夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

幻想の赤月 -5章 It does not settle down!

シャドウ クロノス都市~とあるカフェ

 

 

「・・・おい、何だこの騒ぎは」

「知らないけれど、多分俺達の事を英雄だと思われてるんだと思う・・・」

僕が尋ねてみると、シルバーはそれに答えた。どう見てもこの人数は尋常ではないだろう。何しろあまりにも多くのカメラのレンズが僕達に向けられ、周りの人達は「おお、神様が此処にいるぞ!!」なんて事を言っては僕達の周りを取り囲んでいるからだ。その数は見える範囲でも最低8000人はいるだろう。

そのカフェの主人も僕達が来た際にはもう浮かれ気味だった程である。もはや警察呼んでも構わないレベルである。

「飲みづらいな・・・この状況だと」

「まあまあ、大丈夫だと思いますよ」

「シルフィの言う通りだよー!!危険は無いじゃない!!」

「お前らはこの雰囲気を少し読んでもらいたいものだ」

「いいじゃないですか、撮影気分で」

シルフィとウォイスとシアンも大勢の村人で覆い尽くしたこの状態で話し合っている。メインは僕とシルバーだ。理由は簡単だ。ソニックの名を知らない者はいない。僕達はソニックの友人且、英雄でもある。

ーソニックの次に知られている人物は僕達であるから。

「俺達、いつからこんなに目立つ様になったんだ?落ち着く予定が、全く落ち着かないじゃねーかよ!!」

「落ち着けシルバー。まあ、当分はこんな事になるだろうな本当に」

「うぅ・・・」

僕の言葉が彼の心にブスリと差した感じがした。彼は顔を机に乗っけて、半泣き状態で溜息をついた。こんな姿も村人にとっては貴重なのだろう。パシャパシャと彼を撮っていく。

「目立つ事自体は良いんだが・・・。ただ俺はこの光景に見慣れてなくてさ・・・」

「僕は以前からこんな経験をしているのだぞ?異変解決する度に」

「ご苦労様です、シャドウさん」

「それはどうもシルバー。ま、1年くらいすれば元に戻るだろう。あるいは名が消えるその時までこんな状態かもな」

「悪い、これ以上は無理だ・・・。ソニックも大変だったんだな」

シルバーは起き上がり、先程出てきたケーキを食べ始めた。僕はコーヒーの香りを堪能しながらウォイスらの発言に耳を傾けた。発言内容が結構面白そうだからだ。

「・・・お前ら結構食うな」

「そうかしら?」

「いや、だって10皿も食っているんだぞ!?お前太るぞ」

「えー?でも私全く食べても太らないんだよね~。誰かさんとは違って」

「・・・っ!!俺は甘い物は余り好きじゃないんだよ」

「ティーカップ持っていていたら説得力無いよ~?ウォイス~」

「・・・。甘い物は嫌いではないが。だが、お前ら程食う人いるのか?」

「精霊の時は基本食べられなかったからね。人間は天空の楽園よりも楽園じゃない!!ウォイスが羨ましかった程だもん~」

「今度作ろうか?俺料理そこそこ出来る人だからな」

「本当に美味しいの~?」

「それは私が保証する~!!前に食べたけれどメチャクチャ美味しいんだよ~!!」

「・・・それは良かった」

魔導師の女性2人に振り回される不老不死・・・。

「んで、どうする?」

「貴様立ち直り早いな」

「ソニックが望んだ世界を描きたいからな。ずっと過去を引きずってもあまり良い事は無いから」

「+思考だな、貴様は。過去か・・・」

「そういやお前はアークという場所で育ったんだったよな?」

「・・・ああ。そういえば貴様には話して無かったな」

「ソニックに少々教えてもらったが。教えてくれないか?」

「・・・いいだろう、話してやる。だがお願いがある。この事は誰にも言うな」

「了解~。でも、皆に話しても大丈夫なのか?」

「・・・じゃあ、後で話してやろう。それで良いな?」

「ああ。そろそろ行こうぜ」

シルバーがウォイスの方を見る。するとシルバーは急に顔が固まり数秒時が止まったかの様に動かなくなった。。そして僕の方に顔を向けた。

「どうした・・・っ!!」

僕とシルバーが見たその光景。それはシルフィとシアン2人が食べた量にウォイスが倒れるという意外すぎる光景だった。シルバーが固まって助けを求めるのも何となく分かる気がするから本当にズバリである。

「ウ・・・ウォイス大丈夫か?精神的に」

「・・・ゴメン、無理だ・・・こいつら後で叱ってくれ・・・」

そう言うとウォイスは先程のシルバーと同じ倒れ方をする。今日で2回目だぞ、そうやって倒れる人通算で。

ウォイスが座っている方向右側に硬貨があった。いかにも払ってやるよとでも言いたげな雰囲気である。

「シアン!!シルフィ!!貴様ら食べ過ぎだろ!!」

「え~良いじゃないですか~。運動後の食事は美味しいですよ~」

「そうそう。甘いの久々だよ?シャドウも食べようよ、ね?」

「ね?じゃない!!いい加減にしろ!!」

シアンは「ちぇ~」と言いながら、出る準備を始める。一方シルフィは口を上品に拭いて、シルバーの所に行った。何を会話をしているかは分からないが、シルバーは人々が溢れかえっている所を見て、難しいそうな顔をして返事をする。

「・・・を探すのか?だが、これを探すのは・・・」

所々聞き取れないが、ギリギリでシルバーがそう言ったのを一部確認出来た。肝心な何を探すのは大変だろう。

 

 

 

***********

シルバー目線

 

 

シアンを見て、俺は何と思っただろうか?

ふとそう考えてみたら、シルフィが俺の元へ訪れた。

 「・・・あ」

「どう?この世の中、辛い事ばかりじゃないのよ?」

「・・・。」

確かに彼女の言う通りである。でも俺は未だにソニックの死を完全には受けいられていない。「彼の死体は実はぬいぐるみだったんだよ」なんて考えも捨てきれない。誰だってそうだろう?現実では受け入れきれない事件に巻き込まれたら、良い方向を少なからず見る筈だ、同時に最悪の方向も見る筈である。

それを感じない人など誰も居ない筈だ。体験してない人もいずれこんな経験に陥るだろう。・・・突然の事故か何かで突然死でも起こらない限りは。

「確かに貴方の感情も理解出来ない訳ではないわ。シャドウやウォイスも、少なからず受け入れきれて無いと思うよ?大体人は何かで誤魔化そうとするものよ」

元々精霊であるお前だからこそ、言える台詞である。言われてみればそうだ。シャドウは価値観が違うとはいえ、感情がある、“なにか”から出た生命体。ウォイスは神様だ、なんて言っているが、あれでも元々は俺達と同じ人間で、ちゃんと生きていたんだ。俺など未来に帰ってしまえば只、俺だけだ。シルフィは『元』精霊。転生はいていても精霊の力は操れる。・・・?シャドウもそれは同様ではないのか?

「後悔しても遅い。だから人は反対の顔を浮かべる。それでも穴が空いていて、不完全に偽りきれなくて、最終的には泣いて本音を出してしまう・・・。そりゃ、私も未だに死を受け入れていないよ?」

「・・・俺はこれから何をすれば良い?」

「それは君の選ばないとならないわ。そんな自由が無いならそれは『奴隷』に過ぎない。自由があってこそ、平和があるのでしょ?」

シルフィがさらりと残酷に言い放った。彼女に関しては俺は隠している事がある。

「ーそれは精霊時代の話か?」

「・・・・・・ーっ」

唐突に俺が精霊の頃について触れようとすると、彼女は顔を真っ赤にした。俺が覚えている内容の一つである。シルフィの内容の一部は彼女の体験話に繋がっている場合がある。どうやらそれは実際に起こった話らしい。

「何故、急にそんな話をするの?」

「お前の過去に関して、俺は気になっているからさ」

「・・・ハァ。まあ、話すと長くなるから簡単に話すと」

俺が更に簡潔にまとめると、彼女が四精霊になった以来の事件に、自由を失った子供がいたそうだ。その子供は奴隷にされており、彼女はそれに関して苛立ちを覚え、その奴隷全員を救ったのだそうだ。では主人は、というと死刑などにはしなかったらしいが、相当大きな罰を与えたそうだ。

「お前、結構残酷な事をするな」

「・・・当時はそんな事言っている暇なんて無かったわ。それにこの事件は『聖戦』の時期でもあったから・・・。」

「?聖戦??神様が悪魔と戦ったあの聖戦の事か?」

「そう、それよ。その影響もあってね、私達も巻き込まれたのよ」

「それは一体・・・「それはウォイスに聞いてみた方が良いわ、私は被害者だから」

俺が聞こうとしたら、シルフィは流した。巻き込まれたという言葉から察するに、彼女は無理矢理戦争に向き合わなければ成らなかったのだろうか。ー四精霊という精霊の長みたいなのに就いていたのが理由に。

「・・・そうか。ー今は聞かない方が良いな。・・・こんな状態で言いたくねえ」

ウォイスは完全にノックアウト状態である。精神的に追い詰められていたのだろう。そもそも俺はあの時、初めてウォイスの目線感覚を知った。それはどう見ても本音を叩きつけており、同時に完全に怒り狂う状態を見た俺は、とても恐ろしく怯えた。そうやってノックアウトに倒れて貰った方が良い。

 

 

 

***********

封印直後のお話。

 

シルバー ロストタワー頂上

 

 

「・・・ック」

俺は眠っていたらしい。起きていても尚、まだ痛い。

誰も俺が起きた事に気がついて無いようだ。俺は様子を確認した。まず横にシャドウが気絶していて、右奥にシアンが疲れきっていたのか、深い眠りについていて、奥の奥にはソニックがハァハァ言いながら俺を見ていた。いや、違う。厳密に言えば俺の奥にある情景をソニックと俺は見ていた。

「・・・やはり、犯人は貴様だったか」

俺が目覚めて第一声がウォイスの声である。手前にウォイスが立っていた。ー月光を浴びた彼は、その声に愛情は全く入っていなかった。

『聞こえるか、シルバー』

『ああ、聞こえている。あれは何だソニック?』

『ーあれは、多分あの襲撃事件にいた黒い奴の操っていた奴だ』

『・・・要はあの貴様は紅月か?』

「ハハハ、ようやく気がついたんだ」

紅月はウォイスを見て笑っている。それに対しウォイスは相当イラついているのだろうか、尻尾を大きく揺らして、拳に力が入って震えていた。

『ありゃそうとう怒っているな、ウォイス』

『ソニック、あれどういう意味か説明願いたいが』

『ー多分俺とお前の情報を総合したら、多分これは』

ソニックが言い終わらない内にウォイスが怒鳴りつけた。

「・・・お前がやった行為、いい加減にしろ・・・。俺は何度も言った筈だ、これ以上犠牲を出すなとな!!それに俺を殺す機会など幾らでもあっただろう?」

「お前は殺しても意味がない。ーいや、殺す事が出来ない事はもう承知だし、僕を監視していた事も知っているよ。どうして隠したの?」

(・・・監視?)

「ー何故、貴様がそんな事・・・ああ、そうか。奴だな?それを教えた者は」

「奴?誰だ、そいつは」

俺はこの時点で紅月が怯えていた事を知っていた。微かに聞こえる心の声。ウォイスの声も聞こえる。内容はとても残酷で、悲しい内容だった。

《・・・誰か、僕を止めて》

微かに聞こえた声。この声は自分では気がついて無い様にも見える。その声の主は?というと。

「ーあいつの事だ、肉体を乗っ取った後洗脳なんかやっているんだよな、死ぬかと思ったら元々の身体の主を利用して俺を殺そうとしてさ、まああれが俺の・・・」

小声で俺らでもあまり聞き取れない音量でウォイスがブツブツと物事を言う。内容が思い切り理解しきれないが、多分俺の解釈は正しいだろう。

『ー多分ウォイスの考えは紅月は『奴』によって支配されている、という訳か?』

『シルバー、その奴って誰だ?』

『さあな。多分俺の~などと言っているから。だが、肝心な俺の何かは分からない』

『・・・シルバー、話がある』

『何だ?』

『それはー・・・』

ソニックは『ある事』を話した。俺は『ある事』を確認すべく、集中し読心術を繰り出した。

《ー元々人間は必要無かったのかもしれない》

「何を語っている?奴という者は一体何者だ」

《そうでなければ、きっとこんな事にはならなかった筈なのに》

「ー奴と聞いて分からないのか?ハハ、ハハハ・・・」

《奴さえ、奴さえ居なければ・・・》

「!?クッ・・・!!」

《ー皆幸せに生きていけて、今みたいに戦わずに済んだのに》

「・・・ハハハ、何も対策をしてないと思っていたのか?」

「ー!?その術はレヴィアーデンの・・・」

レヴィアーデン?ちょっと待て、確かレヴィアーデンは何万年も前に滅んだ筈。もう生き残りなど居ないとウォイス自身が言っていたじゃないか。何故、レヴィアーデンの魔術を・・・??

《消えろ・・・。消えてしまえ!!俺と共に眠れば良いのにさ!!》

『《凍ってしまえ・・・我の黒歴史と共に!!!》』

そう言った瞬間、ウォイスが瞬間移動した。目を見ると、満月姿でもそれほど濃い物は無い紅色に輝いていた。俺は瞳を見た瞬間、何かを悟ったみたいだ。知らない間に俺は立ち上がっていた。

「・・・いい加減にしてー」

俺は無意識に声を出して、表に出た。3人全員俺の方向を見る。

「どういう事だ・・・?俺達はお前を封じる目的では無い、『闇の住民』の封印だろ?」

「ーシルバー・・・。その『闇の住民』を奴が創っていたとしてもか?」

「理性を見せている様だけど、アンタ本当は紅月を封じれば、そう思っているのだろ」

「そうだ、と言ったら?」

ウォイスは明らかに可笑しい笑い方をする。今の彼は身体から邪気が放たれている。負の感情を抑えてきたからか、相当強い。今の彼はいつもの彼だと思わない方が良い。化物である。

「お前らの喧騒を俺が沈める・・・」

俺は呪印の事も気にかけながら、あの『能力』を使った。ー誰にも使えない、絶対無二の力・・・。

「・・・っ!!貴様・・・」

『シ・・・ルバー?お前本気・・・なのか』

『ー本気も本気。超本気だ。嗚呼、成程。『奴』が恐れていた事というのが分かったぜ。奴は彼の発狂を恐れたんだな』

『そういう事になるな。俺の本気・・・奴らに叩きつけてやる・・・』

「お前は一体何者だ!!何故我の邪魔をして、味方である奴を妨害する!!」

「・・・俺?ー俺は未来世界の住民でありながら『時間逆説』を操る者」

 

『ーアシュアだ・・・』

 

ウォイスと紅月は俺を見て驚いている。そう言っている俺が一番驚いている。顔には出さないが。何だろうか、まるで先程の痛みが全く感じないくらいだ。それもそうか。8分の7の力を眼醒め(めざめ)させたんだから。

気が付けば俺は既に澄んだ顔をしていた。そして溢れ出ていくる『何か』が俺の感情に染み渡る。どうしてだろう?他人の事なのに、過去を知れば知る程涙が出てきてしまう・・・。

 

『そんな悲しい事を言うのなら、俺が全て請け負う・・・。全ての心を読める俺ならば、悲しみを完全に理解出来るからー』

 

きっと俺はこんな大きくてちっぽけな戦いに泣いていたんだろうな。

 

 

 

 

 

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続く

next -6章 Non posso dire che io sto piangendo

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あとがき

 

人って弱いですよね、ポルでし。誰にだって表に出してないだけで本当は辛い事なんて一度は体験していると思うのですよ。今回は『誰にも言えなかった』事を公に出した章にしました(特に後半)。今回はウォイスも悪意に満たせました。というのも、アレだけ見た場合の解釈と全て見た場合の解釈は結構違うので。ーまあ、それは考えてくださいww(おい

では。視聴ありがとうございます。

 

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。