夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 2-06章 a venom fang

 

今日は雨が降っていた。そんな中でも彼の呪いは溶ける事なく、強まっていくのだ。満月にならない時でも、この状況ならなりえる状況である。
しとしとと降る雨の中、彼らは不気味な空気と迫り来る恐怖を感じ取りながらも、この日はやってくる。

貴方が望んだ月、今日は一体何をもたらしてくれるのだろうか?

The 5th day

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宗教都市アポトスより

連続で動いていた時の疲れと高山病になったシルバーの為に、昨日の夜はすっかり皆ぐっすりと寝ていた。おかげで今ではすっかり元気になった。シルバーも空気の薄さに慣れたらしく、十分に動けそうだ。
「まあ、昨日はよく寝れたから満足かな。ん~さてと、教会に行ってみて情報収集するか」
「気分悪くなったらすぐに言えよ?」
「大丈夫だって。まあ、運動は控えるけどさ」
下手に走ったりすれば間違いなく息切れを起こすだろう。地形に慣れないのは仕方ない事だろうが。
そうこうしている内にシャドウは勝手に教会に向かおうとしていた。シェイドも一緒である。
「Hey、シャドウ!!俺達一緒に行くんだろ?」
「・・・いつになったら出てくるのだ?今すぐ出ろ」
「へいへい」
改めて見ると此処はとても神聖な場所の様に見える。それもその筈、此処アポトスは宗教都市で有名であり、今回の事件が起こる以前から高山の所にある為に、此処までの道は試練等と言われている。普通ならば3日程かけて行くものらしいが、今回は緊急なので皆の能力を応用して一気に行ったという訳である。・・・まあその結果が高山病というだったのだが。
宗教都市というのもあり、此処いらに住む人々の多くは宗教服を着ている。皆が信仰深いのだろうか、それがルールなのかはまだ分からないが、普通に歩く人々も悪魔対策をしているのが目に見えたので、外部の人以外は基本アクセサリーを付けているっぽかった。
俺達はしていないので悪魔とかについてるのかと不安に思ったが、どうやら心配は不要の様だった。此処でも俺達の存在は世界を救っているヒーローと認識しているらしく、俺達を見るなり握手を求めたり、サインを求めたりする。高山で外部の人が来づらい雰囲気があったからか、いつもよりもそういった出来事が多くあった様に思える。
「おいおい・・・後で応じるから今はとりあえず教会の方行かせてくれないか?」
俺がそう言うと皆は其処までの道を教えてくれた。おかげで早めに着く事が出来たのだが、後ろがあまりにも慌ただしかった為に教会の人々は唖然していた。俺達の急な訪問に驚いたのかもしれないだろうが、とりあえず後ろが酷い位に煩い訳だ。
「あー俺が彼奴らに説得してみるからさ、アンタらは話聞いといてくれ。後で教えろよ??」
流石にあの状態だと別の意味で事件が起こりかねないのを察したのか、シルバーはそう言ってきた。
「頼むぜ、あんな状態だと下手に動けないぜ全く・・・」
「ソニックさん、それ漏れたらマズイと思いますけど」
「大丈夫だ、まだ聞こえてない範囲だからな」
「いや、そういう意味じゃないですって・・・シャドウさん。シルバーさん、お願いします」
「ああ、任せてくれ。騒ぎ起きてくれなきゃ良いが・・・じゃ、ヨロシクな」
シルバーはお辞儀しているシェイドに向けてニッと笑うと、後ろの人々の元へ走って行った。一人で間に合えば良いのだが・・・まあ最悪サイコキネシスがあるから問題は無い・・・のだろうか?まあとりあえず上手くいくことを祈るしかないだろう。
シルバーが出てからしばらくすると、やがて一人の信者らしき人が出てきた。歳はそれなりに行っており、帽子を被っていていかにもという服装をしている。そして、何より驚いた事というと、牙が地味に鋭かった事だ。その人は丁寧にお辞儀をした後、挨拶をしてきた。
「初めまして、ソニック、シャドウ、シェイドさん。私の名前はフェルと申します。わざわざ此処にいらっしゃったという話は昨晩からお伺いしております」
「・・・結構話が早く届いてますね。何故僕の名前を知っているのですか?ソニックさんとシャドウさんは有名ですから分かりますが」
「貴方、ウォイスの弟子の名で此処ではそれなりに広まっているのですよ。まあ、ソニック達と比べたら穏やかなものですがね。・・・さて、此処で立ち話も疲れるでしょうし、ついてきてください」
「お、部屋まで用意してあるのか。サンキュ」
「いえいえ、ではご案内致します」
そう言うとフェルは俺達を背に向けて歩み始める。俺達も一緒に行こうとするが、シャドウに少し止められた。
「待て」
「うん?どうしたんだシャドウ?」
小声がシャドウが言う。
「昨晩会った蝙蝠については一言も言うな。それがお前の為だ」
「おいおい、どうしてそんなに敏感になっているんだ?」
「此処は宗教都市。宗教の教えが根強く残っている都市だ。僕達では分からない部分も此処では過剰に反応する様になる。・・・種族も一部の者は此処に住みにくいらしいしな。彼奴が隔離しているのは、その考えがあるからだ」
「・・・つまり、どういう事だ?」
「其奴の事を言ってみろ、そうすればお前も手下の様に見られるぞ」
「あ、ああ・・・」
道理で昨晩深く関わらない方が良いって言っていたのか。奴の事が嫌いだから突き放しているのかと思っていたのだが、そうではなかった様だ。別に俺は知らなくても良い事だが、何故シェイドには言わないのだろうか?それを尋ねるとシャドウは
「もう奴は悟っている」
と言って、そのまま後についていってしまった。多分これ以上説明すると疑わしく思えるからなのだろう。仕方ないので、俺もシャドウの後ろを追う事にしたのである。

~中間~

「まず、何故此処に来た理由をお聞かせしてもよろしいでしょうかね?」
「俺達が求めているカオスエメラルドの反応を探しに来たからだな。まあ、此処には偶然通りかかったという感じだが・・・駄目だったか?」
「いえ、我らのヒーローが此処に訪れた事は大いに人々を幸せにしていることでしょう。我らは貴方様達を歓迎致しますよ」
フェルはそう微笑んだ。幸せにしている事は先程の群れで直ぐに分かるが、あれはあれで危険の様な気もする・・・。
シェイドは真剣そうな顔でフェルに問い詰めてきた。
「単刀直入にお聞きします。今現在、起きている現象について調べているのです。情報を提供してはくれませんか?」
「ふうむ、今起きている現象というのですか・・・」
考え込んでいる様な仕草をしながら、窓から空を見上げる。
「そうですな・・・緩やかな変化ではございますが・・・此処最近明らかに異常なスピードで山が出来たのですよ。窓を見てくだされ」
そう促されて俺達も窓の景色を見てみる。すると、一つの山が大きく見え、その周辺にはどす黒い闇の様なモノがあるのが見えた。山がある事自体は教えてくれないと気づかなそうだが、どす黒い闇の様なモノがあるおかげでこれが超常現象なのだという事が人目で分かった。
「これは・・・」
「そう、魔物が出てきたのです。架空の存在かと思われたのですがねぇ・・・今は魔術の心得のある者や剣術の心得のある者が此処に来るのを抑えておりますが・・・正直此処に魔物が現れるのも時間の問題ですかねぇ」
「そのどす黒い所から出るのか?」
「然様。我々はその魔力の量を見てみましたが、日に日にその魔力は増していき、魔物達も強くなっていく一方でしてな」
「それは一体いつから始まったんだ?」
「つい一週間前程度の出来事ですよ。調査をしているという事は、この出来事は誰かが意図的に犯したという訳ですかねぇ・・・」
「紅月という赤髪のウサギの魔導師が起こした異変だ。他にも各地で変化が起こっている。今僕達の周りでカオスエメラルドを集めるのはその元凶を倒す為だ」
「成程・・・。」
「気をつけてくれ、もしカオスエメラルドを持つ魔物が現れたら急いで俺達に知らせてくれ。すぐにそっちに向かうぜ」
「ああ、ありがとうございます・・・!!ああ、もしお泊りになられるのであれば、ご注意してくだされ。夜は迂闊に外を出ない事をおすすめしますぞ。悪魔の使い魔が現れますからのぉ。魔物がいらっしゃる関係上、仕方ない場合もあるかもしれないが・・・夜は特に気をつけてくだされ」
どうやらシャドウの言っていた事は正しかった様だ。彼―アッシュの事はどうやら教会側としては受け入れてもらっていない、簡単に言ってしまえば対立関係にあるらしい。彼と会う場合は密会しなければならない様だ。しかし、俺達にそういった部屋はある筈も無いし、仮に魔術があったとしても、シェイドが覚えているかどうかは別問題だ。
となると、彼奴に相談しなければならなそうだ。
「分かった。こっちもわざわざありがとうな。・・・さてと、どうするか?」
「あんな状況を見たら、もはややる事はたった一つだ。そうだろう、シェイド?」
「ええ。僕も同じ事を考えていましたよ」
「だよな・・・じゃあ・・・」

「「「魔物退治に行くか!!」」」

下手に動くと危ないとは言うが、あんな状況で此処に襲ってきたらひとたまりもない。それは絶対に避けなくてはならない。
「よし、ならシルバーも呼ぶか。彼なら戦力も増すだろうしな」
「あ、それ良いですね!!」
「・・・好きにしろ。まあ奴なら足でまといにはならないだろう。急ぐぞ」
「そんな事を言って~、本当は寂しんだろ~?」
「口裂くぞ貴様」
「おお、恐い恐い」
この時はまだ平和だったのだろう。俺は最初から遊ぶつもりでいたし、シャドウやシルバーもなんだかんだでこの戦いに対しては余裕の表情を見せていた。
ただ、俺はちょっと油断していた訳である。皆余裕があったが故に、注意すべきところに注意が行き届いていなかった訳だ。

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「はっは~ん、お前ウォイスを畳み掛けようとした途端、塩酸振り撒けられたのか。うわっ、痛そう」
「・・・仕方ないだろう、幾ら何でもあれは予測つかなかったのだ」
マインドがボロボロになって帰ってきたのを見て、カースはそう言った。確かに奇妙にぷくぷくと豆の様な大きな熱傷があちらこちら見受けられる。正直、痛々しい。
「まさかウォイスがこんな残酷な事をする等思ってもいなかったぞ」
青く鋭いその眼差しは、やがて人々に害を及ぼそうとでもしているのだろうか?紅月の仲間だと気づけば即畳み掛ける様だ。勘違いをすれば一気に有利になりそうだが・・・。
「騙す以前にあの黒い奴―ガナールがいるせいで騙そうに騙せないのだな?」
「そう、それ。俺が考えるにはガナールに幻術は効かないと思うんだよな。心理学自体は役に立たないだろうが、幻術に対するレベルは正直俺達では役立たずだろうし」
相手が一体何処まで考えているのかはよく分からないが、紅月様ですらガナールの幻術を見破れなかった所を見れば、不意打ち等をしても返り討ちを喰らうだけになるだろう・・・。
「それならば、直接攻撃した方が早いというのか?しかし、彼奴はウォイスの従者だぞ?」
「ウォイスは『何故か』別行動をしている様だから、大丈夫だろう。それに、俺達には助っ人がいる訳だ」
そう言うとカースは後ろを振り向いた。マインドも続けて後ろに向く。後ろにはメイド服を着た人物がいた。あの時、コアを守ろうとしたあのアンドロイドだ。あの時はシャドウと戦ったらしいが、結局守りきれなかったという。仕方ない事だ、その後にシルバーが来たのだから。
「しかし、此奴は一体何者なんだ?」
「あー・・・そうだな、説明してなかったな。ティルト、自己紹介してくれ」
カースの声と共に、ティルトと呼ばれたアンドロイドはお辞儀をしてきた。
「初めまして、俺はティルトと呼ぶ。くれぐれも女じゃないからそこの所は言っておく。ご主人様のご命令ならば、何なりと」
女じゃない、と堂々と言っているが、マインドからすればただの変態の様にしか見えなかった。男性が女性物のメイド服を着ている時点で普通はそう思ってしまうだろう。
「あー、お前が勘違いしない様に言っておくが、元々ティルトは女性として作っていたんだが、何かある事情で男性として生まれたんだよ。決して変態とかじゃないからな?」
「・・・ああ、分かった。ヨロシク頼むぞティルト。ところで僕達は一体何をすれば良いのだ?」
下手にツッコんではいけないと必死で頭の中で唱えるのだが、反して違和感がますます出てきていた。このままだと言いかねないので無理矢理マインドは話題を捻じ曲げた。カースもその事に気付いたのか、「まあそうなるよな普通・・・」と小声で呟いてから切り出してきた。
「お前は絶対安静だ。紅月様が治療してくださるまで休んでてくれ。俺達はその管理を任されたという訳だ。要するにお暇を貰ったのさ」
よっと言ってカースはソファーに寄りかかって横になっている。
「まー仕方ないさ。お前はよく頑張ったよ」
「・・・紅月様、申し訳ありません」
「おいおい、むしろ褒めてたぞ?よくガナールと接触して殺されなかったな、どうやって生き延びたんだ?」
「・・・。」
『さあ、どうする?』
あの時選んだ選択肢が偶然機嫌を損ねないルートだったとしか思えない。元々提案した側の意見をマインドは飲み込んだ為、こうした事をするのは当たり前ではあったが、状況が状況だ。選んだ瞬間殺されかねない状況だってあっただろう。
余裕があった、という訳だ。仮にマインドが暴れたとしても、それを抑える手段をガナールとウォイスは持っていた。故に、優位な状態で交渉をした訳である。優位な立場に立っていなかった場合は・・・おそらく見せしめになったあの様と同じ様な状態になっていたのだろう。
(泳がせればそれが一番の近道になる筈だが・・・)
泳がせるには条件がある。相手に情報が知れ渡れていない事が一番大事だ。泳がせる事がバレれば確実にそれを利用される。また、その泳がせる行為自体、ガナールが望んでいた光景なのかもしれない。そんな事を考えれば堂々巡りになってしまうが、考える必要はあった。
「・・・言わないでおく。ガナールに目をつけられれば終わりだしな。他の奴らは?」
カオスエメラルドの探索だ。あと何故か紅月様が宗教都市に出かけている。何故だろうな?」
「ご主人様、ソニック達見に行かれたのでは?」
「僕は知らないよ。しばらくは安静にしているから・・・イタタタ」
「!!ティルト、近くに魔具があった筈だ、取ってきてくれ!!俺が痛みを和らげられるか試してみる」
「分かった・・・!!」
「チッ、結構深いんだよなぁ・・・治ってくれ」
痛みを訴えるマインドの手をカースは握り締めた。生命に影響はないので彼は握り返してくれたが、いつになればこの戦いが終わるのだろうかと彼は途方に暮れていた。

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「ちっ、魔物がいっぱいいやがる!!シルバー、押さえつけてくれ!!」
「ああ、任せろ!!」
サイコキネシスで大勢の魔物を一時的に動けなくさせた後、ソニックがホーミングアタックでしめやかに絶命させてはいるが、キリが無い。倒れた先から向かっても無駄の様に思える。
「ハァ、ハァ・・・シャドウさん、前です!!」
「カオススピア!!マズイな、更に強くなってきている・・・根本を叩かねば」
「根本って一体何処だよ!?」
「!!言い争っている間も無いですよ!!あれを見てください!!」
シェイドが指差した霧がかった先には、人影が見えた。増援に来てくれた様には全く見えない。何故ならば、魔物が襲ってくる方向から出てきているからである。
「今更何の様だ!!」
何者か分かったのだろうか、シルバーはいきなりサイコカッターで勢いよく人影に向けて放った。しかし、その攻撃は届いていない様だった。
「なっ・・・」
驚いた数秒後、突然地面から影の様なモノが物質化している事に彼は気付いた。気付いた時には既に遅く、その物質化した影は槍となって彼の足元を思い切り刺さってしまった。急な出来事だった為に、俺達全員が混乱した。
「ぐっ・・・貴様!!」
下手に動けない状況だったが、シルバーは魔術そのものを動けなくさせた。手が無事ならば、サイコキネシス自体は出せるからだ。痛みを伴いながらの使用だったからか、締める力は其処まで強くない様に思えた。
此処まで来ればもはや顔を見なくとも皆その人影が何者であるかが分かった。明らかに早くて驚いたが、あれは、間違いなく。
「この事件の黒幕がこの時にお出ましという訳か・・・ウォイスがいないタイミングを狙ったのか」
「・・・紅月」
かつてソニック、シャドウ、シルバーはアファレイドの襲撃事件及びそれに関連する秘密任務で紅月と顔を間近で見ていた。殺気に満ち溢れた瞳、理性をも吹き飛ばした意識や狂気、何もかもが一度は体験していた。
それでも尚、彼らは恐怖を覚えてしまったのである。そう、あれは確か半年も経っていなかった筈なのだ。筈なのに、明らかに以前よりもその特徴が現れていた。
ウォイスが「もう呼びかけには応えなくなったか」とポツリと呟いたのをシルバーは聞いていたが、そこから更に悪化した様に彼は思えた。だから、咄嗟に危険と判断して攻撃したのだ。
「久しいな、シャドウ、シルバー。まさか貴様らが此処に来ていたとは思わなかったが・・・ソニックも一緒・・・か。そして・・・シェイド」
「・・・貴方は既に力に溺れています。それに、貴方はウォイス様を裏切ったそうじゃないですか」
「裏切った?違うな、裏切ったのはウォイスの方だ。ウォイスが彼奴を殺したのだ・・・」
「ウォイス様はそんな事をしません!!」
「シェイド、落ち着け!!一旦退くぞ、シャドウ、良いな?」
「そう簡単には帰らせる訳にはいかぬ・・・折角此処まで来たのだ、もっと味わうがよい・・・我らの怒りや悲しみをな!!」
周りに黒い化物―闇の住民が出てきた。更に、そのまま獣も徐々に増えてきて、これ以上戦えば確実に死者が出る位にマズい事になったので、シャドウはすぐさまカオスエメラルドを出した。
「カオス―」
「フンッ!!」
カオスコントロールを出すよりに先に、紅月がシャドウの腹辺に銃を撃ってきた。その勢いにシャドウはついていく事が出来ず、そのまま撃たれて動けなくなってしまった。元々究極生命体で不老不死なので死ぬことは無いだろうが、これでは危険すぎる。
「シェイド!!逃げるぞ!!シャドウ担いでくれ!!」
「!!あ、ハイ!!・・・これでも喰らえ!!」
シェイドは突然後ろを振り向くと鋭い閃光が走った。目くらましに使うモノで、一時的に視界が役に立たない様にさせる様ウォイスが作ってくれた。
「今の内に!!」
「ああ、掴まれよシルバー・・・!!」
「分かった・・・シャドウは大丈夫か!?」
「安否よりまず俺達の身の安全を確認してからだ!!このままだと俺達全員殺されるぞ!!シェイド、俺に掴まれ。遅れるなよ・・・!!」
「あ、ちょっ・・・」
強引に掴まえてから、俺は音速に近い速さで走り出した。流石の紅月と言えども、音速に近い速度で走られたら追いつけないだろう。
・・・と思っていたが、紅月は必死に追いかけていた。それでも俺の方が早かったが、皆を担いでいるとはいえど、全力に近い走りの筈だ。
「ちっ・・・ウォイスやガナールはどうして来ないんだよ!!」
必死に走っていた。下手に此処で殺されても困るだけなのだから・・・。

~中間~

『ソニック、ソニック!!周辺に明らかに変な魔力の乱れを感じられましたが、一体何があったのですか!?』
ある程度紅月と距離が離れた所で、ガナールがテレパシーを使ってきた。
「遅すぎるぜ・・・、紅月が現れた。シャドウとシルバーが負傷してしまって今逃げている。そっちは?」
『今貴方の方に向かってますよ・・・紅月を一時的にでも動きを封じるつもりですよ。おそらくあの程度なら大丈夫です』
「お前が傷ついても困るぞ・・・?」
『貴方達は今怪我されても困るのですよ。的をこっちに向けた方が楽でいられるでしょう?』
「・・・。」
『紅月ならば確実に貴方達を追うつもりでしょうし・・・ですので』
「後は、任せてくださいな」
走った先にガナールを見かけた。急ブレーキをかけようか迷ったが、奴ならきっと動きを抑えられるだろう。
「ああ、恩に着るぜ!!」
一瞬のすれ違いでそう言ってみると、少しだけ微笑んでいる様に見えた。そして、右腕を上げた瞬間、自身の影と紅月の影を実物化して紅月の体を縛りつけた。
後は祈るしかなかった。彼らの事の方を優先せねばならない。

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「・・・ええ、貴方はウォイス様と似たタイプです。手段は違えど、属性型攻撃が得意な奴。私はそういった相手には得意なのですよ」
私がニコニコと笑うと、紅月は完全に動揺していた。心理学を嗜んでいない人でもこの慌てぶりで分かるだろう。完全に私が此処で現れる事を考えて無かったと思われる。
その考えは間違いではない。私だって、この出来事は正直想定外だった。シャドウとシルバーが傷ついていて、相手が紅月でなければおそらく私は此処に来なかっただろう。他の事情もあったのだから。
「―やっぱり、豹変していらっしゃるのですね。道理であんなに固い訳だ」
「それは一体どういう・・・ぐぅっ」
幾ら縛っているとはいえ、相手はウォイス様と張り合える者だ。念には念を入れなくては、自身の身が危うい。影で縛り付け、ナイフで動けなくさせ、鎖で巻きつけておかないと気が済まない。
「答えなさい、貴方は何者?ウォイス様をかなり執念深く追っている様ですが、何故そんな事を?」
事前に私は奴の元々の人と接触を交わしているので、奴がその元々の人でない事を何となく察していた。おそらく、ウォイス様も気づいているのだろう。そうでなければきっとこの子を殺そうとなんて思う筈がないのだ。支配する奴とウォイス様は完全に対立している。此処を皆理解していないから、混乱しているだけだ。そして、人々はウォイス様を支持した―それだけの話なのだ。それだけなのに―
(今や、その関係がこんな出来事を呼ぶなんて)
馬鹿馬鹿しい。興味すら沸かないのだ。私の感情が薄いからなのか、もうこの世の中に期待を寄せてないからなのか・・・どっちなのだろう?
「ハッ、その物言いだと・・・気づいているのか?」
「なんのことでしょう?その顔ヅラを汚したくはないでしょう、早く言いなさい」
「・・・ああ、残念だ。それはお前を殺すことになるのだからな!!」
突然、紅月の体から何か黒い物体が出てきた。完全に出てきた途端、紅月の肉体は糸が切れたかの様に崩れ落ちたのだ。黒い物体は私に襲いかかる。
(乗っ取りを利用しての自殺をさせる気か)
こうなるのは何となく見えていた。黒い物体は私に入ろうとした途端、動けなくなった。
「まあ答えを言いますと、気づいてますよ。貴方が行った行動がこの事件を引き起こしていることもね。・・・さては貴方、私がウォイス様に作られた事を知りませんね?」
完全に弾き返した。無理だと悟ったのか、奴は元の肉体に戻ってきた。
「ぐっ、何故我の術を知っている!?何故だ!?」
「さあ、何故でしょうね?私には分からない事ですわね。ただ、偶然の産物ではなさそうです」
下手にあの魔術について触れると、後でウォイス様に叱られるだろう。それに、今このタイミングでカラクリがバレたらきっと奴は私を引き裂こうとするのだろう。しばらくはきっと私が優位に立つだろう。だが・・・。
(下手に長期間いれば確実に私が不利になるでしょうし、ひとまずこの戦いに決着を付けないと)
「とりあえず、今は引きなさい。大丈夫だよ、『私は貴方の味方でもあるのだから』」
奴は目を見つめていた。私の瞳だけに見とれている様にも見える。間違いなく、術は効いていた。
「・・・良いだろう、今日の所は引いてやろう。だが・・・裏切るなよ?」
「こちらこそ。裏切ったら、こうですから」
ニッコリと微笑みながら、首を切る仕草をした。
味方でもある、っていうのはある意味間違ってはいない。奴の中にいる彼は、味方だ。一時的に敵の懐に入っているのも悪くない。その場合はソニック達にも騙されて貰おう。敵を欺くにはまず味方から。味方がその気であるならば、敵もそれに便乗してくる訳である。
とりあえずはまあ、この状況を切り抜けられたというだけでまだ良かっただろう。
「・・・とりあえず私はこれで失礼致します。ソニック達については触れないでくださいな。・・・それと、今日の夜は懐にご注意を」
「ハ・・・?」
「ではこれにて」
紅月の鎖を解いた後、私はそのまま瞬間移動して、ソニック達が逃げたであろう場所に移動した。最後の言葉を不可解に感じられた奴の顔はとぼけていて本当に滑稽だった。大笑いだった。

~中間~

「!!ガナール、大丈夫だったか?」
アポトス内の病院で、彼らは治療をしていた。シルバーは脚を怪我して結構危うい様だったが、幸い呪い関連は付いていなかったので、この程度ならば私の魔術だけでも十分元に戻れるだろう。それに対し、シャドウは重症だった。心臓に近い部分を撃たれたら流石の彼も意識が無くなるだろう。こちらも呪いに関しては無かったのだが、怪我があまりにも酷すぎた故に治療は難航しているという。
「私は大丈夫ですよ。・・・シェイド、あの怪我って貴方の魔術で治せる範囲かな?」
そう言って私はシャドウを指差す。人に指を指してはいけないとは言うが、下手にあの怪我でシルバーの方の怪我に行っちゃったら困る。
シェイドは「う~ん」と言ってシャドウの傷を確認する。数秒見たあと彼は答える。
「うん、多分大丈夫だと思います。無論、しばらく安静にする必要がありそうですけど」
「良かった~、私回復関連心得あまり無いものなので、心配になっていたもので・・・」
「ガナールさんにも苦手分野があるのですか?」
「無いって言ったら嘘になります。騙すのは得意なのですが、どうやら治療関連は苦手らしくて・・・。ああ、でもシルバーの怪我程度ならまだ治せなくないですので、そっちは私に任せてください。下手に魔力を減らされては今後足を引っ張りかねないので。シルバー、ちょっと失礼します。―少し痛むけど、我慢してくださいね」
「あ、おい・・・!!」
「ティアノフルメダ・サファク・・・」
怪我をしている方に術をかけてみる。すると、彼の傷口が徐々に塞いでいく。シルバーはこの光景を見て目を見開いていたが、変化は終わらない。出血もだんだん収まっていき、終わった頃にはもう殆ど支障が出ない傷になっていた。
「す、スゲエ・・・魔術ってこんな事も出来るのか」
「とは言っても、私はこの位が限度です。もっと上は沢山いますよ。シェイドさんの方を見てみなさい」
「え・・・?」
私の言葉に促されてシルバーはシェイドの方を向いた。シェイドは今シャドウの前に立っており、そして撃たれた場所を手で覆い隠した。深呼吸をし、何かの魔術をブツブツと唱える。覆った手の隙間から幻想的な光が淡く輝いているのが見えた。
3分位かかったのだろうか。あの光が見えなくなった時に彼は手を離した。―銃痕そのものが消えて無くなっている。シルバーは完全に魅入っていた。魔術というものの素晴らしさを彼は完全に魅了されていたのだ。
「・・・っ」
「シャドウ!!」
シルバーが動く前にソニックが先に動いていた。治ったとは言うが、一応まだ怪我が残っているシルバーが歩いても困るからだ。彼も続けて行こうとしていたが、怪我人は動くなという事で、私が軽く「動かないで」と言っておいた。
ソニックに助けられながら起き上がったシャドウはやがて目を覚ました。
「此処は?」
「病院。アンタ紅月に撃たれてそのまま意識が飛んだんだぜ。で、シェイドが治してくれたのさ。彼に感謝しろよ?」
「そうか・・・」
顔には何にも示してなかったが、感謝は多分しているだろう。でなければ、シェイドにお辞儀をする事はしないだろう。何故お辞儀なのかは私にはよく分からないが。
「まあ、とりあえずは良かったんじゃないか?でもまあ、二人ともちゃんと安静していろよ?魔術で治したのは良いが、反動もあるだろうしな」
「分かっているさ。・・・アッシュについてはどうするのさ?」
「あ・・・あー、そうだった」
「でしたら、私が此処を見守っておきますよ。ソニックとシェイドはアッシュさんという方にお会いになってください」
「Thank you、ガナール。恩ばっか着せてもらって悪いな」
「いいえ、お互い様ですから」
私はそう言って微笑んだ。

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続く
next 2-07章 moon

ティルトはミルフィーユ様より。他の皆様の分は紹介の部分を参照。毎回ありがとうございます。

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。