夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

Inizio della follia

『不明記録~Inizio della follia』の続きです。

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???(年代不明)

誰も此処に呼ぶ事なんて出来る訳無いと私を嘲り笑った。そんなの分かっているさ。大切なあの人を生き返らせる事なんて、出来る訳でもない。でも、私は絶対にあの人を助けたかった。我侭なのは分かっていた。でも、もっと話がしたい。数少ない友人の声が聞きたいんだよ。無茶でも構わない。例えどんな手を使おうが、助けてやりたいのだ。それが、他人を傷付ける事となったとしてもだ・・・。

研究を重ね重ね続けた結果、遂に手応えを感じたのだ。あの人の魂を捕まえたのだ。魂だったから、何を言っているかあまりハッキリしてなかったけれど、喜んでいたのは間違いなかった。私は喜んだ。そう、70年間の努力が遂に実を結んだのだ。狂気に満たされるのには、十分な喜びだった。それ程心の其処で笑えるのは、本当に努力したカイがあったんだから。この計画も最終段階に入ろうとしよう。

半分が『偽物』だけれども、完成した。器は違うけれど、それでもあの人は半分生き返った。私を呼ぶ名前の声は、違うけれど何処か懐かしい気がした。私が求めた結論がコレだった。友人にも感謝しなければならない。友人の知恵があってこそ、こうして二人の鼓動を感じる事が出来るのだから。握り締めたその体温は、肌で直々に蘇っていくのが分かる気がした。

本当に君なの?それは半分『偽り』ではなく、全てが『偽り』で『本当』のあの人。あの人が此処に立っていたんだ。声も、感情も、何もかもがあの時のあの人と全く変わらなかった。私は疑った。何もかもがこんなに進む筈が無い。そう言うと、あの人は薄く微笑み、「私はね、死んじゃった魂だから」って言った。大好きだよ。そう言うと、時々夢の端っこで私の目の前に現れる様になった。

目の前で跪く君を見ると、どうしてもそんな面影を見ちゃうんだよな。どうしてだろう?ーやっぱり君は『あの人』に似ているからかな?それとも、あの人の意思を引き継いだからなのかな?そんなの尋ねたかったけれど、尋ねられる事は一生出来ないだろう。何故なら、君自身がその事を知る由など無いのだから。きっと分からないのだろう、生まれる前に起こった私についての事件なんて。

あの後、結局言わず仕舞いだった。言える勇気も無いなんて、とんだ出来損ないだよ。それどころか、あの事件の前、私が何をしているかすら分かってないのだから、口を開けば私の過ちを君に教える事になる。別にそれでも構わなかった。けれど、私にそんな勇気なんて、ある訳無かった。多分、怯えているんだよな。私の過去を私自身が怯えていたのかもしれない。

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英雄歴5年

「・・・!!」

「おお、凄い凄い。これなら立派に操れるな」

「シルバー、助かった。礼を言う」

「いや、これくらいは。こっちこそ礼を言うぜ、シャドウ」

以前、俺はロストタワーで『覚醒を操る力』を手に入れた。あれ以来、危険だからと言い、GUNの者達がその周りにある戯言の森に監視を入れる様になった。そして俺、シャドウ、ウォイスと言った特定の人物のみ自由に立ち入る事を許される様になった。

結果として此処を訪れる客人は現れなくなった。それは言ってみれば敵が居なくなったと言っても良いだろう。もし此処に客人がいた場合ほぼ確実に侵入者と思っていいだろう。

塔、ロストタワーはそのまんまであるが、『失われた塔』だ。かつてとある呪術師が此処で亡くなったのをきっかけに魔力が其処だけ溢れかえる程になったと、ウォイスがそう言っていた。ウォイス曰くそれを経験しているという事なので、おそらくは本当の話なのだろう。ただ、呪術師って誰のことだろうか?ウォイスは内緒と言っていた。

近くには時々行っている花畑がある。ー其処で時々祈りを捧げる訳なのだがーこれは話すと長くなると思うので省略する。

そして前置きが非常に長くなったが、今俺とシャドウはロストタワー第13階層にいる。其処で力試しをしていた所であった。定期的に武術・魔術等を使った戦いを此処で行っているという訳だ。此処の階層は全く塔のダメージが起こらない事を、魂状態であった俺が既に承知だった為、こうして2人で行っているという訳である。あと、これは俺の事情だが・・・。こういう事をすると確実に騒ぎを起こす事を考えていた為に力を出すのを恐れていたが、此処は上記の通り(基本的には)封鎖されている。此処だけならどんなに暴れても問題無いという訳である。

「しっかし、お前が魔術を学ぶとは意外だな。武術とか、そういうの極めるイメージがあったが」

「それはこちらの台詞だ。いつから武術練習したのだ?」

「まあ、護衛術をね~。仮に襲われた時の対処法というかその辺」

「・・・。恐ろしい奴だ」

「えへへ~。でもどうして魔術を学ぶ事にしたのか?ウォイス曰く魔力の才能はそれ程ではないって言ってたじゃないか」

「不得意得意はあるが・・・最近魔術で『属性付与』出来る武術を編み出したのだ」

「あ、成程。だから避けたと思っていたけれど、パリッと静電気っぽい感触を受けた訳か・・・ああ、それなら覚えるべきかもな。苦手なタイプを抑える方法か」

「そうだ、流石魔術を学ぶ者は理解が早いな」

「それはどうもっ。でも、基礎の所はウォイスが教えたくれたから、其処は彼に感謝しないとな。シャドウもそうだろ?」

「そうだな・・・。ウォイスが「後はお前らの努力次第だ」と言っていたのはそういう事だったのか」

最初はあまりピンと来なかったが、今となっては大体理解出来た。そう、魔術は様々である。闇魔術、光魔術、補助魔術、回復魔術・・・と言ったのがある訳なのだから、人によって種類が異なる。その証拠に肩書きには回復魔導師、呪術師と言った呼び方が多く存在する。ガナールの『鎖術師』もそれに入る。それを大まかな基準にしたのが『魔導呼称表』である。魔法見習い、魔法使い、魔導師、魔術師、メイジ、アーチメイジ。ウォイス曰くそこに+αって形で『ウィザード』と『ウォーロック』があるそうだ。そこいらは基本公の場に出てないらしい。

「お前の場合、属性付与・補助魔術が中心なんだろ?ならほら・・・付与魔導師『エンチャンター』とかの名が付くんじゃないか?」

「半分自己妄想だろ、そういうのは」

「いや、魔導師の名って大体はそういうもんだと思うぜ?ある程度人気が出たらその名が使われるからな。ーウォイスの別名『永遠の魔導師』なんてまさにそんなんだぞ?あれは自称ではなく、他人がそう呼ばれたからそうなっただけだけれどさ」

「そういうモノなのだろうか・・・?じゃあ、貴様は何なのだ?」

「んー。俺、全体的に伸びてるからなぁー。何とも言えないや。回復も出来るしさ~」

「・・・その能力、万能だな。魔術に対して使ったら後遺症残らないのだろう?」

「?ああ、そうだな。1回ミスしてさ~。他人の怪我を回復しようとしたら、その時骨折してたらしくてさ。怪我は勿論、骨折も治っちゃって」

「回復魔術で良かったな。攻撃魔術とかだったら殺人罪になるぞ、本当に」

「流石にあの時は驚いたぜ・・・、あの力宿した事を恐怖に感じたもんな。あ、でも今は大丈夫だ、扱いにはもう慣れたからな。そっちこそ気をつけろよ?あの力を雑に使ったら、本当にそのままあの世行きだからな?」

「ああ、その辺は理解している」

シャドウは手を握った。あの時とは同じ瞳。その瞳はまだソニックの事を忘れられないのだろう。冷淡だが、何処か温もりのある。

不思議と涙が出ていたみたいだ。可笑しいな、彼にまた叱られちゃうよ。

「・・・大丈夫か?」

「ああ。ありがとう」

「悲しいのか?」

うん、そうだよ。なんて言えず、ただ顔を伏せていた。

 

もう居ない彼の隣に居座っていた時の記憶がふと蘇った。

 

 

『おっ、シルバー。・・・少し背が伸びたか?』

『軽いお世辞はよしてくれ、ソニック』

『いや、そんな気がしただけだ。そんな事よりもこれを見ろよ!!』

ソニックが指指したそこには、綺麗な花が1輪、ポツンとあった。

『綺麗だよな、この花』

『・・・可哀想だよ、1輪ポツンとあったら。一人ぼっちだよ』

『お前らしいな。それもそうだな。んーじゃあこれはどうだ?』

そう言うと、もう1つの花を置いた。

『ホラ、これで一人ぼっちじゃないだろ?』

『そうだな。寂しくないな、一緒にいられるのは幸せだからな』

『?』

『今までずっと思ってきたんだ。未来の時は、こんな幸せの時を過ごせるなんて全く無かった。こうして友達が出来て、笑顔で過ごせて、喧嘩が出来て、喜びを分かち合えるなんて、夢みたいだった。今まで、一人であったからさ。だから、こうして生きている事に感謝している。こんな時がずっと続けば良いのにさ』

『・・・これが永遠だったら、慣れてしまうと思うぜ?』

『そうかもな。でもこれが、例えば1日で終わったら、悲しいでしょ?』

『同じ日なんて無いよ。全てが1日で終わってしまう。それが集まって初めて『思い出』となるんだ。ずっと生きているなんて、重すぎる』

『不老不死、人類の夢だけども、俺はずっと生きていたいとは思わない。こんな日々に限りがあるのは分かっている。でも、だからこそ皆で助け合って笑い合うモノなんだと俺は思うぜ』

『俺もそんな事考えてたぜ。花も同じ、朽ちていくからこそ美しいんだと思う。ずっと続いたら、見飽きてしまう。人間って永い時を望むが、じゃあ実際に永い時を得たら、悲しい事が多いんだろうな』

ソニックはそう言って、窓を開けて空を眺めた。綺麗な鳥が宙を舞う。3羽いたのだが、その内の1羽が俺の指に止まった。

『・・・そうなんだな』

『・・・?どうしたんだ、シルバー?』

『いいや、何でもない』

俺はその鳥を眺めて、なでなでした。

これがとても大事な事であった事を知ったのは既に彼が他界してしまった時であった。

 

 

「・・・何かさっき何か救われた気がするぜ」 そう言って俺は笑った。

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続く。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。