幻想の赤月 -7章 1/2 神秘たる存在~Sacred Prince
全ての人々に捧げよう。ー神に祈る者に、神秘たる現象を・・・。
永久(とわ)に咲き続ける蒼い薔薇と朱い薔薇。
2つの花は周りの花よりも美しく、儚い。
それを抗う者よ、何故私の命令に歯向かうのだ?
歯向かう者は許されない罪だ。
ー神に逆らう者に勝る者は居ないのだから・・・。
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英雄歴1年ー春、4月1日
全てが終わって次の年がやってきた。
皆はソニックの死を受け入れ、新たな役目を果たそうとする時期となった。
新たなスタートラインに立つ友人達。
そんな時期に、誰もが忘れてしまった事件が起こった。
『ギリシア計画』という計画をご存知ではないだろうか?
ルナ・ロプルヌスという科学者が、生命体を作る計画の名を言う。
作られた生き物はギリシャ文字を取って名前を付ける事が多い。
その生き物を私達は『Other half』(オブザーハーフ)と呼ぶ。
『Other half』は名前にギリシャ文字を模擬取って扱う。
そして身体の何処かにギリシャ文字が刻まれている。
ー多くの『Other half』は。
例外が存在するのだ。
『刻印』を頼りにしてはいけない。力を制御など必要無い。
私は少なからず『刻印』に触れたくない。
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ウォイス ???
ソレ・・・・ハ・・・・トテモ・・・だいジな・・・
ー頭の中にノイズが走る。煩い、煩い!!
「何だろうか・・・何か語りかけてくる様な・・・?」
そっとそのノイズに耳を傾けてみる。
『助けて!!』
本能的にそんな声が聞こえた。
「ー!!まさか・・・!?」
そしてアポトス付近に大きな悪意の気配を感じ取れた。この気配は感じた覚えがあった。
俺は嫌な予感しかしない所へ向かった。
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「此処は何処?」
少年が目を覚ました所、それは薄暗い部屋だった。
少年はこの光景に見覚えがあった。そう、此処はあの人の家だ、そう考えたのだろう。その予感は当たっていた。
「ー目を覚ましたか」
聞き覚えのある声を聞いた少年は自分が今どの様な立場か、瞬時に理解出来た。そう、今囚われているのだと・・・・・・。
「・・・何故・・・・・・」
「何、心配するな・・・。お前の中にいる『奴』を目覚めさせるだけだ」
そう言うと、彼は少年に近づいて、少年の頬に触れる。少年にとってはこの感触はとても恐れ多かったのか、身体全体が恐怖で動けなかった。
「ー目覚めさせる・・・まさか・・・・・・・・・」
その予感は間違ってなかった。彼はクスリと含み笑いをして、少年の腕に注射を刺し、薬を注入した。
少年は必死に抵抗したが、薬の影響で力が抜けていき、そして眠った。薬は催眠薬だった様だ。
「さて・・・始めるか・・・目覚めろ、ε」
そう言うと、完全に眠っていた少年が目を開けた。
ーあの時とは違う、紅く闇に満ちた瞳を持って。
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ウォイス アポトス
「ちっ、一足遅かったか」
俺が着いた時には既に遅く、その気配は何処かで途切れてしまった。足跡が見えなくなった・・・。
「どうかしたのだ、ウォイス?随分と慌ただしい顔を浮べているぞ?」
聞き覚えのある声の主を辿ると、そこにはシャドウがいた。俺はこれを話した。誰かが助けを求めた事、同時に嫌な気配を感じた事・・・・・・
「ーその人物を探しているのなら僕も探しているのだ・・・仕事でな」
「なら丁度良い。ここは1つ、共同戦線としようじゃないか・・・」
「それが一番良いだろうな・・・さて、何処に行った事か・・・」
そう言うと、更に見覚えのある人物が俺達に気がつき、近づいて来た。
「・・・!!ルファー、どうして此処にいる?いや、ルナはどうしたのだ?」
ルファーはルナに作られた人物の1人である。ギリシャ文字『α』の存在。本来はルナと共にいるのだが、今日は彼女1人だ。
「良かったぁ~!!シャドウとウォイスだ~!!」
「?何か頼み事か何かか?それも大きい内容っぽいな」
「うん・・・ちょっとね。ルナが暴走しちゃって・・・」
「暴走?奴が暴走など、ありえるのか?」
「知らないけれど、暴れだしたの!!家に帰ったら、明らかに可笑しい様子だったから逃げたの!!」
「・・・・・・ウォイスじゃないだろうな?」
「・・・悪いが俺はやってないぞ?というよりやっていたら何故こんなに接触するのだ」
と、話している最中に破壊音が響き渡る。恐る恐るそこに行ってみた。
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シャドウ ???
「これは・・・」
次から次へと変化が起こる。木の殆どは枯れているし、建物の大半は壊されている。不気味だ。
歩いているとウォイスは止まり、手を横にして僕達の進行を止めた。
「ー向こうに誰かいる」
そう言うと彼は奥の方を見た。そこには黒いローブで羽織り、黒いシスター帽を被っている者がいた。僕はその人が誰かは理解しきっていた。その人は僕達に気がつき、歩いて僕達の所へ寄った。
「・・・ウォイス様?どうして此処にいるのですか?」
「ガナール、お前どうやって此処に来た」
「散歩していたら急に変な音がしたので。近寄ってみたら、こんな感じになっていまして・・・」
「ーお前、ガナールじゃないだろ」
『・・・え!?』
あまりに急すぎる言い方にウォイス以外の人が驚いていた。ガナールは少々焦っている様にも見えたが、冷静になってウォイスに言ってきた。
「・・・あの、急すぎて理解し難いのですが」
「ガナールは散歩などする人ではない・・・お前は偽物だ!!」
「シャドウ、こっちからも何か言ってくれないかな?ウォイス様が何かどうこうー」
矛先を僕に向けてきた。ー僕はカオススピアをいつでも放てる状態にして、槍の先をガナールに向けた。
「・・・酷い・・・シャドウまで」
「ウォイスの言う事は大抵は正しい・・・それにもし本物だったら、あの人なら、ウォイスに向けて強く批判する筈だろう」
そう言った瞬間、ガナールはクスリと含み笑いを浮かべた。でも、その含み笑いはガナールそのものの気配と全く一緒であった。これは一体どういう事だ?
「ー本物だと言っているのにも関わらず、偽物扱いにされるなんて。ウォイス様なら分かってくれると分かっていたのに・・・『あの計画』に賛同してくれないのですね?」
「・・・?あの計画?ーギリシア計画の事か・・・?いやあれは賛同してるじゃ・・・「それなら、消えてしまえば良いんだっけ?」・・・!!」
ウォイスは操られているのか、乗っ取られているのか判断するのが出来なかった。ガナールの様子が急変した事よりも、ガナールの行動の『意味』を考えていたみたいだ。
「・・・ガナール、しっかりしろ・・・」
ウォイスが呼びかけを試みるものの、それはルファーによってかき消された。
「・・・・・・ウォイス、それは無理だよ・・・」
「どうしてだ!!」
「今のガナールは何者かに洗脳されてしまっているの。ー多分ルナか何かだと思うのだけど・・・・・・申し訳無いけれど、精神攻撃は出来ない。あの『天気異変』のガナールとは理由が違うの・・・・」
ルファーの声は震えていた。それ程あの人が怖くて仕方がなかったのだろう。
「ー『あいつ』を呼び起こせば、一時的に行動を抑えられるのだが・・・」
「何故こういう時に現れないのだろうか、シルバーは」
この時彼がいれば、心を読んで完全に支配されているか分かるが・・・・・・しかし生憎彼はアルファルット地方の何処かへ放浪している。とてもでは無いが、呼びに行くのは無理だろう。
「・・・どうして襲ってこないの?ウォイス様、シャドウ、ルファー」
「さあな・・・色々聞き出したい事がある・・・・・・従者といえど、断るなら全力で吐かせるぞ?」
「ーいい合図ですね・・・ウォイス様!!」
そう言うと、彼は得意の『鎖術』で3人の足を絡ませそうとした。
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???(ガナール) ???
「影踏静止・・・止まれ!!」
そう言って、私は3本のナイフを投げた。
「・・・くっ」「きゃ・・・!!」
「フシアロド!!」
シャドウとルファーは影に命中、ウォイスは魔術で回避された。
シャドウとルファーは当分動けないだろう。
フシアロド・・・柔らかいクリームの様な物で物理攻撃を弾く魔術。それ自体作るのは簡単なのだが、耐久性は術者に委ねられる。ー彼は殆どの攻撃を弾けるが。
「ー殺しはしないよ・・・1人ずつ遊びたいからね」
そう言って、私はウォイスの方を見た。ウォイスは動揺を隠しきれて無かった。ーまあ、無理もない。『従者』である『私』が攻撃なんて、普通じゃありえない。
「・・・目を覚ませ・・・いや、覚ます訳が無いか・・・ガナール・イプシオン!!」
「ー分かってますね、ウォイス様。しかし、こんな事にしたのは本当に正しかったのだろうか・・・」
「自分を他人事にする・・・・・・!!」
「気がついたみたいだね、ウォイスは。フフフ・・・」
含み笑いで彼を嘲笑う。ただ、ただ、笑う。
・・・あれ、私は一体『何』を求めているんだっけ?
まあそんな事後で思い出せば良い話だ。後で・・・・後で?
「ー思考回路のぐちゃぐちゃも治ったし・・・君には感謝しているんだよ、ウォイス」
「・・・・・・・今のガナールが『お前』なら答えろ。ー何故こんな事をする?」
「教える義理なんて無いじゃないか」
私の回答にウォイスは戸惑いを見せた。が、それも一瞬の内だった。彼は私に問いかけてくる。
「洗脳・・・なのか?」
「そうだね、洗脳・・・だね。ー今の私からすれば、君は敵だね」
「・・・洗脳だと分かっていて、何故解こうとしないのだ・・・?」
「・・・・・あの時、言った筈だよ?」
「ーやめろ」
「ー『全て過去に終わったなら、どうして君は隠す必要があるのか』ってさ」
「ー!!!」
ウォイスは精神的に追い詰められているのだろう。手が震えているのが瞳に映る。不意に笑った私の顔は、道化師の様な顔なのだろう。
「・・・ルバルダァイルフス・・・ガナールに変われ!!!」
「!!」
急すぎる術に私は避けきれなかった。直撃だ。
「ー・・・・・・・・。」
一瞬にして、暗い世界に入った。
『ウォ・・・イス様?』
『ーガナール・・・大丈夫か?』
『助けて・・・』
『教えてくれ。此処まで何があったか』
『・・・・・・言えません』
『どうしてだ?』
『言おうとすると、あの人と私は首を絞められ尚更操られます・・・クッ・・・もうあまり時間がありません』
『この状態もいつまで持つか分からないと?』
『ええ・・・きっともうすぐ私も限界を迎えるでしょう』
『ー誰だ・・・・やった人は』
『・・・・・ウォイス様・・・離れて・・・ください』
『!!止め・・・!!』
『ー発狂覚悟で教えます。だから、私達を・・・助けて・・・ください』
『駄目だ・・・』
『ー経緯よりも犯人を・・・・・・犯人は・・・ル・・・でも彼・・・・は』
ガナールがそう言うと、私達の頭にノイズが走る。
《ーあの人を助けて》
2人で放った言葉を最後に、私は最後の意識を使って、皆を遠くへ飛ばした。
(次に会った時は、もう私達は居ないんだ。ーきっとこの先の記憶はあるけれど)
そうつぐつぐ思いながら、私は締め付けられた首をそっと撫で、ゆっくり眼を閉ざした。彼らが助けてくれると信じて。
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ルファー 瑠璃の森
急に視界が可笑しくなったので周りを見渡したら、涼しい所にいた。最初は戯言の森かと思ったが、木の様子を見ると此処は瑠璃の森の様だ。
「ーガナール・・・あれは一体」
「ル・・・?彼は何だ?・・・って動けない。ああ、影踏がまだ・・・」
「治すぞ・・・ルーフルット」
「うわ!!」
ウォイスは私達2人を術で影踏の効果を消した。急に動ける様になったので、倒れてしまったが、そほど問題は無いだろう。
「・・・・・もう手段は選ばなければなりませんね」
「どうやら『Other half』の者らが暴走を始めた様だな。お前も発狂の様子があったら治すからな」
「ありがとうございます。ーただし、おそらく捕まった『Other half』がああなっているんですよね・・・怖い」
「最低源、俺達と一緒にいるなら大丈夫だろう」
「そうですよね!!『永遠の魔導師』がいますから!!安心出来ますね!!」
「・・・煩い。だが・・・・ありがとな」
ウォイスは少々顔を赤くしてそう言った。本当に彼は素直じゃないな。
「とりあえず、此処なら・・・『ホープの子孫の聖樹』を拠点とするか」
「そうですね、此処ならさほど遠くありませんし」
「ガナール・・・待っててくれ」
ウォイスはそう言って、その聖樹の所まで案内した。
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