいて此処に落ちて逝く 

 罪を認めれし者、清水を飲み罪滅ぼしを得る

 地獄と天国の安静を保つ為に犠牲を捧げるのだ

古き信書には、その様な言葉が書かれていた。

この書物がまさか実在していたと気づいた時、既に遅かった。その精神は現実では存在してはならない存在になっていた。・・・いや、此処に来た時点で化物だったのかもしれない。

夢物語にしか過ぎなかった筈の試し。それが此処まで身を滅ぼす事になるとは。俺がこうして生きている事自体、可笑しいのだ。

 

「能力を得る経緯を教えて貰おうか」

ウォイスは俺を呼び、とある神殿に呼び寄せてきた。集まった時誰もいない事を確認し、奥深いとある場所に移動させられた。そして、「力を手に入れた経緯を教えろ」と言われた訳である。まあ、彼目線何故こんな事をしたか分からないのだろうし、知っててもきっと真意を確かめる為にこんな事をしたと思う。彼が俺を注視していたのは明らかだ。敵に回すのは極力控えたいという感じは心を読める様になる前にも、少し感じていた。ただ、それが実際に表に出たのは随分後だった。

「・・・何処から言えば良いんだ?」

「『儀式による魔術の取得』、其処から教えて貰おうか」

そうだ、この能力は魔力を使わない『魔術』の類だ。対象のモノを思えばそれで唱えた事になるので、魔術よりかは能力として扱った方が良いだろう。

そして、ウォイスが言っていた『儀式による魔術の取得』。儀式によって手に入れる魔術は様々であるが、『術式の記憶による魔術の取得』の方が圧倒的に多い。儀式によって取得したモノは、俺が見た所ではかなり凄いモノが多い。あと、魔女の鍋の材料が謎の様に、儀式に必要な材料が謎なものが多い。

俺が得た魔術の条件が『満月の夜に魔力溢れる場所から溢れかえる清められた水を手に救える程度の量を飲む事』だった。まず魔力が溢れる場所となるとある程度場所が限定されている。溢れると書かれているが、厳密に言えば『新月の時でもその土を救えば魔力を回復出来る位溢れる所』である。それで更に絞れる。そして清められた水が溢れる所。清水が手に入れられる場所、というと主に湖や川といった場所にある。もし、俺の魔術の取得場所が単純にそういった所で手に入れていたならば、まだ良かったのだろう。問題は・・・

「・・・何故、ロストタワーで手に入れる事が出来る?彼処に湖は存在する。だがお前は最上階で手に入れた。そしてその時お前は肉体を失っていた筈だ。教えろ。どうして肉体を失っても・・・・・・」

「ーお前は分からないんだな。思い出してみろよ、似た様な出来事あっただろ?夏の異変の黒幕が、驚いていた事の一つとして挙げられると思うが」

「天気異変・・・にか?」

「まあ、そういうのは抜きにするが。ロストタワーって何処かの魔導師の怨念があるでしょ?」

ウォイスは俺の言っている事を把握したらしく、少し動揺した様な顔を見せた。そして、少々動揺したままの顔で声を発した。

「・・・お前、まさかその怨念を・・・・・・」

「そう、操っちゃったんだよ。俺も驚いたぜ、まさかこんな事出来たのは・・・ね。シャドウがあの力を手に入れたのもその怨念のお陰。そして、俺達は犠牲者となった。結界の人柱という名の犠牲者に。だから俺は永遠を手にして、彼は力を手にして、共に化物になっちゃった・・・違う?アンタの方が一番化物だと思うが」

「違う、それは・・・「そんな偽りの顔をしなくても良いぜ、内心は動揺を隠せないんだろ。ー化物だと自覚はしてたんだな、ウォイス」

心理戦に陥れば、彼だって理解しきっていた筈だ。心を読める俺に勝てる訳が無いと。彼の弱みは其処だ。己が化物だと思われない様努力を重ね続けた結果、受け入れる人物がいるのだろう。何時しかの王も、きっと彼の事情を知っていただろうし、だからと言って差別なんかしなかった。そんな王がふと素晴らしいものだと感じられる事がある。・・・その時代に俺はいないけど。

「そもそもお前だって理解しきっていた筈だろう、俺はお前を利用した。そうすれば、ソニックらが止めに入るだろうと分かっていた。実際お前は俺の監視の目を掻い潜って、彼らを止めようとしていた。掻い潜っていると思っていたか?俺は見ていたぞ・・・・・・俺も殺生はしなかっただろう?」

「それはお遊び程度にしか考えていなかったのだろ?だが、お前の従者であるガナールは、お前の命令を破っていた。殺す寸前まで傷付けて、最終的に対抗出来る位に回復させた。お前の命令は確か『俺の計画を無駄にする者を殺す位の覚悟で攻撃しろ』だったよな?」

「そこに『峰打ちは絶対行え』が入るがな」

「ガナールは違った。彼奴はお前程残酷な人間にはなれなかった。・・・正直言ってしまうが、彼奴の才能は凄いが、本領発揮する点が違うんじゃないのか?」

「俺の命令が心を殺している、とでも言いたいのか?」

「ああ」

その後長い沈黙が走り、それに耐えられなくなったウォイスは「・・・後日改めて聞く」と言ってこの場から去っていった。・・・勝ったのかもしれない。彼を攻める事が出来るのだ、俺も。少し俺が俺自身に怯えていた。

 

今日もこの神殿の空は、灰の雨を降らせるのだ。

 

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。