幻想の赤月 -7章 2/2 神秘たる存在~Sacred Prince
ルナ ???
「まだなのか、ルナ」
「悪いな・・・一部の『Other half』は逃げてしまって」
「まあ仕方の無いだろうな。流石にお前がそんな事に目覚めたら皆不気味に思われる」
「ー問題は・・・ルファーが事情を知った状態で脱走した事」
「・・・・・・ガナール。奴は操られても逆らい続けるとは」
「無理矢理押さ込んだのでもう大丈夫だろう」
「・・・ルナ様、只今戻りました」
「ガナールか。どうだったか?」
「ハイ、ルファーは既にウォイスらの所に来ていました」
そう言うとガナールは顔を上げた。先程まで意思のあった彼の姿ではなく、傀儡人形と化していた彼の姿は少々怖かった。
「ー失敗したそうではないか」
あの人がそう言うとガナールは顔を伏せ、渋々と語り始めた。
「・・・あの時は、彼が抵抗したきたので。けれど、もう大丈夫です。・・・彼は当分『かえって』こないでしょう。なにせ私が彼を無理にでも意思を沈めたのですから」
「そうか・・・」
「ところで、どうするのだ?他に複数の『Other half』がいるが」
「ルファーらのグループを叩け。ー捜索し見つけ次第、此処に連れて行くのだ!!」
「ハッ」
ガナールは跪いた後、起き上がりこの事を伝える為に此処を後にした。
「ーガナールは優秀だ。我の命令も難なく存じてくれるのだから」
「まあ、彼はウォイスの従者だからな。基本全て出来るだろう」
「ほう、『永遠の魔導師』の従者をやっているのか?道理で無茶難題の事も容易に出来るのだな?」
「そうだ。ー彼に関してはウォイスの手もあるのだがな」
***********
ウォイス 瑠璃の森~ホープの子孫の聖樹付近
「ー着いた、此処だ」
俺が此処を訪れるのはどれくらい前の事だろうか。瑠璃の森の領土はとても広く、此処に来るのは俺1人の時が殆どだ。あの時も此処は訪れず、あの国に近い所で師匠としていた。
「・・・瑠璃の森にこんな所があったとは」
シャドウがそう言うと、聖樹の所に歩き寄ってみる。彼は聖樹に触れた。
「・・・・・・ディネシア、いるのだろう?」
俺がそう言うと、脳裏に声が響いた。シャドウ・ルファーも同様で、周りを見渡した。
「誰!?」
『ーウォイスか。随分と久しいな』
「ああ、そうだな。・・・紹介しとく。この木が『聖樹ホープ』の子孫、ディネシア・リフトンだ。瑠璃の森の中で1番大きい木だ」
「せ・・・聖樹!?というかあの話は本当だったの!?」
『ああ、本当だ。ホープがいた時代からずっと傍にいた』
「ーディネシア」
俺はディネシアを睨んだ。彼は俺の顔とオーラに怯え、話題を変えた。
『コホン。で、貴方方は何をしに此処に?』
「あ・・・ハイ、実はですね。私達の仲間が皆暴走してしまって・・・あまりにも狂っているとしか思えないので、逃げたんです。そしてその先にウォイス達がいたから、合流して逃げた先が此処なんです」
『成程な・・・。ウォイス、どうして此処に』
「ーそう遠くは無い。『アレ』が大きいのが開花したからな。聖樹の力を借りたいという訳だ。後、此処なら場所を感知されにくいと思ったからな。拠点にしようとな」
「・・・アレ?ウォイス、アレとは何だ」
「お前らには関係無い、シャドウ」
『確かにアレなら私の光が有効だが・・・大丈夫なのだろうか?』
「従者であるガナールですら適わず操られたのだぞ?悪いが使わないでやるのは」
「・・・・・・一から説明しろ、ウォイス」
「・・・ぐっ・・・」
確かにシャドウ目線、俺の言っている事は理解不能だろう。しかし、果たしてこの事を言っても大丈夫なのだろうか?
俺は偽りの説明をした。
「ー人には器というのがあってだな・・・その中でも邪悪な器があるのだ。今までずっと黙っていたが、言っておこう。俺の目的は『その邪悪な器を浄化させる』事にある。確かに守護者などとの役目もある。その役目とは違う役目、俺が不老不死になってからずっとやっている事だ」
話の70%辺が本当である。流石に言える訳が無い・・・俺が『アレ』を浄化させる為にあの事件を起こしてしまったとは決して言える訳が無い。絶対に・・・。
「シルバーらとこうして接触したのは・・・それが理由なのか?」
「それは違う。そしたら親しくなったら即刻それを伝えるだろう?」
「まあ、それもそうか・・・」
シャドウは納得してくれた様だ。これは本当の話である。あの役目を負う為に犠牲になっては困る。
「此処の世界の事もある。・・・絶対にこの世界を『ホウカイ』させてたまるか・・・」
「・・・ウォイス?」
「ーなんてな。まあそんな感じだ」
私は微笑を浮かべる。シャドウは何も言わず、眼を閉じた。彼は一体俺の事をどう思っているのだろうか?道化師?そう呼んでも別に普通だと思うけれど。ー嘘をつく『手品師』なんて、呼ばれても不思議ではない。
「まあ・・・。ーアファレイド辺に気配を感じる」
「アポトスにも気配を感じる。このままでは囲まれるな」
「拠点を突けば簡単なんだけどねー」
ルファーがそう言うと、シャドウはひらめいた様だ。
「・・・ウォイス。テュリネイトは?」
「ー正解だな。邪悪な気配はそこら辺だな、距離と方角からすれば。探してみるか。・・・狂った『Other half』には遭わない様にして」
「特にガナールに要注意ですね。今度あの人に遭遇したら、今度こそ滅ぼしに掛かりますし・・・」
「あの人が無事なら良いが・・・とりあえず、今日は遅い。此処で一夜明けてから行動した方が良いな」
今は午後5時半である。うかつに動くのは危険だろう。
「野宿ですか・・・?」
「ー流石にそれはしない。ルーズリア!!」
俺が術を唱えると、小さな家が現れた。
「これくらいで大丈夫だろうか?」
「1泊する分には十分だな」
『ー見張っていよう。危ないと感じたら起こすぞ』
「助かるぞ、ディネシア。さて、調理するか・・・。何が良い?」
「バーベキューなんてどうでしょう?」
「・・・僕もそれで」
「じゃ、決定だな。・・・匂いキツイのは嫌だから、服も着替えるか」
「え・・・?服持っているんですか!?」
「持っているというよりも。・・・コーティングチェンジ」
俺が一回転する内に俺の来ていた蒼い服は、あの時着ていた服装に変わった。あれなら天界の素材を使っているので、匂いを気にしなくても大丈夫だろう。
「ー凄い!!何処かのマジックみたい!!」
「・・・それくらい習えば簡単に出来る」
そう言って俺は料理の準備を始めた。
***********
「こりゃあ、大変な事になったな・・・」
「何か嫌な予感がするからああしたけれど・・・・・・まさか本当だったとは」
「どうする?戻ってもいいが、俺だとバレたら大変な事になるぞ」
「ー劣等品(レプリカ)だからね。ー殺されたら気がつくでしょうけれど」
「というより、レプリカの記憶ってどうするんだ?」
「・・・後であの人の記憶と同化させるわ」
「記憶操作された場合は?」
「記憶操作される前の記憶を手に入れられるわ。私の魔術は洗脳関連効かない様に強化させたのは他でもない、貴方でしょ?」
「そうだな。ーさて、俺達に迫られている回答は2つだ。『このまま知らないフリをする』か『今から戦いに参戦するか』」
「まあ、行っても別に損は無いと思うよ?ただね、貴方の『予知』が当たっていたらこの後は」
「ああ、俺とアンタ以外全員発狂する。ーこれは多分行っても行かなくともどのみちそうなるだろうな。・・・・・・狂ってしまう事が分かっているから、止められるのは俺達だけになるかも」
「フォルカやシアンは来れないの?」
「シアンは今魔導学校で勉強中だ。フォルカは・・・おそらく役目とやらで来れないだろうな」
「そう・・・結局は私と貴方しかいないのね」
「正直言うとだな、ルファーやルナを止めるのは楽だと思うが、シャドウとウォイスと黒幕を止めるのは正直2人だけで足りるのか?って思っているが・・・・・・」
「そうですよね・・・・・・ガナールもあの様だし」
「まずはガナールを元に戻す所からだな。ーあいつならルナや経緯を理解出来る筈だし、それに・・・強いしな」
「まだ理由ってあるんじゃないの?」
「からかうのはよしてくれ。ー今から行っても少々手遅れだろうけれど、行こう」
「そうだね。・・・・・・レプリカは君のだからね、シルバー」
「ああ、分かっているよ、シルフィ」
***********
ガナール 瑠璃の森
(多分ウォイス様ならきっと此処を訪れる筈・・・)
いつからか彼はこう言っていた。「よく此処を訪れていたな」と。
結構広い森なので、そこまで入りたくないが、ルナ様の為なら仕方の無い事だろう。
(でも、以前通った時よりも結構複雑だな・・・)
あの時はウォイス様がいたので、迷う事なく進めたが・・・不安が積もる。
『ー嗚呼!!もう・・・煩いな!!』
思い切り叫んでしまった。これは・・・恥ずかしい。ただ、1つの気配が一瞬大きくなった感じがした。・・・もしかして。
・・・・・・・コナイデ。キテハイケナイ・・・・・・
そんな声すら私は聞き取れない。耳障りすらもう私の耳には届かない。
コロセ。ハヤク。
そういう声が聞こえるだけ。そう、潰せば話が済むのだ。
それが例え私の『友達』であっても。
目の前には月があった。
横には闇があった。
隣には文字があった。
真正面には水があった。
ー間違いない、私の求めていた『モノ』だ・・・・・・。
その時だった。
「!!」
水がピシャリと跳ねた。そしてそれは凍っていき、ついには私を行動不能とさせた。
「ーう・・・嘘」
「やはりお前が一番始めに気がつくと思った。黒幕さんは理性を微かに残すのが好きな様だな、ガナール」
「・・・・!!」
「少々気が引けるが、此処はやるしかないかーセラピーディフレー!!」
・・・・・・・・・・・・・・・。
???
「ー大丈夫か?」
「シルバー。どうして此処に?」
「へへっ、遅れて悪かったな。ありがとな、ガナール」
「え・・・?だって私は」
「『レプリカ』だ。ウォイス、気がついていたみたいだ。もしあれが『本物』だったら、彼悩んでいたみたいだぜ」
「じゃ・・・じゃあ、あの時の私は」
「・・・言って悪いが、『偽物の身体』だ」
「ーそう」
「だが、レプリカのお陰でお前は生き延びた。感謝はしといた方が良いぜ?」
「・・・・・・偽りの身体が可哀想だよ、その言い方は」
「可哀想、か。確かにそうだな。ごめんな・・・。人は残酷だが、そうしないと生きてけない」
「そうだね、でも此処は?」
「ー秘密。でも直ぐに分かると思うよ。待ってて、もうすぐ俺に会えるからさ」
「・・・じゃあ、目の前にいる貴方は?」
「う~ん、それは詳しく分からないからなぁ、後で詳しく説明するよ。会うまで、眠っていてくれ」
「うん、分かった。貴方だけなら、私は信用出来るから」
「ありがとう。じゃあ、俺は行くよ。ー此処にいられるのももう残り僅かだから」
「うん」
***********
とある人は『不老不死』になろうとした。
もう1人は『不老不死』になろうとも思わなかった。
とある人は『其れ』を求める為に地を巡った。
もう1人は『此れ』を求める為に此処を探した。
とある人は『花』に触れ、枯れるのを目の当たりにした。
もう1人は『鳥』に触れ、再生するのを目の当たりにした。
とある人は『人』を汚し、不老不死を手に入れた。
もう1人は『己』を汚し、不老不死となってしまった。
2人は未だに地を、海を、空を駆け巡り続けている。
2人が衝突した時、世界はどうなるのだろうか?
「ー永遠が欲しいから、人は抗い続けるのだ」
「永遠なんて必要無いと最初から分かっていたのに」
2人の意見は果たしてどちらが正しいのだろうか?
***********
ウォイス アポトス
「ガナールは?」
「居ないな・・・言われてみれば」
「あの時、何があったんだろう・・・・あ、ウォイス、着いたよ。アポトス」
「おっ、本当だ。お疲れ様、ルファー、シャドウ」
「結構疲れたよ~。本当に此処に拠点があるの~!?」
「あると思うから来ているんだろうに。ー宿取ってくる」
「行ってらっしゃい!!」
俺は近くの宿を訪れた。
「いらっしゃいませ。今日は泊まるのですか?」
「あ、ハイ。今日突然で申し訳無いんですけれど、空いてますか?」
「空いてるぞ。1人につき4万円な」
「流石に豪華な所であってこれは凄いですね。ーハイ、3人で2部屋使っても問題ありますか?」
「いやいや、それは大丈夫ですよ。308号室と309号室の鍵です。ーあとこの後こんな事も行うので是非」
「成程・・・了解です」
代金を支払い、無事宿も決まり2人の元に戻ろうとした時、聞き覚えのある声が俺の足を止めた。
「おや、ウォイス様ではありませんか。お久しぶりです」
「ー?お前はディアネスか。アファレイドは大丈夫か?」
「ええ、お陰様で。全てウォイス様の厳しい教訓のお陰ですよ」
「・・・おい!!王に向かって無礼講だぞ!!」
おそらくは俺が抜けた後に入ってきた人なのだろう。俺に向けて剣を出した。
「いや、良いんだ。元々彼の方が身分が高いのだ、むしろこちらが敬語で対応しなければ。ウォイス様、失礼しました。この人、まだ新入りで」
「いや、良い。そういう考えもあるだろうしな・・・」
「し・・・失礼しました!!」
兵は恥を感じたのか、逃げた。
「いや~青春は良いな~。俺も小さい頃はよくお前に注意されていたな」
「お陰で無礼は無くなっただろう?王もよく逃げていて大変だったがな・・・」
「あの時は皆が恐れる『鬼』でしたから。抜け目が無いので怖いですよ」
「あの時は発展途中だったからな。それで苛立っていたのかもな」
「王や彼、私等が恐れる相手って早々居ないかと」
「流石、俺がつきっきりで育てた子だな」
「自慢してますよ。『あの永遠の魔導師に育てられた王』と言って」
「ーハハハ」
話に盛り上がりすぎて遅れたのだろう、シャドウとルファーがやってきた。
「遅い」
「ウォイス~、ってアファレイドの王じゃん!!・・・あ、スミマセン!!」
「友人も大勢いて何よりだ。そして、シャドウお世話になってるな、礼を言う」
「いえいえ。王の護衛に役立てるのなら光栄です」
シャドウ曰く王の護衛も一部GUNがやってくれてるそうだ。
「王も今日は此処で?」
「ああ。良かったら飲むか?」
「賛成!!」
・・・という訳で今日は王と共に過ごす事になりそうだ。少々楽しみにしていた。
***********
続く
next -8章 王と魔導師と科学者と・・・
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キャラ紹介
ルファー ルナに作られた存在『Other half』の1人。少々ボケてる。
ディアネス あの事件の後、アファレイド魔導王国の王となった人。幼い頃からウォイスと共に過ごしてきた。あの物語を知る数少ない存在。