幻想の赤月 -9章 魔導師の捜索~Marionette-Welt
何度もそんな光景を見ているのだ。もういい加減にして貰いたいものだ。
もううんざりである。とっとと消えてしまえば良いではないか・・・。
私はそう思って、お前を批判した。
でも今は違うのだ。何故こんな事言ってしまったのだ・・・。
全く聞こえないのだ。お前の声が、姿が、意識が。
確かに私の望み通り、消えていったのだ。
だから孤独になったのだ。全く見えない。
この光景を何程(どれほど)見ていたのだろうか。
無音で、私の鼓動しか聞こえない。
誰か私を救ってください。いずれ此処から放たれる事を望んで。
♪◇■●○□◆♪ 中間 ♪◇■●○□◆♪
私が見ている景色はいつも違う。それが楽しかったから何度も見ていた。
もっと知りたい。私をもっと綺麗な世界に連れて行って。
私はそう思って、ゆっくり君と笑った。
ゆっくりと進む時の中で、此処は崩れ落ちた。
今では見る事の出来ないセカイ。君の声が聞こえないんだ。
今までは共感とか出来ていたのに、今はそれが出来ない。
それがどれだけ大切なのか、私がよく分かっている。
いつも違う風景を、君に教えたかっただけなんだ。
今では、私だけが唯一の柱となっている。
誰か私を守って。そして、此処を守ってよ。
***********
ガナール 図書館
「シグ、大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ」
私の使う魔術で、シグと私は姿を消している。ある程度戦い慣れているので、気配は容易く消せる。
時刻は午後11時。アファレイドとはいえ、この時刻になると流石に静かである。最近では天使が舞い降りるとかの噂が出ているが、どうやら今日は舞い降りる事は無い様だ。まあ、その方が気を取られなくて済むのだが。
シグの魔術で容易く図書館の鍵を開けられた。魔導王国なので、こういうのには結構強かったりするのだが、シグはそれを容易く開けられた。
さて、無事誰にも見られずに図書館に入れた。当然、分からない様鍵を掛けている。ある程度魔力があるとモノに宿る魔力も感じる様になる。それを利用して、禍々しいオーラを持つ所を探ってみた。
「・・・どうやら地下が怪しいみたい。下は私が探すから、シグは上をお願い。何かあったらテレパシーで」
「了解。頼んだよ、ガナール」
そういう事で私は彼と別行動を取る事にした。それに、私は『もう1つ』の事情があった。尚更、地下に行くべきなのだ。
階段を降りていき、あったのは扉。そこには当然鍵が掛かっている訳なのだが、私は軽く普通に家に入るかの様な感じで鍵を開けた。ガチャリと音をして一瞬ヒヤッとしたが、誰にも見られていないので、多分大丈夫だろう。
地下1階にはそれなりに危険な香りのする本が詰まっていた。『簡単な悪魔の召喚』や、『天使の契約の仕方』等が置かれている。しかし、私にとってはそれは普通の事なのだと感じていた。というのも、今まで化物レベルの相手を何度も戦ってきたし、更に言えば、悪魔の召喚を間近に見ている。正直言うと、これくらいなら直ぐに暗記出来るだろう。とまあ、地下1階はまだマシな方だったので、まだ地下があると予測し、更に不気味な雰囲気が漂う場所に来てみた。
地下2階も大して変わりなく、3階も同様であった。しかし、奥に行けば行く程、不気味な雰囲気は大きくなり、下手すれば行く気力も無くなりそうな感じもした。
奥の奥まで行ってみた。すると、数多くの本が沢山並べられていた。そしてその不気味な雰囲気はある訳なのだが、それとは別に、何処か別の国の雰囲気も感じられた。少なからず、アファレイドの地域では無い様な気がするのだ。
とりあえず、最深部を軽く歩いてみる。
「魔学の発端について、アファレイド以外の魔術について、不老不死の薬の製造方法・・・。どうやら使ったら確実に死刑になりそうなモノばかりが並んであるみたい。ウォイス様が作った不老不死の薬ってもしかして・・・・」
軽くその不老不死の製造方法の本を見てみる。まず、素材が多過ぎる。それに一部の素材は絶滅危惧種に入っているモノもある。素材集める前に既にハードである。
更にその素材を集め終わった後、4分24秒のタイミングで~を入れるといった、分ではなく秒単位で作り方が書かれている。とてもではないが、無謀である。
しかし、内容の一部とウォイスの薬の一部は何となく違う気がした。ただ、何となくだが。
「・・・少なからず、私は一生作る気にはなれませんね。さてさて、戻さないと」
よく探すと、隙間があった。此処で間違い無いのだろう。私は其処に本を戻した。溜息をついた後、私は戻ろうとした。
その時だった。上の階からズドンと何かが降ってくる様な音がしたのだ。
私は何事なのかと思い、急いで階段を駆け上った。道を知っているとはいえ、長い距離、しかも階段を駆け上るのは少々疲れた。
地上1階に駆け上がった時、其処にいたのは応戦中のシグと変な刀を持った子がいた。どうやら2人は私が此処に来た事を知らないらしい。
しかし、シグは少々苦戦している様に見えた。というのも、私の肉眼からなのだが・・・刀があるのだが、『見えない』のだ。
姿そのものは見えるので、私はそこに鎖を投げつけた。その鎖は変な刀を持った子が持っている刀の手に絡みついた。
「・・・誰だ!!」
「ー何のボヤ騒ぎだと思って来てみたが・・・面白い刀を持っているんだね、君」
私は笑って、その人を振り回そうとした。が、それは刀によって絶たれてしまった。鎖ごと『破った』のだ。
「!!」
「貴様だな・・・紅月様を封印したのは!!」
「・・・え、封印?封印って、私全く関わってないけど・・・サポートはけれど・・・?」
急に変な事を言ってきたので少々混乱したが、大丈夫だろう。
「ウォイスの従者・・・殺さなければ!!」
そう言うと、刀の矛先は私に向けられた。急に私の胸元を狙ってきたので、あまり受ける体勢になっていない。
「喰らえ!!」
その刀は空間だけを描いた。緊急回避しなければ確実に無防備で攻撃を受ける事になっていた。刀が見えないだけであって、何処までが攻撃範囲なのかが分からない。
「へぇ~、少し面白いなぁ。フフフッ、貴方がその気なら遊ぼうかな」
「!!ガナール、それは使っちゃ・・・!!」
「ねえ、遊ぼうよ??」
私は朱い瞳をして笑う。そう、殺人鬼の様に。
紅ク染マラセテアゲルカラ・・・。
***********
シャドウ ホテル内
「・・・何か変な気配がするな」
何か何処かで狂気を感じた気がしたが、気のせいだろうか。
「んー。どうしたの、シャドウ」
「嫌な予感がしただけだ。まあ、少なからず此処にいれば安全であるが」
「そうなんだ~。んーでも私も変な気配がしたんですよね。こうーこれくらいの」
ルファーは手で大きさを表していた。
「んー実際はもっと大きいんだけどね」
そう話しているのだが、ウォイスとディアネス王は完全に出来上がってしまったみたいだ。ウォイスは笑って、冗談話をしており、ディアネスはそれを自由に発言している。もう駄目だこの人達は。今日は2人で行動する事になる。
「でな~。おい、聞いているか~?」
「頼む、寝させてくれないか~」
「徹夜でやる気なのだが~?」
「それだけは勘弁だ」
会話がカオスである。もうこれどうにでもなってくださいと言いたい。
ただ、少々気にかかっていた事があった。酒で酔いつぶれているウォイスに、浮かれ気味のルファー。・・・戦力的にこれはマズイのでは無いのだろうか?
***********
ガナール 図書室
「零空間斬り!!」
刀が見えない点では非常にキツイが・・・軌道をよく見れば!!
「残念でしたっ、私は此処だよ」
私は悪戯っぽく笑うと、あの人はイライラしてきたみたいだ。思い切り乗ってくれたみたいだ。見事に挑発に乗ってくれた。
「・・・この人となると、いつもこう・・・」
「ー私を普通の人だと思わないでね?まあ、今こうして話しているみたいだけど・・・そんな余裕なんてあるのかな・・・ねぇ?」
所々傷で痛いが、それくらいなら私の応急処置でどうにかなるだろう。あの人も相当怪我を負っている。・・・つまらない。
「チッ・・・私はヒス・・・覚えていろ」
そう言うと、ヒスは煙玉を勢いよく叩きつけた。
「ケホッ、ケホッ・・・。・・・待て・・・!!」
少しずつ周りの風景がぼやけていく。しまった、これは・・・眠らせる為の・・・!!
抗う術も無く、私達は眠りについてしまった。
???
「おーい、大丈夫か?」
私が気がついた時には、研究所にいた。視界の先にはシルバーとシルフィ、そしてルナやポフィルがいた。無論『Other half』の者らもいた。
「う・・・ん。そうそう、確か図書館でヒスって子と・・・」
「ー!?それは本当の話なのか?」
「え?シルバー、知っているの?」
シルフィがそれに食いついてきた。それは私も同様だった。
「知っているも何も・・・俺、そいつと以前戦ったからな」
「それって一体・・・どういう事?」
「単純だ。そいつ、紅月の計画に乗った人だぜ?んで、俺達の前に・・・ってことだ。何でだろーな・・・。まさか、復活を望んでいたりとかか・・・?いや、十分ありえるな・・・」
シルバーは軽く悩んだ様な仕草をする。まあ、悩むのは当然だろう。流石に誰かは分からないだろう・・・おそらく、だが。
シルバーの魂にはその鎖が施されている。彼の肉体ではない。その為、仮に別の肉体に移っていても、ちゃんと人柱の印が出てくる。つまり、彼の肉体を朽ちらせても、そこに魂が無ければ封印は解けない。逆にいえば、別の肉体でも彼がそれで死んだら、封印は解かれてしまう。
「まあ、貴方にエメラルドを預けなくて正解だったわね。持ってたら確実に奪われてたわよ」
「・・・ごめんなさい、私があれを止めていたら・・・」
「責めなくていいわよ。まあ、シグもだけど、手当はシルバーがしてくれたから、もう大丈夫だよ」
気がついたら、身体が痛くない。肌を見ても、怪我の跡も残らずに元の状態に戻っていた。
「ありがとうございます、シルバーさん」
「硬くならなくて良いって。さん付けしなくてもイイだろ?・・・で、ルナ。こういう雰囲気に水を刺すのはアレだが・・・何の目的だ?ガナールを使って、何をするつもりだ?」
そう言うと、シルバーは先程とは違う顔をした。軽く威圧韓を掛けている様にも見える。ルナは彼を見て察したのか、真剣な顔になった。
「・・・まあ、とある方のご命令でな。ー俺が作ったモノを使った計画を少しな」
「その割には珍しくウォイスやシャドウを敵にまわしている様で?」
「あと+αで言うのならば・・・ガナールを少し、な」
「私・・・・ですか?」
急に私の話になったので、少々驚いた。ルナとシルバーの会話に耳を傾ける。
「ああ。何度か戦っているお前なら分かると思うのだが、ガナールは少々情緒不安定な部分がある。また、完全に狂ってしまったら・・・お前が一番理解している筈だろう?それを間近で見ていたのだろう?」
「・・・ああ。おぞましく、恐ろしかった。人間の感情を得ているとはいえ、人間の恐ろしさを知った。・・・確かにあんな状態になってしまったら、ウォイスでも止められるかどうか・・・」
「ああ、だからな・・・『絶対主権』を与えようと思ってな」
「絶対主権・・・?それは物騒だな。ー命令出来るのか?」
「理性のある場合は無効だがな。『誰もが止められない状態になった』時のみ有効だ。私がこの世を去る前には、作っておきたいのだ」
「救済道具・・・か」
「ああ。ガナールも怯えているのだろう?理性が消えて、狂ってしまい、他人を知らない間に殺す辺は」
「・・・うん。怖い・・・気がついたら皆がいなくて・・・。知らない間に殺したくなんか、無い」
それはずっと思っていた事だった。・・・私を止めて欲しいのに出来ないなんて、嫌だから。
「だが、意図的に狂わせたい場合あったらどうなのだ?」
「ーそれは安心しろ、心の底でそれを望むなら放置で構わない。だが、どのみちいずれ疲れ果てて倒れるぞ。その状態で殺されたらー分かるよな?」
「・・・ああ。流石にそれは避けたいな。ウォイスが一番辛いだろうがな」
「ウォイス様、大丈夫かな・・・何かさっきウォイス様の気が思い切り大きくなったんだけれど・・・」
「・・・それは多分大丈夫だろう」
「酒に酔ったんじゃないか?」
「こんな朝っぱらから一体何を・・・・」
***********
シャドウ ホテル
「へっくしゅん」
「大丈夫か?」
「何か知らないが急に寒気が・・・」
「誰か噂でもしているのではないのか?」
「そうなのか?」
「そして今、お前変なムード出していただろ」
「煩かったから叱っただけだ」
横見ると、王とルファーが頭を抱えている。何となく察したので、ルファーの元に寄った。
「大丈夫か?」
「いてて・・・ウォイスが~・・・」
「・・・アレを言ったのだな?」
「うん、アレを言ったの。『愛しい愛しい・・・ってキャ!!」
ルファーが話している間に氷の塊がルファーの頭にぶつかった。
「ーそれ、言うな」
「うん・・・」
半泣き状態のルファーを元気づけると、今度は王に寄る。
「大丈夫ですか、王」
「イテテ・・・昨日話した事を言っただけで、彼ブチ切れて・・・ほら、あのおうー!!」
ルファー同様に、氷の塊がドンとぶつかる。
「お前も冗談で言うのなら、止めときな」
「生憎、僕はアファレイド時代のウォイスをあまり知らないので。まあ、彼にとっては、黒歴史なのではー!?」
苛立ちすぎである。酒に酔い果てた結果の二日酔い、という訳ではなさげだ。
ウォイスは思い切り僕の頭にゴンと冷たいモノが頭にぶつかる。
「言うな・・・言うな・・・お前ら、酒に酔った時の俺を言うな・・・」
とブツブツと言う彼を見ていた。
(お前が言った事を言ったらOUTって何事だ!)
と思っている事を言ったら即座に大きいのを喰らうので、言わないでおこう。
こうして、また平和的(?)な日々が始まる訳である。
***********
続く。
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ヒスは☆星空☆様にお借りさせていただきました。