夢想の針鼠の夢跡

物語に隠されたもう1つの物語 『過ち』を知る物語

『ε、製造データ4』

結論から言えば、逃げた先にあったのは、訳の分からない出来事だった。もうこうなってしまった以上、私は相手を頼らざるを得なくなっていた。

「貴方がほつれた所を誰が直しているんだと思っているの?」

まあそういう意見があっても私はただ謝るしか無かった。謝る以外に方法が見当たらないのだ。償い?それって何故求めているの?自省が欲しいだけなら、多分私は与えられない領域なので、諦めてくださいと言ってしまうだろう。欠けてしまっているのだから、反省も何も無いのだ。

そう言ってみると、貴方は私に向けて「でもやった事実は認めてくださいな」と言って顔にデコピンを飛ばしてくる。それが痛い所にピンポイントで勢いよく当たってくるのだから、地味に痛く、もしかしたらビンタよりも痛いかもしれない程だ。少なくとも私はそう考えている。そして貴方はやんちゃなあの笑顔を見せる。痛いのに許してしまうのは、貴方の雰囲気からか、それとも私がつられやすいだけなのか。

「でもまた派手にやったねぇ・・・幾ら何でもこれは酷過ぎだよ」

割と平然としている様にも見えたが、顔色はどうも優れていない。ついでに言うと、少々顔の表情がぎこちない。私は何とも思わないのだが、どうも人がこの光景を見るとぞっとするらしく、場合によっては悲鳴もあがる様だ。ますます興味が沸く。

そのまま足で下にあるものを蹴飛ばし、奥に進む。多分、此処にはちゃんとある筈なのだ。主が大切に取っていた体が。

「・・・本当にあるんだよな?」

「無かったらこんなに厳重に警備とか置かないでしょうに。あの性格だから本物はかなり手厚い保護をしているらしいけど・・・・・・残念、私が一枚上手だった様で」

「だからと言って、あんなに気絶させるのは駄目だろ・・・おじゃましま~す・・・・・・誰もいないよね?って」

何故こんなに手厚い保護をしているのかは扉を開けたら直ぐに分かった。多分此処は本当の倉庫なのだろう。あの書斎にも様々な本があったが、こちらはどうやらかなりの量がある様だ。軽く見ただけではどれくらいの本があるか等想像すらつかない。

流石の貴方もこれほどの量で見たのは初めてだったらしく、目を輝かせている。というより図書館に連れて行った時でさえこんな状態だったので、「本を目にする事自体少なかったのでは?」と尋ねてみた。案の定、「図書館って何?」って首を傾げていたので、もうこれは決定的である。勿論、此処で図書館の意味を伝えるのだが、どうも本屋と図書館の区別がつけないらしく、目が回っていた。

「全然よく分からないや。とりあえず、これをどうするの?」

「とり憑く」

「え?」

呆気に取られた様だ。口をぽかんと開けていて、あちらこちらに「?」が浮かんでいるのが見て取れる。一応聞き間違いか確認してきたが、同じ事を続けてみる。

「えっと、死体だけどとり憑くの?」

「うん、とり憑くの」

「・・・これ奴らに見られたらジ・エンドだよな?」

「そうだね、だから別々に行動を起こすの。大丈夫だよ、どんなに騒いでも今は問題無いよ。ー異常事態だし」

「悪戯っぽく笑うのはどっちに似たんだか。・・・私はやらないからね」

「貴方にやれなんて一言も・・・というより元々私は貴方の身体を借りて貰っている身だから当然私がやるべきだよ。こういうのは私の方が上手なんだよ?」

元々私は物理や攻撃的な魔術を扱うのは正直苦手だ(それでも全体からすれば『凄い』の領域らしいが)。どちらかと言うと、守りに徹底して相手が自滅するのを待つタイプである。まあ貴方の能力はカウンター系の様な気がするのだが、それでも怪我をさせないという意味合いでは、守りに徹底しているといえよう。何処かの魔導師さんとは大違いである。

「・・・という訳でお借りしますね、ガラルさん」

私が微笑んでいるのに対し、彼は不安そうな顔を隠しきれてなかった。

 

幻想の赤月 1-04章 People who read mind

行こう、そう努力はしたつもりだ。だが、これはもうそれどころじゃない。ルージュが気遣って同行してもらったが、正直二人で押さえつけても漏れてしまう位の量だった。あれがうようよいて、行くどころか先を見る事すらままならない。
ルージュも相当驚いている。そして、その場にいる軍人を皆此処に呼んで行く手を防ぐ様に命令するが、完全に封をする事は出来ず、せいぜい漏れる量を減らす位しか出来ない。
「弾切れ起こしたら後ろと交代してリロードするのよ!!急いで!!」
そうは言うが、階段周辺でそれを行うのは難がある。下手に戻ると階段で滑ったりしるので若干危険である。
「どうするんだよ!!俺達じゃどうしようも出来ないぞ!!」
「知らないわよ!!貴方のお連れの魔導師さんとか呼べば解決しないの!?」

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「さあ、どうする?」
微笑んでいるガナールの姿を見て、選択の余地は無いと見た。あの微笑みは完全に「NOと言ったら殺します」と言っている様にしか見えない。私は冷や汗をかきながら、素直に従う事にした。
「・・・見逃してください」
ここで覚えていろよなんて言ったら、それこそ機嫌を損ねてアウトになりそうだ。ガナールは微笑んでいるが、実際の所その笑みが具体的にどんな笑みなのかなんてよく分からない。多分ウォイスも分かっていないだろう。
そして、無邪気な笑顔で「分かりました」と言って、近くまで来た。条件を飲んだのだし、殺されはしない―そう願うしかない。ひょっこりと現れたかと思うと、耳元まで近くに飛んできて、「言ったらどうなるかくらい分かりますよね?」と殺意を抱いたかの様な声で囁くので、もう正直疑心暗鬼の世界に溶け込んでしまっていた。
「まあ、約束は約束。貴方が告げ口をしない限り、私達もこの事を口にしません。・・・それで良いですよね?」
「一つだけ良いか、私が紅月の一員である事は告げるのか?」
「良い質問ですね、ハイ、告げます」
「・・・お前の身分も口にしないのにか?」
それを言うと、くるりと回転して、こう一言。
「―私の正体が知りたい、と?」
一番言ってはいけないワードに関連してしまった感じがある。駄目だ、知りたいけど知ったら殺される。ついでに言うと、盗聴器の様な物も仕組んでない(相手が相手なので持ってても多分機能しないが)。
「・・・異論は無いみたいだね、ホラ、私はそのまま突っ立っているから今のうちに逃げなさいな。1分あれば十分でしょう?」
「な、急にー「60、59、58・・・」
急にカウントダウンを始めた。完全にあちらの手の平で踊らされている。しかし、私が此処で死ぬ訳にもいかない。苦しいが、逃げるしかない。問題は、あのコアだ。あの爆撃以降、どうなったか見ていない。おそらくは奴らが中に入っているのだろうが、こっちで待ち伏せしていたら、叩ける筈だ。最も、ガナールとウォイスがそっちに行く可能性が大、最悪集団リンチなので、どうやっても救いが無い。しかし、何もしないでいると勝手に解決はするだろうし、闇の住民が自制効かなくなって、暴れまわったらこっちも相当ダメージが大きい。なので、壊さないでと言いたい。今言えば良かったのだが、今そうやって言った所で信用を得られるとは思えない。結局、自分は言わない方が良かったし、行かざるを得なかったのだ。

そうこうしている内に、あの黒い姿は全く見えなくなっていた。そして、人影つかない所を見つけ、私は其処でひっそりと待つことにした。それと同時に紅月様の連絡もせねば。
「紅月様、紅月様!!」
脳内で必死にメッセージを伝えると、紅月様の声が脳内に響き渡る。
『見ていたのだが、相当酷い事になっている様だな』
「もはや私一人では太刀打ち出来ません!!貴方様が一番警戒しているガナールの接触には成功しましたが、何より何者かあの建物爆破し、コアを壊す事だけを考える連中が地下でうようよしていて・・・」
『闇の住民の制御は?』
「コアの制御が主なので、壊れたら無差別攻撃が起こるかと・・・ウォイス様を見張る作戦は失敗ですね」
元はと言えば紅月様が仰った事だ。それを自覚していたのだろう、少々動揺した声が聞こえた。咳払いをすると、話を切り替えてきた。
『・・・建物の爆破は誰がやったか検討がついたのか』
「いえ、全く。ウォイス達がやったとは考えられないので、私の知らない人物で関連している人かと」
『知らない人物で関連している・・・か』
「例えばですが―ウォイスが天気異変や裏世界の異変で知り合った方、もしくは・・・貴方様よりも前に接点のある人、他に接点があった人等かと思ったのですが・・・」
『・・・良いだろう、其処は我が調べておく。ではこれでー「お待ちを」
紅月様はこれで御終いだと思われたのだろうが、そういう訳にはいかない。この状態で放置は一番困るし、何よりガナールについての報告がまだだ。それを言うと、不本意ではあるが耳を傾けてくださった。
『なるべく手短に頼む。こちとら改変のペースを探るのに忙しいのでな』
「ガナールの方は、ウォイスと主従関係を結んでいる。其処は分かってますよね」
『?ああ、天気異変周辺で急に余所余所しく出てきたあの黒服の・・・』
私達が知っている情報はそれだけだ。紅月様は立場の関係上、ウォイスの事はよく把握しきってはいたが、ガナールは全くだ。正直人でどうかすら怪しい。誰かに作られたとかの可能性も否定しきれないし、実はウォイスが作った只の人形でした、というオチもあるかもしれない。それも兼ねて、一番警戒している。その証拠に『ガナールに会ったら逃げろ』とまで命令されている。
「・・・主従関係で済む問題じゃなさそうです」
『具体的には?』
「ウォイスは把握しきってない様に見えるのですが・・・主とは程遠い何かを感じまして。何でしょうか、完全に信頼しているけど、裏で操ろうとかそういう感じのモノが」
『味方じゃないと言いたいのか?』
「・・・いえ、仲間です。表向きでは・・・ずっと。裏だと敵と認識している節があるのかもしれないかと。それだけ把握しといでください」
『了解、あ、お前はもう戻れ。壊れるのも時間の問題だし、其処の拠点が壊れた以上、此処に滞在する理由は無い。むしろいない方が被害が少なくなる』
「部下たちは?」
『部下もだ。こんな時に賛同者減らすのはご遠慮願いたい』
「・・・承知しました」
『よろしく頼んだぞ』

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一分後

「本当に何もしなくて良かったのか?」
「ええ、大丈夫です。正体なんて、分かる筈が無いんですから」
「―それは絶対外すなよ。これで外れたら、お前の存在自身が・・・」
「それは言わないのが定石でしょう?」
「・・・正直心配なのだ。お前が知られたらとな」
「何なら情報や記憶もろとも崩します?」
「物騒すぎる。情報操作はまだしもな。そういや、あのファイルは持っているのか?」
「?ああ、あれですか。あれは基本あの人に管理して貰ってます」
「何処に置いているんだ?」
「あの人の家の机のロッカー部分に・・・その、何かする気ですか?」
「・・・・・・知っておいた方が良い情報がありそうな気がしてな」
「とは言っても、3~6ヶ月前位のモノですよ?追求する意味ってあるのですか?」
「追求する目的は無い。お前についてある程度把握しときたいんだ。主としてな。ルナに頼めば多分もう一つの資料を手に入れるんだろうが・・・あの事件起きたからな、ちょっと難しいかもしれない」
「破棄されたか、紅月の手に渡っているかのどちらかですか?」
「紅月の手に渡っている可能性は0と見て良いだろう。ガナールが来た事に驚きを隠せてないし、お前なら分かると思うがあの表情は・・・」
「怯えていた・・・という事ですね。つまり、知っていたら怯える必要も無いと?甘いですね、それだと強大な力を持ったと知って怯えている可能性や、殺人気としての私を怯えている可能性だってありません?」
「お前の場合、あくまでメインは暗殺なんだろう?露出している状態のお前は少し弱い。暗殺対策をする事位は出来ると思うんだよな、変装とかで」
「直接会いさえすれば、そこまで怖くないと・・・?」
「彼奴の魔力、見させて貰った。あれが幹部の一人だとしたら、魔導師は多分他にもいる。能力が偏っている方だ、一人自身が何らかのスペシャリストと考えるのが妥当だな」
「・・・えと、その。カースの方も一応忘れないでくださいね?」
「ああ、黒い奴だろ?彼奴は色々謎が多くて俺もよく分からないからスルーしている。他に問題がある筈だ・・・あまりしたくなかったが、協力を要請するか」
そう言うと、何だか見覚えのある様な無い様な文字で何かを書き始めた。彼の書き癖からなのだろうか、紙には隅から隅まで文字でいっぱいだ。一応言っておくが、此処に机なんかは無い。
そんな事はどうでもいいのだが。問題は明らかにメモ用紙に書く内容なんかではないってことである。
「何ですか、それ」
「手紙。魔導師に何人か友人がいるんだよ。・・・最近知り合った奴から、年寄りの人まで色々だ」
「―王宮にも?」
「・・・最初はご友人の中でも信頼している奴らから狩り出してみる。それが駄目なら、友人全員で。王宮は正直使いたくない」
「・・・理由をお聞かせしても?」
「普通に考えろ、王宮にそれが届いた後の対応が面倒くさいだろ。不老不死だので騒がれるのが一番困る。・・・彼奴なら多分協力してくれる筈」
「検討がついているならそれで良いです。しかし早いですねぇ・・・2日目で手紙出すのですか」
「もう夜が深けている筈だ、出すのは明日。届くのは・・・4日、5日目か?」
「そしたら、異変の段階が進んでいる可能性高いですね」
「・・・時間の勝負だな、お願いだから持ってくれよ・・・」
そう言って拳に力が入っている彼を見て、私は考え込んだ。どうやらあの人の元に来る事は出来ないっぽい。それにしてもあの人は一体何者なのだろう?尋ねる訳にはいかない。それが彼の傷に触れる様なものであれば、私は叱られてしまう。それに今回は言わないで一人で行動した方が良い様な気がしてきたのだ。
「ウォイス様、単独行動を起こしてもよろしいでしょうか?」
「?内容を知りたいのだが」
「内容、ですか・・・幹部の内の誰かを殺したいだけですよ。暇だから」
ニッコリ微笑んでいても彼は動じるつもりは無い。人の成れの果てにいたとしても、多分彼は動じないのだろう。彼自身が成れの果てにいたら、だが。
考え込んでいるのか、彼は手帳を取り出した。何を書かれているのかは分からないが、多分敵味方全員の反応を予想しながら対策を立てているのだろう。それを見た後、言い放った。
「駄目だ、基地が分かっていない上に相手の数がどれほどか分からない」
「・・・駄目ですか。基地の場所なら検討がつくのですけど」
「今回ばかりはお前の行動を制限しなければならない。あの異変は俺一人で解決出来る程小さくないし、何より此処の大陸にいる奴らほぼ全員が影響を受ける。お前といえど、そんな人数の重みならば協力するしかない・・・お前一人で何が出来るのだ?」
「一人でなら、幹部を殺して全体を乱す事位なら出来ますよ。あと、基地を知っておくのも大切なのでは?」
「・・・根本的な解決になってないぞ。紅月の唱えた術が時を早める術だったりしたらどうするのだ?術だったら止める術が無いと永続的に続くぞ」
鋭い指摘に、自分は答えきれなかった。情報だけならこっちが勝っているのに、情報が不十分で言えないなんて・・・!!失言したのが分かったのか、半ば笑っている。一体何を楽しんでいるのやら。
「幹部の中で誰かを殺したい、だったか?それをやることに対するメリットとデメリットを正直に言え」
「メリットは、敵に直接ダメージを負える点、それによる動揺で数が把握出来る点にあります。逆にデメリットは敵の戦略が一時的に乱れる点位かと」
それを聞き、深呼吸をしている彼は、結構冷たい目をしていた。物事を冷静に考えている時の目だ。溜息をついた彼は私に指を向け、命令をした。
「お前の実力を試してみるか・・・命令だ、何か行動を起こせ。無理の無い範囲で、自己責任でな」
「承知しました。―良いでしょう、殺してみせましょう。そして暴いてあげましょう、紅月の意思を、貴方の目論見を!!キャハハハハ!!」
笑い続ける。もしかしたら、こんな経験は初めてかもしれない。何をしても良い、これほど素晴らしい言葉は無い。自由を得られた事に嬉しいと思ったのは、これが初めてだ。
(でもどうして、私は仕える事を放棄する事を喜びに感じているのだろう?)
その解答が出る事は無い。多分作られた体ではまず感じられない領域なのだろう。

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「くそっ、コアは何処だ!!」
謎のメイドに追いかけられながらも探しているのだが、見つからない。大きい筈なのだが・・・。もしかしてだが、あのメイドの元いた場所がそれだった可能性があるのでは・・・?そう思って行ってみると確かにコアはあった。あったのは言いのだが、大きすぎる。仄やかに光るそのコアは真っ赤で、カオスエメラルドのそれと比べると形は少々歪だ。そして、大きさの程はと言うと
「僕の背丈の2倍近く・・・後ろがあんなんじゃ到底出来ないな」
とは言っても此処が目的地なのだから、此処で暴れてくれれば、おそらく誰かが駆け寄ってくれるだろう。おそらくだが。

そうこう思っている内に謎のメイドは目の前に現れた。モップからは刃のそれがギラリと鋭く光っている。それを『モップ』と呼んで良いのだろうか?僕からすればそれは『刀』だと思うのだが・・・。
「―殺す、殺す殺す殺す殺す・・・」
なんか物騒な言い方をしているが、この際彼(彼女?)の言葉は無視しよう。そんな事よりも、目の前に降りかかる刃の動きをよく見なければ。右の頬辺を突こうとした後、しゃがみこんだ隙を利用して背中に突き刺すそれを、僕は蹴り飛ばした。刀はその勢いに負け、明後日の方向に飛んで行く訳だが、持ち主も巻沿いを喰らうハメになる。よろけているその様子は、僕からすれば隙以外の何物でも無いのだ。
「貴様は少しは黙っていろ!!」
「!!」
懐からあらかじめ用意していた拳銃で相手の足元を撃つ。―耳が痛く感じられた。

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発砲する音が聞こえた。その音に応えるかの様にあの化物は何処かに逃げて行った。逃げたというよりかは向かった、と言った方が良いのだろうか。俺達の事は完全に無視している。何故、そっちに行こうとしたのか?俺達の命を狙うよりも重大な事が起きたからだろうか?単純過ぎるのだが、何となくそう感じられた。
知能はそれなりにあるのだ、大事な物がどちらかなんて奴らには多分分かりきっている筈。それでも、拳銃等の類を奴らが持っていると考えるのは不適切であろう。何故なら、今現在いる化物は四つん這いになっており、仮に持っていたとしてもスコップ程度で留まっているからである。拳銃を扱える程度の知能を持っているとは考えにくい。それに、今この場所で発砲なんかしたら最悪味方に当たる可能性がある。そんなリスクを侵してまで、やるのだろうか?
其処から考えると、多分撃ったのは奴らにとっては敵視している人物なのだろう。それを踏まえれば、答えは簡単だ。
「シャドウが近くにいるのか!!」
「!!それは本当なのですか!?」
「奴らの後について行こうぜ」
「ハイ!!」
偶然彼らが落とした道具を拾っておいて、俺達は奴らの跡についていく事にした。多分そうすればシャドウと会う事が出来るだろう。

「そういえばですけど、シルバーさんって未来から来たんですよね」
奴らを追っている最中、シェイドは急に話を振ってきた。
「あ、ああ。・・・奴らにバレたらどうするんだよ」
「すみません。未来から来たなら結末も知っているんじゃないかなあ、って」
確かにそれも有効な手なのかもしれないとは思った。だが・・・
「幾ら何でも荒廃した世界からそんなデータ取り出せるとは思えないな・・・・・・あとそういうのって言っちゃ駄目の様な気がするんだよな」
「え、駄目なのですか?」
「だって・・・実質予言の様な物なんだろ?あんなのやってさ、どうするつもりなんだ?その結末をねじり曲げるつもりか?その予言に囚われて周りを壊すつもりか?そういうのが嫌だからこういうのはあえて言わないのさ」
以前それで苦しめられた事がある。ウォイスの見る予知夢だ。以前俺は彼にこう告げられたのである。『何もしないなら多分この仲も長く続かない』と。意味はサッパリだったけど、俺は長く続かないって言われて、悪夢を何度か見た物だ。結局、その長く続かない夢の正体は『天気異変』の時の格闘部分のそれだったらしく、彼の予言は間違っていたという訳だ。しかし、実際にウォイス率いるメンバーとソニック達で激突が起こった訳なので、予知夢そのものは正しかったのだろう。・・・・・・最も、俺は激突が起こってしまった直接の原因を作った身なので、色々と反省しているのだが。
「まあ誤解招いて大変な事になるのは駄目じゃないか?」
「それもそうですね・・・あ、いました!!」
奥底には緋色の光が不気味に光っている。その先にあったのは光の色とよく似合う黒い針鼠と、メイド服を来ている人が何故か争っていた。其処に化物は入っていき、二人同時に「邪魔!!」と言って無様に飛ばされた。俺達が進んでいる方向に飛んできたものなので、俺達はしゃがみこみ、飛ばなくなるまでずっとその態勢でそっと友人の勝利を祈り続けるのであった・・・。

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続く。
next 1-05章 Manifestation of madness

めちゃくちゃ更新するの遅くなって本当にすみません!!

幻想の赤月 1-03章 core

破裂音は全体に響き渡った。
「誰だ!?」
「・・・やっぱり」
見覚えのある顔が映る。声、警戒しているその顔も何もかもが似ている。やっぱり、彼らが爆発させた様だ。目的が何かは私の知ったこっちゃないのだが。ただ、明らかに変ではある。以前までは、彼らと一緒に過ごした仲だったのに。
口を開いたのは相手の方だった。
「何故、お前は其処にいるんだよ!?」
「フフ、私はさっきから此処にいましたよ?それがどうしたのです?」
「チッ、引き上げるか」
相手は私を見ながら、逃げ出そうとした。しかし、逃げた先に別の人物がいた。私はその人物を見て多少は動揺した。普通に考えればそういう事もありえるのだが。立場が逆転すると、人はこういう動きをするものなのだろう。
「何となく来るとは思っていたわ」
「・・・裏世界で問題でも起きているとは思えないのですが?」
「問題が起きたっていう程でも無いけど・・・ちょっと用事があってね。あの人に代わってくれないかしら?」
「―無理ですね。用事ってなんです?」
そう問い詰めると、彼女は微笑する。何も言わないで、ある物を取り出す。ある物を見ると、私は目を疑った。
「貴方が今欲しがっているカオスエメラルド。それで交渉しようかな、ってね。私が差し出すのはもちろんこれ。で、貴方は・・・」
私の身体の全体を見てくる。気持ちが悪い。
「―その帽子、脱いでくれないかしら?」
「・・・それは」
「勿論、人の目には触れない様にね。ウォイスやフィートに感づかれたら色々とマズイしね」
「マズイ?何をしたって言うのです?」
彼女は何も言おうとはしなかった。知りたいならその交渉に飲んでもらおうか、そういった事であろう。別に彼女が知ってもデメリットは少ない。追われている(?)立場に立っている以上、言いふらす事も多分しないだろう。
「・・・良いですよ。しかし、絶対に他人に告げ口しない様にするのが条件ですが」
「それに関しては問題無いさ、単純に今後の話の謎の『回答』だけを知っときたいだけだし。お前自身のアイデンティティは失わせないから安心しろ。というかいなきゃ困る立場だしな」
「そういう事、だから別の所に移動しましょ」
「・・・。」
何も言わず、彼女に同行する。歩いた先は裏世界へと繋がるドアだった。歪んだ階段を下りていくと、裏世界にたどり着いた。・・・いや、厳密に言うと、あと三歩程踏み出せば、裏世界にたどり着く所で立ち止まった。古臭い感じのパイプが通っており、階段の手すりや床も少々掠れている部分があったりして、此処だけ見ればカジュアルな雰囲気だ。
「さ、見せて」
「―分かりましたよ」
彼女の言う通りに、私は帽子を脱ぐ。ファサと髪が風になびくと、私は微笑んだ。彼女は少々目を丸くしていた。
「ちょっと待って、何でそれを使っているの?!」
「偶然、見つけただけですよ。気になる様であれば、あの子に尋ねれば良いじゃないですか。リアルタイムで見ていますよ」
「・・・ありがと、もう良いわ。ハイ、カオスエメラルド
私はカオスエメラルドを受け取った後、再び帽子を深く被った。毛が出ていないか鏡で隅々まで確認した後、彼女の前でお辞儀をした。
「ありがとうございます。ところで、ウォイスやフィートに感づかれたらマズイとは一体何のことでしょうか?」
「・・・そのまんまの意味よ。カオスエメラルドを取られた事、きっとフィートなら黙っている訳が無いわ。あと爆破した犯人が私達だってバレたら色々面倒でしょう?」
「そうまでして破壊しなければならない理由が分からないのですが」
「あら、分からなかった?なら言っておいてあげるよ」
そう言うと、耳辺に声が聞こえてきた。

「        」

「―へえ、成程。まあ、黙っておいてあげますよ。貴方も必死なのですね」
「本来なら紅月やウォイスに取って貰っても良かったのだけど、彼奴が情報不足のまんま帰っちゃったから、こうならざるを得なかったっていう訳。まあ、シャドウは黙っていないでしょうけど」
「・・・彼、狙ってましたからね。ってことは奥のコアも破壊されたのですか?」
私の質問に彼女はぽかんとして口を開けていた。気のせいか、焦り汗がタラタラと流れ落ちている。
「え、まさか・・・気づかなかったのです?」
「ええ、全く」
「あれ、伝え忘れてたか?」
此処で彼も知らなかったと言えば、全く疑われずに済んだものなのに。彼女は彼の頬をビンタした。
「馬鹿!!それ早く言いなさいよ!!外壁が無くなって、暴れやすくなっちゃったじゃない!!」
「イデデデデ!!地下室があったなんて俺も知らなかったんだよ!!」
「だから何!?貴方、調べ忘れていたのかしら?『上下に行けそうな所はちゃんと調べておく』、これ注意して行ったわよね・・・? ・・・もう良いわ。こうなったら危険を承知で突っ込むしか無いわね。貴方はそのエメラルドをしばらく隠し持ってなさい。多分、知られたら排除に向かうのだろうし」
「言われなくてもそうするつもりですよ。・・・ご心配なく、エメラルドは渡しませんから」
笑顔を見て、少し安心したのか、彼女は振り返った。そして、右手に彼の腕を持って、階段を上がっていった。それを見送くると、私は少しだけホッとして、エメラルドを見た。
「・・・ソニックの方にも確か一個あったかな。確かシルバーが・・・ね。じゃあ今後は交渉と行きますか」
「―?交渉ですか?」
此処は私達以外誰もいない。此処の連絡通路は普通なら使われないのだから。

====================

「!?」
「え、何よコレ!?」
僕達が驚いて見た先には、黒煙と火災で満ちている建物がある。それが全く関係の無いモノであれば、僕達はある程度影響を受けつつも、普通に作戦を実行するつもりであった。しかし、その建物が『目的の建物』であったのであれば、話は別だ。
周りは色々と混雑している。近くに警察がいたので、その人から話を聞いた。
爆発が起きたのは17時32分42秒頃。まだ開店時間を迎えていなかった為、客が巻き込まれる様な事は報告されなかったが、準備をしていたと思われる女性一人と、男性二人が火傷を負い、重症である。おそらく女性の方は僕とルージュが見たあの女性と同一人物であろう。今現在、消火中であり、警察は立ち入りの制限をしたりするのに精一杯であるという。
・・・とここまで話を聞いただけでも疑問に思う所は幾つかある。まず、何故そこを爆破させたのか。
紅月がやったとは考えられない。情報では賛同している者の集団だと聞いている。捨て駒だと思ってやったにしては、明らかにそれに該当する理由が見当たらない。・・・あったとしたら内部で喧嘩だろうか?
「しかし、犯人が誰であろうと手口が酷いな」
警察の取り調べだと、爆発する前、仮面を被った人らが周りを調べていたとは言っていたが、多分その仮面も処分されているだろう。完全に狙っているのがよく分かる。
「突っ込むことは出来ないのか?」
「不可能よ、というか今入ったら大火傷して私達にも支障が出るから駄目よ」
「・・・地下にコアがあるのだ、その部分が処理出来ているとは思え難いのだが」
「処理する以前、突っ込んだら私が死ぬわよ!?」
「それもそうか・・・」
ルージュの言っている事はごもっともだ。しかし、コアがあってその周辺にあの変な怪物がいるという話があれば、僕だけでも行くのが一番だ。
「・・・行ってやる。貴様はあの怪物を見かけたら攻撃しとけ」
「あ、ちょっ!!」
彼女の話を聞かずに僕は炎の中を潜った。視界は烟り、前が全く見えない。それでも手探りで奥の方を探す。
「・・・見つけた」
引っ張り口の所に手が届いたのを確認すると、僕はその部分を引っ張り、開けた。予想通り、開けた先には地下へと続く階段が続いており、真っ暗だ。
僕はライトを取り出し、奥の方へ向かった。

「コアは何処だ!!」
辺一面を探してもそれらしいのは見当たらない。気持ちが悪くなりそうな悪臭は、長い間使われていなかっただけでは済まされない程強烈だ。そのせいでまともに捜査も出来やしない。
「・・・コロス」
機械音が微かながら響き渡る。そして、確かにそう聞こえた。機械ならば、この悪臭も、毒も関係無い。圧倒的に不利だ。だが・・・。
「―貴様が出る幕等何処にも無い!!」
機械音が聞こえた所よりも、コアを捜した方が良い。僕はその音を無視し、奥の方へと足を運ぶ。謎の機械も僕を追おうと必死だ。とはいえ、此処は地下だ。部屋に入れば確実に奴を叩く必要があるだろう。
・・・奴が此処のカオスエメラルドを持っている事はありえないだろう。奪った第三者とは考えにくいし、そもそもこの機械がそれらを把握しているのかすら曖昧なのだ。コアを壊したら隙を見つけて逃げよう。
そして、僕はお目当ての物が眠っている部屋に突入した。

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「!!ルージュ!!」
爆発場所に行ってみると、其処にはルージュがいた。爆発したのもあり、その建物は黒く焦げており、所々柱が崩れ落ちていて少々危険だ。
彼女は質問される事が何となく分かりきっていたのだろう。俺達に気付いた時には、建物に指差していた。
「シャドウならもう突っ込んだわよ」
「それって一体・・・!!」
「消火が終わる前にね・・・今は大丈夫よ、貴方位の実力ならすんなりと入れてくれる筈よ」
「でも何故、突っ込んだ?よほど重要な何かがあったんだろ?」
「あー、コアの破壊なのよ・・・どうしましょ」
ルージュもシャドウの対処で頭を抱えていたらしい。俺が言える事ではないが、無理をする奴だ。
「ソニックさん、地下で何か大変な事が起きているっぽいですよ・・・変な物が彷徨いてます」
シェイドは地面にコンコン、と突っついている。『此処らへんから』という意味合いで使っているのは言うまでもないが、この状況で下に向かうのも危険すぎる様な気もする。
「突っ込んでみるか?」
何故かシルバーも乗り気である。非現実な事に直面して興奮しているのか、はたまた未来世界の生活を思い出されたのか。地面に手を乗せて感覚を探っている。何をしているのか、そう聞いてみれば「サイコショックを弱らせた物で地下があるかどうか調べている」そうだ。俺にはさっぱり分からないが、割とすぐ下に部屋の様な物があるらしい。ただ、その下はどのような構造になっているのかは分かっていないらしく、結局は収穫無しである。
地面に一気に突撃するならあるいは・・・
「其処に部屋があるの?」
唐突にシェイドがシルバーの前に立って笑っている。嫌な予感がする。
「?ああ、まあそうだが・・・」
「人の気配はある?」
「多分無いな、此処の地下に繋がっている所は多分其処のバーだけだし、あったとしたらシャドウ位か?だが、何をする気なんだ?」
「じゃあ、突入しよっか」
「ハ?!ちょ、ちょっと待て・・・!!此処で穴開けたりしたらヤバくないか!?」
「いやいや、穴は開けないよ?だからこうやって・・・」
半ば強制的に手を繋がれたのが見れたが、その直後、二人がドロドロになって消えた。・・・土が水を吸収する時みたいに。二人は液体化でもしたのだろうか。
・・・ちょっと待て。二人・・・?
「!!彼奴、俺を忘れているな!!待て!!」
俺は地下に繋がる隠し階段を探し、其処から突入する事にした。

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徐々にこの世界が大きく、揺らめいている様な視界になっていく。鋭い閃光は幾つも放っていて目が眩みそうだ。その瞬間、明るかった筈の青空や建物が急に見えなくなり、ぶつぶつとした物だけが見える暗い空間の中にいた。下から上に流れている事に気付いた時、今自分が何処にいるのか、どんな状態であるのかが分かった。
「もうすぐで地下に着きますよ」
其処には誰もいない筈なのだが、聞き覚えのある声がこの空間に木霊する。あるのは透明な雫だけだ。・・・そんなに浸透するのが早いのか。少々驚いていると、大きな壁が目の前にそびえ立っている。これを突っ切るのか、ぶつかったりしたらどうするのだろう?
「大丈夫、今僕達は水と同類ですからぶつかって怪我をする事は無いですよ」
そんな声を聞いた時には既にその壁に吸い込まれていた。何が何だかよく分からないが、先程よりももっと暗く、遮断されている様にすら思えた。だが、それもそこまで長くなかった。ハッと気付いた時には、地面が出てきて、そのまま大きくなってぶつかる。あの状態で落ちたりしたら骨折しそうな位高かったが、不思議な事に痛みは感じなかった。
「到着~、体を元に戻すよ~」
と言った声と同時に視線が徐々に高くなっていく。それと同時に揺らめいてた視界も徐々にしっかりと映る様になり、30秒もしない内に普通の視界に戻った。手足を見るが、元通りに戻っているのが見て取れた。
「な、何があったんだ・・・」
「水になる魔法ですよ。それで土を伝って、此処に落ちてきました。水なら其処まで痛くないってウォイス様が仰ってましたから」
「そ、そうか・・・ただ、思ったより広いな。ソニックは・・・あ」
完全に忘れていた。しかも広い感じがして余計駄目の様な気がする。シェイドも完全に忘れていたらしく、少々焦っている様だ。
「・・・ど、どうしよ!!でも染み込んじゃった以上、戻れないし・・・」
「!!カオスエメラルド・・・ホッ、なら帰れるな・・・?」
先に何かいる。・・・ステーションスクエアで見たあの化物そっくりだ。何か変な物を持っているが・・・?彼を見ると、険しい顔で先を見ている。部屋である以上、此処を出るには奴らを倒さねばならないのは、俺でも分かる。
「・・・大量発生している、切り崩してても元を崩さない限り、再生されている様にも思えるんだ」
「再生するかは別だが、見た感じ彼処にいた時よりも強くなっているだろ・・・ただ放し飼いか?操れていない状態で此処離していないなら無意味なんじゃ・・・」
推理等している余裕など無かったのは承知。・・・奴らは俺達の存在に気付いた様で、見つけた瞬間に間合いを取って構えていた。俺は周りに物が無いか確かめて、それらを手に取るのであった。

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彼は驚いていた。何せ彼奴だけが扱えると思えていたその能力を、私が使っていたのだから。 
「何故、それを」
殺されては意味が無い。私だって死にたくないのだ。それくらいの力は使うつもりだ。
「驚いているらしいな、誰もシルバーだけが扱える訳ではないのでな」
「―上等じゃないか。そのまま襲って、英雄呼ばわりしてみるが良いさ。殺せるものならな」
「殺すつもりは無いさ、お前は大切な物なのだしな」
「・・・?」
相手は襲いかかろうとしない。あくまで追っているだけの様に見える。とはいえ、この状態をいつまでも続ける訳にはいかないし、コア部分にあった建物が壊れてしまったのでたまったものじゃない。
「ハッ、もしかしてだが、あの爆発はお前らのではないな?俺達でも無いのだが」
「・・・ご名答だな。それにしても誰がこんな事を―」
その場所を見た瞬間、そこから鎖が狙ったかの様に飛んできた。距離があったので避ける事は簡単だったが一体誰が・・・
「ウォイス様、急いだ方が良いですよ」
その方向から奴がやってくる。黒い服に身を纏った危険人物。会ったら逃げる様にと言われていた奴だ。しかし、ウォイスも唐突な登場に驚いており、心なしか警戒している様にも見える。罠か何かか?
「爆発したの、その人の建物でしてね。―二人方にとっても不都合な出来事があったでしょう?フフ、そうですよね・・・?だって『この中にいる奴ら全員やっていない』ですものねぇ・・・?」
「ガナール、お前は一体何をした・・・?第一お前は・・・」
「そんな事はどうでもいいじゃない話ですか」
ガナールと呼ばれた者は笑うが、完全にウォイスを敵視している様に見える。彼も承知なのだろう、あの笑みの時点で構えていた。
「爆破しろという命令はしてないぞ」
「いえいえ、私が爆破したのでは無いんですよ。ウォイス様にとってその爆破の利点なんて何処にも無いですし、それに・・・あ、これは言わなくてもいい事ですよね。貴方様には把握しているでしょうし。―で、貴方は誰です?」
突然私の方に顔を向けて笑いかけてきた。敵なのにも関わらず、緊張感の素振りも全く見せずに普通に接している。その普通が逆に恐怖を抱くのだが、きっと彼はそれを分かりきっているのだろう。単純にそう接する事が彼なりの接し方なのだろうか。
あと、性別不明の人は彼なので使っているだけで、実際ガナールの性別なんて私にも分からない。声も中性的でどちらでも別に違和感の無いのだ。
「・・・マインド、何故名前を聞く?」
「いや、だって分からないと呼びにくいじゃないですか。・・・私はガナール・イプシオンと申します」
自己紹介やマナーの様子は完全に紳士的だ。しかし、時々無意識に行う仕草自体は女性的だ。これを演じているとしたら相当凄いだろう。
「フフ、ではマインドさんには選択を三つあげますね。一つ目は『今回は何も無かった事にして、騒動を抑える』。二つ目は『このままコアの所まで逃げて解決されて紅月全体の目論見もろとも公の場に露出する』。三つ目は『この場で戦って殺される』。どれが良いです?他の選択をした場合、交換条件で飲んでもらいますけど」

究極の選択を強いられた。この時点でぼくは彼が敷かれた線路を進んでいた。他の選択なんて、出来る訳無かったのだ。

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続く。


next 1-04章 People who read mind

サランダー様よりマインド君お借りしました。

『ε、製造データ3』

「良いから黙ってくれないかな?自分だってこんな事したくないんだぞ?何故こんな事をしてまで貴方は忠誠を誓うのかな?」

「笑ってくれるその姿が一番の至福。貴方だって至福を奪われるのは嫌でしょ?」

「じゃあそうやって横たわる人を見て、彼奴が喜ぶのか?」

「それはどうか分かりませんよ。復讐が目的だったのであれば、それは達成された事になりますよ―私の手によって、ですけど」

腹ただしい、とでも言うかの様に貴方は頭を掻く。意見の食い違いも少なからずある物なのだが、やっぱりあの時動かない方が良かったのだろうか。私は頭を抱える。

「そんなに苛立っているのであれば、私を殴れば良いじゃない」

「貴方にやったら跳ね返るだろ・・・」

貴方がちゃんとしてれば良いんだけどさ、とか言うつもりだろうか。

「・・・言うつもりは無いさ」

「あら、読めました?」

「貴方の挙動、仕草、思考、全て読めているさ。断言するけど貴方は絶対に私を倒す事は出来ない。心を空っぽにさせる、そう考えた事もあるかもしれないが、それは悟りを開く様な行為だ。悟りを開く行為、貴方には出来やしないさ。というか物欲や忠誠もろとも吹き飛ぶ事になるしさ」

「無心になる事はまずありえない、と?」

「そういう事だ、心理戦なんか陥ったって、私の前ではそれが全て裏目に出て御終いさ。確かに貴方は僅かな動きで心理を読み取る事は出来るけど、正確に読む事は出来ない」

若干自慢話をされた様な感じを受けたが、若干余裕のある様にも見えた。・・・その割には表情が若干硬くなっている様に見える。とはいえ、本人は多分気付いてないし、よほど見ないと分からないのだが。

「―今貴方が考えている事、私を口説いてしばらく私を出さない様にする」

唐突にその事を告げると、貴方は少しだけ動じた。・・・どうやらビンゴの様だ。貴方は笑いを浮かべ、頭を抱える。

「よく分かったな。そういう意味では擬似的に心を読んでいると言えるか。それでどうするの?私を倒して逆に支配するの?」

「何もしないよ。乗っ取っても私に害を及ぼし、逆効果なのは・・・あの異変の時に思い知らされたのだから」

あの異変以来、私は貴方に逆らう事はしなくなった。理由はさっき述べた通りだ。・・・そして、あの時に何かが起こったのかという位、仲良くなった。ギャップに耐え切れなくなるのでは、そう危惧していたのだが、私はとある事を思いついた。それ以来、貴方は何も負担を掛ける事は無くなった。・・・私の疑惑が向けられる場合が殆どだが。

「―そういえば、もうすぐテストみたいだよ」

「・・・?」

「その間は貴方も眠ってて貰うからね」

私の含み笑いに、貴方は理解出来ないまま首を傾げている。それで構わない。どの道貴方は非道の道を無意識に歩いているのだから。

 

 

赤い液体の中で私は目を開ける。沢山の管を腕に付けられて、意識も朦朧としている中、不思議なことに脳内に何か変な物を植えつけられた感触を受けた。完成体に近づくこの体を私は気付く事は無い。古いバージョンの感情の記憶は、失われるのだと思う。そう思えば、私は何故か怒りを覚えた。

誰もいない。今なら逃げられるーと思った私が何処かにいたのだろう。私はいつの間にかこの閉鎖的空間から逃げ出していた。

『ε、製造データ2』

行方知らずになっていたあの人が帰ってきた。今日も微笑みながら、何かを抱えている。

「終わりましたよ」

そう言うと、それを近くの机に置いた。俺がそれを覗くと、それが何かが分かった。誰かのタオルと、メモリだ。メモリの奴は俺が手に入れて欲しいとお願いして手に入れた物ではあるが、タオルの方は・・・

「雨に濡れたので、貸してくれたんです。あの時お礼も言えないまま、逃げる様に・・・」

「私にはそんな時どうすれば良いのか全く分からなかった」と呟いて、そのまま窓を見上げていた。外は本降りになっていて、見計らったかの様に閃光が空を貫いた。俺はメモリとそれを確認してみる。パソコンで確認してみると、悪質なデータとその他もろもろ書かれていた。人を殺すデータを沢山詰め込まれている。基本的にはソニックを排除する為に書かれてたのだが、一部明らかにあの人自身が作ったであろうデータがあった。

(ロボット自体に自我が宿るとは思えないのだが)

ただ、そのあの人自身が作ったデータの殆どがガナールに関してだった。途中から彼奴に頼まれてデータを変えたのか、本人の私怨だけでそれに変えたのか・・・。それはもう今となっては分からない。その本人はもう、いないのだから。しかし、ガナールのデータはかなり取られていた。少なくともガナールが『生命体で誰かの肉体を使っている』位は把握出来ている。彼奴がそれを知っているかどうか不明だが、これは致命的だ。となると、彼奴ら今後ガナールに関して行う事というと、一つしか考えられない。

「―ガナール、彼奴に変わってくれないか?」

「別に構いませんが・・・理由だけ聞いても良いですか?」

「・・・後で彼奴が教えてくれる。今回は彼奴と話をした方が話が通じやすい」

「・・・分かりました」

何か言いたげではあったが、彼奴を信じたのだろう。そのまま目を閉じて何かを呟いていると、やがて目を開いて周りを見渡した。

「大丈夫か?」

俺の声に反応し、静かに頷く。時間からしても、少しばかりうとうとしている様だ。

「―お前は誰かの視線を感じたか?」

「・・・感じた。殺気まではいかなくても私を疑っているとは思えた。でも始末しておいた。後先面倒になるのはごめんだった」

本来の口調とは違うのは、呪文を唱えたからだろう。

「後始末したのはどっちだ?」

「・・・ガナール」

そう言うと、力が失ったかの様な勢いで椅子に寄っかかる。どうやら身体的に限界が来た様だ。少しだけ安心すると、私はガナールを抱えてベッドで寝かせた。帽子は邪魔だと思ったので外し、服もある程度楽にさせた。

・・・改めて見ると、ガナールがあの人と同一人物なのだと脳裏に焼き付いてくる。離れている様に見えて、非常に近い存在なのだ。俺よりも、もっと近くて・・・多分一生付き合う事になる相手なのだから。

「少しは休んでくれ。お前も疲れているのだろう?」

そう言って出ようとしたが、地面に何かが落ちていた。実際に拾ってみる。首飾りだ。魔力の気配は感じられないが、何か不思議なものを感じさせられる形だ。見覚えがある。これは確か、あの人が「偶然お気に入りを見つけた」と言って買った物だ。何処にでもある店で買った物なので、別にそれが大きな意味を持つとは思えないが、俺の場合はその形に見覚えがあった。何処で買ったかまでは聞かなかったが、多分彼処で買ったのだろう。・・・彼と以前行った事があった。あの時の・・・彼と・・・

「・・・何故、あの時俺は・・・」

怒りより先に、後悔が生まれた。そして、次に悲しみが生まれた。

『―大丈夫か』

「大丈夫だ・・・」

自問自答の様に答えるその質問もまた、胸に槍の様な物を貫かれた様な気分になる。多分俺も様々な事件に巻き込まれ、疲れているのだろう。

「・・・今回は絶対に表に出ないでくれ。下手すると大事な所で覚えてない自体に直面する。・・・したら、お前の存在もバレる。だから絶対に出ないでくれ、良いな?」

『分かっている、ふと疑問に思ったが、何故其処までガナールを慕う?』

「―俺よりお前の方が感情豊かなのだ、解釈の余地がある」

俺はそう言ってガナールの横にある布団を広げ、倒れると数分もしない内に眠った。

 

続く

様々な事件が沢山続き、遂には心髄にまで及んで行って、己の中でそれを重く、鋭く貫くのだ。 嘘だらけの世界で信じる事が出来るのは、己自身ただ一人。痛い思いとかしても良いんだ、嘘をつくのはもうこれで最後にしよう。だからお願い。早ク逃ゲテ。